• 著者: Kosuke Tanaka, Helena A. Yu, Emily H. Cheng, et al.
  • Corresponding author: Emily H. Cheng (Memorial Sloan Ketering Cancer Center)
  • 雑誌: Cancer Cell
  • 発行年: 2021
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 34388376

背景

EGFR変異陽性非小細胞肺がん(NSCLC)に対する第3世代EGFR-TKIであるオシメルチニブは、一次治療および二次治療において有効性を示すが、ほぼ全例で獲得耐性が生じる。耐性機序は不均一であり、EGFRの二次変異(C797X、L718X、G724Xなど)が10〜26%を占める一方で、上皮間葉転換(EMT)やバイパス経路の活性化なども報告されている。EGFR-TKIの抗腫瘍効果は、BIMおよびPUMAを介したアポトーシス誘導に依存することが知られている。例えば、BIMはMEK-ERK経路の阻害により誘導され、PUMAはPI3K-AKT経路の阻害によるFOXO1/3 (Forkhead box protein O1/3) の核移行を介して転写活性化されることが示されている (Bean et al. 2013)。

本研究では、これらのアポトーシス効果を最大化することで、治療初期に「drug-tolerant persisters (DTPs)」の出現を防ぎ、耐性発現を予防できるという仮説を立てた。先行研究では、DTPsが時間とともに変異または非変異メカニズムを介して耐性を獲得することが示されており (Hata et al. 2016)、強力なアポトーシス増強薬との早期組み合わせ戦略により、耐性発現前に腫瘍細胞を完全に排除できる可能性が期待された。しかし、オシメルチニブ単剤では全ての腫瘍細胞を根絶できないため、耐性獲得を予防するための効果的な併用療法の開発が未解明な課題として残されている。

目的

本研究の目的は、ハイスループットスクリーニング(HTS)を用いて、オシメルチニブ誘導アポトーシスを増強する化合物を網羅的に同定することである。特に、Aurora Bキナーゼ(AURKB)阻害剤がオシメルチニブとの併用においてアポトーシスを増強する分子機序を詳細に解明し、その耐性克服効果を検証する。さらに、EMTによるオシメルチニブ耐性細胞におけるATR-CHK1-AURKB (ATR-Checkpoint kinase 1-Aurora B kinase) 経路の活性化とAURKB阻害剤に対する感受性の関係を明らかにし、新たな治療戦略としての可能性を探る。

結果

HTSによるAurora kinase阻害薬の同定: H1975細胞を用いた約1,000化合物のHTSにより、オシメルチニブ誘導増殖阻害を増強する上位25ヒットのうち、Aurora kinase阻害薬が4種類濃縮された。これらはIGF1R阻害薬、SFK阻害薬、PI3K/AKT/mTOR阻害薬と並ぶ主要クラスとして同定された (Fig 1B)。H1975とHCC827の両方で上位50ヒットの重複解析を行った結果、3つのAurora kinase阻害薬が共通して同定され、EGFR変異の種類によらない汎用性が示唆された (Fig 1D)。Annexin V染色によるアポトーシス定量では、SFK阻害薬が増殖阻害のみでアポトーシスを増強しないのに対し、AURKB阻害薬は真のアポトーシス増強薬として識別された。複数のEGFR変異細胞株(HCC827、PC9、ECLC26)でもAURKB阻害薬のアポトーシス増強効果が確認された (Fig 1E)。

AURKB阻害によるBIM安定化とPUMA誘導の機序: AURKB阻害薬PF03814735(PF)は、オシメルチニブとの併用によりBIMおよびPUMAタンパク質レベルを相乗的に増加させた (Fig 2D)。BIMの安定化は、AURKB依存的なSer87リン酸化の減少によるプロテアソーム分解の抑制を介して生じた (Fig 3D, 3E)。in vitroキナーゼアッセイでは、組換えAURKBがBIMのSer87を直接リン酸化することが示され、S87A変異によりこのリン酸化が著しく減少した (Fig 3H)。BIMのS87A変異は、βTrCP1との相互作用を著しく減少させ、BIMタンパク質の半減期を延長させた (Fig 3I, 3K)。PUMAの誘導は転写レベルで生じ、AKT阻害を介したFOXO1/3の核移行とそれに続くPUMA転写活性化の経路で起こった (Fig 2E, 2G)。BIMまたはPUMAのsiRNAノックダウンにより、PF±オシメルチニブによるアポトーシスが著明に抑制され、これら2つの因子が必須エフェクターであることが確認された (Fig 2F)。

オシメルチニブEC50の50倍低下と耐性クローン出現の完全抑制: PFはH1975細胞におけるオシメルチニブのEC50を50倍低下させ、併用指数(CI)は0.46であり、強い相乗効果を示した (Fig 2A)。さらに、PFとオシメルチニブの併用は、オシメルチニブ単剤で出現するDTPsのコロニー形成を完全に排除した (Fig 2B)。DTPs細胞はBIM量が低いことが特徴であり、AURKB阻害によりBIMが安定化することでDTPsがアポトーシス感受性を回復する機序が同定された。

EMT耐性細胞におけるATR-CHK1-AURKB経路の活性化と過感受性: EMTによるオシメルチニブ耐性細胞(H1975R、ECLC26R)では、ATR-CHK1-AURKB(DNA損傷チェックポイント)カスケードが活性化していた (Fig 6D)。RNA-seq解析では、DNA複製および有糸分裂チェックポイント関連遺伝子が耐性EMT細胞で顕著に上昇していることが示された (Table S2)。ATR阻害薬、CHK1阻害薬、およびAURKB阻害薬は、いずれもEMT耐性細胞に対してオシメルチニブ感受性を回復させ、BIM媒介性有糸分裂細胞死を誘導した (Fig 6F)。特に、AURKBのsiRNAノックダウンはH1975R細胞で強いアポトーシスを誘導したが、AURKAのノックダウンではその効果は限定的であった (Fig 6C)。これは、EMT耐性細胞がATR-CHK1-AURKB軸への依存性を新たに獲得しており、その「弱点」を利用できることを示唆する。

in vivo有効性とPDXモデルでの確認: H1975異種移植モデルにおいて、オシメルチニブとPFの併用は、単剤と比較して有意な腫瘍縮小効果を示し、治療中止後の腫瘍再増殖も有意に抑制された (Fig 7A)。患者由来異種移植(PDX)モデルであるECLC26でも同様に、併用療法は単剤よりも優れた抗腫瘍効果を示した (Fig 7C)。さらに、オシメルチニブ耐性H1975R異種移植モデルにおいても、PF単剤または併用療法は有意な腫瘍増殖抑制効果を示し、オシメルチニブ単剤の効果は限定的であった (Fig 7D)。EMT非関連の耐性メカニズムを持つオシメルチニブ耐性患者由来PDXモデル(Ru813c、Lx1114)においても、併用療法は強力な腫瘍増殖抑制効果を示した (Fig 7G, 7I)。これらの結果は、AURKB阻害が治療未経験および多様な耐性メカニズムを持つオシメルチニブ耐性EGFR変異NSCLCに対して有効な治療戦略であることを裏付けている。H1975異種移植モデルにおける治療中止後の腫瘍再増殖抑制効果は、オシメルチニブ単剤と比較して、併用療法で有意に延長された (p < 0.05)。また、Ru813c PDXモデルにおいて、併用療法は腫瘍体積変化率を単剤と比較して有意に減少させた (p < 0.001)。

考察/結論

本研究は、ハイスループットスクリーニングと細胞死メカニズムに基づいたアプローチにより、Aurora Bキナーゼ(AURKB)がオシメルチニブとの最適な併用標的であることを同定した。新規性として、AURKB阻害がBIMのSer87リン酸化を減少させて安定化させるとともに、FOXO1/3を介してPUMAの転写を誘導するという、BIMとPUMAの両方を増強する二重のアポトーシス促進機序を解明した。これは、先行研究でEGFR-TKI誘導アポトーシスがBIM/PUMA依存的であることは知られていたが、AURKB阻害による両者の同時増強という組み合わせ機序はこれまで報告されていない

先行研究との違いとして、EMTによるオシメルチニブ耐性細胞がATR-CHK1-AURKB経路の活性化を介してAURKB阻害剤に対する過感受性を獲得するという知見は、EMTによる耐性を「新たな弱点」として逆利用できる可能性を示す点で革新的である。これは、耐性メカニズムが単なる薬剤効果の減弱ではなく、新たな脆弱性を生み出すという点でこれまでと対照的な視点を提供する。また、DTPsの完全排除は、「耐性発現の予防」という臨床的に重要な目標に直結する。

臨床応用の観点から、本研究で示されたオシメルチニブとAURKB阻害薬の併用療法は、治療未経験のEGFR変異NSCLC患者だけでなく、EMT関連およびEMT非関連の耐性メカニズムを持つオシメルチニブ耐性患者に対しても有効性を示した。これは、幅広いEGFR変異NSCLC患者に対する臨床応用の可能性を示唆する。特に、AURKB阻害薬PF03814735は、フェーズI試験で臨床的に管理可能な副作用プロファイルが報告されており (Schoffski et al. 2011)、EGFR-TKIとの毒性の重複が少ないことから、併用療法の忍容性も期待される。

残された課題として、オシメルチニブとAURKB阻害薬の併用療法の臨床試験での安全性と有効性の検証、特に一次治療における耐性予防効果の評価が今後の検討課題である。また、EMT耐性患者におけるATR-CHK1-AURKB活性化のバイオマーカー開発や、最適なAURKB阻害薬の選択も重要である。AURKBがAKTシグナルをどのように制御するかについても、さらなる研究が必要である。

方法

本研究は、in vitro細胞株およびin vivo異種移植モデルを用いた前臨床試験デザインである。H1975細胞(EGFR L858R/T790M変異)を用いて、約1,000化合物(200標的、20以上のシグナル経路をカバー)のカスタムライブラリに対するHTSを実施した。各化合物を±オシメルチニブ(2 μM)で処理し、72時間後のalamarBlue生存アッセイで細胞増殖阻害を評価した。上位ヒット化合物は、Annexin V染色によるアポトーシス定量でバリデーションされ、HCC827、PC9、ECLC26 (EGFR変異陽性肺腺癌患者由来細胞株) などの他のEGFR変異細胞株でも確認された。

AURKB阻害薬PF03814735(PF)のBIMおよびPUMA誘導機序は、ウエスタンブロット、siRNAノックダウン、および定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)を用いて解析された。BIMの安定化におけるSer87リン酸化の役割は、変異体BIM(S87A)を用いたin vitroキナーゼアッセイおよび共免疫沈降法で評価された。PUMAの誘導におけるFOXO1/3の役割は、FOXO1/3のsiRNAノックダウンにより確認された。

EMTによるオシメルチニブ耐性モデル(H1975R、ECLC26R、およびCRISPR/Cas9によるFOXA1/2ノックアウトとZEB1過剰発現を組み合わせたH1975FZ細胞)では、ATR-CHK1-AURKB経路の役割がRNAシーケンス(RNA-seq)および各種阻害剤を用いた実験で検証された。RNA-seqデータは、Trimmomaticでトリミング後、STARでアラインメントされ、HTSeqでリードカウント、DESeq2で差次発現解析、GSEAで遺伝子セット濃縮解析が行われた (Bolger et al. Bioinformatics 2014Dobin et al. Bioinformatics 2013Anders et al. Bioinformatics 2015Love et al. GenomeBiol 2014Subramanian et al. ProcNatlAcadSciUSA 2005)。

in vivo実験では、H1975異種移植モデル、オシメルチニブ耐性H1975R異種移植モデル、および患者由来異種移植(PDX)モデル(ECLC26、Ru813c、Lx1114)を用いて、オシメルチニブ単剤、PF単剤、または併用療法の抗腫瘍効果が評価された。腫瘍体積はキャリパーで測定され、体重変化もモニタリングされた。PDXモデルはMSK-IMPACTアッセイにより遺伝子変異が解析された (Zehir et al. NatMed 2017)。統計解析には、Student’s t-test、Mann-Whitney U test、two-way ANOVA、およびlog-rank testが用いられた。