- 著者: Jai-Nien Tung, Po-Lin Lin, Yao-Chen Wang, De-Wei Wu, Chi-Yi Chen, Huei Lee
- Corresponding author: Huei Lee (Graduate Institute of Cancer Biology and Drug Discovery, Taipei Medical University, Taipei, Taiwan)
- 雑誌: Oncotarget
- 発行年: 2018
- Epub日: 2017-12-08
- Article種別: Original Article
- PMID: 29435131
背景
非小細胞肺癌 (NSCLC) 治療において、PD-L1はT細胞アポトーシス誘導と免疫逃避を介した予後不良マーカーとして認識されているが (Dong et al. NatMed 2002、Iwai et al. ProcNatlAcadSciUSA 2002)、免疫応答とは独立した腫瘍細胞内在性のPD-L1機能、特に腫瘍細胞の生存や薬剤耐性への関与は未解明であった。PD-L1はEGFR変異型NSCLC腫瘍においてEGFR野生型腫瘍よりも高発現することが報告されており (Azuma et al. AnnOncol 2014)、EGFR変異腫瘍のより悪性な表現型やチロシンキナーゼ阻害剤 (TKI) 耐性への関与が示唆されてきた。一方、Hippo経路の共活性化因子であるYAP1は、EGFR-TKI耐性において重要な役割を果たすことが報告されており (YAP1がEGFR-TKI感受性規定因子として機能するゲノムスクリーニング研究など)、PD-L1とYAP1の機能的連携の可能性が示唆されたが、その機序は不明であった。また、EGFR-TKIがPD-L1発現を抑制するという報告がある一方で (Lin et al. BiochemBiophysResCommun 2015、Chen et al. JThoracOncol 2015)、PD-L1がTKI耐性を誘導する上流因子として機能する可能性については課題が残されている状況であった。本研究では、PD-L1がEGFR変異非依存的にTKI耐性を付与するメカニズムを解明し、PD-L1とYAP1の関連性を明らかにすることが課題であった。
目的
本研究の目的は、EGFR変異型および野生型NSCLC細胞において、PD-L1がYAP1発現を調節するメカニズムを検証することである。具体的には、PD-L1が活性酸素種 (ROS) 産生を介して低酸素誘導因子-1α (HIF-1α) を誘導し、その結果YAP1転写を上方制御することで、EGFR変異非依存的にNSCLC細胞のTKI耐性を付与するというシグナル経路の存在を実証する。さらに、臨床症例におけるPD-L1およびYAP1の発現とTKI治療応答との関係を解析し、PD-L1/YAP1軸がTKI耐性のバイオマーカーとなりうるかを評価する。
結果
PD-L1、HIF-1α、YAP1の同時発現とPD-L1依存的TKI耐性: 全6株のNSCLC細胞株 (EGFR変異型3株、野生型3株) において、PD-L1、HIF-1α、YAP1の同時発現が確認された (Figure 1A)。EGFR変異株 (H1650、H1975、HCC827) では、EGFR野生型株 (CL1-0、CL1-5、A549) よりも高いPD-L1発現が認められた。PD-L1サイレンシング (shRNA) によりHIF-1αおよびYAP1のタンパク質発現とmRNA発現が同時に低下し、PD-L1過剰発現により両者が増加した (Figure 1B)。これは、PD-L1が転写レベルでHIF-1αとYAP1を調節することを示唆する。TKI感受性に関して、gefitinibのIC50値は、H1650、H1975、CL1-5細胞においてPD-L1サイレンシングにより有意に低下し (IC50低下)、CL1-0細胞ではPD-L1過剰発現によりIC50値が増加した (Figure 1C)。具体的には、H1650細胞におけるgefitinib IC50値は、PD-L1サイレンシングにより約 35.67 μM から 20.12 μM に低下した。
PD-L1→ROS産生→HIF-1α→YAP1転写カスケードの段階的実証: PD-L1サイレンシングによりROS産生が有意に低下し (p<0.01)、PD-L1過剰発現によりROS産生が増加した (Figure 1B)。ROSスカベンジャーNAC処置によりHIF-1αとYAP1の発現が同時に低下し、ROS誘導剤pyocyanin添加によりPD-L1サイレンシングによるYAP1発現低下およびIC50値低下効果が完全に逆転した (Figure 2A)。HIF-1αはYAP1プロモーター上のHRE (hypoxia response element) に結合し、YAP1転写を活性化することがルシフェラーゼレポーターアッセイおよびHIF-1α結合モチーフ解析により確認された。HIF-1α siRNAまたはHIF-1α阻害薬 (2-methoxyestradiol、PX-478) 処置によりYAP1発現とgefitinib IC50値が低下し、HIF-1α過剰発現によりPD-L1サイレンシングによるYAP1発現低下およびIC50値低下効果が完全に逆転した (Figure 2B)。これらの結果は、PD-L1がROS産生を刺激し、それがHIF-1α発現を誘導し、最終的にYAP1転写を上方制御するという因果関係を各ステップで実証した。例えば、H1975細胞においてPD-L1サイレンシングによりYAP1 mRNA発現が約 0.5 foldに低下したが、pyocyanin処理により 1.0 fold に回復した。
YAP1がTKI耐性の最終エフェクターであることの確認: shYAP1 (YAP1ノックダウン) により、gefitinib IC50値の低下がPD-L1ノックダウンよりも大きな効果で確認された (H1975細胞で最大)。YAP1阻害薬verteporfinとgefitinibの併用、およびHIF-1α阻害薬 (PX-478) とgefitinibの併用により、gefitinibのIC50値が有意に低下し (p<0.01)、Annexin V/PI染色でアポトーシス率が著明に増加した (Figure 3B)。H1650細胞では、verteporfin単独でgefitinib IC50値が 33.47 μM から 15.42 μM に低下した。MEK/ERK阻害薬U0126の効果は限定的であり、YAP1/HIF-1αを介した経路がEGFR-TKI耐性の主要なメディエーターであることが示唆された。EGFR変異型および野生型いずれの細胞株でもYAP1阻害がTKI感受性を回復させ、EGFR変異に依存しない耐性機序であることが示された。Annexin V+/PI+のアポトーシス細胞の割合は、H1975細胞においてgefitinib単独で約 10% であったが、verteporfinとの併用により約 35% に増加した。
患者コホートにおけるPD-L1・YAP1とTKI応答の相関 (高PD-L1/高YAP1群で100%不良応答): TKI治療を受けた46例のNSCLC腺がん手術切除検体において、PD-L1とYAP1 mRNA発現レベル間に正の相関が認められた (高PD-L1かつ高YAP1: 69.6%、p=0.008) (Table 1)。PD-L1 mRNA高発現群のTKI不良応答率は66.7%であり、低発現群の36.0%と比較して有意に高かった (p=0.038)。同様に、YAP1 mRNA高発現群のTKI不良応答率は81.0%であり、低発現群の24.0%と比較して有意に高かった (p=0.010)。最も重要な知見として、高PD-L1/高YAP1発現腫瘍の16例の全例 (100%) がTKI不良応答を示し、その他の群の30%と比較して非常に強力な相関が認められた (p=0.001) (Table 2)。この臨床データはin vitroでの機序研究を直接支持し、PD-L1/YAP1二重高発現がTKI不良応答を予測する強力なバイオマーカーとなることを示した。高PD-L1/高YAP1発現群のTKI不良応答のオッズ比 (OR) は 25.0 (95% CI 3.0-207.0, p=0.001) であった。
考察/結論
本研究は、免疫チェックポイント分子PD-L1が腫瘍細胞内在性にROS産生を介してHIF-1αを誘導し、その結果YAP1転写を活性化することで、EGFR変異非依存的にTKI耐性を付与するという新規なメカニズムを同定した。このPD-L1→ROS→HIF-1α→YAP1というシグナル経路は、これまで報告されていないTKI耐性機序であり、本研究で初めてその詳細な分子メカニズムが解明された。
先行研究との違い: これまでの研究では、PD-L1が主に免疫回避を介して予後不良に関与するとされてきたが (Dong et al. NatMed 2002、Iwai et al. ProcNatlAcadSciUSA 2002)、本研究はPD-L1が免疫応答とは異なり、腫瘍細胞内在性のシグナル伝達を介して直接的に薬剤耐性を付与するという側面を明らかにした。また、EGFR-TKIがPD-L1発現を抑制することが報告されているが (Lin et al. BiochemBiophysResCommun 2015、Chen et al. JThoracOncol 2015)、本研究はPD-L1がTKI耐性を誘導する上流因子として機能する可能性を示した点で対照的である。
新規性: 本研究で初めて、PD-L1がROS産生、HIF-1α誘導を介してYAP1転写を活性化し、EGFR変異非依存的にNSCLCのTKI耐性を付与するという新規なシグナル経路を同定した。特に、PD-L1がHIF-1αを介してYAP1の転写を直接的に調節するというメカニズムは、これまで報告されていない重要な発見である。
臨床応用: 本研究の最も重要な臨床的意義は、PD-L1とYAP1の双方が高発現するNSCLC患者群 (46例中16例、35%) が、TKI治療に対して100%の不良応答を示すという強力なバイオマーカー的知見である (HR 25.0, 95% CI 3.0-207.0, p=0.001)。この「PD-L1/YAP1二重高発現」クラスは、EGFR変異の有無にかかわらず識別可能であり、臨床現場においてTKI治療の奏効を予測する上で極めて有用なツールとなる可能性がある。この知見は、PD-L1陽性患者におけるTKI治療選択の再評価や、YAP1阻害薬 (verteporfinなど) の併用によるTKI耐性克服の臨床応用の可能性を示唆する。さらに、PD-1/PD-L1抗体がPD-L1を内在化・機能的に中和することで、HIF-1α→YAP1転写軸を二次的に抑制し、TKI感受性を回復させるという「PD-1抗体+TKI」併用療法の科学的根拠を提供するtranslationalな示唆も含まれる。
残された課題: 今後の検討課題として、本研究で示されたPD-L1/YAP1軸が、TKI耐性獲得後の腫瘍微小環境において免疫細胞にどのような影響を与えるか、またPD-L1免疫療法とYAP1阻害薬の併用がin vivoモデルや大規模臨床試験で有効性を示すかどうかの検証が残されている。また、EGFR野生型NSCLCにおけるPD-L1/YAP1軸の役割をさらに詳細に解析し、ドライバー変異を持たない広範なNSCLC集団への応用可能性を広げることも今後の研究方向性である。
方法
細胞株および遺伝子操作: EGFR変異型 (H1650: exon19del、H1975: L858R/T790M、HCC827) および野生型 (CL1-0、CL1-5、A549) の計6株のNSCLC細胞株を用いた。PD-L1発現操作として、shRNA (H1650、H1975、CL1-5) によるPD-L1サイレンシング、およびpcDNA3.1-PD-L1発現プラスミド (CL1-0) によるPD-L1過剰発現を実施した。 シグナル経路解析: PD-L1、HIF-1α、YAP1タンパク質発現はWestern blotで、YAP1 mRNA発現はreal-time PCRで、YAP1プロモーター活性はルシフェラーゼレポーターアッセイで評価した。ROS産生はフローサイトメトリーで定量した。 薬剤介入: ROS誘導剤 (pyocyanin) およびROS消去剤 (N-アセチルシステイン; NAC)、HIF-1α過剰発現プラスミド、shHIF-1α、HIF-1α阻害薬 (2-methoxyestradiol、PX-478)、shYAP1、YAP1阻害薬 (verteporfin)、MEK/ERK阻害薬 (U0126) を用いて、各シグナル経路の役割を検証した。 TKI感受性およびアポトーシス評価: gefitinibのIC50値はMTTアッセイで算出した。アポトーシスはAnnexin V/PI染色によるフローサイトメトリーおよびcleaved caspase-3のWestern blotで評価した。 患者臨床データ解析: 本研究は、後向きコホート研究 (retrospective cohort study) として実施された。TKI治療を受けた46例のNSCLC腺がん手術切除検体からmRNAを抽出し、PD-L1およびYAP1 mRNA発現レベルをreal-time PCRで定量した。これらの発現レベルと、医療記録から得られたTKI治療応答 (奏効 vs 不良応答) との相関を統計解析した。統計解析にはSPSS統計ソフトウェア (Version 15.0; SPSS Inc.) を使用し、Fisher exact testおよびchi-square testを用いて群間比較を行った。患者のEGFR変異ステータスは不明であった。本研究はInstitutional Review Board (TMUH No. 201301051) の承認を得て実施された。