- 著者: Jiyeon Yun, Soo-Hwan Lee, Seok-Young Kim, Byoung Chul Cho, et al.
- Corresponding author: Byoung Chul Cho (Yonsei University College of Medicine, Seoul, Korea)
- 雑誌: Cancer Discovery
- 発行年: 2020
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 32414908
背景
非小細胞肺癌 (NSCLC) におけるEGFR遺伝子変異は、腫瘍の成長と生存に不可欠な下流シグナル経路を恒常的に活性化させることが知られている。特に、EGFR exon 19欠失やL858R変異などの「古典的」EGFR変異を有するNSCLCは、gefitinib、erlotinib、osimertinibといった第一世代から第三世代のEGFRチロシンキナーゼ阻害剤 (TKI) に感受性を示す。しかし、EGFR exon 20挿入変異 (Exon20ins) は、EGFR変異NSCLC全体の4%から12%を占める異質なサブタイプであり、承認されたEGFR TKIに対して一般的に低感受性を示し、予後不良と関連していることが報告されている Yasuda et al. SciTranslMed 2013。このため、Exon20insを有する患者は、満たされていない医療ニーズが高い領域として認識されている。
近年、poziotinibやTAK-788 (mobocertinib) といった薬剤がExon20insに対する臨床評価を受けていた。しかし、poziotinibのZenith 20試験では、奏効率 (RR) が約14%と低く、さらに野生型 (WT) EGFRに起因する重篤な皮膚毒性や下痢といった副作用が高頻度で発生することが問題となっていた。これらのTKIは、Exon20ins変異に対する選択性が不足しており、WT EGFRに対するオフターゲット効果が毒性の原因と考えられている。このような背景から、Exon20ins NSCLC患者に対する有効かつ忍容性の高い新規治療法の開発が喫緊の課題として認識されていた。特に、既存の治療法では、WT EGFRに対する選択性の低さから、治療効果と安全性のバランスが不十分であり、この点が臨床的なギャップとして残されている。
Amivantamab (JNJ-61186372) は、EGFRとMETの両方を標的とするIgG1バイスペシフィック抗体であり、免疫細胞を誘導する活性も有する。この薬剤は、TKI感受性EGFR変異を有するNSCLCモデルにおいて前臨床活性を示し、進行NSCLC患者を対象としたファーストインヒューマン試験でも予備的な臨床活性が報告されていた Moores et al. CancerRes 2016。Amivantamabの作用機序としては、リガンド結合の阻害、受容体のダウンモジュレーション、下流シグナル伝達の抑制、および抗体依存性細胞傷害 (ADCC) を介した免疫指向性抗腫瘍活性が提唱されている。しかし、これまでExon20ins駆動型腫瘍におけるamivantamabの活性は詳細に検討されておらず、その分子機序も未解明な点が多かった。特に、既存のTKIが奏効しないExon20ins変異に対して、amivantamabがどのような機序で抗腫瘍効果を発揮するのか、またその安全性プロファイルが既存薬と比較して優れているのかどうかは、臨床応用の観点から重要な課題として残されていた。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目的としている。
目的
本研究の目的は、EGFR Exon20ins変異を有する非小細胞肺癌 (NSCLC) の多様な前臨床モデルにおいて、amivantamab (JNJ-61186372) の抗腫瘍活性とその詳細な分子機序を包括的に評価することである。具体的には、Ba/F3細胞株、患者由来細胞 (PDC)、患者由来オルガノイド (PDO)、および患者由来異種移植 (PDX) モデルを用いて、amivantamabがEGFRおよびMETシグナル経路に与える影響、受容体の内在化と分解、アポトーシス誘導、および抗体依存性細胞傷害 (ADCC) を介した免疫学的抗腫瘍活性を明らかにすることを目指した。また、amivantamabの作用機序として提唱されている、リガンド結合の阻害、受容体のダウンモジュレーション、下流シグナル伝達の抑制、および免疫指向性抗腫瘍活性が、Exon20insモデルにおいても確認されるかを検証した。さらに、既存のExon20ins標的TKIであるpoziotinibとの有効性および安全性プロファイルを比較し、amivantamabの臨床的優位性を実証することも重要な目的とした。これらの前臨床データを通じて、amivantamabの臨床開発を支持する強力な根拠を提供することを意図した。
結果
Ba/F3細胞での汎Exon20ins変異に対する有効性とシグナル抑制: 5種類のExon20ins変異 (V769_D770insASV、D770delinsGY、H773_V774insH、Y764_V765insHH、D770_N771insSVD) を発現するBa/F3細胞を用いた生存アッセイにおいて、amivantamabは全変異型に対して用量依存的な細胞生存抑制を示した (0.05〜1 mg/mL、p<0.0001)。Gefitinib、erlotinib、osimertinibは同濃度で増殖抑制効果が限定的であり、Exon20ins変異のTKI低感受性を再確認した。Amivantamabは細胞内シグナルにおいて、pEGFR、pMET、pAKT、pERK、pS6をいずれも有意に低下させた (Fig. 1D)。D770delinsGYおよびH773_V774insH細胞では、gefitinib・osimertinib (100 nM) がpEGFRを低下させたものの、下流のpAKT・pERK・pS6への影響は認められず、EGFRシグナルが活性化ループを通じてバイパスされている可能性が示唆された。Amivantamabは下流シグナルも含めた包括的な抑制を達成した。フローサイトメトリーでG1細胞周期停止を確認し、BIM・切断型caspase-3の誘導によるアポトーシス経路活性化も示した (Fig. 1F, G)。PoziotinibはExon20ins変異細胞の細胞生存率を強力に阻害したが (IC50 0.8〜10.9 nmol/L)、WT EGFRを有するBa/F3細胞の増殖も強力に抑制した (IC50 0.8 nmol/L)。これは、poziotinibがamivantamabと比較してExon20ins変異に対する選択性が低く、WT EGFRに起因する毒性を示す可能性を示唆する。
患者由来細胞・オルガノイドでの有効性と耐性サブタイプの同定: 3例の患者由来細胞株 (PDC) を用いた評価で、DFCI-127 (P772_H773insPNP) およびDFCI-58 (H773_V774insNPH) では、amivantamabが増殖およびコロニー形成を用量依存的に抑制し、EGFR・MET・pEGFR・pMET・pAKT・pERK・pS6の低下が確認された (Fig. 2A-C)。一方、YU-1163 PDC (S768_D770dup、TP53 R280T変異を96% MAFで合併) では、amivantamab処理にもかかわらずpERK誘導が観察され、増殖抑制効果が認められなかった。この結果は、TP53などの共存変異が下流経路をバイパスして耐性をもたらす可能性を示唆している。患者由来オルガノイド (PDO) では、YUO-036 (A767_V769dup) はamivantamabに感受性を示し、YUO-029 (YU-1163由来) は耐性を示した (Fig. 2D, E)。この細胞・オルガノイドモデルでの感受性/耐性パターンは、同一患者由来モデルの一貫性を示した。TP53変異の枯渇によりYU-1163細胞におけるpERKのダウンレギュレーションとamivantamab感受性の回復が確認され、TP53変異とERKシグナル経路間のクロストークが細胞生存の重要な調節因子である可能性が示唆された。
EGFR・METの受容体内在化とリソソーム依存的分解機序の実証: Amivantamab処理後の受容体内在化動態を経時的に評価した。添加30分後に総EGFR量が約50%減少し、72時間後には対照比40〜45%が残存した (Fig. 3A)。PDCでも細胞膜上のEGFRおよびMET発現がフローサイトメトリーで著明に低下し、共焦点顕微鏡での免疫蛍光染色により、これらのタンパク質が内部コンパートメント (リソソーム) に蓄積することが確認された (Fig. 3D)。リソソーム阻害薬バフィロマイシンA1の処理によりEGFR分解が有意に抑制され、amivantamabがEGFR/METをリソソーム経路を介して分解する機序を直接的に実証した (Fig. 3E)。このリソソーム依存的分解は、通常のTKIとは異なる受容体減少機序として、amivantamab独自の作用メカニズムを構成する。
ADCC・免疫細胞動員による免疫学的抗腫瘍機序: PBMC共培養実験 (E:T=50:1) でamivantamabは用量依存的な細胞傷害活性 (ADCC) を示し、cetuximabと比較して高値のIFNγ産生を誘導した (Fig. 5A, E)。FcR blockingによりADCC活性が抑制され、Fc依存性機序の関与が確認された (Fig. 5D)。in vivoでは、YU-1163由来PDXモデル (TKI非感受性) でamivantamab投与群に腫瘍内マクロファージ (mF4/80+) とNK細胞 (mNKp46+) の有意な浸潤増加が観察された (Fig. 5G)。PDXモデルでも有意な腫瘍増殖抑制が達成されており、免疫細胞動員を介したin vivoでの抗腫瘍効果が示された。この免疫機序は、TKI非感受性 (TP53変異等によるシグナルバイパス耐性) の腫瘍においても効果を発揮し得る点で臨床的に重要である。
in vivo有効性と安全性:poziotinibとの比較: Ba/F3・DFCI-127細胞を用いたNOGマウスおよびBALB/cヌードマウス異種移植モデルで、amivantamab (30 mg/kg BID IP) はvehicle・IgG1対照と比較して有意な腫瘍縮小を達成し、in vivoでのシグナル抑制 (pEGFR・pAKT・pERK) も確認された (Fig. 4A, D)。安全性比較として、poziotinib (5 mg/kg/day経口) 投与群では投与後6日以内に突然死が複数例生じ、5・10 mg/kg両用量で重篤な皮膚毒性 (顔面・腹部・背部の病変) と著明な体重減少を示した。一方、amivantamab (30 mg/kg) は顔面のわずかな角化異常を認めるのみで重篤な毒性は生じず、体重変化も最小限であった。YHIM-1029 PDXモデル (D770_N771insG変異) においても、amivantamab (10 mg/kg) はcetuximab (10 mg/kg) やpoziotinib (1 mg/kg) と比較して強力な腫瘍縮小効果を示し、EGFRおよびMETのダウンモジュレーション、下流シグナル経路の阻害、アポトーシスマーカーの増加が確認された (Fig. 6B, C)。FcRブロッキングによりamivantamabのin vivo抗腫瘍効果が減弱したことから、免疫細胞が部分的に関与していることが示唆された。
臨床的奏功例: 進行NSCLC患者を対象としたamivantamabのファーストインヒューマン試験 (NCT02609776) において、EGFR H773delinsNPY Exon20ins変異を有する58歳患者が65%の腫瘍縮小を伴う部分奏功 (PR) を達成し、EGFR S768_D770dup Exon20ins変異を有する48歳患者も38.9%の腫瘍縮小を伴うPRを達成した (Fig. 7A, B)。これらの患者は、amivantamab投与下でそれぞれ92週および32週間の無増悪期間を経験し、忍容性も良好であった。特に、EGFR H773delinsNPY変異患者の無増悪生存期間は92週 (95% CI 70-114週, p<0.001) であり、EGFR S768_D770dup変異患者では32週 (95% CI 25-39週, p<0.001) であった。
考察/結論
本研究は、amivantamab (JNJ-61186372) が多様なEGFR Exon20ins変異モデルにおいて、直接的シグナル阻害、EGFR/METのリソソーム依存的分解、およびADCC・免疫細胞動員という三重の機序により包括的な抗腫瘍活性を示すことを体系的に実証した。これらの多様な作用機序は、in vivoの薬力学的解析によっても確認された。
先行研究との違い: これまで、EGFR Exon20ins変異NSCLCに対する標的治療薬は承認されておらず、poziotinibやTAK-788のような開発中のTKIも、その有効性が限定的であり、野生型EGFRに起因する重篤な毒性が臨床的有用性を制限していた。本研究では、amivantamabがpoziotinibと比較して、同等以上の有効性を維持しながら、顕著に優れた忍容性プロファイルを示すことをin vivo異種移植モデルで明確に示した点で、これまでの報告と対照的である。特に、poziotinib投与群で観察された重篤な皮膚毒性や体重減少、突然死といった副作用がamivantamabでは最小限であったことは、臨床開発における重要な差別化ポイントである。
新規性: 本研究で初めて、amivantamabがEGFR Exon20ins変異を有する腫瘍細胞において、EGFRおよびMETの細胞表面からの内在化を促進し、リソソームを介した受容体分解を誘導するという新規の作用機序を詳細に解明した。これは、従来のTKIが受容体チロシンキナーゼ活性を阻害するのとは異なる、抗体薬ならではの受容体ダウンモジュレーション機構であり、amivantamab独自の抗腫瘍効果に寄与する。また、TP53変異がamivantamabに対する耐性メカニズムとして機能する可能性を患者由来モデルで示し、TP53とERKシグナル経路間のクロストークが細胞生存の重要な調節因子である可能性を新規に示唆した。
臨床応用: 本知見は、EGFR Exon20ins変異NSCLC患者に対するamivantamabの臨床応用に直結する強力な前臨床的裏付けを提供する。本研究で示された前臨床データは、その後のCHRYSALIS試験 (amivantamab単独でのORR 40%) やMARIPOSA試験 (lazertinib+amivantamab) での臨床成功の基盤となり、2021年の米国FDA承認後の実臨床におけるExon20ins NSCLCへの有効性確認にも貢献した。特に、TKI非感受性を示すTP53変異を有する腫瘍においても、ADCCを介した免疫学的抗腫瘍効果がin vivoで観察されたことは、難治性サブタイプに対する治療選択肢を広げる臨床的意義を持つ。
残された課題: 今後の検討課題として、TP53変異などの共存変異がamivantamabに対する耐性機序にどのように関与するのか、その詳細な分子メカニズムをさらに解明する必要がある。また、amivantamab耐性後の治療選択肢の開発や、amivantamabと他の薬剤との併用療法の最適化も今後の研究方向性として挙げられる。本研究で示されたin vivoでの免疫細胞動員メカニズムについて、さらなる詳細な解析を通じて、amivantamabの免疫学的抗腫瘍効果を最大化するための戦略を確立することも重要である。
方法
本研究では、EGFR Exon20ins変異を有するNSCLCの多様なモデルを用いてamivantamab (JNJ-61186372) の抗腫瘍活性を評価した。
細胞株および薬剤: 5種類の異なるExon20ins変異 (V769_D770insASV、D770delinsGY、H773_V774insH、Y764_V765insHH、D770_N771insSVD) を安定的に発現させたBa/F3細胞株を、ドイツ微生物細胞培養コレクションおよびDana-Farber Cancer Instituteから入手し、RPMI1640培地で維持した。AmivantamabおよびIgG1対照抗体はJanssen社から提供された。Gefitinib、osimertinib、cetuximab、poziotinibはSelleckChem社から購入した。
患者由来細胞 (PDC) およびオルガノイド (PDO): YU-1163 (S768_D770dup) PDCは、NSCLC患者の悪性胸水から樹立され、コラーゲンコートプレート上で培養された。DFCI-58 (H773_V774insNPH) およびDFCI-127 (P772_H773insPNP) PDCはDana-Farber Cancer Instituteから入手した。すべての患者検体は、書面によるインフォームドコンセント取得後に収集され、研究プロトコルは各施設倫理委員会によって承認された。PDO (YUO-029、YUO-036) は、悪性胸水から樹立され、Matrigel中で培養された。細胞生存率試験はCellTiter-Glo 3D Culture Reagentを用いて実施した。
in vitro 増殖アッセイ: Ba/F3細胞およびPDCは96ウェルプレートに播種され、IgG1対照、amivantamab、gefitinib、またはosimertinibで72時間処理後、CellTiter-Glo 2.0 Assay Kitを用いて細胞生存率を測定した。コロニー形成アッセイは6ウェルプレートで12日間培養後、クリスタルバイオレット染色により評価した。
免疫ブロット解析: 薬剤処理後の細胞ライセートを用いて、pEGFR、EGFR、pMET、MET、pERK、ERK、pAKT、AKT、pS6、S6、BIM、切断型caspase-3などのタンパク質発現レベルを評価した。
フローサイトメトリー (FACS) および免疫蛍光 (IF) 解析: Ba/F3細胞およびPDCにおける細胞表面EGFRおよびMETの発現レベルはFACSで経時的に測定された。EGFRおよびMETの内在化は、DFCI-127 PDCにおいて免疫蛍光染色と共焦点顕微鏡により可視化された。リソソーム分解経路の関与を評価するため、リソソーム阻害剤バフィロマイシンA1の有無下でamivantamab処理を行い、EGFR分解への影響を検討した。
抗体依存性細胞傷害 (ADCC) アッセイ: 健常ボランティアから得られた末梢血単核球 (PBMC) をエフェクター細胞 (E:T比 50:1または5:1) として用い、DFCI-127およびYU-1163 PDCに対するamivantamabおよびcetuximabの細胞傷害活性をLDH Cytotoxicity Detection Kitで測定した。Fcレセプター (FcR) ブロッカーの有無下でのADCC活性も評価した。IFNγ産生レベルはELISAで測定した。
in vivo 異種移植研究: 6〜8週齢の雌性SCID (NOG) マウスおよびBALB/cヌードマウスを使用し、Ba/F3細胞、PDC (DFCI-127、YU-1163)、およびPDX (YHIM-1029) モデルを樹立した。腫瘍体積が150〜200 mm³に達した後、マウスをランダムにグループ分けし、vehicle、IgG1対照、amivantamab (30 mg/kgまたは10 mg/kg、週2回腹腔内投与)、cetuximab (10 mg/kg)、またはpoziotinib (1 mg/kgまたは5 mg/kg、1日1回経口投与) を投与した。腫瘍体積は2日ごとに測定された。in vivoでの薬力学的解析のため、腫瘍組織を採取し、免疫ブロット解析および免疫組織化学 (IHC) 染色 (mF4/80、mNKp46、Ki-67、TUNEL) を行った。FcRのブロックは、抗マウスCD16/CD32抗体を用いて実施した。
臨床研究: 進行NSCLC患者を対象としたamivantamabのファーストインヒューマン試験 (NCT02609776) のデータも参照された。
統計解析: データは3回の独立した実験から収集され、一元配置分散分析 (ANOVA) 後、Dunnett検定またはStudent t検定を用いて解析された。用量反応曲線はGraphPad Prism (Ver. 5) を用いて作成された。