• 著者: Wang, Wang, Burt, et al.
  • Corresponding author: Bryan M. Burt (Baylor College of Medicine)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2017
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 27496865

背景

非小細胞肺癌 (NSCLC) は世界的に癌関連死の主要な原因であり、5年生存率は18%と極めて低い Goldstraw et al. Lancet 2011。EGFR変異陽性肺腺癌は、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤 (TKI) に対し64%から82%という高い奏効率を示すが、ほぼ全ての患者で薬剤耐性を獲得し、最終的に病勢が進行する。このため、長期的な治療成績を改善するための新たな治療戦略の開発が喫緊の課題である。

腫瘍微小環境 (TME) におけるマクロファージの役割は、癌の開始と進行を駆動することが示されており、特に腫瘍関連マクロファージ (TAM) はヒトNSCLCにおいて予後不良と関連することが報告されている Shigematsu et al. JNatlCancerInst 2005。しかし、EGFR変異肺腺癌のTMEにおいて、肺の主要な常在性免疫細胞である肺胞マクロファージ (AM: alveolar macrophage) が腫瘍進行にどのように関与するのか、その詳細なメカニズムは未解明であった。特に、EGFR活性化変異がAMの増殖や機能に与える影響、およびAMが腫瘍進行に与えるフィードバック機序については、これまで体系的な研究が不足しており、大きな知識ギャップが存在していた。例えば、腫瘍随伴AMの起源が骨髄由来であるか、あるいは局所増殖によるものであるかについては、明確な結論が得られておらず、EGFR-TKIがAMの動態に与える影響についても詳細な解析が不足していた。このように、EGFR変異肺腺癌におけるAMの具体的な役割やその制御機構には未解明の課題が残されており、治療標的としての可能性を評価するための基礎的知見が決定的に不足している状況であった。

目的

EGFR(L858R)変異ビトランスジェニックマウスモデルを用いて、肺腺癌進行過程におけるAMの動態、表現型変化、および腫瘍促進機能を詳細に解析する。また、AM除去やEGFR-TKI治療がAMに与える影響を検討し、ヒトEGFR変異肺腺癌におけるAMの臨床的意義を評価することを目的とする。さらに、ヒト臨床データを用いたレトロスペクティブコホート (retrospective cohort) 解析により、AM活性化シグネチャーが患者予後に与える影響を評価し、新規治療標的としての妥当性を検証する。

結果

腫瘍進行に伴うAMの著明な局所増殖と骨髄非依存的増加: EGFR L858R誘導後7週時点で、肺内のCD45陽性造血細胞におけるAMの割合は、対照群の17.6% ± 1.5%に対し、81.4% ± 1.1%へと劇的に増加した (Fig. 1C)。絶対数では、AMは対照マウスの平均0.5 million cellsから、7週後には11.6 million cellsへと約23倍に増加した (Fig. 1B)。このAMの拡大は、肺重量の増加 (Fig. 1D) および腺癌の組織学的進行 (Fig. 1E, F) と相関していた。BrdUパルス実験およびKi-67染色 (Fig. 3E, F) により、ドキシサイクリン投与マウスのAMの44.8% ± 6.1%がKi-67陽性であったのに対し、対照マウスでは3.5% ± 8.4%であったことから、AMの増加は骨髄からの動員ではなく、局所での自己増殖によるものであることが明確に示された。抗CSF-1R抗体による末梢血単球の枯渇 (Fig. 3B) は、AM数 (Fig. 3D) や腫瘍負荷に影響を与えなかったことから、この局所増殖メカニズムがさらに支持された。EGFR変異腫瘍由来の上皮細胞は、GM-CSF、M-CSF、CXCL12、IL-1a、TNFaなどのAM増殖を促進する可溶性因子を産生することが示された (Fig. 3G)。

AMのM2様腫瘍促進性表現型への転換: 腫瘍随伴AMは、対照AMと比較して、MHC-IIおよび共刺激分子 (CD40, CD80, CD86) の表面発現が著明に低下していた (Fig. 2A)。一方で、M2関連サイトカイン・ケモカインであるCXCL1、CXCL2、IL-1受容体拮抗薬 (IL1RA: IL-1 receptor antagonist) の産生が有意に増加していた (Fig. 2C)。特に、CXCL1は気管支肺胞洗浄液 (BAL: bronchoalveolar lavage) 中でも高レベルで検出された (Fig. 2D)。さらに、腫瘍随伴AMはFITC-デキストランの貪食能が亢進しており (Fig. 2B)、これはM2様マクロファージの機能的特徴と一致する。これらの表現型転換は、免疫抑制的な腫瘍微小環境を形成し、細胞傷害性T細胞による腫瘍殺傷を回避させる機能的役割を持つと考えられた。

AM除去による腫瘍増殖の直接的抑制: クロドロネートリポソームの気道内投与によりAMを選択的に枯渇させると (Fig. 4A)、EGFR L858R誘導マウスにおいて肺重量 (Fig. 4B) および腫瘍負荷 (腫瘍体積・腫瘍節数) が対照群と比較して有意に減少した (p=0.0001)。クロドロネートリポソームは腫瘍細胞に直接的な細胞毒性を示さず、AMが腫瘍細胞のアポトーシスを抑制する保護効果を持つことが示された (Fig. 4E)。具体的には、AM除去により、肺の腺癌占有率が対照リポソーム群の約40%から約10%へと有意に減少した (Fig. 4D)。また、対照群のn=11 mice中2匹で浸潤性腺癌が認められたのに対し、クロドロネートリポソーム群のn=15 mice中0匹で浸潤性腺癌が認められなかった。

Erlotinib・CetuximabによるAM数の縮小と治療機序への示唆: EGFR-TKIであるerlotinibの投与、およびEGFR抗体であるcetuximabの投与により、EGFR変異腫瘍が縮小するとともに、腫瘍随伴AM数が有意に減少した (p<0.01) (Fig. 5C)。ドキシサイクリンの投与中止によるEGFRシグナル遮断でも、AM数はベースラインレベルまで収縮した (Fig. 5B)。この結果は、EGFR阻害がAM数の縮小を介して抗腫瘍効果を発揮する可能性を示唆しており、erlotinib投与後2週間でAM数は対照群と同レベルまで減少した (p<0.01)。

ヒトNSCLC患者データにおけるAMシグネチャーと予後: GEO公開データベース (GSE31210) のヒトNSCLC患者遺伝子発現データセット解析において、主要エンドポイント (primary endpoint) である全生存期間 (OS: overall survival) を評価した。AM活性化 (AMac) シグネチャースコアが高い患者では、EGFR変異陽性群 (n=127 patients) でOSが有意に短かった (HR 2.05, 95% CI 1.04-4.05, p=0.037) (Fig. 6D)。この関連はサブグループ解析におけるEGFR野生型患者 (n=99 patients) では認められなかった (HR 1.00, 95% CI 0.50-2.00, p=0.559)。TCGAの肺腺癌データ (n=515 patients) でも、EGFR変異腫瘍 (n=32 patients) はEGFR/KRAS野生型腫瘍 (n=408 patients) と比較してAMの割合が高い傾向が示された (p=0.036) (Fig. 6C)。

考察/結論

本研究は、EGFR変異肺腺癌の進行において肺胞マクロファージ (AM) が単なる傍観者ではなく、積極的な腫瘍促進因子として機能することを初めて体系的に示した。AM除去により腫瘍増殖が抑制されるという直接的証拠は、AMを治療標的とする新たな治療戦略の可能性を示している。

先行研究との違い: これまでの研究では腫瘍関連マクロファージ (TAM) 全般の役割が示されていたが、本研究は肺腺癌において「肺特異的常在性AM」に焦点を当て、その局所増殖機序とM2極性化を初めて体系的に解明した点で従来の知見と対照的である。特に、AMの増加が骨髄からの動員ではなく、腫瘍微小環境における局所増殖によって駆動されるという知見は、従来の骨髄由来TAMの動員モデルと異なり、AMの特殊性を示唆する。

新規性: 本研究で初めて、EGFR変異肺腺癌の進行がAMの拡大と収縮に依存すること、および腫瘍随伴AMが免疫抑制的なM2様表現型を示すことを新規に同定した。さらに、EGFR-TKI治療がAM数を減少させるという知見は、TKIの抗腫瘍効果の一部がTMEリモデリングを通じて発揮される可能性を示唆し、これまで報告されていない作用機序を明らかにした。

臨床応用: 本知見は、EGFR変異肺腺癌の治療におけるAMの臨床的意義を強く示唆する。AMを標的とする治療戦略は、EGFR-TKI耐性克服や治療成績向上に貢献する臨床応用への可能性を秘めている。例えば、抗CSF-1R抗体などのマクロファージ標的薬とEGFR-TKIとの併用療法は、相乗的な抗腫瘍効果をもたらす可能性がある。また、AM活性化シグネチャーは、EGFR変異陽性患者の予後予測バイオマーカーとして臨床現場での有用性を持つ可能性がある。

残された課題: 今後の検討課題として、AM除去を標的とする臨床応用可能な治療戦略の開発、およびAMシグネチャーを用いた予後予測バイオマーカーの前向き検証が残されている。また、AMの局所増殖を促進する腫瘍由来因子の詳細なメカニズム解明、特にGM-CSFなどの特定の因子の役割をさらに深く探求する必要がある。Limitationとして、本研究はマウスモデルが中心であり、ヒトにおけるAMの動態や機能が完全に一致するとは限らない点が挙げられる。

方法

動物実験は、Stanford UniversityおよびBaylor College of Medicineの動物実験委員会ガイドラインに従い実施された。ドキシサイクリン誘導性ヒトEGFR(L858R)変異肺腺癌モデルとして、CCSP (Clara cell secretory protein) プロモーター駆動型rtTAとtetOプロモーター駆動型EGFR(L858R)遺伝子を持つビトランスジェニックマウス (FVB背景) を使用した。ドキシサイクリンは12〜14週齢の雌マウスに7週間投与された。

AMの動態と表現型は、フローサイトメトリー (抗体: Ly-6G, CD11b, F4/80, CD45, CD11c, I-Aq (MHC class II), CD40, CD80, CD86, CD206, CD64, CSF-1R (colony-stimulating factor 1 receptor), Annexin-V (Annexin V), DAPI) および免疫組織化学 (F4/80, Ki-67) により評価された。AMの局所増殖を評価するため、BrdUパルス実験および骨髄移植実験を実施した。貪食能はFITC-デキストランを用いたフローサイトメトリーアッセイで測定された。サイトカインおよびケモカインの産生は、ソートされたAMの培養上清を用いてLuminexアッセイおよびProteome Profilerサイトカインアレイで分析された。

AM除去にはクロドロネートリポソームを気管内投与で週3回使用した DuPage et al. NatProtoc 2009。末梢血単球の除去には、抗CSF-1R中和抗体 (クローン5A1) を腹腔内投与で隔日使用した。EGFR阻害剤の効果を評価するため、erlotinib (50 mg/kg/日、腹腔内投与) およびcetuximab (10 mg/kg、週3回、腹腔内投与) を投与した。

ヒトNSCLC患者の遺伝子発現データは、NCBI GEOデータベース (GSE2125, GSE17373, GSE31210) およびThe Cancer Genome Atlas (TCGA) ポータルから取得された。AM活性化 (AMac: alveolar macrophage activation) mRNAシグネチャーは、ヒト喫煙者AMとマウス肺気腫モデルAMで共通して発現し、非喫煙者AMと比較して差次的に発現する72遺伝子から構成された。CIBERSORT Newman et al. NatMethods 2015 を用いて、組織遺伝子発現プロファイルからAMの割合を推定した。統計解析にはBRB-ArrayTools (Biometric Research Branch ArrayTools) およびR言語環境を使用し、Kaplan-Meier曲線とログランク検定 (log-rank test) により予後との関連を評価した。生存解析におけるハザード比 (HR) および95%信頼区間 (CI) の算出には、Cox比例ハザードモデル (Cox proportional hazards model) を用いた。