- 著者: Hiroaki Akamatsu, Hiroaki Ozawa, Shintaro Kanda, Kazuhiko Nakagawa, et al.
- Corresponding author: Hiroaki Akamatsu, MD, PhD, Internal Medicine III, Wakayama Medical University, 811-1, Kimiidera, Wakayama, Japan
- 雑誌: JAMA Oncology
- 発行年: 2021
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 33410885
背景
EGFR変異陽性非小細胞肺癌 (NSCLC) の治療において、EGFR-TKI (上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤) は重要な役割を果たす。しかし、これらの患者は最終的に薬剤耐性を獲得し、病勢進行に至ることが課題であった。特に、EGFR-TKI治療後に最も頻繁に獲得される耐性機序の一つとして、EGFR exon 20 T790M変異が知られている。このT790M変異陽性NSCLCに対しては、第三世代EGFR-TKIであるOsimertinibが標準治療として確立されており、AURA3試験ではプラチナ製剤併用化学療法と比較して有意な無増悪生存期間 (PFS) の延長を示した。しかし、Osimertinib単剤でのPFS中央値は約10ヶ月であり、さらなる治療成績の改善が臨床上強く望まれていた。
一方、血管内皮増殖因子 (VEGF) 経路は、癌の増殖、転移、薬剤耐性において重要な役割を担うことが知られている。これまでの研究では、第一世代EGFR-TKIと抗VEGF抗体であるベバシズマブの併用療法が、EGFR変異陽性NSCLCの一次治療においてPFSの改善を示すことが報告されている。例えば、JO25567試験ではゲフィチニブとベバシズマブの併用が、またRELAY試験ではエルロチニブとラムシルマブの併用が、それぞれ単剤療法と比較してPFSの有意な延長を示した。これらの結果は、VEGF経路がEGFR-TKI耐性に関与する可能性を示唆しており、特に腫瘍血管新生とVEGFの過発現がEGFR変異陽性NSCLCにおいて認められることから、Osimertinibとベバシズマブの併用がT790M変異陽性NSCLCに対しても相乗効果を発揮し、PFSを延長する可能性が仮説として立てられた。
しかし、T790M変異獲得後の腫瘍におけるVEGF経路の依存性や、Osimertinibと抗VEGF療法との併用効果については、十分なエビデンスが不足していた。特に、Osimertinib単剤の優れた有効性がある中で、ベバシズマブの上乗せがPFSや全生存期間 (OS) にさらなる改善をもたらすか、またその安全性プロファイルが許容できるものかについては未解明な点が多かった。先行するいくつかの単アーム試験では、Osimertinibと抗VEGF阻害剤の併用が期待されたほどの相乗効果を示さない可能性も示唆されており、無作為化比較試験による検証が不可欠であった。本研究は、この知識のギャップを埋めることを目的として、T790M変異陽性NSCLC患者におけるOsimertinib単剤療法とOsimertinib+ベバシズマブ併用療法の有効性と安全性を比較する無作為化第II相臨床試験として計画された。
目的
本研究の目的は、EGFR-TKI既治療後にEGFR T790M変異を獲得した進行非小細胞肺癌患者を対象として、Osimertinib単剤療法とOsimertinibとベバシズマブの併用療法の有効性および安全性を無作為化第II相臨床試験で比較評価することである。主要評価項目は無増悪生存期間 (PFS) とし、副次評価項目として全奏効率 (ORR)、治療失敗までの期間 (TTF)、全生存期間 (OS)、および安全性を評価する。これにより、T790M変異陽性NSCLCに対するOsimertinib治療において、ベバシズマブの追加が臨床的意義のある上乗せ効果をもたらすか否かを検証する。
結果
主要エンドポイント (PFS) の評価: 無作為化された81例 (Osimertinib単剤群n=40、併用群n=41) における主要エンドポイントであるPFSの中央値は、Osimertinib単剤群で13.5ヶ月 (95% CI 10.2-16.6) であったのに対し、Osimertinib+ベバシズマブ併用群では9.4ヶ月 (95% CI 6.8-14.1) であった。調整ハザード比 (HR) は1.44 (80% CI 1.00-2.08, 95% CI 0.83-2.52, p=0.20) であり、統計的有意差は認められなかった (Figure 3A)。事前に設定された優越性基準 (HR < 1.0) を満たさず、むしろ数値的には単剤群の方がPFSが良好という予期せぬ結果となった。PFSの12ヶ月時点での無増悪率は、Osimertinib単剤群の方が数値的に高く、ベバシズマブの上乗せが明確な有害な傾向 (HR > 1.0) として現れたことは、試験設計の仮説とは真逆の結果であり、T790M陽性集団においてはVEGF経路遮断による恩恵が期待されない可能性を示唆した。
ORRおよび疾患コントロール率 (DCR) の評価: 副次エンドポイントであるORRは、Osimertinib+ベバシズマブ併用群で70.7% (29/41) であったのに対し、Osimertinib単剤群では67.5% (27/40) であり (p=0.75)、両群間に統計的に有意な差は認められなかった (Figure 2)。疾患コントロール率 (DCR) は、併用群で92.7% (38/41)、単剤群で87.5% (35/40) と、こちらも差は小さかった。奏効の深さ (DeepOR) や腫瘍縮小率についても、両群間に臨床的に意味のある差は認められなかった。ORRの類似性は、ベバシズマブの上乗せが奏効率の面でも一切の付加効果をもたらさないことを示した。
OSおよびTTFの評価: 追跡期間中央値16.9ヶ月時点でのOS中央値は、Osimertinib+ベバシズマブ併用群およびOsimertinib単剤群のいずれも未到達 (NR) であった。OSのハザード比は1.02 (95% CI 0.43-2.44, p=0.96) であり、両群間に有意差は認められなかった (Figure 4B)。TTF (治療失敗までの期間) も、Osimertinib単剤群で11.2ヶ月、併用群で8.4ヶ月と、単剤群の方が長い傾向を示し、調整HRは1.54 (95% CI 0.90-2.69, p=0.12) であった (Figure 4A)。これらの結果は、ベバシズマブの追加がT790M陽性NSCLCに対するOsimertinib治療に追加的な生存改善をもたらさないことを示唆している。
安全性および毒性プロファイルの評価: Grade 3以上の有害事象 (AE) の発生率は、Osimertinib+ベバシズマブ併用群で68.3% (28/41) であったのに対し、Osimertinib単剤群では40.0% (16/40) と、ベバシズマブの追加により毒性が著明に増加した。特に、ベバシズマブに特徴的な血管系毒性が顕著であった。Grade 3高血圧は併用群で22% (9/41) vs 単剤群5% (2/40)、蛋白尿は併用群で7% vs 単剤群0%、出血は併用群で5% vs 単剤群0%であった。貧血の発生率はOsimertinib単剤群で有意に高かった (66% vs 55%)。投与中断・減量率も併用群で高く (中断率:併用群34% vs 単剤群20%)、有害事象による早期治療中止が有効性評価に影響した可能性は否定できないが、全体として毒性増加が有効性改善と全く対応していない不利なリスクベネフィット比が示された。間質性肺疾患は全体で11% (9例) に発生したが、全てGrade 1または2であった。
サブグループ解析: 事前設定されたサブグループ解析 (EGFR変異サブタイプ:del19 vs L858R、脳転移の有無、前治療EGFR-TKIの種類:gefitinib vs erlotinib、前治療ライン数) のいずれにおいても、ベバシズマブ追加の恩恵を示すサブグループは同定されなかった。del19変異例 (n=41) でのHRは1.23 (p=0.58)、L858R変異例 (n=36) でのHRは1.71 (p=0.15) と、いずれも単剤群に対する優越性は認められなかった。脳転移の有無別解析でもベバシズマブ追加の効果は確認されなかった。興味深いことに、抗VEGF阻害剤の既往がある患者では、併用群のPFSが有意に短い傾向が示された (4.6ヶ月 vs 11.1ヶ月; HR 0.41; 95% CI 0.13-1.27; p=0.03) (Figure 3B)。これは、以前の抗VEGF療法への曝露が、Osimertinibとベバシズマブの相乗効果を妨げる異なる腫瘍微小環境を誘導する可能性を示唆している。
考察/結論
本試験は、EGFR T790M変異陽性NSCLC患者において、Osimertinibとベバシズマブの併用療法がOsimertinib単剤療法と比較してPFSを改善しないというネガティブな結果 (HR 1.44, 80% CI 1.00-2.08, p=0.20) を示した、重要な無作為化第II相臨床試験である。これは、一次治療におけるEGFR-TKIと抗VEGF療法の併用がPFS改善を示す複数のエビデンス (Seto et al、Nakagawa et al) とは対照的であり、T790M耐性後の治療戦略におけるVEGF経路の役割について新たな知見を提供する。
本研究で併用療法の恩恵が認められなかった理由として、いくつかの可能性が考察される。第一に、T790M変異獲得後の腫瘍は、VEGF経路への依存性が低下している可能性がある。EGFR-TKIによる選択圧により、腫瘍は異なる耐性機序(例:C797S変異、MET増幅など)を獲得し、血管新生経路への依存性が相対的に低下しているのかもしれない。第二に、Osimertinib自体が持つ血管新生抑制活性が、既にベバシズマブの付加効果を飽和させている可能性も考えられる。第三に、T790M変異後の耐性機序の多様性に対して、VEGF遮断が効果を持たない場合がある。例えば、Sequist et alらが報告したように、EGFR-TKI耐性後の腫瘍は多様な分子変化を呈するため、VEGF経路のみを標的とすることでは不十分である可能性がある。
本試験の実用的含意として、T790M陽性NSCLCに対するOsimertinibとベバシズマブの併用は推奨されず、Osimertinib単剤が引き続き標準治療であることが再確認された。一次治療でのEGFR-TKIとVEGF阻害剤の組み合わせが有効である一方で、二次治療(T790M変異後)での組み合わせで異なる結果が得られた点は、腫瘍進化とVEGF依存性の治療ラインによる変化という観点から重要な新規の知見である。また、抗VEGF阻害剤の既往がある患者において併用療法のPFSが短い傾向が示されたことは、以前の抗VEGF療法への曝露が、その後の治療反応性に影響を与える可能性を示唆しており、今後の検討課題である。
残された課題として、本試験は第II相試験であり、患者数が限定的であるため、結果の一般化には注意が必要である。しかし、この無作為化試験の結果は、先行する単アーム試験で示唆されていた知見を裏付けるものであり、Osimertinibと抗VEGF阻害剤の併用療法の開発において重要な警告となる。今後の検討課題として、一次治療におけるOsimertinibと抗VEGF療法の併用効果を評価する大規模な無作為化第III相試験 (例:WJOG 9717L試験、NCT04181060) の結果が待たれる。また、本研究では組織や血漿サンプルの収集が十分でなかったため、ベバシズマブに対する潜在的な耐性メカニズムを分子レベルで議論できなかったこともlimitationである。
方法
本研究は、日本国内の多施設共同、非盲検、無作為化第II相臨床試験 (West Japan Oncology Group 8715L) として実施された。試験は、安全性と忍容性を評価する導入パート (6例) と、それに続く無作為化第II相パートで構成された。導入パートでは、Osimertinib 80 mg/日とベバシズマブ 15 mg/kg (3週ごと静脈内投与) の併用療法が実施され、用量制限毒性 (DLT) が2例を超えた場合に試験中止とする基準が設けられた。DLTは、Grade 3以上の非血液毒性、Grade 4の高血圧、またはGrade 2以上の間質性肺疾患と定義された。導入パートで安全性が確認された後、第II相パートが開始された。
第II相パートでは、EGFR変異陽性 (exon 19欠失またはL858R)、EGFR-TKI既治療後に病勢進行し、EGFR T790M変異が組織またはctDNA (循環腫瘍DNA) で確認された進行肺腺癌患者が対象とされた。患者は、Osimertinib単剤群 (n=40) とOsimertinib+ベバシズマブ併用群 (n=41) に1:1の比率で無作為に割り付けられた。主要な適格基準は、ECOG Performance Status (PS) 0-1、測定可能病変の存在、十分な臓器機能、および文書による同意であった。脳転移を有する患者も、登録時に無症状であれば適格とされた。除外基準には、間質性肺疾患の既往、出血または塞栓症のリスクが高い患者、コントロール不良の高血圧、髄膜癌腫症、B型肝炎ウイルス抗原陽性などが含まれた。
治療は、Osimertinib 80 mgを毎日経口投与し、併用群ではこれに加えてベバシズマブ 15 mg/kgを3週ごとに静脈内投与した。治療は病勢進行または許容できない毒性が発現するまで継続された。有効性の評価は、RECIST version 1.1に基づき、胸部および上腹部のCT検査を6週ごとに実施した。脳転移を有する患者には、脳MRIも6週ごとに実施された。有害事象は、CTCAE version 4.0を用いて評価された。
主要評価項目は、独立中央評価委員会によって評価されたPFSであった。副次評価項目は、ORR、TTF、OS、および安全性であった。サンプルサイズは、先行研究におけるEGFR-TKIと抗VEGF阻害剤の併用効果 (HR 0.44-0.54) を参考に、Osimertinib単剤と比較してPFSが約7.4ヶ月延長される (HR 0.55) と仮定して算出された。統計的検出力0.80、両側αエラー0.20で74例が必要とされ、脱落率8%を考慮して最終的に80例が目標とされた。統計解析には、Kaplan-Meier曲線によるPFS、TTF、OSの推定、層別ログランク検定 (有意水準0.20)、Cox回帰モデルによる調整ハザード比 (HR) の算出が用いられた。ORRはPearson-Clopper法による95%信頼区間 (CI) とχ2検定で評価された。本試験はUMIN Clinical Trials Registry (UMIN000023761) に登録された。