• 著者: Cho BC, Lu S, Felip E, Spira AI, Girard N, Lee J-S, Lee S-H, Ostapenko Y, Danchaivijitr P, Liu B, Alip A, Korbenfeld E, Mourão Dias J, Besse B, Lee K-H, Xiong H, How S-H, Cheng Y, Chang G-C, Yoshioka H, Yang JC-H, Thomas M, Nguyen D, Ou S-HI, Mukhedkar S, Prabhash K, D’Arcangelo M, Alatorre-Alexander J, Vázquez Limón JC, Alves S, Stroyakovskiy D, Peregudova M, Şendur MAN, Yazici O, Califano R, Gutiérrez Calderón V, de Marinis F, Passaro A, Kim S-W, Gadgeel SM, Xie J, Sun T, Martinez M, Ennis M, Fennema E, Daksh M, Millington D, Leconte I, Iwasawa R, Lorenzini P, Baig M, Shah S, Bauml JM, Shreeve SM, Sethi S, Knoblauch RE, Hayashi H; for the MARIPOSA Investigators
  • Corresponding author: Byoung Chul Cho (Division of Medical Oncology, Yonsei Cancer Center, Yonsei University College of Medicine, Seoul, Korea)
  • 雑誌: New England Journal of Medicine
  • 発行年: 2024
  • Epub日: 2024-06-26
  • 掲載巻号: N Engl J Med 2024;391:1486-98
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 38924756

背景

EGFR (epidermal growth factor receptor: 上皮成長因子受容体) 遺伝子変異陽性 (exon 19 欠失または L858R 変異) の進行非小細胞肺癌 (NSCLC) において、活性化変異は非扁平上皮進行がんの 15% から 50% に認められることが知られている (Pao et al. LancetOncol 2011)。第3世代 EGFR 阻害薬 (EGFR-TKI) であるオシメルチニブは、未治療の進行 EGFR 変異陽性 NSCLC 患者を対象とした FLAURA 試験において優れた無増悪生存期間 (PFS) を示し、現在の標準一次治療として確立された (Soria et al. NEnglJMed 2018)。しかしながら、ほぼすべての患者が最終的には多様かつ多クローン性の耐性機序により治療抵抗性を獲得する (Leonetti et al. BrJCancer 2019)。主な耐性機序として EGFR 二次変異や MET 経路の活性化が知られているが、患者の最大 50% では同定可能な耐性機序が不明であり、後治療の選択における大きな課題となっている。

アミバンタマブは EGFR と MET を標的とする二重特異性抗体であり、リガンド結合阻害、受容体分解促進、および Fc 領域を介した ADCC (antibody-dependent cellular cytotoxicity: 抗体依存性細胞傷害) や ADCP (antibody-dependent cellular phagocytosis: 抗体依存性細胞貪食) などの免疫エフェクター細胞活性化という複数の作用機序を有する (Yun et al. CancerDiscov 2020)。ラゼルチニブは、脳移行性が高く変異型 EGFR に高選択的な第3世代 EGFR-TKI である。これら2剤の併用療法は、オシメルチニブ耐性獲得後の患者において有望な抗腫瘍効果を示している。しかし、未治療患者における一次治療としての有用性は十分に検証されておらず、最適な治療戦略は未確立であった。また、一次治療において耐性機序を先制的に遮断するアプローチの効果を検証した第3相試験のデータは不足していた。このように、TKI 単剤療法による耐性獲得を回避するための先制的な併用療法の有用性については、臨床的なエビデンスが不足しており、治療開発上の重要な gap が残されていた。

目的

本試験である MARIPOSA (Multicenter, Randomized, Active-controlled, Phase 3 Study of Amivantamab and Lazertinib Combination Therapy Versus Osimertinib in First-Line EGFR-Mutated Advanced Non-Small Cell Lung Cancer) 試験は、未治療の EGFR 変異 (exon 19 欠失または L858R 変異) 陽性の局所進行または転移性非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者を対象とした国際共同ランダム化第3相試験である。本試験の主な目的は、アミバンタマブとラゼルチニブの併用療法が、現在の標準一次治療であるオシメルチニブ単剤療法と比較して、BICR (blinded independent central review: 盲検下独立中央判定) による無増悪生存期間 (PFS) を有意に改善するかどうかを検証することである。また、副次的な目的として、全生存期間 (OS)、客観的奏効率 (ORR: objective response rate)、DOR (duration of response: 奏効期間)、中枢神経系 (CNS: central nervous system) における治療効果、および安全性を評価し、各治療コンポーネントの寄与を評価するためにラゼルチニブ単剤群との比較も行う。

結果

患者背景と治療状況: 本試験では、計 1375 例がスクリーニングされ、1074 例がランダム化された。内訳は、アミバンタマブ+ラゼルチニブ併用群に n=429、オシメルチニブ単剤群に n=429、ラゼルチニブ単剤群に n=216 であった (Table 1)。患者背景は各群間で良好にバランスが保たれており、全体として女性、アジア人、非喫煙者が多くを占めた。中央値 22.0 ヶ月の追跡期間において、治療期間の中央値は併用群で 18.5 ヶ月、オシメルチニブ群で 18.0 ヶ月であった。データカットオフ時点において、割り当てられた治療を継続していた割合は併用群で 55% (n=230/421)、オシメルチニブ群で 50% (n=213/428) であった。治療中止の主な理由は、病勢進行が併用群で 20% (n=86)、オシメルチニブ群で 36% (n=154) であり、有害事象による中止はそれぞれ 20% (n=86) および 12% (n=50) であった。

主要評価項目である無増悪生存期間の有意な延長: 主要評価項目である BICR 判定による PFS において、アミバンタマブ+ラゼルチニブ併用群はオシメルチニブ単剤群と比較して、統計学的に極めて有意な病勢進行または死亡のリスク減少を示した (Fig. 1A)。PFS 中央値は 23.7 vs 16.6 months (HR 0.70, 95% CI 0.58-0.85, p<0.001) であり、併用群で有意な延長が認められた。18 ヶ月時点における無増悪生存率は併用群で 60% (95% CI 55-64) vs オシメルチニブ群で 48% (95% CI 43-53) であり、24 ヶ月時点では 48% (95% CI 42-54) vs 34% (95% CI 28-39) と、時間の経過とともに生存曲線の乖離が拡大した。なお、ラゼルチニブ単剤群の PFS 中央値は 18.5 ヶ月 (95% CI 14.8-20.1) であり、オシメルチニブ群と類似した治療効果を示したことから、併用療法におけるアミバンタマブの上乗せ効果が証明された (Fig. 1B)。

奏効率および奏効持続期間の評価: 客観的奏効率 (ORR) は、アミバンタマブ+ラゼルチニブ併用群で 86% (95% CI 83-89) であり、オシメルチニブ単剤群の 85% (95% CI 81-88) と同等であった (Table 2)。しかしながら、確認された奏効例 (併用群で n=336、オシメルチニブ群で n=314) における奏効持続期間 (DOR) の中央値は、併用群で 25.8 ヶ月 (95% CI 20.1-NE [推定不能]) であったのに対し、オシメルチニブ群では 16.8 ヶ月 (95% CI 14.8-18.5) であり、併用群において 9 ヶ月もの顕著な延長が認められた。この結果は、併用療法が初期の腫瘍縮小効果のみならず、より持続的で強固な腫瘍制御をもたらすことを示している。

サブグループ解析および中枢神経系アウトカム: 事前規定されたすべての主要サブグループにおいて、アミバンタマブ+ラゼルチニブ併用群はオシメルチニブ群に対して一貫した PFS 改善効果を示した (Fig. 1C)。特に、脳転移の既往があるサブグループ (n=350) においても、併用群はオシメルチニブ群に対して良好な治療効果を示し、PFS のハザード比は HR 0.69 (95% CI 0.53-0.92, p=0.011) と有意なリスク低下が確認された。また、全例に定期的な頭部 MRI 撮影を義務付けた本試験の特性を考慮し、中枢神経系 (CNS) のみの初回進行イベントをセンサーした事後解析 (extracranial PFS) を実施したところ、PFS 中央値は併用群で 27.5 ヶ月 (95% CI 22.1-NE) vs オシメルチニブ群で 18.4 ヶ月 (95% CI 16.5-20.2) となり、全身の病変制御において併用群の優越性がさらに際立つ結果となった。

全生存期間の中間解析結果: 全生存期間 (OS) の第 1 回中間解析は、PFS の主要解析と同時に実施された (Fig. 2)。データカットオフ時点で、プロトコールで予定された 390 イベントのうち 214 イベント (併用群で 97 死亡、オシメルチニブ群で 117 死亡) が発生していた。病勢進行による死亡は併用群で n=49、オシメルチニブ群で n=82 であった。両群ともに OS の中央値は未達 (NE) であったが、ハザード比は HR 0.80 (95% CI 0.61-1.05, p=0.11) であり、統計学的有意差には至らなかったものの、併用群において良好な生存傾向が示された。18 ヶ月時点の生存率は併用群で 82% (95% CI 78-85) vs オシメルチニブ群で 79% (95% CI 75-83) であり、24 ヶ月時点では 74% (95% CI 69-78) vs 69% (95% CI 64-74) であった。

安全性プロファイルと有害事象の管理: 安全性解析対象 (併用群で n=421、オシメルチニブ群で n=428) において、グレード 3 以上の有害事象は併用群で 75%、オシメルチニブ群で 43% に認められた (Table 3)。併用群で頻度の高かった有害事象は、爪囲炎 (68%)、皮疹 (63%)、および IRR (63%) であり、これらは主に EGFR および MET 阻害に関連する既知の毒性であった。重篤な有害事象は併用群で 49%、オシメルチニブ群で 33% に発生した。また、静脈血栓塞栓症 (VTE: venous thromboembolism) の発生率は併用群で 37% と、オシメルチニブ群の 9% と比較して顕著に高かった。VTE イベントの 62% は治療開始後最初の 4 ヶ月以内に発生しており、腫瘍の急速な崩壊に伴う一過性の凝固亢進状態が関与している可能性が示唆された。抗凝固療法開始後の出血イベントは併用群で 8%、VTE 再発率は 2% と管理可能であった。有害事象による全薬剤の中止率は併用群で 10%、オシメルチニブ群で 3% であった。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究 (MARIPOSA試験) の結果は、第3世代 EGFR-TKI であるオシメルチニブ単剤療法を対照群として、アミバンタマブとラゼルチニブの併用療法が PFS を有意に延長することを示した。これは、オシメルチニブと化学療法の併用効果を検証した FLAURA2 試験などの先行研究と異なり、化学療法を一次治療で用いることなく、分子標的薬および抗体薬の組み合わせのみで 23.7 ヶ月という極めて長い PFS 中央値を達成した点で対照的である。また、本試験では全患者に対して定期的な頭部 MRI によるスクリーニングを義務付けており、無症状 of 脳転移イベントを感度高く検出しているため、画像評価の頻度が低かったこれまでの臨床試験と単純に PFS の数値を直接比較することは推奨されないが、臨床的に極めて強固な病勢制御能が示されたと言える。

新規性: 本研究は、未治療の EGFR 変異陽性進行 NSCLC 患者の一次治療において、EGFR-MET 二重特異性抗体と第3世代 EGFR-TKI の併用療法が、標準治療であるオシメルチニブ単剤療法に対して優越性を持つことを第3相ランダム化比較試験において世界で初めて示した。このアプローチは、TKI 単剤治療によって引き起こされる EGFR 二次変異や MET 経路の活性化といった主要な耐性獲得機序を、治療初期から先制的に遮断するという新規の治療コンセプトに基づいている。

臨床応用: 本試験の成果は、EGFR 変異陽性進行 NSCLC の一次治療における新たな標準治療の選択肢として、臨床応用に直結する極めて重要な臨床的意義を持つ。化学療法を後方ラインに温存しつつ、一次治療から強力な分子標的・抗体併用療法を行うことで、患者の長期的な病勢制御が可能となる。臨床現場においては、本レジメンの導入により、特に脳転移を有する患者や、より強力な初期治療が求められる症例において、治療成績の向上が期待される。

残された課題: 今後の検討課題として、全生存期間 (OS) の最終解析結果の集積が挙げられる。中間解析時点ではハザード比 HR 0.80 と良好な傾向を示しているものの、イベント数が不十分であり統計学的有意差には至っていないため、最終解析による生存ベネフィットの確定が待たれる。また、本併用療法における最大の limitation は、グレード 3 以上の有害事象が 75% に達する点や、静脈血栓塞栓症 (VTE) の発生率が 37% と高頻度である点である。特に VTE に関しては、治療開始後 4 ヶ月以内の予防的抗凝固療法の導入など、安全管理プロトコールの最適化が今後の課題である。さらに、アミバンタマブの皮下投与製剤の開発による利便性の向上や、本治療に抵抗性となった後の最適な後治療シーケンスの確立も、今後の研究において解決すべき重要な論点である。

方法

試験デザインと対象患者: 本試験は、国際共同オープンラベル・二重盲検ランダム化第3相試験である (試験登録番号: NCT04487080)。対象は、18 歳以上で未治療の EGFR 活性化変異 (exon 19 欠失または L858R 変異) 陽性の局所進行または転移性非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者である。無症候性または安定した脳転移を有する患者の登録は許容された。

ランダム化と治療プロトコール: 患者は 2:2:1 の比率で、アミバンタマブ+ラゼルチニブ併用群 (オープンラベル)、オシメルチニブ単剤群 (二重盲検)、ラゼルチニブ単剤群 (二重盲検、併用療法の各コンポーネントの寄与を評価するため) にランダムに割り付けられた。ランダム化の層別化因子は、EGFR 変異型 (exon 19 欠失 vs L858R 変異)、アジア人種 (はい vs いいえ)、および脳転移の既往 (はい vs いいえ) とした。アミバンタマブは、体重 80 kg 未満の患者には 1050 mg、80 kg 以上の患者には 1400 mg を静脈内投与した。サイクル 1 (最初の 4 週間) は週 1 回投与とし、初回投与時の IRR (infusion-related reaction: 輸注反応) を軽減するため、1 サイクル 1 日目に 350 mg、2 日目に残量を分割投与 (split-dose) した。サイクル 2 以降は 2 週ごとに同用量を投与した。ラゼルチニブは 240 mg、オシメルチニブは 80 mg をそれぞれ 1 日 1 回連日経口投与した。

評価項目と統計解析: 主要評価項目は、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors: 固形がんの治療効果判定基準) バージョン 1.1 (Eisenhauer et al. EurJCancer 2009) に基づき、BICR により評価された無増悪生存期間 (PFS) とした。副次評価項目には、全生存期間 (OS)、客観的奏効率 (ORR)、奏効期間 (DOR)、および安全性が含まれた。画像評価は、最初の 30 ヶ月間は 8 週ごと、その後は 12 週ごとに実施された。また、全患者に対して頭部磁気共鳴画像法 (MRI) による中枢神経系 (CNS) 評価がプロトコールにより義務付けられ、脳転移既往例では 8 週ごと (30 ヶ月以降は 12 週ごと)、脳転移なしの症例では 24 週ごとに実施された。主要解析における PFS の比較は、層別ログランク (log-rank) 検定を用いて行われ、ハザード比 (HR) および 95% 信頼区間 (CI) は層別コックス比例ハザード回帰モデル (Cox regression model) を用いて算出した。生存曲線はカプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法を用いて推定した。