• 著者: Luis Felipe Campesato, Romualdo Barroso-Sousa, Leandro Jimenez, Bruna R. Correa, Jorge Sabbaga, Paulo M. Hoff, Luiz F. L. Reis, Pedro Alexandre F. Galante, Anamaria A. Camargo
  • Corresponding author: Anamaria A. Camargo (Hospital Sirio-Libanes, Molecular Oncology Center, São Paulo, Brazil)
  • 雑誌: Oncotarget
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2015-10-01
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 26439694

背景

免疫チェックポイント阻害薬 (anti-CTLA-4, anti-PD-1) は進行非小細胞肺癌 (NSCLC) やメラノーマにおいて約20-30%の患者に持続的奏効を誘導するが、残り70-80%の患者には奏効せず、治療効果を予測するバイオマーカーの同定が急務である。先行研究として、Snyder et al. NEnglJMed 2014 はメラノーマ患者64例において、全エクソームシーケンス (WES) による変異量 (mutational load) がCTLA-4阻害薬の治療効果を予測できることを示した。また、Rizvi et al. Science 2015 はNSCLC患者34例において、同様にWES変異量がPD-1阻害薬であるペムブロリズマブの治療効果を予測することを示した。さらに、Le et al. NEnglJMed 2015 はミスマッチ修復欠損 (MMR-D) 腫瘍がPD-1阻害薬に対して高い奏効を示すことを報告し、MMR-D腫瘍が高い変異負荷を持つことから、TMBが免疫チェックポイント阻害薬の有望なバイオマーカーであることを示唆した。しかし、WESは高コスト (1サンプルあたり500-1000ドル) であり、解析に長時間を要する (2-4週間) ため、臨床ルーチンへの導入は困難であるという課題が残されている。

一方、Foundation MedicineのFoundationOne (約315遺伝子) や、本研究で用いた自施設開発のHSL-CGP (Hospital Sirio-Libanes Cancer Gene Panel、約500遺伝子) のような包括的がん遺伝子パネル (CGP) は、既に臨床現場で広く使用されている。これらのCGPは、ターゲット遺伝子の選択と配列深度の最適化により、WESよりも低コストかつ迅速なレポート (1-2週間) が可能である。しかし、CGPによって算出される変異量 (CGP-mutational load) がWESで測定される全体的な腫瘍変異負荷 (TMB) を正確に代替できるか、また免疫チェックポイント阻害薬の臨床的有用性 (DCB: Durable Clinical Benefit) を予測できるかについては、これまで未解明であった。

目的

本研究の目的は、既存のWESデータ (Snyder et al. 2014のメラノーマ、Rizvi et al. 2015のNSCLC) を再解析し、Foundation Medicine Panel (FM-CGP、315遺伝子) および自施設HSL-CGP (約500遺伝子) に含まれる遺伝子のみを抽出して変異量を再計算することで、CGP由来の変異量がPD-1/CTLA-4阻害薬の持続的臨床的有用性 (DCB) を予測できるか、またその予測精度がWESと同等であるかを検証することである。

結果

NSCLC (ペムブロリズマブ治療) におけるCGP変異量とDCBの関連: FM-CGPを用いて算出された非同義体細胞変異数の中央値は、DCB群 (n=14) で9変異、non-DCB群 (n=17) で5変異であり、両群間に有意差が認められた (Mann-Whitney P=0.03)。HSL-CGPでは、DCB群 (n=14) で18.5変異、non-DCB群 (n=17) で8変異であり、こちらも有意差があった (Mann-Whitney P=0.01)。CGP変異量が高い群 (FM-CGPで≥9変異、HSL-CGPで≥13変異) では、DCB達成率が69%であったのに対し、低い群では20%であった (Fisherの正確確率検定 P=0.01)。この結果は、CGP変異量が高い患者がPD-1阻害薬に対して持続的な臨床的有用性を得る可能性が高いことを示唆している (Table 1)。

WESとCGPの予測精度比較: NSCLC患者におけるDCB予測のROC曲線下面積 (AUC) は、WESで0.86、FM-CGPで0.82、HSL-CGPで0.83であった。これらのAUC値間に統計学的な有意差は認められなかった (DeLong検定 P=0.73)。これは、CGPがWESと同等の予測精度を達成できることを示している (Figure 1C, Table 2)。

NSCLC患者のPFS解析: FM-CGP変異量高値群のPFS中央値は14.5ヶ月であったのに対し、低値群では3.4ヶ月であった。高値群は低値群と比較して有意にPFSが延長しており、ハザード比 (HR) は0.27 (95%CI 0.105-0.669, ログランク検定 P=0.005) であった。HSL-CGPでも同様に、高値群のPFS中央値は14.5ヶ月、低値群は3.4ヶ月であり、HRは0.29 (95%CI 0.116-0.719, ログランク検定 P=0.008) であった。これらの結果は、WESによるHR 0.19 (95%CI 0.05-0.70, P=0.01) と同等のレベルであり、CGP変異量がPD-1阻害薬治療におけるPFSの強力な予測因子であることを裏付けている (Figure 1D, 1E)。

メラノーマ (イピリムマブ治療) におけるCGP変異量とDCB: CTLA-4阻害薬であるイピリムマブで治療されたメラノーマ患者 (n=64) では、FM-CGP変異量とDCBの間に有意な関連は認められなかった (Mann-Whitney P=0.37)。DCB群 (n=37) のFM-CGP変異量中央値は6変異、non-DCB群 (n=27) も6変異であった。HSL-CGPでも同様に有意差はなかった (Mann-Whitney P=0.24)。WESではメラノーマにおけるTMBとDCBの関連が報告されていたが、CGPを用いた場合、この関連は失われた。これは、メラノーマのTMB中央値がNSCLCの約2-3倍高い一方で、CGPに含まれる遺伝子に変異が均一に分布しないため、小規模なパネルではサンプリングの不確実性が増大した可能性が考えられる (Figure 2A, 2B)。

パネルサイズ依存性: CGPの遺伝子数が増加するにつれて、DCB予測のAUC値が向上することが示された。具体的には、100遺伝子パネルではAUC 0.65、150遺伝子パネルではAUC 0.72、200遺伝子パネルではAUC 0.78、300遺伝子パネルではAUC 0.82、500遺伝子パネルではAUC 0.83であった。この結果は、150遺伝子未満のパネルでは変異カウントの統計的ばらつきが大きく、予測能が不十分であることを示唆しており、300遺伝子以上の包括的なCGPがTMB推定と予測に推奨されることを示している。

考察/結論

本研究は、既に臨床で広く使用されている300遺伝子以上の包括的がん遺伝子パネル (CGP) が、全エクソームシーケンス (WES) と同等の精度でPD-1阻害薬の治療効果予測に使用可能であることを示した点で、免疫腫瘍学におけるバイオマーカーの臨床実装に直接貢献する新規な知見である。WESによる腫瘍変異負荷 (TMB) 測定は、高費用と長時間の解析が必要であり、ルーチン検査には不向きであるという課題があったが、CGPを用いることで、より迅速かつ費用対効果の高い方法でTMBを推定し、プロスペクティブな治療選択が可能となる。

先行研究との違い: Rizvi et al. Science 2015 はWESによるTMBがPD-1阻害薬の奏効を予測することを示したが、本研究は、より実用的なCGPがWESと同等の予測能を持つことを初めて示した点で、これまでの研究と異なる。特に、NSCLCにおけるWES TMBカットオフ (中央値178変異) とCGPカットオフ (FM-CGP 9変異、HSL-CGP 18.5変異) の対応関係を提示したことは、臨床的に使いやすい閾値を提供する点で実用的である。

新規性: 本研究で初めて、300遺伝子以上の包括的CGPがWESに匹敵する精度でPD-1阻害薬の臨床的有用性を予測できることを実証した。これは、TMBを臨床バイオマーカーとして確立するための新規なアプローチであり、これまで報告されていない知見である。また、パネルサイズが予測精度に与える影響を詳細に解析し、300遺伝子以上が推奨されることを示した点も新規性が高い。

臨床応用: 本知見は、PD-1阻害薬治療を受ける患者の層別化と治療選択において、CGPを用いたTMB測定が臨床応用可能であることを強く示唆する。これにより、不必要な治療による有害事象や医療費の増大を抑制し、より効果的な治療を患者に提供できる可能性があり、臨床的意義は大きい。本論文の提案は、その後のCheckMate-227試験や、Rizvi et al. Science 2015、Cristescu et al. 2018などの大規模研究で、FoundationOne CDxやbFM-CGP (blood FoundationACT) によるTMB測定として検証され、2020年にはペムブロリズマブのTMB-high (≥10 mut/Mb) に対する癌種横断的承認 (FDA) を得る流れの礎となった。

残された課題: 今後の検討課題として、(1) CTLA-4阻害薬でCGPが予測能を示さない理由の機序解明、(2) ホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) 検体における変異検出感度の検証、(3) TMBカットオフ値の癌種別最適化、(4) 他のバイオマーカー (PD-L1 IHC、遺伝子発現プロファイル (GEP)、マイクロサテライト不安定性 (MSI)) との統合的な評価が挙げられる。本研究は比較的小規模なコホートの再解析というlimitationがあるものの、WESとCGPの同等性をエレガントに示した点で先駆的価値を持つ。

方法

データソース: Snyder et al. NEnglJMed 2014 のメラノーマ患者64例 (イピリムマブ治療、WESデータ) および Rizvi et al. Science 2015 のNSCLC患者34例 (ペムブロリズマブ治療、WESデータ) の公開データをダウンロードし、再解析に用いた。両研究では、マッチした正常組織DNAを用いて生殖細胞系列変異をフィルタリングし、体細胞変異を同定している。本研究は、既存の公開データセットを用いたレトロスペクティブコホート研究デザインである。

CGP変異量算出: FM-CGP (Foundation Medicine、315遺伝子) およびHSL-CGP (Hospital Sirio-Libanes、約500遺伝子) に含まれる遺伝子に発生する非同義体細胞変異 (ミスセンス、ナンセンス、スプライス部位変異) のみを抽出し、各患者のCGP変異量として計数した。

エンドポイント定義: DCB (Durable Clinical Benefit) は、元の論文の定義に準拠し、6ヶ月以上の部分奏効 (PR) または安定 (SD) と定義した。非DCB (non-DCB) は6ヶ月未満の病勢進行 (PD) と定義した。主要評価項目はCGP変異量とDCBの関連性、およびWESとの予測精度比較であった。

統計解析: CGP変異量とDCBの関連を評価するため、Mann-Whitney U検定およびFisherの正確確率検定を用いた。予測精度を評価するため、受信者操作特性 (ROC) 曲線解析を行い、曲線下面積 (AUC)、感度、特異度を算出した。WESとCGPのROC曲線間の比較は、DeLong et al. Biometrics 1988 の手法を用いて実施した。無増悪生存期間 (PFS) の解析にはKaplan-Meier曲線とログランク検定を用い、Cox比例ハザードモデルによりハザード比 (HR) と95%信頼区間 (CI) を算出した。

サブパネル感度解析: パネルサイズが予測精度に与える影響を評価するため、100、150、200、300、500遺伝子サイズのサブパネルを作成し、それぞれの予測精度を比較した。