• 著者: Ondrej Fiala, Milos Pesek, Jana Skrickova, Vitezslav Kolek, Frantisek Salajka, Marcela Tomiskova, Monika Satankova, Juraj Kultan, Jana Kuliskova, Martin Svaton, Michal Hrnciarik, Karel Hejduk, Renata Chloupkova, Ondrej Topolcan, Helena Hornychova, Marketa Nova, Ales Ryska, Jindrich Finek
  • Corresponding author: Ondrej Fiala (Department of Oncology and Radiotherapeutics, Faculty of Medicine and University Hospital in Pilsen, Charles University)
  • 雑誌: Tumor Biology
  • 発行年: 2017
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 28218046

背景

肺がんは先進国における罹患率および死亡率の主要な原因の一つであり、非小細胞肺がん (NSCLC) は全肺がんの80%以上を占める最も一般的な組織型である Jemal et al. CACancerJClin 2011。進行期NSCLC患者の治療において、抗葉酸代謝拮抗薬であるペメトレキセドが近年広く使用されている。ペメトレキセドは、葉酸依存性の複数の酵素経路を標的とすることで、がん細胞の増殖を抑制する作用を持つ。これまでの第III相臨床試験 (例えば Scagliotti et al. JClinOncol 2008Hanna et al. JClinOncol 2004) により、ペメトレキセドの有効性は扁平上皮癌よりも非扁平上皮癌に限定されることが確立されている。また、PARAMOUNT試験では、ペメトレキセド維持療法の有効性も証明された Paz-Ares et al. JClinOncol 2013。しかしながら、非扁平上皮NSCLCのサブグループにおいて、ペメトレキセドベース化学療法の治療効果を予測する信頼性の高い分子バイオマーカーは未確立のままである。

これまで、チミジル酸シンターゼ (TS) 発現、miR-25、miR-145、miR-210、血清レプチンなど、いくつかの候補バイオマーカーが検討されてきたが、いずれも日常臨床への応用には至っていない。これらのバイオマーカーは、その予測的価値が十分に検証されておらず、大規模なコホート研究による裏付けが不足していることが課題として挙げられる。特に、ペメトレキセドの治療反応性を予測するバイオマーカーの探索は、個別化医療の推進において喫緊の課題である。

甲状腺転写因子1 (TTF-1、NKX2-1とも呼ばれる) は、甲状腺、肺、間脳の発生に関与するホメオドメイン転写因子であり、NSCLCの予後因子として複数の研究で検討されてきた。Berghmansらによる1101例のNSCLC患者を対象としたメタ解析では、TTF-1がNSCLCの予後因子であり、腺癌サブグループにおいても有意な効果を示すことが示唆された。しかし、進行期NSCLC患者、特にペメトレキセド治療を受けた患者を対象とした大規模コホートにおけるTTF-1の予後的な役割に関するデータは依然として不足しており、その臨床的意義は未解明な点が残されている。先行研究の多くは早期NSCLC患者を対象としており、治療法が主に外科的切除であったため、化学療法の影響下でのTTF-1の役割については十分な情報が足りなかった。したがって、進行非扁平上皮NSCLC患者におけるTTF-1発現とペメトレキセドベース化学療法の転帰との関連を大規模コホートで評価する必要がある。

目的

本研究の目的は、進行期 (IIIB期またはIV期) の非扁平上皮NSCLC患者の大規模コホートにおいて、TTF-1発現がペメトレキセドベース化学療法の治療成績、具体的には無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS) とどのように関連するかを後方視的に評価することである。これにより、TTF-1がペメトレキセド治療における予後予測バイオマーカーとして機能する可能性を検証し、臨床的有用性を探ることを目指す。特に、TTF-1発現の有無が、治療ライン(一次治療か二次・三次治療か)によって異なる予後影響を示すかどうかも検討する。この研究は、ペメトレキセド治療の個別化を推進するための新たな知見を提供することを意図している。

結果

患者背景とTTF-1発現率: 解析対象となった患者はn=463例であった。TTF-1陽性腫瘍の患者は352例 (76.0%)、TTF-1陰性腫瘍の患者は111例 (24.0%) であった。組織型は腺癌が95.7% (443/463例) と大多数を占め、大細胞癌が1.3% (6例)、不特定NSCLCが3.0% (14例) であった。患者の性別は男性が56.2% (260例)、女性が43.8% (203例) であった。診断時年齢中央値は62.6歳 (範囲 23.7-86.8歳) であった。喫煙歴の内訳は、喫煙者が40.2% (186例)、元喫煙者が36.3% (168例)、非喫煙者が23.5% (109例) であった。ECOG PS (Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status) は、PS 0が19.2% (89例)、PS 1が74.5% (345例)、PS 2が6.3% (29例) であった (Table 1)。

全体集団における生存解析 (PFS・OS): TTF-1発現の有無に基づき、患者全体集団における無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS) を比較した結果、TTF-1陽性群はTTF-1陰性群と比較して有意に良好な生存期間を示した。TTF-1陽性腫瘍患者におけるPFS中央値は4.8ヶ月 (95% CI 4.1-5.4ヶ月) であったのに対し、TTF-1陰性腫瘍患者では2.8ヶ月 (95% CI 2.5-3.1ヶ月) であった (ログランク検定 p=0.001)。同様に、OS中央値はTTF-1陽性群で11.8ヶ月 (95% CI 9.9-13.8ヶ月) であったのに対し、TTF-1陰性群では8.3ヶ月 (95% CI 5.8-10.9ヶ月) であった (ログランク検定 p<0.001)。これらの結果は、TTF-1発現がペメトレキセド治療を受けた非扁平上皮NSCLC患者の予後と強く関連することを示唆している (Table 2, Figure 1)。

治療ライン別サブグループ解析: 一次治療としてペメトレキセドベース化学療法を受けた患者 (n=264) のサブグループでは、TTF-1陽性群の中央値PFSは5.4ヶ月 (95% CI 4.1-6.6ヶ月) であったのに対し、TTF-1陰性群では3.0ヶ月 (95% CI 2.3-3.7ヶ月) であった (p=0.007)。OS中央値はTTF-1陽性群で11.6ヶ月 (95% CI 9.3-14.0ヶ月) であったのに対し、TTF-1陰性群では8.5ヶ月 (95% CI 5.5-11.4ヶ月) であった (p=0.006)。 二次または三次治療としてペメトレキセド単剤療法を受けた患者 (n=199) のサブグループでも、TTF-1陽性群はTTF-1陰性群よりも良好な生存期間を示した。TTF-1陽性群の中央値PFSは3.2ヶ月 (95% CI 2.3-4.1ヶ月) であったのに対し、TTF-1陰性群では2.4ヶ月 (95% CI 1.7-3.1ヶ月) であった (p=0.024)。OS中央値はTTF-1陽性群で12.4ヶ月 (95% CI 7.4-17.5ヶ月) であったのに対し、TTF-1陰性群では8.1ヶ月 (95% CI 3.3-12.9ヶ月) であった (p=0.012)。一次治療サブグループと比較して、二次・三次治療サブグループではPFSの差が縮小する傾向が観察された (Table 2, Figure 2)。

多変量Cox比例ハザード解析: TTF-1発現は、多変量Cox比例ハザードモデルにより、PFSおよびOSの独立した予後因子として確認された。TTF-1陰性腫瘍は、PFSに関してTTF-1陽性腫瘍と比較して有意に高いハザード比 (HR 1.57; 95% CI 1.24-1.99; p<0.001) を示した。OSに関しても、TTF-1陰性腫瘍はTTF-1陽性腫瘍と比較して有意に高いハザード比 (HR 1.73; 95% CI 1.31-2.28; p<0.001) を示した。

PFSの独立した予後因子としては、TTF-1発現の他に、ECOG PS (PS 1およびPS 2 vs. PS 0: HR 1.71; 95% CI 1.32-2.22; p<0.001) および治療ライン (二次または三次治療 vs. 一次治療: HR 1.26; 95% CI 1.02-1.55; p=0.029) が同定された。OSの独立した予後因子としては、TTF-1発現の他に、ECOG PS (PS 1およびPS 2 vs. PS 0: HR 1.94; 95% CI 1.42-2.64; p<0.001) および喫煙歴 (喫煙者・元喫煙者 vs. 非喫煙者: HR 1.41; 95% CI 1.06-1.89; p=0.019) が同定された。性別、年齢、組織型、治療開始時の病期は、いずれも独立した予後因子ではなかった (Table 3)。

考察/結論

本研究は、ペメトレキセド治療を受けた進行期非扁平上皮NSCLC患者において、TTF-1の予後的意義を評価した発表時点で最大規模のコホート研究である (n=463)。先行研究であるSunら (284例、うちペメトレキセド一次治療60例) の報告と一致して、TTF-1陽性発現が良好な予後と関連することを確認し、より大規模なデータでその再現性を示した点が本研究の新規性である。TTF-1陽性患者ではPFS中央値4.8ヶ月、OS中央値11.8ヶ月であったのに対し、TTF-1陰性患者ではそれぞれ2.8ヶ月、8.3ヶ月と有意に不良であった (p=0.001およびp<0.001)。多変量解析においても、TTF-1発現はPFS (HR 1.57; 95% CI 1.24-1.99; p<0.001) およびOS (HR 1.73; 95% CI 1.31-2.28; p<0.001) の独立した予後因子として確認された。

一次治療と二次・三次治療のサブグループ解析では、一次治療でより大きな生存差が観察されており、ファーストライン後に腫瘍の生物学的特性や予後因子の影響が変化する可能性が示唆される。このことは、治療ラインによってバイオマーカーの予測的価値が異なる可能性を示唆しており、これまでの報告とは異なる重要な知見である。TTF-1が予後因子として機能するメカニズムについては、TTF-1が腺癌発生において細胞増殖の制御や血管新生促進に関与することが知られているが、ペメトレキセドとの治療予測的な関係の解明には至っていない。

臨床的意義として、TTF-1陰性患者 (全体の24%) はペメトレキセド治療下での予後が著しく不良 (OS中央値8.3ヶ月) であるため、これらの患者に対しては早期のレステージング評価を実施し、病勢進行を迅速に把握する必要がある。これにより、不必要なペメトレキセド治療を避け、より適切な治療選択肢や、高リスク集団を対象とした臨床試験への参加を検討できる。

残された課題としては、本研究が後方視的デザインであること、および研究集団の不均一性 (一次治療と二次・三次治療の混在) が挙げられる。また、ペメトレキセド非投与の対照群がないため、TTF-1の治療予測的意義 (predictive value) を確実に結論付けることはできない。各施設における免疫組織化学的評価プロトコルの違いも潜在的な限界であるが、著者らは施設間差の有意な影響はないと述べている。今後の検討課題として、TTF-1の予測的意義を確立するためには、ペメトレキセド群と非ペメトレキセド群を無作為に割り付けた前向き試験によるバイオマーカー検証が強く求められる。

方法

本研究は、チェコ共和国の4施設(Pilsen、Brno、Olomouc、Hradec Kralove)が参加するNSCLCレジストリ「TULUNG (Czech Registry of Patients with Advanced Non-Small Cell Lung Cancer)」を用いた後方視的コホート解析として実施された。2008年から2015年の期間に、組織学的に確認された局所進行期(IIIB期)または転移期(IV期)の非扁平上皮NSCLCと診断され、ペメトレキセドベース化学療法を受けた成人患者463例が解析対象となった。

ペメトレキセドは、標準用量である500 mg/m²を3週ごとに静脈内投与された。一次治療では白金製剤(シスプラチンまたはカルボプラチン)との併用療法として264例に投与され、二次または三次治療ではペメトレキセド単剤療法として199例に投与された。治療関連毒性が発生した場合には、用量の中断または減量が許可された。

TTF-1発現の評価は、診断時に採取されたホルマリン固定パラフィン包埋腫瘍組織を用いて、間接免疫組織化学染色により実施された。各参加施設では標準プロトコルに従い、SPT24(Leica/Novocastra)またはDako 8G7G3/1モノクローナル抗体が一次抗体として使用された。検出システムとしては、Leica BondMax、Dako Real Envision、Ventana UltraViewのいずれかのキットが用いられた。著者らは、使用された特定の免疫組織化学的手法によるTTF-1発現と臨床データとの相関に関する予備的な解析(未発表)において、有意な差は認められなかったと報告している。

腫瘍縮小効果は、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumours) ガイドラインに従って評価された。無増悪生存期間 (PFS) はペメトレキセド治療開始日から、最初に病勢進行が確認された日または死亡日までの期間と定義された。全生存期間 (OS) はペメトレキセド治療開始日から、あらゆる原因による死亡日までの期間と定義された。病勢進行または死亡が確認されなかった患者は、最終フォローアップ日に打ち切りとされた。生存期間の推定にはKaplan-Meier法が用いられ、群間の統計的有意差はログランク検定により評価された。複数の潜在的な予後因子が生存期間に与える影響を評価するため、多変量Cox比例ハザードモデルが使用された。統計的有意水準はα = 0.05と設定された。本研究は、Pilsen大学病院、Brno大学病院、Olomouc大学病院、Hradec Kralove大学病院の独立倫理委員会によって承認され、ヘルシンキ宣言および地域法に準拠して実施された。本研究はレトロスペクティブコホートデザインであり、前向き臨床試験のようなNCT番号は付与されていない。