• 著者: Daniel B. Costa, Balazs Halmos, Amit Kumar, Susan T. Schumer, Mark S. Huberman, Titus J. Boggon, Daniel G. Tenen, Susumu Kobayashi
  • Corresponding author: Susumu Kobayashi (Beth Israel Deaconess Medical Center, Harvard Medical School)
  • 雑誌: PLoS Medicine
  • 発行年: 2007
  • Epub日: 2007-10-30
  • Article種別: Original Article (Basic Science)
  • PMID: 17973572

背景

EGFR (epidermal growth factor receptor) の体細胞活性化変異—特にエクソン19欠失 (delE746-A750など) とエクソン21 L858R点変異—がNSCLCの一部で認められ、これらの変異を持つ腫瘍はgefitinib・erlotinibなどのTKI (tyrosine kinase inhibitor) に著明な感受性を示すことが2004年に相次いで報告された。特に Lynch et al. NEnglJMed 2004 は肺がん患者のgefitinib感受性とEGFR変異の関連を初めて示し、Pao (2004 Proc Natl Acad Sci USA) はnever-smokerにおけるEGFR変異の高頻度とTKI感受性を報告し、Paez (2004 Science) も独立して同様の知見を示した。EGFR変異NSCLCはいわゆる「oncogene addiction」の典型であり、変異EGFRシグナルに細胞の生存・増殖が依存している。しかし、こうした腫瘍の大半はやがてTKI耐性を獲得して増悪し、Kobayashi et al. NEnglJMed 2005 はEGFRキナーゼドメインの二次変異T790Mがgefitinib耐性の原因であることを初めて同定した。T790M変異はEGFR TKI耐性腫瘍の約50%に認められ、Pao (2005 PLoS Med) も並行して同変異を報告した。一方、BCR-ABL (breakpoint cluster region - Abelson murine leukemia) 陽性白血病細胞ではimatinibによりBH3-only (BH3ドメインのみを持つアポトーシス促進タンパク質群) タンパク質であるBIM (BCL2L11; B-cell lymphoma 2-like 11) が誘導されてアポトーシスが執行されることが示されており (Kuroda 2006 Proc Natl Acad Sci USA)、BCR-ABL・SRC (proto-oncogene tyrosine kinase) ・変異EGFRに依存した細胞で共通するシグナルカスケードが存在する可能性も示唆されていた (Sharma 2006 Cancer Cell)。しかし、EGFR-TKI誘導アポトーシスにおける下流の実行機構—とりわけBH3-only familyメンバーの役割—は2007年時点では全く解明されていなかった。どのアポトーシス実行因子が変異EGFR依存性NSCLCでのTKI応答を担うのか、また二次耐性変異がその経路をどのように回避するのかという知識が不足しており、それが本研究の着手動機となった。

目的

EGFR変異NSCLCにおけるTKI誘導アポトーシスの主要メディエーターとしてのBIM (BCL2L11) の役割を検証すること、およびT790Mを含む二次耐性変異がBIM誘導とアポトーシス経路に与える影響を解明すること。加えて、臨床例から採取されたgefitinib耐性腫瘍における新規二次耐性変異の同定と機能的特性付けを行うこと。

結果

EGFR変異NSCLC細胞株でのBIM発現とアポトーシスの相関: EGFR野生型のA549細胞 (IC50 9.6 μM) およびH460細胞 (IC50 12.9 μM) では、gefitinib 1 μM処理48hでアポトーシス細胞の割合にほぼ変化がなかった。これに対し、EGFR変異をもつHCC827・H3255・PC-9細胞では有意なアポトーシス増加が確認された (Fig 1)。特にHCC827 (IC50 0.005 μM) とH3255 (IC50 0.015 μM) でアポトーシス誘導が顕著であった。同時に、gefitinib感受性EGFR変異細胞ではBIMELおよびBIMLアイソフォームの迅速かつ持続的な発現上昇が観察され、電気泳動移動度の変化 (高速移動) からBIMEL/BIMLの脱リン酸化が示された (Fig 2)。この変化はAKT・ERK1/2リン酸化の消失と同期しており、PI3K-AKT-FOXOおよびERK1/2 MAPKシグナルの抑制を介したBIM調節の関与が示唆された。PTEN欠損株であるH1650ではBIMELの軽度上昇にとどまり、アポトーシス誘導も限定的であった。

T790M二次変異によるBIMアップレギュレーションの抑制: gefitinib感受性HCC827/Del (delL747-S752) 細胞ではgefitinib処理 (3 μM) によりBIM発現が著明に上昇し、EGFR・AKT・ERKリン酸化も消失した (Fig 3A)。一方、二次変異T790Mをもつ HCC/Del-T790M細胞およびL858R-T790M二重変異を持つH1975細胞では、gefitinib処理によるBIM誘導は最小限であり、EGFRシグナルへの阻害効果も部分的にとどまった。しかし、非可逆型EGFR阻害剤CL-387,785 (1 μM) を用いると、T790M保有細胞でも pEGFR・pAKT・pERK抑制が回復し、BIMが著明に上昇してPARP切断が認められた。このことは、BIM上昇が有効なTKI誘導アポトーシスに必須であること、およびT790MはBIM誘導を介してアポトーシスを抑制することを示した。

BIM siRNAノックダウンによるTKI誘導アポトーシスの減弱: BIMの機能的役割を直接検証するため、BIM特異的siRNAをHCC827細胞 (gefitinib 0.5 μM) とH1975細胞 (CL-387,785 1 μM) に導入した。BIM siRNA処理により、両細胞株ともPARP切断が減弱し (Fig 4A)、Annexin Vアッセイでも生存細胞比率の改善が確認された (Fig 4B, n=3, mean±SD)。対照siRNA群ではこのような保護効果は認められず、BIMがTKI誘導アポトーシスにおいて必要不可欠なメディエーターであることが証明された。なおBIMノックダウンはアポトーシスを完全には抑制せず、他のBH3-onlyタンパク質 (BAD等) の部分的関与も示唆された。

新規二次耐性変異L747Sの同定と機能解析: gefitinib耐性を獲得した74歳女性患者 (L858R EGFR、adenocarcinoma) の胸水検体を解析したところ、既存L858R変異に加えてエクソン19にT→Cの塩基変換 (EGFR L747S) が同定された (Fig 5A)。大多数のサブクローンにL747S + L858R in cisの複合変異が確認された。L747はEGFRキナーゼドメイン結晶構造上、触媒クレフトのバックポケット領域に向いた位置に存在し、ABL1 (L273M) やErbB2 (L755S) の類縁部位変異との構造類似性が認められた (Fig 5C)。機能的意義の検証のため、L858R・L858R-L747S・L858R-T790Mを安定発現するBa/F3細胞株を樹立した。増殖阻害アッセイ (MTS法、n=4, SD) では、Ba/F3-L858R細胞はgefitinibに高感受性を示す一方、Ba/F3-L858R-T790M細胞は1 μMまで高度耐性を示した。Ba/F3-L858R-L747Sクローン (#1-4) はL858Rより有意に高い耐性を示したが、T790Mほどの完全耐性ではなく中等度耐性パターンを呈した (Fig 5D)。

耐性変異によるBIM誘導および内在性ミトコンドリアアポトーシス経路の抑制: Ba/F3細胞系を用いた用量反応実験では、アポトーシス誘導はL858R > L858R-L747S > L858R-T790Mの順で減弱した (Fig 6A)。BIM発現上昇も同様のパターンを示し、Ba/F3-L858R細胞ではgefitinib 0.2 μM処理後3hという早期からBIM上昇が観察されたが、Ba/F3-L858R-L747S細胞では上昇が遅延し、Ba/F3-L858R-T790M細胞ではBIMアイソフォームに変化が認められなかった (Fig 6B)。ミトコンドリア膜電位 (ΔΨm) 解析では、Ba/F3-L858R細胞が12h後に著明なΔΨm崩壊を示したのに対し、L858R-L747S細胞は24hで部分的崩壊に留まり、L858R-T790M細胞では24hでも変化なしであった (Fig 6C)。pan-caspase阻害剤z-VAD-fmkがΔΨm崩壊を抑制しなかったことから、内在性ミトコンドリア経路がTKI誘導アポトーシスの中心的経路であることが示された。Caspase-3活性化とPARP切断もこれらアポトーシス解析結果と一致した (Fig 6D)。

考察/結論

① 先行研究との違い: imatinibによりBCR-ABL白血病でBIMが誘導されることは既に知られていたが、EGFR変異NSCLCにおけるBIMの役割は全く不明であった。本研究は、BCR-ABL系で確立されたBIM-アポトーシス軸がEGFR変異NSCLCにも適用されることを初めて実証した点でこれまでの知見と大きく異なり、複数の「oncogene addiction」系で共通するアポトーシス機構が存在する可能性を示した。さらに、Kobayashi et al. NEnglJMed 2005 によって同定されたT790Mのみが知られていたEGFR二次耐性変異に対し、本研究は新規変異L747Sを同定した。L858R-L747Sは中等度耐性パターンを示し、L858R-D761Y (既報) と類似した表現型を呈したが、L858R-T790Mほどには完全耐性とはならなかった点が対照的であった。

② 新規性: 本研究で初めて新規に、EGFR TKI誘導アポトーシスにおけるBIMの機能的役割がsiRNAノックダウン実験により直接証明された。また、臨床例から発見された新規EGFR二次変異L747Sの同定とその機能的特性付けは本研究が初であり、T790MとL747Sが共にBIMアップレギュレーション抑制を介して内在性ミトコンドリアアポトーシス経路を回避するという新規なメカニズムを明らかにした。後に Nakagawa et al. CancerRes 2013 はBIM多型がEGFR-TKI耐性に関与することを示し、本研究の知見を発展させた。H1650細胞でのBIM誘導不全がPTEN (phosphatase and tensin homolog) 欠損と関連するという観察も、個々の細胞でのBIM応答の多様性を新規に示した知見である。

③ 臨床応用: BIMはEGFR TKI誘導アポトーシスのマーカーかつエフェクターとして機能することが示されたため、BIM発現能の評価が臨床的意義のある治療応答予測バイオマーカーとなりうる。さらに、BIMの活性化・発現増強を標的とした治療アプローチ—例えばBH3 mimetic薬剤との組合せ—が、T790MやL747Sを含む二次耐性変異を持つEGFR変異NSCLCに有用な方策となりうることが示唆された。CL-387,785のような非可逆型阻害剤がT790M保有細胞でもBIM誘導とアポトーシスを回復できることは、非可逆型EGFR阻害剤の開発・臨床応用 (後のosimertinib、Tanaka et al. CancerCell 2021 のBIM増強戦略へ発展) に向けた理論的根拠を提供した。臨床現場での bench-to-bedside 翻訳を念頭に置けば、L747S変異獲得患者ではgefitinibから最大耐性量erlotinibへの切り替えが有効である可能性も考察として提示された。

④ 残された課題: BIM siRNAはアポトーシスを完全には抑制しなかったことから、他のBH3-onlyタンパク質 (BAD: BCL2 antagonist of cell death / BID等) の付加的寄与の解明が今後の検討課題である。L747Sの結晶構造による耐性メカニズム詳細の解析も未解決であった。BIM誘導不全とPTEN欠損・PI3K経路活性化の関係、およびin vivo腫瘍モデルでの検証も今後の方向性として挙げられた。また、EGFR変異型NSCLCの全体像における他の二次変異 (D761Y以外) の存在や、本知見の臨床腫瘍組織での再現性についても、さらなる検討が必要と述べられた。

方法

細胞株と試薬: EGFR野生型 (WT) 細胞株 A549・H460、EGFR変異株 HCC827 (delE746-A750, IC50 gefitinib 0.005 μM)・H3255 (L858R, IC50 0.015 μM)・PC-9 (delE746-A750)・H1650 (delE746-A750, PTEN欠損)・H1975 (L858R-T790M) を使用。Ba/F3安定発現細胞株 (WT EGFR, L858R, L858R-T790M, L858R-L747S各クローン) を作製。gefitinib・erlotinib (市販品) および非可逆阻害剤CL-387,785 (Calbiochem) を使用。

EGFR遺伝子シーケンシング: 臨床検体 (気管支生検・胸水) よりゲノムDNA・RNAを抽出し、エクソン18-21をシーケンス。cDNAはSuperscript II逆転写後にPCR増幅・pGEM-Tベクターにサブクローニングして解析。

Western blotting: BIM・pEGFR (Tyr1068)・pAKT (S473)・pERK1/2 (T202/Y204)・PARP切断型・Caspase-3等を抗体検出。抗BIM抗体はCell Signaling Technology・Stressgen双方を使用。

アポトーシス解析: Annexin V-FLUOS/ヨウ化プロピジウム (PI) 二重染色によるフローサイトメトリー。ミトコンドリア膜電位 (ΔΨm) はDiOC6(3) 40 nM染色で評価。

BIM siRNA実験: BIM特異的siRNA (Cell Signaling Technology) + TransIT-TKOでトランスフェクション後24h、洗浄後にTKI処理48h。

部位特異的変異導入: QuikChange XL kit (Stratagene) でpcDNA3.1-L858R構築物にL747S変異を導入・シーケンス確認。COS-7細胞への一過性トランスフェクション実験も実施。

細胞増殖アッセイ: CellTiter 96 AQueous One (Promega) MTS法、Ba/F3では10,000細胞/well 96-well plateで48h培養。Trypan blue色素排除法による細胞計数も併用。

統計: paired Student t-test を使用、p < 0.01を有意水準とした。実験はいずれもn=3以上で実施し、データはmean±SD (またはSEM) で表示。