- 著者: Giorgio Giaccone, Roy S. Herbst, Cheryl Manegold, Gordan Scagliotti, Raffaele Rosell, Vivien Miller, et al.
- Corresponding author: Giorgio Giaccone (VU University Medical Center, Amsterdam, the Netherlands)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2004
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 14990632
背景
進行非小細胞肺癌 (NSCLC) の標準治療は、良好なパフォーマンスステータスを有する患者において、プラチナ製剤をベースとした併用化学療法である。化学療法は、最善の支持療法と比較して生存率のわずかながらも有意な改善を示すが NSCLCMetaAnalyses et al、その予後は依然として不良であり、副作用も大きいことが課題であった。特に、ゲムシタビンとシスプラチンの併用療法は広く用いられるレジメンの一つであり、過去の第III相試験では、未治療の進行NSCLC患者において、奏効率30.4%〜40.6%、無増悪生存期間 (PFS) 中央値5.6〜6.9ヶ月、全生存期間 (OS) 中央値8.7〜9.1ヶ月が報告されていた Schiller et al。
一方、上皮成長因子受容体 (EGFR) は、NSCLCを含む多くの固形腫瘍の増殖と生存に重要な役割を果たすことが示されている。ゲフィチニブ (Iressa, ZD1839) は、経口活性型のEGFRチロシンキナーゼ阻害剤 (EGFR-TKI) であり、がん細胞の増殖と生存に関与するシグナル伝達経路を阻害する。ゲフィチニブ単剤療法は、前治療歴のある進行NSCLC患者を対象とした2つの第II相試験 (IDEAL 1およびIDEAL 2) において、有望な抗腫瘍活性 (客観的奏効率11.8%〜18.4%) と症状改善 (症状改善率40.3%〜43.1%) を示し、良好な忍容性も確認されていた Kris et al、Fukuoka et al。
この良好な忍容性プロファイルと、細胞傷害性薬剤とは異なる作用機序は、標準的な細胞傷害性レジメンとの併用療法におけるゲフィチニブの使用を強く支持するものであった。しかし、ゲフィチニブと化学療法の併用における最適な用量や投与スケジュール、また特定の患者サブグループにおける有効性については、まだ未解明な点が多かった。特に、EGFR変異の有無による層別化がなされていない未選択集団における有効性は不明であり、大規模な検証が必要とされていた。当時の臨床開発においては、個別化医療のためのバイオマーカーによる患者選択のデータが圧倒的に不足しており、どのような患者群が真に併用療法の恩恵を受けるかという点に大きな gap が残されていた。
目的
未治療の進行または転移性非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者を対象に、標準的な一次治療であるゲムシタビンとシスプラチンにEGFRチロシンキナーゼ阻害剤であるゲフィチニブ (500 mg/日または250 mg/日) を追加した場合の臨床的有効性および安全性を、ゲムシタビンとシスプラチン単独と比較して評価することを主要目的とした。具体的には、ゲフィチニブの追加がプラセボと比較して全生存期間 (OS) を延長するか否かを主要評価項目として検証した。副次評価項目として、無増悪生存期間 (PFS)、奏効率 (ORR)、安全性プロファイル、および患者報告アウトカム (QOL) の評価を行った。本研究は、ゲフィチニブの用量反応関係および安全性プロファイルを、化学療法との併用下で詳細に検討することも目的とした。
結果
全生存期間における有意差の欠如: ゲフィチニブ500 mg/日群、ゲフィチニブ250 mg/日群、プラセボ群の間で、主要評価項目である全生存期間 (OS) に統計学的に有意な差は認められなかった。GOLrank による解析結果は p=0.4560 であった。OS中央値は、ゲフィチニブ500 mg/日群で 9.9 vs 10.9 months (HR 1.10, 95% CI 0.90-1.34, p=0.350) であり、ゲフィチニブ250 mg/日群でも 9.9 vs 10.9 months (HR 1.04, 95% CI 0.85-1.26, p=0.700) であった (Fig 2)。いずれのゲフィチニブ追加群においても、プラセボ群と比較してOSの改善は統計的に有意ではなかった。1年生存率は、ゲフィチニブ500 mg/日群で43%、ゲフィチニブ250 mg/日群で41%、プラセボ群で44%であり、数値上もプラセボ群が最も良好な傾向を示した。
無増悪生存期間および奏効率の推移: 無増悪生存期間 (PFS) 中央値も、治療群間で統計学的に有意な差は認められなかった (GOLrank p=0.7633)。PFS中央値は、ゲフィチニブ500 mg/日群で 5.5 vs 6.0 months (HR 1.09, 95% CI 0.89-1.33, p=0.400) であり、ゲフィチニブ250 mg/日群でも 5.8 vs 6.0 months (HR 1.01, 95% CI 0.83-1.23, p=0.920) であった (Fig 3)。客観的奏効率 (ORR) は、ゲフィチニブ500 mg/日群で 50.3% (n=178/346)、ゲフィチニブ250 mg/日群で 51.2% (n=170/342)、プラセボ群で 47.2% (n=152/339) であり、数値的にはゲフィチニブ群で高い傾向がみられたものの、統計的有意差は認められなかった (Table 2)。奏効持続期間 (DoR) および疾患コントロール率 (DCR) についても、3群間で実質的な差は確認されず、ゲフィチニブの追加による奏効の深さや持続性の改善、あるいは疾患安定化への寄与は示されなかった。
安全性および毒性プロファイル: ゲフィチニブの追加による安全性プロファイルは許容範囲内であったが、ゲフィチニブ特有の毒性として、皮膚関連イベントと下痢の発生率が用量依存的に増加することが確認された (Table 5)。化学療法期間中の有害事象の統計解析では、下痢 (ゲフィチニブ500 mg/日 vs 250 mg/日またはプラセボで p<0.0001; ゲフィチニブ250 mg/日 vs プラセボで p=0.0924) および皮膚イベント (すべての比較で p<0.0001) を除き、治療群間で差は認められなかった。ゲフィチニブに関連すると考えられる有害事象として、皮疹 (Grade 1-2) はゲフィチニブ500 mg/日群で56.7%、250 mg/日群で44.5%、プラセボ群で21.4%に発生し、下痢 (Grade 1-2) は500 mg/日群で50.8%、250 mg/日群で28.7%、プラセボ群で15.5%に発生した。Grade 3-4の皮疹はゲフィチニブ500 mg/日群で12.6%、250 mg/日群で3.6%、プラセボ群で1.1%であった。間質性肺疾患 (ILD) 型イベントは、ゲフィチニブ500 mg/日群で3名、ゲフィチニブ250 mg/日群で1名、プラセボ群で3名の患者で経験され、全体的な発生率は1%未満であった (Table 4)。
治療の遵守状況と用量強度: 治療からの離脱は、ゲフィチニブ500 mg/日群で23.0%と最も高く、250 mg/日群で14.5%、プラセボ群で11.3%であった。離脱につながったイベントの種類は、下痢、悪心、嘔吐、ざ瘡様皮疹など、3群間で類似していた。ゲフィチニブの投与期間中央値は、500 mg/日群で97日、250 mg/日群で150日、プラセボ群で159日であった (Table 3)。ゲフィチニブ500 mg/日群では、ゲフィチニブの用量中断 (45.8%) および用量減量 (23.2%) が他の群よりも多くみられた。化学療法の用量強度は3群間で類似しており、ゲフィチニブの追加によって化学療法の用量強度が損なわれることはなかった。しかし、ゲフィチニブ500 mg/日群の患者は、化学療法サイクルの中央値が低かった。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、前治療歴のある進行NSCLC患者を対象とした第II相試験においてゲフィチニブ単剤が良好な抗腫瘍活性を示した結果とは対照的であり、標準化学療法にゲフィチニブを上乗せしても生存ベネフィットが得られないことを示した。同時期に実施された INTACT-2 試験 (ゲフィチニブとパクリタキセル/カルボプラチンの併用) でもほぼ同一のネガティブ結果が得られており、これら2つの大規模な第III相試験の一致した結果は、未選択のNSCLC集団全体を対象とした場合のEGFR-TKI併用療法の限界を浮き彫りにした。
新規性: 本研究は、EGFR-TKIを標準化学療法に上乗せする戦略が、バイオマーカー選択なしのNSCLC患者全体では有効ではないことを、大規模な無作為化二重盲検プラセボ対照試験において本研究で初めて明確に示した。これにより、標的治療薬の開発において、適切な患者選択の重要性が強く認識される契機となった。
臨床応用: 本研究のネガティブな結果は、当時の臨床現場におけるNSCLC治療戦略に大きな影響を与えた。EGFR変異が発見される以前の時代において、EGFR-TKIを未選択のNSCLC患者に化学療法と併用することは推奨されないという結論が導かれた。しかし、この試験の最も重要な臨床的含意は、その後の精密医療の発展に貢献した点にある。本試験ではEGFR変異データが取得できなかったが、後の研究でEGFR変異がEGFR-TKIの効果予測因子であることが判明した。
残された課題: 本研究の限界 (limitation) として、EGFR変異状態に関するデータが収集されていない点が挙げられる。これは、試験開始時点 (2000〜2001年) ではEGFR変異がまだ発見されていなかったためであり、当時の技術的制約によるものである。今後の検討課題として、ゲフィチニブと化学療法の併用における作用機序のさらなる解明が必要である。各薬剤が感受性のある腫瘍細胞のサブポピュレーションに対して作用し、効果が相加的ではなく冗長であった可能性や、一方の薬剤が他方の薬剤の機能に不可欠な中間分子の喪失を引き起こし、拮抗作用が生じた可能性も考えられる。
方法
本研究は、2000年5月から2001年3月にかけて、世界36カ国155施設で実施された多国籍、無獲得、二重盲検、プラセボ対照第III相試験 (NCT00004944に相当するINTACT-1試験) である。合計1,093名の化学療法未治療の切除不能III期またはIV期NSCLC患者が登録された。患者は、ゲフィチニブ500 mg/日、ゲフィチニブ250 mg/日、またはプラセボのいずれかを、標準的なゲムシタビンとシスプラチンの併用化学療法と組み合わせて投与される3つの治療群のいずれかに無作為に割り付けられた。無作為化は、過去6ヶ月間の体重減少 (≦5% vs >5%)、病期 (III期 vs IV期)、パフォーマンスステータス (WHO PS 0-1 vs 2)、および測定可能病変の有無によって動的無作為化法 Pocock et al を用いて層別化された。
治療レジメン: すべての患者は、3週サイクルで最大6サイクルの化学療法を受けた。
- シスプラチン: 80 mg/m² をサイクル1日目に静脈内投与。
- ゲムシタビン: 1,250 mg/m² をサイクル1日目と8日目に30分かけて静脈内投与。 ゲフィチニブまたはプラセボは、毎日1回経口投与され、疾患進行まで継続された。ゲフィチニブ/プラセボの用量減量 (500 mg/日から250 mg/日、または250 mg/日から100 mg/日) は1回まで許容された。Grade 3または4の有害事象が発生した場合、ゲフィチニブの投与は最大14日間中断可能であった。
適格基準: 組織学的または細胞学的に確認されたNSCLC、手術または放射線療法で治癒不能な局所進行III期またはIV期疾患、年齢18歳以上、WHOパフォーマンスステータス0〜2の患者が対象とされた。以前に化学療法を受けた患者、マンニトール、コルチコステロイド、H2拮抗薬、抗ヒスタミン薬、またはポリオキシエチレン化ヒマシ油で製剤化された薬剤に過敏症のある患者は除外された。また、過去2週間以内に放射線療法を受けた患者、以前の放射線療法による未解決の毒性、以前の手術からの不完全な治癒、既存の運動または感覚神経毒性 (NCI-CTC Grade ≥2)、重度または制御不能な全身性疾患の証拠、投薬を必要とする最近の状態または制御不能な活動性感染症、絶対好中球数2,000/mm³未満、白血球数4,000/mm³未満、血小板数100,000/mm³未満、血清ビリルビンが基準範囲上限である ULRR (upper limit of reference range) の1.25倍超、ALTまたはASTがULRRの2.5倍超 (肝転移がある場合はULRRの5倍超)、血清クレアチニンがULRRの1.5倍超、またはクレアチニンクリアランスが60 mL/min未満の患者は除外された。
評価項目と統計解析: 主要評価項目は全生存期間 (OS) であり、無作為化日から患者死亡日までと定義された。無増悪生存期間 (PFS) は、無獲得日から客観的な疾患進行日 (疾患進行前に死亡した患者では死亡日を進行イベントとみなす) までと定義された。腫瘍奏効は、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) ガイドライン Therasse et al に従って評価された。ゲフィチニブとプラセボの比較は、intention-to-treat (ITT) 解析に基づいてOSについて行われた。最終解析では、観察データに適用された将来的な基準に基づき、ゲフィチニブの用量反応関係が正または負のいずれであるかを検定する適応的生存解析手順が用いられた。正の用量反応関係に対しては、グローバル順序ログランク検定である GOLrank (global ordered log-rank) 検定が使用され、混合用量反応関係に対しては、ペアワイズログランク検定が使用された。