• 著者: Jong Kook Rho, Young Jin Choi, Ji Hyun Lee, Eu Gene Ryoo, Chul Ho Kim, et al.
  • Corresponding author: Jae Cheol Lee (Asan Medical Center, College of Medicine, University of Ulsan)
  • 雑誌: Cancer Research
  • 発行年: 2014
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 24165158

背景

EGFR-TKI (gefitinib・erlotinib) はEGFR変異陽性非小細胞肺がん (NSCLC) 患者において顕著な臨床的効果を示すが、ほぼ全例で獲得耐性が生じ、その平均奏効期間は1年未満であると報告されている Kobayashi et al. NEnglJMed 2005。耐性機序として、EGFR T790M変異が約50%の患者で、MET増幅が約5%の患者で関与することが示されている Engelman et al. Science 2007Bean et al. ProcNatlAcadSciUSA 2007。MET増幅は、EGFRシグナルが阻害された際にPI3K/Akt経路を維持するバイパス経路として機能し、がん細胞の生存を促進する。また、AXL受容体チロシンキナーゼも、そのリガンドであるGAS6 (growth arrest-specific 6) を介して活性化し、PI3K/AktおよびERKシグナルを維持することでEGFR-TKI耐性に寄与することが以前の研究で示唆されていた。これらのバイパス経路は独立して機能する場合があるため、単一の阻害薬では耐性を克服できない可能性があり、複数の耐性機序を同時に標的とする治療戦略が求められていた。特に、MET増幅とAXL活性化という異なる耐性機序を単剤で克服できるdual阻害薬の開発は、腫瘍内不均一性による耐性多様性に対処する上で重要な課題として認識されており、この領域の治療法開発は手薄である。

目的

本研究では、新規に開発されたMETおよびAXLのdual阻害薬NPS-1034のin vitroにおけるキナーゼ阻害プロファイルを詳細に解析し、MET増幅(HCC827/GR細胞)またはAXL活性化(HCC827/ER細胞)によってgefitinibまたはerlotinibに耐性を示したNSCLC細胞株に対するNPS-1034単剤およびEGFR-TKIとの併用効果を評価することを目的とした。さらに、T790M変異とMET増幅を有するH820細胞におけるAXLの関与を検証し、ROS1再編成を有するHCC78細胞に対するNPS-1034の有効性も検討した。本研究は前臨床試験であり、臨床試験登録番号 (NCT) は存在しない。

結果

NPS-1034のキナーゼ阻害プロファイル: NPS-1034はATP競合アッセイにより、幅広いキナーゼ阻害活性を示すことが明らかとなった。特に、AXL (IC50 10.3 nM) およびMET (IC50 48 nM) に対して強力な阻害活性を示し、AXLに対する選択性はMETの約4.7倍高かった。その他、CSF1R、DDR、FLT3、KIT、MERTK (MER receptor tyrosine kinase)、MST1R、ROS1、TIE1、TRKに対しても阻害活性が認められた (Table 1)。細胞リン酸化アッセイでもFLT3、KIT、DDR1に対する阻害が確認され、NPS-1034がdual MET/AXL阻害薬として有望であることが示唆された (Supplementary Fig. S1)。

MET増幅によるgefitinib耐性HCC827/GR細胞への効果: gefitinib漸増曝露により樹立されたHCC827/GR細胞は、親株HCC827と比較してgefitinibに対する耐性が約1,000倍に増大した (IC50 <0.01 µmol/Lから>10 µmol/L) (Fig. 2A)。HCC827/GR細胞ではMET蛋白質の増大とMET遺伝子増幅が確認された (Fig. 2B)。NPS-1034単剤はHCC827/GR細胞の増殖を用量依存的に抑制し、pMET、pAkt、pERKのリン酸化を効果的に抑制した (Fig. 2E)。gefitinibとNPS-1034の併用は、HCC827/GR細胞の増殖を相乗的に抑制し (CI <1)、pEGFR、pMET、pAkt、pERKを含む下流シグナルの完全な抑制を達成した (Fig. 2C, E)。長期培養アッセイ (72時間薬剤曝露後5日間培養) でも、併用群で細胞死が顕著に増加した (Fig. 2D, F)。

AXL活性化によるerlotinib耐性HCC827/ER細胞への効果: erlotinib耐性HCC827/ER細胞は、AXLの発現亢進とGAS6自己分泌を介したAXL活性化を示した (Fig. 4B, C)。NPS-1034単剤はpAXL、pAkt、pERKのリン酸化を抑制し、HCC827/ER細胞の増殖を用量依存的に抑制した (Fig. 4C, E)。erlotinibとNPS-1034の併用は、HCC827/ER細胞に対しても相乗的な増殖抑制効果 (CI <1) を示し、pEGFR、pAXL、pAktの完全抑制が確認された (Fig. 4D, E)。

H820細胞におけるAXLの主要耐性機序としての同定: H820細胞はT790M変異とMET増幅を有することが報告されていたが、本研究でAXLも高発現・活性化していることが新たに発見された (Fig. 5C, D)。EGFR siRNAまたはMET選択的阻害薬PHA665752単独ではH820細胞の増殖抑制は限定的であったが、AXL siRNAまたはNPS-1034とEGFR-TKIの併用はH820細胞の増殖を有意に抑制した (Fig. 5A, B, F)。これは、H820細胞における主要な耐性シグナルがAXLであることを示唆する。

In vivo異種移植モデルでの有効性 (HCC827/GR): SCIDマウスのHCC827/GR異種移植モデルにおいて、gefitinib (100 mg/kg) とNPS-1034 (10 mg/kg) の併用投与群は、vehicle対照、gefitinib単剤、PHA665752単剤、gefitinib+PHA665752と比較して最も優れた腫瘍増殖抑制効果を示した (Fig. 3A)。併用治療群では腫瘍容積の顕著な縮小が認められ、治療終了後も低腫瘍量が維持された。免疫組織化学染色により、Ki-67陽性率の低下とTUNEL陽性アポトーシス細胞の増加が確認された (Fig. 3B)。gefitinib単剤群と比較して、gefitinibとNPS-1034併用群では腫瘍増殖抑制が有意に改善され (p<0.001)、Ki-67陽性細胞の割合は平均 22.5% から 7.8% に減少した (p<0.01)。

ROS1再編成細胞への活性: ROS1再編成を有するHCC78細胞にNPS-1034を処理したところ、ROS1リン酸化を抑制し、増殖を阻害した (Fig. 6A, B)。その増殖抑制効果はcrizotinibと同程度であったが、ROS1活性の阻害はNPS-1034の方がより強力であった (Fig. 6B)。NPS-1034はcrizotinibと比較して、より低濃度 (0.1 µmol/L) でROS1リン酸化を完全に抑制した。

考察/結論

本研究は、MET増幅とAXL活性化という異なる機序によるEGFR-TKI耐性NSCLC細胞に対し、新規dual MET/AXL阻害薬NPS-1034とEGFR-TKIの併用がin vitroおよびin vivoで有効であることを初めて示した。

先行研究との違い: これまでの研究では、MET増幅とAXL活性化はそれぞれ独立したバイパス経路として認識され、個別の阻害薬による対処が検討されてきた。しかし、本研究は、これらの異なる耐性機序を単一のdual阻害薬NPS-1034で同時に標的とする戦略が、腫瘍内不均一性による耐性多様性に対処する上でより合理的かつ効果的であることを示した点で、これまでのアプローチと対照的である。特に、H820細胞におけるAXLの役割の再評価は、従来の認識を修正する重要な知見である。

新規性: NPS-1034は、MET (IC50 48 nM) とAXL (IC50 10.3 nM) を強力に阻害する新規化合物であり、特にAXLに対する高い選択性を持つことを明らかにした。また、H820細胞において、従来の報告ではT790M変異とMET増幅が主要な耐性機序とされていたが、本研究で初めてAXLも高発現・活性化しており、AXLがEGFR-TKI耐性の主要なドライバーであることを示した。さらに、NPS-1034がROS1再編成を有するHCC78細胞に対してもcrizotinibと同等の増殖抑制効果を示すことを新規に発見した。

臨床応用: 本研究の知見は、EGFR変異陽性NSCLC患者におけるEGFR-TKI獲得耐性克服のための新たな治療戦略を提供する。MET増幅またはAXL活性化が耐性機序として関与する患者に対し、NPS-1034とEGFR-TKIの併用療法は有望な選択肢となる可能性がある。また、NPS-1034がROS1再編成陽性NSCLCにも有効である可能性は、その臨床的有用性をさらに広げるものである。AXL活性化は上皮間葉転換 (EMT) 関連耐性機序とも密接に連関しており、NPS-1034がEMTを介した耐性にも適用できる可能性があり、臨床現場での幅広い応用が期待される。

残された課題: 今後の検討課題として、EGFR-TKI耐性進行後の再生検によるMET増幅およびAXL活性化の定量的評価法の確立が挙げられる。また、NPS-1034の毒性プロファイル、特にAXL阻害に伴うオフターゲット効果や長期投与における安全性に関する詳細な評価が残されている。さらに、本研究ではHCC827/ER細胞を用いたin vivoモデルの樹立に成功しなかったため、AXL活性化による耐性に対するin vivoでのNPS-1034の単剤および併用効果を検証するモデルの開発が今後の研究方向性となる。

方法

NPS-1034のキナーゼ阻害特性は、DiscoveRxおよびCarna Bioscience RTKアッセイキットを用いたATP競合アッセイにより評価した。Gefitinib耐性細胞株HCC827/GR (gefitinib-resistant) は、親株HCC827細胞を8か月以上gefitinibに段階的に曝露することで樹立した。Erlotinib耐性細胞株HCC827/ER (erlotinib-resistant) は先行研究で樹立されたものを用いた。細胞増殖アッセイはMTS/MTT法により実施し、NPS-1034単剤、gefitinib単剤、および両剤併用時の増殖抑制効果を評価した。併用効果の定量化にはChou-Talalay法に基づくCombination Index (CI) 値を用いた。ウエスタンブロット解析により、pEGFR、EGFR、pMET、MET、pAXL、AXL、pAkt、Akt、pERK、ERK、caspase-3、PARP1などのシグナル分子の発現およびリン酸化状態の変化を確認した。H820細胞では、EGFR、MET、AXLに対するsiRNAトランスフェクションを行い、各遺伝子ノックダウン後の細胞増殖抑制効果を評価した。In vivo研究では、SCIDマウスにHCC827/GR細胞を皮下移植した異種移植モデルを用い、vehicle、gefitinib (100 mg/kg)、NPS-1034 (10 mg/kg)、PHA665752 (12.5 mg/kg)、gefitinib+PHA665752、gefitinib+NPS-1034の各群で腫瘍増殖抑制効果を評価した。腫瘍容積はキャリパーで測定し、免疫組織化学染色によりKi-67陽性率およびTUNEL (terminal deoxynucleotidyl transferase-mediated dUTP nick end labeling) アッセイによるアポトーシス細胞数を評価した。統計解析には、群間比較にStudent’s t-testを用い、p値が0.05未満を有意差ありとした。