Article data

  • 著者: James Bean, Cameron Brennan, Jin-Yuan Shih, Gregory Riely, Agnes Viale, Lu Wang, Dhananjay Chitale, Noriko Motoi, Janos Szoke, Stephen Broderick, Marissa Balak, Wen-Cheng Chang, Chong-Jen Yu, Adi Gazdar, Harvey Pass, Valerie Rusch, William Gerald, Shiu-Feng Huang, Pan-Chyr Yang, Vincent Miller, Marc Ladanyi, Chih-Hsin Yang, William Pao
  • Corresponding author: William Pao (paow@mskcc.org、Memorial Sloan-Kettering Cancer Center)
  • 雑誌: PNAS (Proceedings of the National Academy of Sciences USA)
  • 発行年: 2007
  • Epub日: 2007-12-26
  • Article種別: Original
  • PMID: 18093943

背景

EGFR exon 19 LREA 型 in-frame deletion (leucine-arginine-glutamate-alanine sequence deletion) および exon 21 L858R missense mutation を持つ肺腺癌は、EGFR-TKI (チロシンキナーゼ阻害薬) である gefitinib (Iressa) および erlotinib (Tarceva) に対して約 75% という高い奏功率を示し、これら変異陽性例を標的とした治療が確立されていた (Lynch et al. NEnglJMed 2004Paez et al. Science 2004)。しかし、初期に奏功した腫瘍は最終的に acquired resistance (獲得耐性) を発症することが不可避であることも示されていた。

獲得耐性の機序として最も解明が進んでいたのは EGFR exon 20 における T790M 二次変異であり、acquired resistance 症例の約 50% で検出されることが複数の研究から報告されていた (Kobayashi et al. NEnglJMed 2005Pao et al. PLoSMed 2005)。T790M は EGFR kinase domain の gatekeeper 残基 (790 位) のスレオニンをメチオニンに置換し、gefitinib/erlotinib の結合を立体的に阻害することで薬剤耐性を付与する。一方、残りの約 50% の症例における耐性機序は依然として不明なままであり、T790M 以外の bypass 耐性機序の体系的同定が gap in knowledge として残されていた。

Engelman ら (Science 2007) は in vitro の gefitinib 耐性選択モデル (HCC827 GR 細胞株) を用いて MET 遺伝子増幅が gefitinib 耐性機序となり得ることを示したが、実際の patient-derived 腫瘍サンプルにおける MET 増幅の頻度、T790M との共存・独立性、そして治療標的としての妥当性の体系的検証は手薄なままであった。本研究はこのギャップを埋めるために、複数施設・複数コホートの臨床検体を用いた包括的解析を行った。

目的

(1) Acquired resistance を有する EGFR-mutant 肺腺癌の patient-derived 腫瘍 DNA を array-based comparative genomic hybridization (aCGH) で全ゲノムプロファイリングし、未治療 EGFR-mutant 腫瘍との比較から獲得耐性に特異的な recurrent copy number alteration (CNA) を同定する。(2) 同定した候補 locus (7q31.2 内 MET proto-oncogene) の増幅を、複数の独立コホートで qPCR (定量 PCR) および FISH (fluorescent in situ hybridization、蛍光 in situ ハイブリダイゼーション) により検証し、未治療例との頻度差を統計的に確認する。(3) EGFR 変異かつ MET 増幅を有する細胞株 NCI-H820 での薬剤感受性試験および downstream signaling 解析により、MET を治療可能な治療標的として検証する。

結果

aCGH による獲得耐性特異的 3 locus の同定:Acquired resistance 12 例と未治療 38 例の aCGH 比較により、獲得耐性群に特異的に recurrent な copy number 変化を示す 3 つのゲノム locus が同定された (Table 1)。7p11-12 (EGFR locus) は samples #5、#6、#10a の 3/12 例で focal 増幅を認めた。7q31.2 (MET locus) は samples #6 と 10a の 2/12 例で focal 増幅を認め、最大 copy number change は 12-fold 以上であった。5p15.2-15.3 は samples #5 と 10a の 2/12 例で増幅を認めたが候補遺伝子は不明であった。11/12 例では chromosome 7 全体の broad polysomy が観察されたが、MET のリガンドである HGF (hepatocyte growth factor) をコードする 7q21.1 locus の focal 増幅は認めなかった。患者 #10 の転移リンパ節 sample (10b) でも EGFR と MET の両方の focal 増幅が確認され、同一患者内での MET 増幅の広汎化が示された (Fig. 1、Table 1)。

複数コホートにわたる MET 増幅の統計的検証:4 コホートを統合した解析 (acquired resistance n=43、未治療 n=62) において、MET 増幅は acquired resistance 群の 9/43 例 (21%) で検出され、未治療群の 2/62 例 (3%) と比較して有意に高頻度であった (p=0.007、Fisher’s exact test) (Table 2)。Tumor #6 の dual-color FISH では CEP7 が 4-6 copy の polysomy を示す背景に、細胞の約半数で MET locus にさらなる focal 増幅 (MET copy > CEP7) が認められ、増幅が clonal でなく subpopulation に存在することが示された。台湾の matched pre/post-treatment 24 例コホートでは 5 例で MET 増幅が検出され、そのうち 4/5 例は「治療後のみ」陽性であり、TKI 治療圧による MET 増幅 subclone の選択的増殖モデルを支持した。EGFR 変異サブタイプ (exon 19 del vs L858R) や TKI 投与期間との相関は認められなかった。

T790M との共存と相互独立性:9 例の MET 増幅患者から得られた 10 腫瘍サンプルのうち 4 サンプル (40%) で EGFR T790M が共存していた。一方、T790M は acquired resistance 43 例全体の 20/43 例 (46.5%) で検出されており、MET 増幅と T790M はそれぞれ独立した耐性機序として、あるいは共存した形でも生じ得ることが示された。2 例 (Table SI, #30 および #32) では治療前サンプルにも MET 増幅が検出されており、腫瘍内細胞多様性 (intratumoral heterogeneity) に起因する pre-existing subclone が TKI 圧で拡大した可能性が示唆された。H820 細胞株においても exon 19 del + T790M + MET 増幅の 3 重病変が同一細胞内に共存していることが確認されており、これらの遺伝的変化は互いに排他的でないことが実証された。

H820 細胞の MET 依存性と薬剤感受性:H820 細胞は EGFR-TKI 未使用患者由来でありながら exon 19 del (E746-E749)、T790M、MET 増幅を同時に有する独特の細胞株であった。FISH 解析では CEP7 が 4-6 copy の染色体 7 polysomy を背景に MET locus が 7-9 copy まで focal 増幅していることが確認された (Fig. 2A)。Phospho-MET (Y1234/5) の Western blot では H820 が PC-9 と比較して著明に高い MET キナーゼ活性を示した (Fig. 2B)。n=6 wells で測定した増殖阻害試験では erlotinib の IC50 が H820 で >10 μM と高度耐性を示し、不可逆 EGFR 阻害薬 CL-387,785 の IC50 も μM オーダーで耐性であった。一方、XL880 は H820 に対して nM 濃度で有効であり (IC50 nM 範囲)、PC-9 では逆に XL880 不感受性・CL-387,785 高感受性であった (Fig. 2C)。これら薬剤感受性の差異は n≥3 の独立試験で再現された。

ERBB3 bypass signaling の MET 依存的制御:n=3 の独立実験において XL880 0.3 μM 処理により H820 細胞では phospho-MET (Y1234/5) と phospho-ERBB3 (Y1289) が共に一貫して抑制されたが、phospho-EGFR (Y1092) は変化しなかった (Fig. 3)。PC-9 では逆に CL-387,785 が phospho-ERBB3 を抑制し XL880 の効果はなかった。MET siRNA ノックダウン実験 (n=3 独立トランスフェクション) では H820 の phospho-ERBB3 が低下し、GAPD (glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase) siRNA 対照では変化を認めなかった。この結果により XL880 の効果が MET キナーゼ阻害に特異的であることが確認された。MET siRNA による cell viability の低下は対照の 80-90% 程度と XL880 より軽度であったが、n=3 試験で有意な効果として再現された。MET 増幅を有する全検体 (#2、#6、#10a、#10b、H820) での MET kinase domain (exon 15-21) シーケンシングで somatic mutation は検出されず、H820 の exon 3-14 でも somatic mutation は認めなかった。

考察/結論

本研究は、EGFR 変異肺腺癌における gefitinib/erlotinib acquired resistance の約 21% に MET 遺伝子増幅が関与することを、複数施設・複数コホートの patient-derived 検体から体系的に実証した点で本研究で初めて示された重要な知見である。これまでの研究では T790M 二次変異が主要な耐性機序として認識されていたが、その検出率は acquired resistance の 46.5% に過ぎず、残り約 50% の機序は未解明のままであった。本研究により MET 増幅が T790M とは対照的に EGFR kinase domain への直接的影響なしに bypass 経路を活性化する第二の主要耐性機序として確立された。

臨床的意義として最も重要なのは、MET 増幅を有する acquired resistance 例では T790M を克服するための不可逆 EGFR 阻害薬 (CL-387,785) も無効であり、MET キナーゼを直接標的とする化合物が必要であることを in vitro で実証した点である。XL880 (foretinib) が H820 細胞の ERBB3-PI3K (phosphatidylinositol 3-kinase) bypass signaling を遮断することは、臨床応用への直接的な根拠となった。実際この bench-to-bedside エビデンスは後の tepotinib + osimertinib (INSIGHT 2 試験)、savolitinib + osimertinib (SAVANNAH、ORCHARD 試験) など MET-EGFR 二重阻害戦略の理論的基盤を形成することになった。ERBB3 が MET と EGFR の両方の downstream effector として機能することは Engelman ら (Science 2007) の in vitro モデル (Engelman et al. Science 2007) でも示されていたが、本研究はその臨床的意義を patient-derived 検体で確認した。

台湾コホートの matched pre/post-treatment pair で 4/5 例が「post のみ」MET 増幅陽性であったことは、治療前から低頻度に存在する MET 増幅 subclone が TKI 選択圧で clonal expansion を起こすという selection model を支持する。一方で 2 例では治療前から MET 増幅が確認されており、pre-existing heterogeneity が耐性の土台となる可能性も示された。この観察は、単一時点での腫瘍生検が腫瘍内細胞多様性を完全に反映しない場合があることも示唆している。

MET 増幅と T790M が 40% の症例で共存するという事実は、複数の耐性機序が同一腫瘍内に併存し得ることを示す。T790M と MET 増幅がそれぞれ独立した選択圧で生じ得るという本知見は、既報の in vitro model との相違点であり、臨床的な多様性の大きさを明示した。H820 細胞が EGFR-TKI 非投与患者由来でありながら 3 重病変を有することは、これらの遺伝的変化が acquired resistance のみならず de novo にも共存し得ることを示した。

残された課題として、(1) MET 増幅の標準的診断 cutoff の確立 (本研究でもコホートによって ratio ≥1.5 と ≥5 の 2 基準を使用しており統一が必要) が挙げられる。(2) T790M と MET 増幅が共存する例での治療戦略の最適化 (EGFR + MET 二重阻害 vs 単剤順次療法) も今後の検討が必要である。(3) 本研究では MET 増幅の functional driver 役割を単一細胞株で示したが、patient-derived xenograft (PDX) 等を用いたより広範な validation が求められる。(4) 液体生検等の non-invasive biomarker による MET 増幅の経時的モニタリング手法の確立も将来の重要課題である。これらの limitation を念頭に置きつつ、本知見は EGFR-TKI 耐性機序研究の礎石として、その後の MET 阻害薬開発と耐性バイオマーカー研究の方向性を規定した。

方法

患者コホートと aCGH 解析:Memorial Sloan-Kettering Cancer Center など複数施設で IRB (institutional review board) 承認・インフォームドコンセント取得のもと、gefitinib または erlotinib 治療後に progression を来した EGFR-mutant 肺腺癌 12 例の腫瘍 DNA を 244K Agilent CGH array (acquired resistance セット) で解析した。対照として EGFR-TKI 未治療で外科切除された EGFR-mutant 肺腺癌 38 例を 44K Agilent CGH array で解析し比較した。Circular binary segmentation アルゴリズムにより各 CNA を抽出し、log2 ratio >1 (コピー数 >4 相当) かつ p<0.05 (Fisher’s exact test) を有意な差として定義した。

MET 状態の多コホート validation:第 1 コホート (aCGH 解析 12 例) に加え、第 2 コホート (自験追加 4 例)、第 3 コホート (台湾 3 例) の計 19 例を対象に、ゲノム安定領域 1p36.3 の MTHFR (methylenetetrahydrofolate reductase) を内部対照とした quantitative real-time PCR (qPCR) で MET fold change を算出した (増幅定義: MET:MTHFR ratio ≥1.5)。さらに台湾の第 4 コホート 24 例 (matched pre/post-treatment pair) を独立プロトコルで qPCR 解析した (独立基準: ratio ≥5)。Tumor #6 と H820 細胞株では MET BAC (bacterial artificial chromosome) probe と CEP7 (chromosome 7 centromere) probe を用いた dual-color FISH を施行した。4 コホート統合で acquired resistance 43 例 vs 未治療 62 例の MET 増幅頻度を Fisher’s exact test で比較した。

Cell line 解析:NCI (National Cancer Institute)-H820 細胞 (exon 19 del、E746-E749 (glutamate 746 to glutamate 749 deletion)、T790M 変異、MET 増幅の三重病変) と PC-9 細胞 (exon 19 del E746-A750 (glutamate 746 to alanine 750 deletion)、T790M なし、MET 増幅なし) を用いた。Erlotinib、不可逆 EGFR 阻害薬 CL-387,785、マルチキナーゼ阻害薬 XL880 (MET・VEGFR2・PDGFRβ・KIT・FLT3・TIE-2 (tyrosine kinase with immunoglobulin and EGF homology domain-2)・RON を sub-nM 濃度で阻害) に対し CellTiter-Blue アッセイで増殖阻害 IC50 を測定した (n=6 replicates、各薬剤 ≥3 独立試験)。Phospho-MET (Y1234/5)、total MET、phospho-ERBB3 (Y1289)、phospho-EGFR (Y1092) の Western blot (≥3 独立実験) と、MET siRNA (siGenome ON-TARGETplus SMARTpool L-003156、Dharmacon、3 独立トランスフェクション) ノックダウン実験を実施した。MET kinase domain (exon 15-21) および H820 での exon 3-14 を Sanger シーケンシングした。