• 著者: Siow Ming Lee, Iftekhar Khan, Sunil Upadhyay, et al.
  • Corresponding author: Siow Ming Lee (University College London Cancer Institute, London, UK)
  • 雑誌: Lancet Oncology
  • 発行年: 2012
  • Epub日: 2012-10-16
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 23078958

背景

進行非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者の多くは、高齢、不良な全身状態 (PS)、または複数の合併症のために、プラチナ製剤を含む化学療法に適さない。英国では、新規診断されたNSCLC患者の約71%が化学療法を受けていないと報告されており、これらの患者には通常、最善の支持療法 (BSC) のみが提供されてきた。経口上皮成長因子受容体 (EGFR) 阻害薬であるerlotinibは、二次・三次治療において全生存期間 (OS) の延長効果を示し(Shepherd et al. NEnglJMed 2005のBR.21試験ではOSのハザード比 [HR] 0.70)、また維持療法においても有効性が確認されている(Cappuzzo et al. LancetOncol 2010のSATURN試験)。さらに、EGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者に対する一次治療としてのerlotinibの優越性は、OPTIMAL試験(Zhou et al. LancetOncol 2011)やEURTAC試験(Rosell et al. LancetOncol 2012)など、複数の大規模臨床試験で明確に示されている。

しかし、これらの有望な結果にもかかわらず、EGFRバイオマーカーによる患者選択を行わない化学療法不適合患者集団に対する一次erlotinibの有効性は、大規模な二重盲検プラセボ対照試験で検証されていなかった。特に、高齢、不良PS、または多合併症を抱える患者は、従来の化学療法試験から除外されることが多く、この集団に対する最適な治療戦略は未確立であった。この知識のギャップを埋めるため、TOPICAL試験 (ISRCTN 77383050) は、化学療法不適合という現実世界の臨床集団を対象に、erlotinibを一次治療として評価する最初の大規模二重盲検プラセボ対照第III相試験として設計された。本試験では、erlotinib投与開始後28日以内に発現する皮疹が、治療継続の意思決定に有用な予測バイオマーカーとなりうるかという仮説も同時に検討された。このアプローチは、治療効果を予測する簡便な臨床指標の不足という課題に対応するものであった。

目的

本研究の主要目的は、新規診断された化学療法不適合(ECOG PS ≥2または複数の合併症を有する)の進行非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者(ステージIIIb/IV、化学療法未治療)を対象に、erlotinib 150mg/日とプラセボを一次治療として投与した場合の全生存期間 (OS) を、intention-to-treat (ITT) 解析により比較することである。

副次目的としては、erlotinib投与開始後28日以内に皮疹が発現した患者サブグループにおけるOSの比較、無増悪生存期間 (PFS)、奏効割合 (ORR)、安全性プロファイル、および生活の質 (QoL) の評価が含まれる。特に、1サイクル目の皮疹発現がerlotinib治療の予測バイオマーカーとして機能するかどうかを評価し、治療継続の意思決定におけるその臨床的有用性を検討することも重要な副次目的であった。

結果

患者背景と治療遵守: 2005年4月14日から2009年4月1日までに、erlotinib群に350例、プラセボ群に320例の計670例が登録された。ベースライン特性は両群間でバランスが取れていた(Table 1)。中央年齢は両群ともに77歳(IQR 72-82歳)であり、63%が75歳以上と高齢者が大半を占めた。化学療法不適合の主な理由として、ECOG PS ≥2の患者が35-38%であったが、PS 0-1の患者の92%はCCI ≥3またはクレアチニンクリアランス <60mL/minの多合併症を有していた。治療遵守率はerlotinib群で58% (204/350)、プラセボ群で63% (203/320) であった。治験薬中止の主な理由は、毒性または病勢進行であった。

主要評価項目(全生存期間 [OS]): 中央追跡期間は3.1年であり、657例が死亡した。全体集団におけるOS中央値は、erlotinib群で3.7ヶ月(95% CI 3.2-4.2)に対しプラセボ群で3.6ヶ月(95% CI 3.2-3.9)であり、両群間に有意な差は認められなかった(非調整HR 0.94, 95% CI 0.81-1.10, p=0.46)。調整済みHRは0.92 (95% CI 0.78-1.07, p=0.31) であった。1年OS率はerlotinib群で15%(95% CI 12-19)、プラセボ群で14%(95% CI 10-18)と差はなかった。このOS中央値3-4ヶ月という極めて短い期間は、ECOG PS不良、高齢、多合併症という対象集団の非常に厳しい予後を反映しており、この集団全体への一次erlotinibの有効性は示されなかった(Figure 2A)。

無増悪生存期間 (PFS) および奏効割合 (ORR): PFS中央値は、erlotinib群で2.8ヶ月(95% CI 2.6-3.0)に対しプラセボ群で2.6ヶ月(95% CI 2.4-2.9)であり、erlotinib群でわずかながら有意な改善が認められた(非調整HR 0.83, 95% CI 0.71-0.97, p=0.019; 調整済みHR 0.80, 95% CI 0.68-0.93, p=0.0054)(Figure 2B)。腫瘍奏効割合は、erlotinib群で4% (15/350例) が完全奏効または部分奏効を達成したのに対し、プラセボ群では2% (7/320例) であった。この結果は、絶対的な差は小さいものの、化学療法不適合集団においてもerlotinibによる一定の疾患制御効果が得られる可能性を示唆した。

1サイクル目皮疹の予測的価値: erlotinib群で評価可能であった302例中178例(59%)が、治療開始28日以内に皮疹を発現した。多変量解析の結果、1サイクル目皮疹の発現はOSの唯一の独立した有意な予測因子であることが確認された(HR 0.24, 95% CI 0.16-0.35, p<0.0001)(Table 3)。皮疹発現例(erlotinib群、n=178)のOS中央値は6.2ヶ月(95% CI 4.8-7.2)であり、プラセボ群全体と比較して有意なOS改善が認められた(HR 0.76, 95% CI 0.63-0.92, p=0.0058)。一方、皮疹非発現例(erlotinib群、n=124)では、OS中央値が2.9ヶ月(95% CI 2.3-3.7)と、プラセボ群全体と比較してOSが悪化する傾向が示された(HR 1.30, 95% CI 1.05-1.61, p=0.017)。この結果は、皮疹発現の有無がerlotinib治療の継続を判断する強力なプロキシバイオマーカーとなりうることを強く示唆している(Figure 3)。

安全性プロファイル: Grade 3-4の有害事象の発生率は、erlotinib群で75% (252/334例)に対しプラセボ群で70% (219/313例) であった (p=0.12)。特に、Grade 3-4の皮疹はerlotinib群で23% (79/334例) とプラセボ群の2% (5/313例) と比較して有意に高かった (p<0.0001)。Grade 3-4の下痢もerlotinib群で8% (28例) とプラセボ群の1% (4例) と比較して有意に高かった (p=0.0001)。Grade 3-4の疲労感は両群間で差がなかった(erlotinib群8% vs プラセボ群7%)。治療関連死亡はerlotinib群で5例(間質性肺疾患2例を含む)に対しプラセボ群で3例であった。全体として、化学療法不適合の高齢・多合併症患者においてerlotinibは概ね許容可能な毒性プロファイルを示したが、高頻度の皮疹発現には注意が必要であった(Table 2)。

EGFR変異と皮疹の関係(探索的解析): 生物学的サブスタディにおいて、390例の患者からDNAが解析可能であった。EGFR活性化変異の発生率は7% (28/390例) と低く、KRAS変異は19% (73/390例) であった。EGFR変異陽性患者(erlotinib群n=17、プラセボ群n=11)では、erlotinib群のOS中央値は10.4ヶ月(95% CI 5.5-15.1)であり、プラセボ群の3.7ヶ月(95% CI 0.3-49.3)と比較して改善傾向が認められた。注目すべきは、erlotinibを投与されたEGFR変異陽性患者は全例で皮疹を発現したことである。EGFR野生型患者においてerlotinib投与後に皮疹を発現した群(n=94)では、OSのHRは0.86(95% CI 0.66-1.12, p=0.27)、PFSのHRは0.69(95% CI 0.53-0.90, p=0.0070)であった。一方、EGFR野生型で皮疹非発現のerlotinib群(n=67)では、OSのHRは1.28(95% CI 0.95-1.72, p=0.10)、PFSのHRは1.05(95% CI 0.78-1.41, p=0.74)であった。KRAS変異の有無はOSやPFSと関連しなかった。

考察/結論

TOPICAL試験は、化学療法不適合の進行NSCLC患者に対する一次erlotinibが、全体集団のOSを改善しないことを示した大規模なネガティブ試験である。この集団のOS中央値が3-4ヶ月と極めて短いことは、その予後不良性を明確に示している。しかし、本研究の最も重要な新規知見は、erlotinib投与後28日以内に皮疹が発現することが、治療応答の強力な予測バイオマーカーとなること、そして皮疹非発現例ではerlotinibがプラセボよりもOSを有意に悪化させる傾向があることを示した点である。この知見は、erlotinib治療開始後28日以内に皮疹が発現しない患者にはerlotinibを中止すべきであるという、実臨床における重要な意思決定ツールを提供する。これは、高価な薬剤の不必要な継続を避け、患者の生存に悪影響を及ぼす可能性を低減する上で、臨床的有用性が高い。

本試験の根本的なlimitationは、試験デザイン時にEGFR変異検査がルーチン化されていなかったため、バイオマーカーによる患者選択がなされていない点である。現在では、OPTIMALやEURTACなどの試験から、EGFR変異陽性例では一次erlotinibが明確に有効であることが確立されている。TOPICAL試験の結果は、化学療法不適合の高齢NSCLC患者という現実の臨床現場において、EGFR変異検査を実施し、TKIの適応を慎重に判断することの重要性を逆説的に示唆している。

先行研究と異なり、本試験は化学療法不適合という特殊な集団を対象としたため、全体としてのOS改善は認められなかったが、皮疹発現という薬力学的指標が治療効果の予測に極めて有用であるという新規性のある知見をもたらした。この発見は、EGFR-TKIの薬理動態的指標としての皮疹の重要性に関する後続研究の礎となり、その後の臨床現場での治療継続判断アルゴリズムに組み込まれることとなった。

今後の検討課題として、皮疹発現とEGFR変異の直接的な生物学的メカニズムのさらなる解明が残されている。また、皮疹以外のベースラインマーカーを用いて、erlotinibの恩恵を受ける患者を事前に特定する研究も必要である。これにより、すべての患者に4週間治療を試行し、皮疹の有無で判断するという現在の戦略を改善し、より効率的な治療選択が可能となる可能性がある。

方法

TOPICAL試験は、英国の78施設で2005年4月14日から2009年4月1日まで実施された、優越性を検証する第III相二重盲検無作為化プラセボ対照試験である (ISRCTN 77383050)。適格基準は、新規診断され病理学的に確定されたステージIIIbまたはIVのNSCLC、化学療法未治療、症候性脳転移なし、およびECOG PS ≥2または複数の合併症(Charlson Comorbidity Index [CCI] ≥3またはクレアチニンクリアランス <60mL/min)のいずれか、あるいはその両方により化学療法不適合と判断された患者、および推定余命が8週間以上であった。

患者は、病期、PS、喫煙歴、および施設で層別化され、ブロックサイズ10で1:1の比率でerlotinib(150mg/日)またはマッチングプラセボに無作為に割り付けられた。治験薬は病勢進行または許容できない毒性が生じるまで毎日経口投与された。主要評価項目は、無作為化日からあらゆる原因による死亡までの期間として定義されるOSであった。副次評価項目には、PFS、腫瘍奏効(RECIST基準)、有害事象、およびQoLが含まれた。事前規定されたサブグループ解析として、治療開始28日以内にerlotinibによる皮疹が発現した患者(1サイクル目皮疹)におけるOSの比較が設定された。追跡期間は2011年3月31日までであった。

患者のベースライン特性として、中央年齢は両群ともに77歳(四分位範囲 72-82歳)であり、63%が75歳以上と高齢者が主体であった。化学療法不適合の主な理由として、ECOG PS ≥2が35-38%を占め、残りの患者の92%はPS 0-1であったがCCI ≥3の多合併症を有していた。喫煙歴では非喫煙者が35-37%、腺癌が60-61%であった。EGFR変異検査は本試験では義務付けられておらず、患者選択にバイオマーカーは用いられなかった。統計解析はintention-to-treatの原則に基づき、Kaplan-Meier曲線とCox比例ハザード回帰モデルが用いられた。多変量解析では、皮疹、性別、組織型、ECOGスコア、病期、喫煙状況がOSの予測因子として評価された。本試験の目標サンプルサイズは664例であり、プラセボ群の1年OS率10%をerlotinib群で17.5%に増加させることを90%の検出力と両側5%の有意水準で検出するよう設計された。