• 著者: Peter Goldstraw, David Ball, James R Jett, Thierry Le Chevalier, Eric Lim, Andrew G Nicholson, Frances A Shepherd
  • Corresponding author: Prof Peter Goldstraw (Royal Brompton Hospital, London, UK)
  • 雑誌: Lancet
  • 発行年: 2011
  • Epub日: 2011-05-11
  • Article種別: Review (Lancet Seminar)
  • PMID: 21565398

背景

NSCLC (non-small-cell lung cancer、非小細胞肺癌) は全肺癌の約 85%を占め、世界的に癌死の主要原因である。前回の Lancet NSCLC Seminar は 2000 年 (Hoffman ら) に発表されており、2004 年の WHO 肺腫瘍分類では遺伝子データが初めて体系的に導入されたが (WHO 2004)、その後の分子腫瘍学の急速な発展は既存の病理分類を即座に陳腐化させた。TNM (Tumour-Node-Metastasis) 分類は過去のデータベースに基づいていたが、全治療モダリティ・国際多施設データを統合した大規模改訂は実施されていなかった。

一方、術後補助化学療法については LACE メタ解析 (Pignon et al. JClinOncol 2008) が cisplatin ベース治療の有益性を実証し (Winton et al. NEnglJMed 2005; Douillard et al. LancetOncol 2006)、どのステージのどの患者が恩恵を受けるかについての詳細な理解は不足していた。CT スクリーニングについては複数の非ランダム化フェーズ 2 試験が有望なシグナルを示したが (Pastorino ら 2003; Swensen ら 2005; IELCAP (International Early Lung Cancer Action Program) 2006)、ランダム化比較試験での死亡率低減効果の実証という gap in knowledge が残されていた。さらに EGFR TKI (tyrosine kinase inhibitor、チロシンキナーゼ阻害薬) の有効性は clinical feature で選択された患者集団での報告にとどまり (Shepherd et al. NEnglJMed 2005)、分子診断に基づく第一選択薬決定という手薄な領域の確立が求められていた。

目的

2000 年以降の約 10 年間に NSCLC の病理学的分類・早期診断・TNM ステージング・外科治療・化学療法 (補助・導入・多モダリティ)・進行期全身治療・放射線療法の各領域で得られた主要進歩をレビューし、国際専門家パネルとして統合的見解を提示する。特に IASLC/ATS/ERS (European Respiratory Society) 腺癌新分類、TNM 第 7 版改訂の根拠、CT スクリーニングの死亡率低減効果、および EGFR 変異検査に基づく第一選択 TKI の確立を重点的に評価する。

結果

病理分類の刷新と組織型別治療選択の必要性:2011年に発表された IASLC/ATS/ERS 腺癌多職種新分類は、「pathologist by pathologist」と批判された旧分類の欠点を克服すべく多職種・国際構成の審査委員会が主導した。最大の変更点として bronchioloalveolar carcinoma (気管支肺胞上皮癌) の呼称廃止が勧告され、浸潤成分のない腫瘍は adenocarcinoma-in-situ (腺癌上皮内病変) に、浸潤範囲 5mm 以下は minimally invasive adenocarcinoma に再分類された。浸潤型腫瘍は lepidic・papillary・acinar・solid・micropapillary の 5 パターンで評価し、優勢パターンが stage I 腫瘍の再発予測と遺伝子プロファイルデータに相関することが示された。免疫組織化学では TTF-1・CK7・ムチン染色が腺癌マーカー、P63・CK5/6 が扁平上皮癌マーカーとして用いられ、生検・細胞診材料でも適用可能であることが検証された。粘液性腺癌は KRAS 変異陽性・EGFR 変異陰性であることが多く、EML4-ALK 融合遺伝子は signet ring 形態との関連が示され (Shaw ら 2009)、EGFR 変異例とはほぼ重複しない。この病理再分類は臨床的に重要な意味を持つ: pemetrexed は扁平上皮癌で活性をほぼ示さず (JMDB 試験: 扁平上皮癌での OS 9.4m vs 10.8m、HR 1.23)、bevacizumab は扁平上皮癌で致死的出血リスクを伴うため、治療選択における組織型同定が必須となった (Table 2)。

早期診断技術と CT スクリーニングの死亡率低減効果:本論文公表直前に NLST (National Lung Screening Trial) が主要エンドポイント達成のため早期終了し、CT スクリーニング群が胸部 X 線群と比較して肺癌死亡率 20%低下・全死亡率 6.9%低下を達成したことが速報として掲載された。有病率研究では CT 検出癌の 60-80%がステージ I であり、胸部単純写真が CT 検出癌の 70-80%を見逃すことが示されている。一方で Bach ら (JAMA 2007) は CT スクリーニングが期待検出数の 3倍の癌を検出し、胸部手術数は 10倍に増加したにもかかわらず、進行期癌や肺癌死亡の有意な減少が認められなかったことを報告しており、過検出問題が提起されていた。FISH (fluorescence in-situ hybridisation、蛍光 in-situ ハイブリダイゼーション) による染色体異数性は肺癌診断 18 ヶ月前の時点で感度 76%・特異度 88%・調整 OR 29.9 と高い予測精度を示した (Varella-Garcia ら 2010)。血液バイオマーカーとして annexin I・14-3-3θ・RPSA (ribosomal protein SA antigen) 自己抗体パネルは感度 51%・特異度 82%・ROC 曲線下面積 0.73 で臨床診断 1 年前の予測に有用であると報告された (Qiu ら 2008)。呼気揮発性有機化合物の比色アッセイによる検出は感度 73%・特異度 72%に達しており、尿中タバコ特異的ニトロソアミン代謝物は喫煙者での肺癌リスクを最大 8倍増加させることが示された。感受性遺伝子として 15q24-25 領域がニコチン性アセチルコリン受容体サブユニット遺伝子群を含み肺癌との強い関連を持つことも同定されている。

TNM 第 7 版改訂と多変量予後因子解析:2010 年 1 月発効の TNM 第 7 版は IASLC 国際ステージングプロジェクトが 46 施設・19 ヶ国超・全治療モダリティを包含した史上最大規模データベースに基づいて作成された (Panel 1, 2)。主要変更として T1 が 2cm で T1a (≤2cm) と T1b (>2-3cm) に細分化され、T2 が 5cm で T2a (>3-5cm) と T2b (>5-7cm) に分割された。7cm 超は初めて T3 サイズ記述子となり、同側同葉内追加結節は T4→T3 に、同側異葉内結節は M1→T4 に、悪性胸水・胸膜播種は T4→M1a に変更され、遠隔転移は M1b に再分類された。臨床ステージ別予後解析では performance status・性別・年齢が全ステージで有意な予後因子であり、組織型はステージ IIIA のみで有意であった。進行ステージ IIIB/IV の多変量解析では performance status と白血球数が最も強力な予後因子で、カルシウム・アルブミン・年齢が続いた。FDG-PET の最大標準化摂取値 (SUVmax) は原発腫瘍の独立した予後因子であることがメタ解析で確認された。外科的に切除された病理ステージ I-IIIA NSCLC では、ステージに次いで年齢が重要な予後因子であり、早期ステージでは性別も寄与することが示された (Table 1 参照)。

外科治療の進展と術後補助化学療法の確立:縦隔ステージングでは EBUS (endobronchial ultrasound、気管支内視鏡超音波) が感度 88%・特異度 100%を達成し、陽性結果は確認不要であることから縦隔鏡の使用が縮小しつつある。超音波吸引生検陰性例への縦隔鏡補完により感度 94%まで向上する。VATS (video-assisted thoracoscopic surgery、胸腔鏡補助下手術) 肺切除は 21 件の比較研究のメタ解析で開胸術と比較して死亡率・気漏・不整脈・肺炎・局所再発率に差がなく、遠隔再発が低く 5 年生存改善傾向が示されたが、全米 13,000 例超のコホート研究では VATS 群で合併症が 1.6倍増加しており、さらなるランダム化試験が必要である。N2 病変管理については Albain らの多施設無作為化試験 (Albain et al. Lancet 2009) で放射線化学療法 (CRT) 後の外科切除群の 5 年全生存率が、病理 N0 達成例で 41%、N1-3 (node-positive、リンパ節陽性残存) 例で 24%であり、手術なし群の N0 vs N1-3 差が 8%にとどまるのに対し、手術施行群では 17% (41% vs 24%) と大きな差が生じた。術後補助化学療法については LACE メタ解析 (Pignon et al. JClinOncol 2008) が n=4,584 例を対象に 5 年生存率 5.3%改善 (p=0.0043)・無病生存率 5.2%改善 (p<0.0001) を実証した。ステージ別では IA でマイナスの効果、IB でリスク低減 8%、II-III で 17%と stage 依存的なベネフィットが確認された (Table 1)。BR10 (NCIC JBR.10) 試験 (Winton et al. NEnglJMed 2005) は n=482 で 5 年絶対利益 15% (HR 0.69、p=0.04)、ANITA 試験 (Douillard et al. LancetOncol 2006) は n=840 で 9%改善 (HR 0.80、p=0.017) を示した。10,000 例超の個別患者データメタ解析 (IGR-MRC) では全体で 4%の絶対利益が確認されている。術前化学療法はコンプライアンスが約 90%と術後の 60-70%より高いが、NATCH 試験・MRC LU22 試験の大規模試験では術前・術後で有意差が認められなかった。局所進行 NSCLC に対する同時放射線化学療法については Auperin らのメタ解析 (9試験、n=1,764) で sequential と比較し HR 0.89 (95% CI 0.81-0.98、p=0.02)、2 年時 4%の絶対利益が示された。

進行期 NSCLC の全身治療と EGFR 変異主導の個別化治療確立:進行ステージ IIIB/IV の標準治療はプラチナベース doublet 化学療法であるが、2011年時点で組織型に応じた選択が必須となった。pemetrexed (多標的葉酸拮抗薬) は非扁平上皮癌で cisplatin/gemcitabine より OS を改善し (JMDB: 11.8m vs 10.4m、HR 0.81、p=0.01)、扁平上皮癌では逆に劣った (HR 1.23)。bevacizumab は EGFR (paclitaxel/carboplatin 追加) の ECOG 4599 試験 (Sandler et al. NEnglJMed 2006) で OS 12.3m vs 10.3m (HR 0.79、p=0.003) を達成したが、gemcitabine/cisplatin への追加試験では生存利益が示されなかった (Table 2)。EGFR TKI では IPASS (Iressa Pan-Asia Study) (Mok et al. NEnglJMed 2009) において、EGFR 変異陽性例で gefitinib 対化学療法の HR 0.48 (95% CI 0.36-0.64、p<0.0001)、EGFR 野生型では HR 2.85 (95% CI 2.05-3.98、p<0.0001) という劇的な交互作用が示され (Table 2)、これにより EGFR 変異検査が第一選択薬決定のために不可欠となった。維持療法では JMEN 試験 (Ciuleanu et al. Lancet 2009) が非扁平上皮癌での pemetrexed 維持療法で OS 15.5m vs 10.3m (HR 0.70、p=0.002) を実証した。EGFR TKI 維持療法では erlotinib がプラセボ比較で全生存利益を示したが、差の中央値は 1 ヶ月程度であった。二次治療では BR.21 試験 (Shepherd et al. NEnglJMed 2005) で erlotinib 対プラセボの OS 6.7m vs 4.7m (HR 0.71、p<0.0001)、INTEREST 試験 (Kim et al. Lancet 2008) で gefitinib が docetaxel に非劣性 (OS 7.6m vs 8.0m、HR 1.02) であることが確認された。EML4-ALK 変異例に対する crizotinib (MET/ALK 二重阻害 TKI) の早期データは有望であり、prospective 試験が進行中であった。

放射線療法の技術的進歩と役割の拡大:NSCLC 患者の推定 75%が何らかの放射線療法から恩恵を受け得ると見積もられている。18F-FDG PET/CT の治療計画への統合により gross tumour volume の正確な輪郭同定が可能となった (Figure 1)。4 次元 CT は呼吸周期を通じた腫瘍位置の composite 画像を生成し、分画内誤差への対応を可能にした。Image-guided radiotherapy (画像誘導放射線療法) は軟組織あるいは埋め込み不透過性マーカーを利用した日次位置確認で分画間誤差を補正する。SBRT (stereotactic body radiotherapy、定位放射線療法) は複数ビームが腫瘍に集束するアプローチで (Figure 2)、stage I NSCLC において 60 Gy/3 分割での 2 年局所無増悪生存率約 90%が達成された。この線量の BED (biological effective dose、生物学的等価線量) は通常分割 60 Gy/30 分割の 2.5倍に相当し、中枢型腫瘍では重篤有害事象・死亡例も報告されている。局所進行 NSCLC に対する同時 CRT は sequential と比較して局所制御・生存を改善し標準治療となっており、N2 病変の Albain 試験では CRT (61 Gy + cisplatin/etoposide) 群の 5 年生存率 20%が確認された。CHART (continuous hyperfractionated accelerated radiotherapy、連続超分割加速放射線療法) は 12 日間・54 Gy の短期集中照射で標準 60 Gy/30 分割より低線量ながら局所制御・生存改善が示され、抗腫瘍クローノゲン再増殖抑制の観点から有効性が説明される。術後放射線療法はステージ I-II 完全切除例で有害効果が確認されており、縦隔 N2 陽性例での役割は依然不明確で Lung ART 試験が進行中である。脳転移予防的頭蓋照射は脳転移発生を 18%から 7.7%に低減したが (12 ヶ月時)、全生存改善は示されなかった。

考察/結論

本総説が示す最も重要な臨床的変革は、EGFR 変異検査に基づく gefitinib 第一選択の確立である。これまでの研究では EGFR TKI の有益性は clinical feature (アジア人・腺癌・非喫煙) による間接的な富化にとどまり、分子レベルでの treatment selection は実現していなかった。これと対照的に IPASS が EGFR 変異陽性例での HR 0.48 と野生型での HR 2.85 という劇的な交互作用を示したことは、これまで報告されていない規模の biomarker-treatment interaction であり、腫瘍の分子プロファイルが第一選択薬決定に直結する新規な治療パラダイムを確立した。本総説で初めて体系的に統合されたこの枠組みは、EML4-ALK に対する crizotinib とともに、NSCLC における個別化医療の概念的基盤となった。また TNM 第 7 版改訂が既報の単一機関・単一モダリティデータではなく、46 施設・19 ヶ国超の国際多施設 IPD 解析に基づくという点も、これまでの改訂と根本的に異なる。

臨床応用の観点からは、本知見は複数の重要な変化を臨床現場にもたらした。まず EGFR 変異・EML4-ALK 変異の日常検査は腺癌患者で必須化され、組織型同定 (腺癌 vs 扁平上皮癌) も pemetrexed・bevacizumab 適応判断に不可欠となった。NLST の CT スクリーニング 20%死亡率低減データは、リスク層別化に基づく高リスク喫煙者スクリーニングの臨床的意義を無作為化試験レベルで初証明し、その臨床的含意はスクリーニングガイドライン改訂の直接的根拠となった。術後補助化学療法ではステージ IB 以上へのシスプラチンベース治療が標準化され、ステージ依存的な 8-17%リスク低減効果の橋渡しが完了した。SBRT は手術不能 stage I NSCLC に対する根治的選択として臨床応用が拡大し、手術との直接比較 RCT が起動された。

残された課題は多岐にわたる。ERCC1・RRM1・BRCA1 などの予測バイオマーカーは単変量解析にとどまり、前向き多変量解析による国際的検証という今後の研究が必要である。TNM と他の予後因子を組み合わせた複合予後指数の構築、ALK 検査の標準化と crizotinib の適応確立、手術不能例に対する SBRT 中枢型腫瘍での安全性確立も limitation として残る。術後放射線療法の縦隔 N2 陽性例での役割は Lung ART 試験の結果を待つ必要があり、VATS と開胸術の長期成績をランダム化試験で確認することも future research として提示されている。さらに TNM 第 8 版に向けた病理組織学的基準 (胸膜浸潤範囲など) の TNM 組み込みについても更なる検討が求められていた。

方法

MedlineおよびPubMedを使用し、前回の Lancet Seminar (2000年・2005年) 以降から2009年までを対象として系統的文献検索を実施した。検索キーワードは「carcinoma, non-small cell」に加え各セクション固有の用語を組み合わせた。英語論文に限定し、レビュー論文および著者自身の出版物から追加文献を補完した。7名の国際専門家が分担執筆し、Goldstraw が予後因子・外科治療総括、Ball が放射線療法、Jett が早期診断、Le Chevalier が補助・術前化学療法および多モダリティ治療、Lim が外科治療詳細、Nicholson が病理学、Shepherd が進行期全身治療をそれぞれ担当した。統計的根拠としては各引用試験のハザード比 (HR) や log-rank 検定による p 値、オッズ比、絶対生存率差を引用し、メタ解析では個別患者データ (individual patient data, IPD) に基づく解析を優先採用した。TNM 第 7 版改訂の根拠は IASLC 国際ステージングプロジェクト (46 施設、19 ヶ国超、全治療モダリティのデータ) に基づく多変量解析結果を参照した。試験識別子として PubMed 登録番号を使用し、CT スクリーニング試験については NLST (National Lung Screening Trial) ウェブサイトの公開データ (cancer.gov/nlst/updates) を参照した。