- 著者: Kaname Nosaki, Hideo Saka, Yukio Hosomi, Paul Baas, Gilberto de Castro Jr, Martin Reck, Yi-Long Wu, Julie R. Brahmer, Enriqueta Felip, Toshiyuki Sawada, Kazuo Noguchi, Han SR, Bilal Piperdi, Debra A. Kush, Gilberto Lopes
- Corresponding author: Kaname Nosaki (Department of Thoracic Oncology, National Kyushu Cancer Center, Fukuoka, Japan)
- 雑誌: Lung Cancer
- 発行年: 2019
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 31446994
背景
非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者の多くは高齢者であるが、臨床試験における75歳以上の高齢者の割合は低く、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) の有効性および安全性に関するエビデンスは不足していた。高齢患者は併存疾患や臓器機能低下のため、治療の忍容性に関する懸念があり、また免疫老化が免疫療法薬の有効性に影響を与える可能性も指摘されていた。この高齢者集団における治療選択肢の確立は喫緊の課題であり、特にICIの恩恵を十分に享受できるか、また忍容性が確保されるかは未解明な点が多く残されていた。
ペムブロリズマブは、PD-L1陽性進行NSCLCに対する単剤療法として、複数の第III相試験で化学療法と比較して全生存期間 (OS) の延長を示している。具体的には、既治療のPD-L1 TPS ≥1%患者を対象としたHerbst et al. Lancet 2016、未治療のPD-L1 TPS ≥50%患者を対象としたReck et al. NEnglJMed 2016、未治療のPD-L1 TPS ≥1%患者を対象としたMok et al. Lancet 2019において、それぞれOSの有意な改善が報告された。しかし、これらの個別試験では、75歳以上の高齢者サブグループの患者数が限られており、この特定の集団におけるペムブロリズマブの有効性と安全性を高精度で評価するための統計的検出力が不足していた。先行研究では、高齢患者の臨床試験への参加が少ないことが報告されており、例えば米国では75歳以上の肺がん診断患者の約30%に対し、臨床試験参加はわずか約10%に留まっていたLanger et al. JNatlCancerInst 2002。
本研究は、これら3つの主要な第III相試験のデータを統合し、75歳以上の高齢進行NSCLC患者におけるペムブロリズマブ単剤療法の有効性と安全性を詳細に解析することを目的とした。これにより、高齢患者における免疫療法の治療成績に関する知識ギャップを埋めることを目指した。
目的
KEYNOTE-010 (NCT01905657)、KEYNOTE-024 (NCT02142738)、KEYNOTE-042 (NCT02220894) の3つの第III相試験の統合データを用いて、PD-L1陽性進行NSCLCの75歳以上の高齢患者におけるペムブロリズマブ単剤療法の有効性(全生存期間 [OS]、無増悪生存期間 [PFS]、客観的奏効率 [ORR])と安全性(治療関連有害事象 [TRAE]、免疫関連有害事象 [irAE])を化学療法群と比較評価すること。
結果
患者背景: 統合解析に含まれた75歳以上の高齢患者は264例であった。年齢中央値は77.0歳 (範囲 75-90歳) であり、男性が65.5%を占めた。ECOG PS 1の患者が73.9%と大多数であった。組織型は非扁平上皮癌が65.2%、扁平上皮癌が31.4%であった。PD-L1 TPS ≥50%の患者は全体の50.0% (n=132/264例) であった。ペムブロリズマブ群と化学療法群の間で、ベースラインの患者特性に大きな不均衡は認められなかった (Table 1)。高齢患者の追跡期間中央値は11.7か月 (範囲 0.3-36.0) であった。ペムブロリズマブ群の治療期間中央値は5.6か月 (範囲 0.03-34.8)、化学療法群では3.5か月 (範囲 0.03-29.5) であった。
全生存期間 (OS) の評価: PD-L1 TPS ≥1%の高齢者集団 (n=264) において、ペムブロリズマブ群のOS中央値は15.7か月 (95% CI 10.7-20.2) であったのに対し、化学療法群では11.7か月 (95% CI 8.4-15.8) であった。ハザード比 (HR) は0.76 (95% CI 0.56-1.02) であり、ペムブロリズマブ群でOS延長の傾向が示された (Figure 1A)。このHRは、各個別試験の全体集団で観察されたHRと類似しており、高齢患者においても一貫した効果が示唆された。
PD-L1高発現患者におけるOSの顕著な改善: PD-L1 TPS ≥50%の高齢者サブ集団 (n=132) では、ペムブロリズマブ群のOS中央値は23.1か月 (95% CI 11.9-未到達) であったのに対し、化学療法群では8.3か月 (95% CI 7.0-11.1) であった。HRは0.40 (95% CI 0.25-0.64) と、化学療法と比較してペムブロリズマブによるOSの顕著な改善が認められた (Figure 1B)。特に、未治療のPD-L1 TPS ≥50%高齢患者 (KEYNOTE-024およびKEYNOTE-042からの統合、n=93) におけるペムブロリズマブのOS中央値は27.4か月 (95% CI 10.6-未到達) であり、化学療法群の7.7か月 (95% CI 6.1-11.1) と比較してHR 0.41 (95% CI 0.23-0.73) と、非常に強力な生存延長効果が確認された (Figure 2)。このサブグループ解析の結果は、PD-L1高発現の高齢患者がペムブロリズマブ単剤療法の最大の恩恵を受けることを示唆する。
無増悪生存期間 (PFS) および客観的奏効率 (ORR): PD-L1 TPS ≥1%の高齢者集団において、ペムブロリズマブ群のPFS中央値は4.2か月 (95% CI 2.8-5.6) であったのに対し、化学療法群では4.1か月 (95% CI 2.8-4.2) であった (HR 0.81, 95% CI 0.61-1.07)。ORRはペムブロリズマブ群で27.5% (95% CI 20.4-35.6) であり、化学療法群の14.8% (95% CI 9.0-22.6) と比較して高かった。PD-L1 TPS ≥50%の高齢者サブ集団では、ペムブロリズマブ群のORRは46.8% (95% CI 35.0-58.9) とさらに高率であった。
安全性プロファイルの比較: 治療関連有害事象 (TRAE) の発生率は、高齢患者においてペムブロリズマブ群で68.5% (n=102/149) であったのに対し、化学療法群では94.3% (n=99/105) と有意に低かった。Grade ≥3のTRAEもペムブロリズマブ群で24.2% (n=36/149) であったのに対し、化学療法群では61.0% (n=64/105) と大幅に少なかった (Table 2)。治療関連死亡は、ペムブロリズマブ群で2例 (1.3%)、化学療法群で2例 (1.9%) であった。疲労 (17.4%)、食欲減退 (12.8%)、そう痒症 (12.8%) がペムブロリズマブ群で最も多く報告されたTRAEであった。貧血、好中球減少症、血小板減少症などの骨髄抑制関連のTRAEは化学療法群で顕著に高頻度であった。
免疫関連有害事象 (irAE) の発生状況: 免疫関連有害事象および注入反応の発生率は、ペムブロリズマブ群で24.8% (n=37/149) であったのに対し、化学療法群では6.7% (n=7/105) であった。Grade ≥3のirAEはペムブロリズマブ群で9.4% (n=14/149) に発生し、化学療法群では0%であった。最も一般的なirAEは甲状腺機能低下症 (8.7%)、肺炎 (7.4%)、甲状腺機能亢進症 (5.4%) であった。これらのirAEの発生率と種類は、若年患者 (<75歳) のペムブロリズマブ群で観察されたものと類似しており、高齢患者においてペムブロリズマブによる新たな安全性シグナルは認められなかった。
考察/結論
本統合解析は、KEYNOTE-010、KEYNOTE-024、KEYNOTE-042の3つの主要な第III相試験から得られた75歳以上の高齢進行NSCLC患者264例という大規模なデータセットに基づき、ペムブロリズマブ単剤療法が化学療法と比較して、有効性と安全性の両面で優れていることを明確に示した。PD-L1 TPS ≥1%の高齢者集団において、ペムブロリズマブはOSを改善する傾向を示し (HR 0.76, 95% CI 0.56-1.02)、特にPD-L1 TPS ≥50%のサブ集団では、化学療法と比較してOSの顕著な延長 (HR 0.40, 95% CI 0.25-0.64) が確認された。さらに、Grade ≥3の治療関連有害事象の発生率はペムブロリズマブ群で化学療法群の半分以下であり (24.2% vs 61.0%)、良好な忍容性プロファイルが示された。
先行研究との違い: これまでの個別試験では、高齢者サブグループの患者数が限られていたため、統計的検出力が不足していた。本研究は、複数の大規模RCTのデータを統合することで、75歳以上の高齢患者におけるペムブロリズマブの有効性と安全性を、これまでで最も大規模かつ堅牢なデータで評価した点で、これまでの報告と異なる。特に、PD-L1高発現高齢患者におけるペムブロリズマブの強力なOS改善効果 (HR 0.40) は、若年患者と同等またはそれ以上の効果量であり、高齢者における免疫療法の効果が若年者と対照的ではないことを示した。
新規性: 本研究で初めて、75歳以上の高齢進行NSCLC患者において、ペムブロリズマブ単剤療法が化学療法と比較して全生存期間を改善し、かつ治療関連有害事象の発生率が有意に低いことを、大規模な統合解析によって明確に示した。これは、高齢患者における免疫チェックポイント阻害薬の安全性と有効性に関する、これまで報告されていない重要なエビデンスを提供するものである。
臨床応用: 本知見は、PD-L1陽性進行NSCLCの高齢患者に対するペムブロリズマブ単剤療法を強く支持するものであり、臨床現場における治療選択に大きな影響を与える。特に、併存疾患や臓器機能低下により化学療法の忍容性が懸念される高齢患者において、ペムブロリズマブは有効性と安全性のバランスに優れた第一選択肢となり得る。PD-L1高発現の高齢患者は、ペムブロリズマブ単剤療法の最良の候補であると考えられる。
残された課題: 今後の検討課題として、本解析の対象となった患者は、各個別試験の選択基準を満たした比較的全身状態の良い高齢患者であったため、実臨床におけるより虚弱な (frail) 高齢患者やECOG PS 2以上の患者におけるペムブロリズマブの有効性と安全性については、さらなる前向き研究が必要である。また、化学療法併用免疫療法 (例: KEYNOTE-189/407) における高齢者の安全性プロファイルの評価や、免疫老化マーカー、サルコペニアなどの身体因子を組み入れた個別化治療戦略の開発も今後の研究方向性として挙げられる。長期フォローアップデータによる生存曲線プラトーの評価も重要である。
方法
本解析は、KEYNOTE-010 (既治療、PD-L1 TPS ≥1%)、KEYNOTE-024 (未治療、PD-L1 TPS ≥50%)、および KEYNOTE-042 (未治療、PD-L1 TPS ≥1%) の3つの国際共同第III相無作為化比較試験の統合データを用いた。これらの試験はそれぞれNCT01905657、NCT02142738、NCT02220894として登録されている。対象患者は、進行NSCLCでPD-L1陽性 (TPS ≥1%)、ECOG PS 0-1、かつ75歳以上であった。KEYNOTE-010ではペムブロリズマブ (2 mg/kgまたは10 mg/kg 3週ごと [Q3W]) とドセタキセル (75 mg/m2 Q3W) を比較し、KEYNOTE-024およびKEYNOTE-042ではペムブロリズマブ (200 mg Q3W) とプラチナ製剤ベースの化学療法を比較した。
統合解析の対象となった75歳以上の高齢者サブグループは264例であり、ペムブロリズマブ群149例、化学療法群115例であった。主要評価項目はOSであり、副次評価項目としてPFS、ORR、安全性(TRAE、irAE)を評価した。OSおよびPFSの推定にはKaplan-Meier法を用い、ハザード比 (HR) および95%信頼区間 (CI) はCox比例ハザードモデルにより算出した。ORRの比較にはFisher’s exact testを用いた。PD-L1発現レベル (TPS ≥1%およびTPS ≥50%) 別、治療ライン別 (1次治療 vs 2次治療以降)、および組織型別 (腺癌 vs 扁平上皮癌) のサブグループ解析も実施した。有害事象はNCI-CTCAE v4.0に基づき評価された。PD-L1発現はPD-L1 IHC 22C3 pharmDxアッセイを用いて評価された。これらの試験は全てオープンラベルデザインの第III相RCTであった。