• 著者: Mok TSK, Kim SW, Wu YL, Nakagawa K, Yang JJ, Ahn MJ, Wang J, Yang JCH, Lu Y, Atagi S, Ponce S, Shi X, Rukazenkov Y, Haddad V, Thress KS, Soria JC
  • Corresponding author: Tony S.K. Mok, MD (The Chinese University of Hong Kong, Prince of Wales Hospital, Sha Tin, Hong Kong, PRC)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2017-10-02
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 28968167

背景

EGFR変異陽性進行非小細胞肺がん(NSCLC)に対するEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)であるゲフィチニブは、一次治療として確立された標準治療である。しかし、多くの患者が最終的に薬剤耐性を獲得し、病勢が進行することが知られている Jackman et al. JClinOncol 2010。この獲得耐性の最も一般的なメカニズムは、EGFR遺伝子エクソン20のT790M変異であり、これは患者の約50%から60%に認められる。T790M変異は、ATP結合部位に対するEGFR-TKIの親和性を低下させることで薬剤耐性を引き起こすことが報告されている Yun et al. ProcNatlAcadSciUSA 2008。一次EGFR-TKI治療後に病勢が進行した患者において、化学療法にEGFR-TKIを継続することで、T790M陰性の腫瘍クローンに対して治療効果を維持できるという仮説が提唱されていた。しかし、この仮説の臨床的意義については未解明な点が多かった。

この仮説を検証するため、IMPRESS(Iressa Mutation-Positive Multicentre Treatment Beyond ProgRESsion Study)は、一次ゲフィチニブ後に進行したEGFR変異陽性NSCLC患者を対象に、化学療法へのゲフィチニブ継続の上乗せ効果を評価する第III相無作為化比較試験として実施された。IMPRESS試験の主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)の初回解析では、ゲフィチニブとシスプラチン・ペメトレキセド併用療法群とプラセボとシスプラチン・ペメトレキセド併用療法群の間でPFSに統計学的に有意な差は認められなかった(ハザード比 [HR] 0.86; 95% CI 0.65-1.13; P=.27; 中央PFS 5.4ヶ月、両群とも)と報告されている Soria et al. LancetOncol 2015。この結果は、一次EGFR-TKI耐性後の治療戦略において、TKI継続の意義についてさらなる検討が必要であることを示唆していたが、全生存期間(OS)への影響については十分なデータが不足しており、最適な治療戦略は依然として未確立であった。

本研究は、IMPRESS試験の最終的なOS解析(データ成熟度66%)と、血漿循環腫瘍DNA(ctDNA)を用いたバイオマーカー解析の結果を報告するものである。特に、T790M変異の状態が治療効果に与える影響について探索的に検証し、一次EGFR-TKI耐性後の最適な治療戦略に関する臨床的意義を明らかにすることを目的とした。これまでの研究では、一次EGFR-TKI耐性後の治療選択肢に関するエビデンスが不足しており、特にTKI継続の安全性と有効性、特にOSへの影響については未解明な点が多かった。本研究は、この知識のギャップを埋める上で重要な情報を提供する。

目的

本研究の目的は、IMPRESS第III相試験の最終OSデータを報告し、一次ゲフィチニブ治療後に病勢が進行したEGFR変異陽性NSCLC患者におけるゲフィチニブ継続と化学療法の併用療法の全生存期間に対する影響を評価することである。さらに、T790M変異状態を含む血漿ctDNAバイオマーカーが、相対的な治療効果を予測し得るかを探索的に検証することも目的とした。具体的には、T790M変異陽性および陰性サブグループにおけるOSおよびPFSのハザード比を比較し、ゲフィチニブ継続の潜在的な有害性または利益を特定することを目指した。これらの解析を通じて、一次EGFR-TKI耐性後の最適な治療戦略、特に化学療法開始時のEGFR-TKI継続の是非に関する臨床的ガイダンスを提供することが本研究の重要な目的である。本研究は、第一世代EGFR-TKIの継続がOSに与える影響に関する確固たるエビデンスを確立し、今後の臨床意思決定に資することを目指した。

結果

OS(主要解析—ITT集団): IMPRESS試験の最終OS解析(データ成熟度66%)では、一次ゲフィチニブ後に進行したEGFR変異陽性NSCLC患者(n=265)において、ゲフィチニブとシスプラチン・ペメトレキセド併用療法群のOS中央値は13.4ヶ月であり、プラセボとシスプラチン・ペメトレキセド併用療法群の19.5ヶ月と比較して統計学的に有意に短縮した(HR 1.44; 95% CI 1.07-1.94; P=.016)。この結果は、PFS解析で有意差がなかったこととは対照的に、ゲフィチニブ継続がOSに対して有害な影響を及ぼすことを明確に示した (Figure 2A)。サブグループ解析では、年齢、性別、人種、WHO PS、一次ゲフィチニブへの反応、EGFR変異タイプ(エクソン19欠失 vs L858R)など、全てのサブグループにおいてゲフィチニブ継続群でHRが1を超え、一貫して有害な傾向が認められた (Figure 2B)。

後治療の影響: 治療中止後の三次治療を受けた患者の割合は、プラセボ群で71%(n=94)、ゲフィチニブ群で61%(n=81)であった。特に、三次治療としてEGFR-TKI(オシメルチニブを含む)を受けた患者の割合は、プラセボ群で36%(n=47)、ゲフィチニブ群で23%(n=31)と、プラセボ群で有意に多かった。この後治療の不均衡が、観察されたOSの差に寄与した可能性が示唆される。

T790M変異状態別OS(探索的バイオマーカー解析): 血漿ctDNAを用いたBEAMingデジタルPCRアッセイにより、261名の患者でT790M変異状態が評価された。T790M変異陽性患者は全体の54.4%(142/261)を占めた。治療群の内訳では、ゲフィチニブ継続群で61.8%(81/131)、プラセボ群で46.9%(61/130)と、ゲフィチニブ継続群でT790M陽性患者が不均衡に多かった (Table 1)。T790M陽性サブグループ(ゲフィチニブ群 n=81 vs プラセボ群 n=61)では、ゲフィチニブ継続群のOS中央値は10.8ヶ月、プラセボ群は14.1ヶ月であり、ゲフィチニブ継続が統計学的に有意なOSの短縮をもたらした(HR 1.49; 95% CI 1.02-2.21; P=.0432)。一方、T790M陰性サブグループ(ゲフィチニブ群 n=46 vs プラセボ群 n=59)では、OS中央値はゲフィチニブ群21.4ヶ月、プラセボ群22.5ヶ月であり、統計学的な有意差は認められなかった(HR 1.15; 95% CI 0.68-1.94; P=.6093) (Figure 3)。

T790M変異状態別PFSおよびORR: T790M陽性患者におけるPFSは、両治療群間で類似していた(HR 0.97; 95% CI 0.67-1.42; P=.8829)。T790M陰性患者では、ゲフィチニブ継続群でPFS延長の傾向が認められたが、統計的有意差には達しなかった(HR 0.67; 95% CI 0.43-1.03; P=.0745; 中央PFS 6.7ヶ月 vs 5.4ヶ月) (Figure 4)。ORRに関しては、T790M陽性患者ではプラセボ群が有利(39.5% vs 28.4%)であり、T790M陰性患者ではゲフィチニブ群が有利な傾向が認められた。これは、T790M陽性腫瘍におけるゲフィチニブと化学療法の相乗効果の欠如と一致する。

脳転移の影響解析: ベースライン時に脳転移を有する患者はプラセボ群の23%(31/132)であり、そのうち22例がT790M陽性であった。ベースライン時に脳転移を有する患者は、脳転移のない患者と比較して、OS(HR 2.09; 95% CI 1.26-3.36; P=.003)およびPFS(HR 1.82; 95% CI 1.14-2.82; P=.0089)が著しく不良であった。ゲフィチニブ継続群のOSにおける有害性は、脳転移の有無とT790M変異状態を調整した後(年齢と一次ゲフィチニブへの反応も含む)にHR 1.31(95% CI 0.97-1.77; P=.082)となり、調整前と比較してハザード比は若干縮小したが、有害な傾向は持続した。同様に、PFSの推定される利益は調整後にわずかに大きくなった(HR 0.79; 95% CI 0.60-1.05; P=.103)。

考察/結論

IMPRESS試験の最終OS解析(n=265、データ成熟度66%)は、一次EGFR-TKI治療後に病勢が進行し、化学療法を開始する際のゲフィチニブ継続が、OSを統計学的に有意に悪化させることを初めて証明した歴史的意義を持つ。OSのハザード比は1.44(95% CI 1.07-1.94; P=.016)であり、ゲフィチニブ継続群でOS中央値が13.4ヶ月と、プラセボ群の19.5ヶ月と比較して大幅に短縮した。この結果は、PFS解析で有意差が認められなかったこととは対照的であり、化学療法にEGFR-TKIを併用する従来の臨床慣行に対し、明確な警告を発するものである。

先行研究との違い: これまでの研究では、一次EGFR-TKI耐性後の治療戦略としてTKI継続の有効性や安全性に関する十分なエビデンスが不足しており、特にOSへの影響については不明な点が多かった。IMPRESS試験は、この領域において、化学療法へのEGFR-TKI継続がOSを悪化させることを示した点で、これまでの仮説や一部の臨床慣行とは対照的な結果を示した。この知見は、第一世代EGFR-TKIの継続が患者予後に与える影響について、新たな視点を提供するものである。

新規性: 本研究で初めて、T790M変異陽性サブグループ(HR 1.49; 95% CI 1.02-2.21; P=.0432)において、ゲフィチニブ継続によるOSの有害効果が特に顕著であることが示された。T790M変異は、ゲフィチニブがATP結合部位に作用する能力を低下させるため Kobayashi et al. NEnglJMed 2005、T790M陽性腫瘍ではゲフィチニブが化学療法の恩恵を打ち消すような何らかの有害な相互作用が生じる可能性が示唆される。このバイオマーカーに基づく層別化は、これまでの報告にはない新規の知見である。

臨床応用: 本試験成績は、化学療法開始時の第一世代EGFR-TKI継続という臨床慣行に対し、明確な警告を発した。現在では、T790M陽性患者に対してはオシメルチニブ(第三世代EGFR-TKI)による治療が標準となっている Mok et al. NEnglJMed 2017ため、本試験の直接的な臨床的インパクトは変化している。しかし、EGFR-TKI継続の有害性という概念的知見は、オシメルチニブ耐性後の化学療法移行時にも適用すべき重要な教訓を提供しており、臨床現場での意思決定に大きな影響を与えると考えられる。

残された課題: T790M陰性サブグループ(HR 1.15; 95% CI 0.68-1.94; P=.6093)では、統計学的な有意差は認められず、ゲフィチニブ継続の有害性は明確ではなかった。このT790M陰性集団における最適な後治療戦略は依然として残された課題である。また、プラセボ群でより多くの患者がオシメルチニブを含む三次EGFR-TKI治療を受けたことが、観察されたOSの不均衡に寄与した可能性があり、後治療の影響を完全に排除することはできないというlimitationがある。今後の検討課題として、T790M陰性耐性メカニズムの多様性を考慮した個別化治療戦略の確立が挙げられる。

方法

IMPRESS試験(NCT01544179)は、一次ゲフィチニブ治療後に病勢進行(RECIST 1.1基準)を認めた化学療法未治療のEGFR変異陽性進行NSCLC患者を対象とした第III相無作為化比較試験である Eisenhauer et al. EurJCancer 2009。合計265名の患者が登録され、ゲフィチニブ 250mg経口投与とシスプラチン 75mg/m² + ペメトレキセド 500mg/m²の併用療法群(n=133)またはプラセボとシスプラチン + ペメトレキセド併用療法群(n=132)に1:1で無作為に割り付けられた。化学療法は最大6サイクル実施され、その後は病勢進行までゲフィチニブまたはプラセボ単独投与が継続された。プロトコル上、ペメトレキセド維持療法は許可されなかった。

OSの最終データカットオフは2015年11月16日であり、データ成熟度は66%(176名の死亡イベント)であった。OSは、年齢(65歳未満 vs 65歳以上)および一次ゲフィチニブに対する先行反応(安定疾患 vs 部分奏効または完全奏効)で調整したCox比例ハザードモデルを用いて解析された。PFS、客観的奏効率(ORR)、病勢コントロール率(DCR)もRECIST 1.1基準に基づいて評価された。

バイオマーカー解析のため、血漿由来の循環腫瘍DNA(ctDNA)サンプルが採取され、BEAMing(beads, emulsification, amplification, and magnetics)デジタルPCRアッセイ(Sysmex Inostics)を用いてEGFR変異状態(T790M、エクソン19欠失、L858R)が解析された。変異陽性はアレル頻度(AF)が0.02%以上と定義された。T790M変異状態に基づくサブグループ解析が事前に計画され、T790M陽性およびT790M陰性患者における治療効果の差が評価された。また、ベースライン時の脳転移の有無がOSおよびPFSに与える影響についても事後解析が実施された。統計解析には、Cox比例ハザードモデルおよびロジスティック回帰モデルが使用され、年齢と一次ゲフィチニブへの反応が共変量として調整された。EGFR変異検出の性能評価のため、BEAMingデジタルPCRアッセイとQIAGEN Therascreen EGFR Rotor-Gene Q(RGQ)PCRキットとの間で血漿サンプルの一致率も比較された。