• 著者: Annette O. Walter, Robert Tjin Tham Sjin, Henry J. Haringsma, Thomas C. Harding, et al.
  • Corresponding author: Thomas C. Harding (Clovis Oncology)
  • 雑誌: Cancer Discovery
  • 発行年: 2013
  • Epub日: 2013-09-24
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 24065731

背景

EGFR変異陽性非小細胞肺がん(NSCLC)患者は、第一世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)であるエルロチニブやゲフィチニブに良好な初期反応を示すが、治療後9〜14ヶ月で獲得耐性が生じ、その約60%はEGFR T790M変異に起因することが知られている Pao et al. PLoSMed 2005Kobayashi et al. NEnglJMed 2005。T790M変異は、ATP結合ポケットにおける立体障害を引き起こし、TKIの結合を阻害することで耐性を媒介すると考えられている。第二世代不可逆的HERファミリーTKIであるアファチニブやダコミチニブは、in vitroでT790M変異型EGFRを阻害する活性を持つものの、野生型(WT)EGFRに対する強力な阻害作用が用量制限毒性(皮膚発疹、下痢など)となり、T790Mを克服するために必要な臨床用量に到達できないことが課題であった。このため、T790M変異型EGFRに選択的に結合し、WT EGFRへの影響を最小限に抑える、変異選択的な第三世代共有結合EGFR阻害薬の開発が喫緊の課題として認識されていたが、その有効性と安全性プロファイルを両立する薬剤は未解明であった。既存のTKIでは、T790M耐性変異を持つ患者に対する有効な治療選択肢が不足しており、このアンメットニーズを満たす新規薬剤の開発が強く求められていた。Yu et al. ClinCancerRes 2013も、この治療選択肢の不足を報告している。

目的

本研究の目的は、新規経口共有結合EGFR阻害薬CO-1686(rociletinib)の変異選択的阻害特性をin vitroおよびin vivoで詳細に解明することである。特に、T790M変異陽性NSCLCモデルにおけるCO-1686の抗腫瘍活性を検証し、その野生型EGFR温存効果を評価する。さらに、CO-1686に対する獲得耐性メカニズムを解析し、新たな治療戦略の可能性を提示することを目指す。

結果

変異選択的共有結合阻害の生化学的特性: CO-1686は、L858R/T790M EGFRに対してkinact/Ki = (2.41 ± 0.30) × 10⁵ (mol/L)⁻¹s⁻¹ (Ki = 21.5 ± 1.7 nM) の強力な不可逆阻害活性を示した。一方、WT EGFRに対するkinact/Kiは(1.12 ± 0.14) × 10⁴ (mol/L)⁻¹s⁻¹ (Ki = 303.3 ± 26.7 nM) であり、変異型EGFRに対する選択性はWT EGFRの約21.5倍であった (Table 1)。これは、第一世代TKIであるエルロチニブの選択性比0.0041(WT EGFRへの活性が変異型EGFRの244倍強い)と比較して、CO-1686の革新的な変異選択性を示している。質量分析により、CO-1686がEGFRのCys797残基に不可逆的に共有結合することが確認され、設計通りの作用機序が実証された (Fig 1B)。

細胞ベースでの選択的抗腫瘍活性: CO-1686は、EGFR変異陽性NSCLC細胞株において低ナノモル濃度のGI50値を示した。具体的には、HCC827(del19)で7 nM、NCI-H1975(L858R/T790M)で9 nM、PC9(del19)で12 nM、HCC827-EPR(del19/T790M)で32 nMであった (Fig 2A)。これに対し、WT EGFR増幅型のA431細胞ではGI50が547 nM(約75倍高値)、KRASまたはNRAS変異を持つWT EGFR細胞株では1,806〜4,275 nMとさらに高値であり、CO-1686の変異選択性が確認された。EGFRリン酸化阻害のIC50値も、変異型細胞株で62〜187 nMであったのに対し、WT型細胞株では2,000 nM以上であり、一貫した変異選択的プロファイルが示された。

in vivo抗腫瘍活性と野生型EGFR温存効果: NCI-H1975(L858R/T790M)異種移植モデルにおいて、CO-1686は100 mg/kg/dayの経口投与で腫瘍退縮を誘導した (Fig 3A)。患者由来異種移植(PDX)モデルLUM1868(L858R/T790M)でも同様に腫瘍退縮が認められた (Fig 3B)。WT EGFR依存性のA431異種移植モデルでは、CO-1686 50 mg/kg BID投与で36%の腫瘍増殖抑制(TGI)が認められたものの、エルロチニブやアファチニブが腫瘍退縮を誘導したのとは対照的であった (Fig 3D)。CO-1686投与群のA431腫瘍では、EGFRリン酸化の有意な減少は認められず(対ビヒクル比84%、p=0.58)、マウスの体重減少も観察されなかった (Fig 4B)。一方、エルロチニブおよびアファチニブ投与群では、EGFRリン酸化の有意な減少(それぞれ12%、2%)と体重減少が認められた。EGFR L858R/T790M遺伝子改変マウス(GEM)モデルでは、CO-1686 50 mg/kg BID投与により、平均腫瘍体積がビヒクル群780 mm³、アファチニブ群486 mm³に対し、CO-1686群では7 mm³と、完全またはほぼ完全な腫瘍退縮が達成された (Fig 4E)。これらの結果は、CO-1686がWT EGFRへの毒性を回避しつつ、T790M変異腫瘍を選択的に退縮させる能力を持つことを直接的に証明した。

獲得耐性の独自機序(EGFR二次変異なし・AKT3/EMT駆動): CO-1686に長期暴露させたNCI-H1975細胞から作製した5つの耐性クローン(COR)は、CO-1686に対するGI50が1,700〜4,582 nMと、感受性細胞の約190倍以上に増大した (Table 2)。重要な知見として、これらのCORクローンでは、EGFR遺伝子の追加変異や増幅、KRAS、BRAF、ERBB2などの既知の耐性関連遺伝子の変異は認められなかった。代わりに、RNA-seq解析およびqRT-PCRにより、AXL(約100倍)、AKT3(12〜121倍)、AKT2(約2倍)の発現増大と、上皮間葉転換(EMT)のマーカー(E-cadherin発現低下、vimentin発現上昇)が特徴的に認められた (Fig 5C)。このEMT-AKT駆動型耐性パターンは、EGFR選択的阻害薬に共通する耐性機序である可能性を示唆している。

AKT阻害によるCO-1686耐性の克服: AKT阻害薬(MK-2206、GDC-0068)は、CO-1686との併用によりCOR細胞株において強い相乗効果(併用指数CI=0.1)を示し、CO-1686単剤では抑制されなかった細胞増殖を有意に抑制した (Fig 5D)。この結果は、EMT関連AKT3駆動型耐性を克服する手段としてAKT阻害剤との併用療法が有効であることを示唆し、第三世代EGFR-TKI獲得耐性に対するAKT阻害薬の組み合わせ戦略の前臨床根拠となった。AXLの過剰発現もCO-1686耐性のもう一つのメディエーターとして同定されたが、AXL特異的阻害剤による効果はAKT阻害剤と比較して限定的であった。

考察/結論

先行研究との違い: CO-1686(後のrociletinib)は、T790M変異陽性NSCLCに対する第三世代変異選択的EGFR-TKIの先駆的化合物として、その開発コンセプトを実証した。本研究で示された変異選択性(WT EGFRに対する21.5倍の選択性)とT790M陽性モデルにおける強力な腫瘍退縮効果は、第一世代および第二世代TKIの主要な限界であったWT EGFRへの毒性を克服する画期的な進歩であり、これまでのTKIとは対照的な結果を示した。これは、同時期に開発が進められていたWZ4002やAZD9291と並び、第三世代TKIの開発競争を主導する重要な知見である。

新規性: 本研究で初めて、CO-1686に対する獲得耐性がEGFR遺伝子の二次変異ではなく、上皮間葉転換(EMT)とAKT3(AKTアイソフォーム3)/AXL経路の活性化によって駆動されるという新規のメカニズムが同定された。この知見は、後に報告されたオシメルチニブなどの第三世代TKIに対する耐性機序研究(EMT、AXL活性化など)とも一致する共通パターンを示しており、本研究が第三世代TKI全般に共通する耐性パターンの先行研究として位置づけられる。

臨床応用: 臨床応用への含意として、CO-1686のWT EGFR温存特性は、第一世代TKIで問題となった皮膚発疹や下痢といった用量制限毒性を軽減し、忍容性を向上させる可能性を示唆する。実際に、CO-1686の臨床試験(NCT01526928)では、T790M陽性NSCLC患者において客観的奏効(ORR)が観察され、良好な忍容性プロファイルが報告された。本研究で同定されたEMT-AKT駆動型耐性パターンは、今後の第三世代TKI耐性対策として、AKT阻害薬との併用療法開発の強力な前臨床根拠となる。

残された課題: 残された課題として、CO-1686のin vitroおよびin vivoにおけるEMT獲得の動態をT790M獲得と比較検討すること、および、同定された特定の耐性経路を標的とする併用療法の価値をさらに検証することが挙げられる。また、rociletinibは最終的に臨床試験(TIGER-X)でT790M陽性患者のORR 59%を示したものの、偽陽性T790M評価の問題と高血糖などの安全性懸念から開発が中断され、承認されたオシメルチニブに競争で敗れた経緯がある。この結果は、変異選択性TKIの開発において、有効性だけでなく、厳格な診断基準と安全性プロファイルの確立が重要であることを示唆している。

方法

CO-1686の生化学的特性評価のため、組み換えEGFR酵素(WT、L858R、L858R/T790M)を用いた速度論解析(kinact/Ki)により不可逆結合特性を評価した。質量分析により、EGFRのCys797残基への共有結合を確認した。細胞ベースアッセイでは、EGFR変異型(HCC827、PC9、HCC827-EPR、NCI-H1975)およびWT型(A431、NCI-H1299、NCI-H358)の各種NSCLC細胞株を用いて、細胞増殖阻害(GI50)およびリン酸化EGFR(pEGFR)阻害(IC50)を測定した。in vivo抗腫瘍活性は、NCI-H1975、HCC827、LUM1868 PDX(patient-derived xenograft)の異種移植モデル、およびWT EGFR依存性のA431異種移植モデルで評価した。さらに、EGFR L858RおよびEGFR L858R/T790M遺伝子改変マウス(GEM)モデルを用いて、腫瘍退縮効果をMRIにより確認した。CO-1686獲得耐性メカニズムの解析では、NCI-H1975細胞をCO-1686に長期暴露させ、耐性クローン(COR)を作製した。これらのCORクローンに対し、RNA-seq、次世代シーケンシング(NGS)による遺伝子変異解析、およびウェスタンブロット解析を実施し、耐性関連遺伝子や経路の変化を同定した。統計解析には、Student t検定またはANOVAに続くTukey検定を用いた。細胞株の同定はショートタンデムリピート(STR)解析により確認された。