• 著者: Lin K, Cheng J, Yang T, Li Y, Zhu B
  • Corresponding author: Zhu B (Institute of Cancer, Xinqiao Hospital, Third Military Medical University, Chongqing, China)
  • 雑誌: Biochemical and Biophysical Research Communications
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2015-05-18
  • Article種別: Original Article (基礎研究)
  • PMID: 25998384

背景

NSCLCは肺癌の約80%を占める最多組織型であり、進行・転移例の予後は依然不良である。EGFR-TKI (gefitinib、erlotinib) はEGFR変異陽性NSCLCの1次治療として確立され、無増悪生存期間を有意に延長する (Sequist et al. JClinOncol 2008)。腫瘍微小環境ではPD-L1がPD-1と結合することでT細胞の疲弊・アポトーシスを誘導し腫瘍免疫逃避の主要機序として機能し (Dong et al. NatMed 2002)、抗PD-1抗体による免疫チェックポイント阻害療法が複数癌腫で臨床的有効性を示していた (Topalian et al. NEnglJMed 2012)。EGFR変異を持つNSCLC細胞がPD-L1を高発現するという報告があり (Akbay et al. CancerDiscov 2013)、EGFR活性化とPD-L1発現の関連が示唆されていた。しかし、EGFR-TKI治療がNSCLC細胞のPD-L1発現を動的に調節するか否か、またその分子機序に関する知見は手薄であった。特に、NF-κB (Nuclear Factor-κB) シグナル経路がEGFR下流でPD-L1の転写制御に関与するという直接的な証拠が不足しており、EGFR-TKIと腫瘍免疫微小環境のPD-L1制御という gap in knowledge が存在した。

目的

EGFR活性化とPD-L1発現の因果関係を解明し、EGFR-TKI (gefitinib) がNF-κBシグナル経路を介してPD-L1発現を抑制するか否かをEGFR感受性・耐性NSCLC細胞のin vitro実験および異種移植マウスモデルで検証すること。

結果

EGFR変異型NSCLCにおけるPD-L1高発現とEGFR活性化の直接的関連: 6種のNSCLC細胞株をEGFR変異型 (PC-9、HCC827、H1650) とEGFR野生型 (H460、H1299、SPC-A1) に分類してフローサイトメトリーでPD-L1発現を比較した (Fig 1A, B)。EGFR変異型3株はいずれもEGFR野生型3株よりPD-L1を有意に高発現しており (p<0.05)、EGFR exon 19欠失変異による構成的チロシンキナーゼ活性化がPD-L1の持続的高発現に寄与することが示唆された。因果関係を検証するため、EGFR野生型H460細胞に外因性組換えEGF (100 ng/ml) を24時間処理した結果、PD-L1 mRNA発現がリアルタイムPCRで有意に増加し (p<0.05、Fig 1C, D)、タンパク質レベルでも同様の上昇が確認された。EGFR野生型細胞でもEGFR活性化を誘導すれば十分にPD-L1が誘導されることから、EGFR変異による構成的EGFR活性化→PD-L1高発現という因果軸が確立された。

EGFR-TKI感受性・獲得耐性細胞におけるGefitinibの用量・時間依存的PD-L1抑制: PC-9細胞にgefitinibを0、2.5、5、10、100 nMの各濃度で48時間処理したところ、PD-L1発現が用量依存的に有意に低下した (p<0.01、Fig 2A, B)。同様に100 nM gefitinibで0、6、12、24、48時間処理した場合も時間依存的なPD-L1低下が観察され (p<0.01、Fig 2C, D)、24-48時間での抑制が特に顕著であった。免疫蛍光染色でもgefitinib処理PC-9細胞のPD-L1発現低下が可視化された (Fig 2E)。重要な対照実験として、EGF (100 ng/ml) 添加によりgefitinibによるPD-L1低下が部分的に回復し、抑制効果がEGFR経路依存的であることが確認された。HCC827でも同様の用量・時間依存的PD-L1抑制が再現された。次にEGFR-TKI獲得耐性PR細胞を検討した。PR細胞のIC50は約20 μMであり、感受性PC-9の約10倍の耐性を示した。PR細胞は感受性PC-9よりPD-L1を高発現しており (Fig 2F)、TKI耐性獲得とPD-L1高発現の関連が示唆された。PR細胞に対してもgefitinib (0、2.5、5、10、100 nM、48時間) を処理すると用量依存的なPD-L1低下が保持されており (p<0.05、Fig 2G, H)、100 nM gefitinibによる時間依存的処理 (0、12、24、48時間) でも同様の抑制効果が確認された。T790M変異が陰性のPR細胞でも効果が認められたことから、gefitinibはEGFR-TKI耐性下でも一部の免疫調節効果を保持することが示された。

In vivoにおけるGefitinibの腫瘍縮小とPD-L1発現抑制の再現: PC-9細胞を皮下移植したヌードマウスモデルでin vivoの効果を検証した (Fig 3A)。腫瘍体積が約500 mm^3に達した後にgefitinib (20 mg/kg、経口) または溶媒を投与し、移植43日後 (腫瘍体積約200 mm^3) に腫瘍を採取した。Gefitinib群 (n=4) では溶媒群 (n=5) と比較して腫瘍体積が有意に小さく (Fig 3B, C)、腫瘍重量も有意に低下した (p<0.05、Fig 3D)。腫瘍細胞のPD-L1発現をフローサイトメトリー (Fig 3E, F) および免疫蛍光染色 (Fig 3G) で評価したところ、gefitinib群では溶媒群より有意に低下していた (p<0.05)。腫瘍縮小とPD-L1低下が並行して観察されたことにより、in vitroで確認されたgefitinibのPD-L1抑制効果が生体内でも再現されることが示された。

NF-κBシグナル経路を介したPD-L1調節の分子機序同定: EGFR変異型 (PC-9) と野生型 (H1299) の核内NF-κB p65タンパク質発現を比較したところ、EGFR変異型では核内NF-κB p65が高発現しており、NF-κBの構成的核移行が存在することが確認された (Fig 4A)。化学的NF-κB阻害薬PDTC (pyrrolidine dithiocarbamate) をPC-9細胞に0、50、100 μMで48時間処理したところ、PD-L1発現が用量依存的に低下した (Fig 4B)。遺伝学的証明として、NF-κB p65特異的siRNA (60 nM) をPC-9およびPR細胞に48時間トランスフェクションしたところ、p65発現が効率的に抑制され (Fig 4C)、PC-9・PR双方でPD-L1発現が有意に低下した (Fig 4D)。さらに、gefitinib処理 (0、2.5、5、10、100 nM、48時間) によりPC-9細胞のNF-κB活性が用量依存的に抑制された (Fig 4E)。一方、EGFR野生型H1299ではgefitinibによるNF-κB抑制は認められなかった。In vivoでも、gefitinib投与マウスの腫瘍組織では溶媒群に比べて核内NF-κB活性が免疫蛍光染色で有意に低下していた (Fig 4F)。これらの結果を統合すると、EGFR活性化→NF-κB核移行・活性化→PD-L1転写誘導、そしてgefitinib→EGFR阻害→NF-κB活性低下→PD-L1発現抑制という分子カスケードがin vitro・in vivo双方で実証された。

考察/結論

本研究はEGFR-TKI (gefitinib) がEGFR変異陽性NSCLCにおいてNF-κBシグナル阻害を介してPD-L1発現を低下させるという新規な抗腫瘍免疫機序を明らかにした。具体的には、(1) EGFR変異型NSCLCはEGFR野生型より有意に高いPD-L1を発現し、(2) gefitinib (2.5-100 nM) がNF-κBシグナルを用量・時間依存的に抑制することでPD-L1発現を低下させ、(3) この機序がin vitro (感受性・TKI耐性細胞) およびin vivo (PC-9異種移植モデル) の双方で実証された。

EGFR-TKIの抗腫瘍効果はこれまでの研究で主に腫瘍細胞の増殖抑制・アポトーシス誘導、およびVEGF低下による血管新生抑制として理解されてきた。本研究はそれらとは対照的に、EGFR-TKIが腫瘍微小環境のPD-L1調節においても能動的な役割を果たすことを初めて示したものであり、既報と異なる側面からEGFR-TKIの抗腫瘍機序を拡張するものである。先行研究においてKRAS変異やALK再配列ではPD-L1発現上昇との関連が認められないとされており、本研究はEGFR変異に特異的なPD-L1調節機序の存在を支持する。EGFR変異とPD-L1過発現の相関を観察的に報告した先行研究とは異なり、本研究はEGFR-TKIによる介入実験でPD-L1が直接低下することを初めて実証した点に意義がある。

本研究で初めてNSCLC細胞においてEGFR→NF-κB→PD-L1という分子カスケードが実験的に証明された。NF-κBがPD-L1プロモーターを介してPD-L1転写を誘導するという知見は単球 (monocyte) 系細胞で報告されていたが、NSCLCにおいてEGFRシグナルがNF-κBを介してPD-L1を制御するという経路はこれまで報告されていない新規な発見である。また、EGFR-TKI獲得耐性細胞においてもgefitinibがNF-κBを介してPD-L1を部分的に抑制できることを示した点は新規に見出された知見であり、T790M変異非依存的なNF-κB活性残存という観点でTKI耐性状態での免疫調節機序を新規に提示している。

本研究の結果はEGFR-TKIと免疫チェックポイント阻害薬の組み合わせ戦略に重要な臨床的意義を持つ。EGFR-TKI感受性NSCLCではgefitinibによってPD-L1が低下するため、抗PD-1/PD-L1抗体との直接的な相乗効果は期待しにくい可能性があるが、PD-L1非依存性の抗CTLA-4抗体との組み合わせは有望かもしれない。一方、EGFR-TKI獲得耐性NSCLCではPD-L1が高発現しており、EGFR-TKIと抗PD-1/PD-L1抗体の組み合わせが臨床現場での新規治療戦略として示唆される。本知見はbench-to-bedsideの観点でEGFR変異NSCLC患者における個別化免疫療法戦略の設計根拠となりうる。

本研究の限界として、in vitroと異種移植モデルが主な実験系であり、実際の患者腫瘍組織でEGFR-TKI治療中にPD-L1発現がどのように変化するかについては今後の検討が必要である。EGFR-TKIと免疫チェックポイント阻害薬の最適な組み合わせ・投与シーケンス・毒性については更なる検討が求められ、残された課題として前向き臨床試験での検証が不可欠である。NF-κB以外のEGFR下流経路 (MAPK、PI3K/AKT等) のPD-L1調節への関与や、T790M変異・MET増幅等の耐性機序とNF-κB/PD-L1軸の相互作用についても今後の研究課題である。

方法

EGFR変異型NSCLC細胞株 (PC-9、HCC827、NCI-H1650:exon 19欠失変異) およびEGFR野生型細胞株 (NCI-H460、NCI-H1299、SPC-A1) の計6株を解析した。PC-9はEGFR exon 19欠失変異陽性ヒト肺腺癌 (human lung adenocarcinoma) 細胞株、SPC-A1はEGFR野生型ヒト肺腺癌 (human EGFR wild-type lung adenocarcinoma) 細胞株である。細胞はATCC (American Type Culture Collection) から購入し、10%ウシ胎仔血清・1%ペニシリン/ストレプトマイシン添加RPMI1640で培養した。EGFR変異はPNA-LNA (Peptide Nucleic Acid-Locked Nucleic Acid) PCRクランプ法 (Roche) で同定した。PD-L1発現評価はフローサイトメトリー (PE標識抗体)、リアルタイムPCR (β-actin正規化)、免疫蛍光染色で実施した。Gefitinib (ZD1839、AstraZeneca) はDMSO (dimethyl sulfoxide) に溶解し、0、2.5、5、10、100 nMの用量段階で48時間処理、または100 nMで0、6、12、24、48時間の時間依存的処理を行った。EGFR活性化の直接効果はEGFR野生型H460細胞に組換えEGF (50、100 ng/ml) を48時間処理することで評価した。EGFR-TKI耐性細胞 (PR細胞) はPC-9細胞を1 μM gefitinibで3か月間連続処理して樹立し、IC50はCCK-8 (Cell Counting Kit 8) を用いた細胞生存率測定で算出した。T790M変異の有無はPNA-LNA法で確認した。In vivoでは6-8週齢雌ヌードマウス (Chinese Academy of Medical Sciences) にPC-9細胞 (3×10^5個) を皮下移植した。腫瘍体積が約500 mm^3に達した時点でgefitinib (20 mg/kg、経口投与) または溶媒 (対照) に無作為に割り付け (各群n=5)、gefitinib群の腫瘍体積が約200 mm^3に縮小した移植43日後に全マウスを安楽死させ腫瘍を回収した。NF-κB経路の役割は化学的NF-κB阻害薬PDTC (pyrrolidine dithiocarbamate) 処理 (0、50、100 μM、48時間) およびNF-κB p65特異的siRNA (60 nM、Genepharma) トランスフェクション (48時間) で検討した。gene silencingはウエスタンブロットで確認した。統計解析は全定量データをmean ± s.d.で表示し、独立サンプルt検定またはone-way ANOVAを用いた (SPSS 18.0)。p<0.05を統計学的有意差の基準とした。全in vitro実験は少なくとも3回の独立実験 (n=3 independent experiments) で実施し、再現性を確認した代表的なデータを示す。