• 著者: James Chih-Hsin Yang, Eva Sequist, Shun Lu, et al.
  • Corresponding author: James Chih-Hsin Yang (National Taiwan University Hospital, Taipei, Taiwan)
  • 雑誌: Lancet Oncology
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2015-06-05
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 26051236

背景

非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者において、EGFR遺伝子変異は治療標的として確立されている。これらの変異の約80〜90%は一般的な変異 (exon 19欠失およびL858R点変異) であり、残りの約10〜20%は「非一般的変異 (uncommon mutations)」として分類される多様な変異の集合体である。これらのuncommon変異には、exon 18のG719X、S768I、L861Qなどの点変異、exon 20挿入変異、de novo T790M変異、および複合変異が含まれる。これらのuncommon変異を有する患者は数が少なく、従来の第III相臨床試験ではdel19またはL858R変異を有する患者が選択されてきたため、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (EGFR-TKI) への感受性や至適治療に関する体系的なデータが不足していた。

先行研究では、uncommon EGFR変異のEGFR-TKIに対する感受性は一貫性がなく、in vitroデータや症例報告がほとんどであった。例えば、G719XやL861Q変異は一部の症例で第一世代EGFR-TKIに感受性を示すと報告されたが (Lynch et al. NEnglJMed 2004)、T790M変異やexon 20挿入変異は一般的に抵抗性を示すことが示唆されていた (Sharma et al. NatRevCancer 2007)。しかし、これらの研究の多くは前向き臨床試験の枠組みで治療効果を分析しておらず、少数の患者に限定された解析であった。この点において、uncommon変異に対する治療効果の明確なエビデンスにはギャップが残されていた。

LUX-Lung 2試験では、uncommon変異を有する患者39例がafatinibの投与を受け、39%の客観的奏効率 (ORR) が報告された (Yang et al. LancetOncol 2012)。この結果は、uncommon変異の一部がafatinibに感受性を示す可能性を示唆したが、変異サブタイプごとの詳細な評価は未解明であった。uncommon変異の分子学的異質性が高いため、これらの変異を詳細に分類し、各サブタイプにおけるafatinibの臨床活性を評価することは、治療戦略を確立する上で重要な課題であった。特に、特定のuncommon変異に対するafatinibの有効性に関する大規模な前向きデータは不足しており、臨床現場での治療選択に資するエビデンスが求められていた。

目的

本研究の目的は、LUX-Lung 2 (第II相)、LUX-Lung 3 (第III相)、およびLUX-Lung 6 (第III相) の各試験におけるafatinib投与群から、del19およびL858R以外のuncommon EGFR変異を有する進行非小細胞肺癌患者を特定し、これらの変異サブグループにおけるafatinibの客観的奏効率 (ORR) および無増悪生存期間 (PFS) を評価することである。具体的には、uncommon変異を機能的に3つのグループに分類し、各グループおよび主要な個別のuncommon変異 (G719X、L861Q、S768I) に対するafatinibの臨床活性と安全性を詳細に解析することを目的とした。これにより、uncommon EGFR変異を有する患者に対する個別化された治療戦略の確立に貢献するエビデンスを提供することを目指した。

結果

解析集団の特性: LUX-Lung 2 (n=129)、LUX-Lung 3 (n=345)、LUX-Lung 6 (n=364) のafatinib投与患者計600例のうち、75例 (12.5%) がdel19またはL858R以外のuncommon EGFR変異を有しており、本解析の対象となった。uncommon変異の頻度は、LUX-Lung 2で18% (23/129例)、LUX-Lung 3で11% (37/345例)、LUX-Lung 6で11% (40/364例) であった。変異群の内訳は、Group 1 (exon 18-21点変異・重複) が38例、Group 2 (de novo T790M変異) が14例、Group 3 (exon 20挿入変異) が23例であった (Figure 1)。患者背景は、女性58%、アジア系84%、非喫煙者60%、腺癌100%であり、76%が一次治療としてafatinibを投与された (LUX-Lung 2では57%が二次治療)。中央追跡期間はPFSで19.2ヶ月 (IQR 8.2-19.4)、OSで34.7ヶ月 (IQR 32.4-39.2) であった。

Group 1 (主要uncommon変異) におけるafatinibの活性: Group 1 (n=38) の患者では、afatinibは高い臨床活性を示した。客観的奏効率 (ORR) は71.1% (27/38例; 95% CI 54.1-84.6) であり、病勢コントロール率 (DCR) は84.2% (32/38例; 95% CI 68.7-94.0) であった (Table 2)。無増悪生存期間 (PFS) 中央値は10.7ヶ月 (95% CI 5.6-14.7) であり、奏効期間 (DoR) 中央値は11.1ヶ月 (95% CI 4.1-15.2) であった。全生存期間 (OS) 中央値は19.4ヶ月 (95% CI 16.4-26.9) であった。Group 1のORRは、LUX-Lung 3およびLUX-Lung 6で報告されたL858R変異患者のORR (56-59%) と同等かそれ以上の高活性を示した。特に、G719X変異を有する患者では顕著な腫瘍縮小が認められ、1例で完全奏効 (CR) が確認された (Figure 2)。

個別uncommon変異 (G719X, L861Q, S768I) の有効性: 最も頻度の高いuncommon変異であるG719X、L861Q、S768Iに対するafatinibの活性は以下の通りであった (Table 3)。

  • G719X変異 (n=18): ORRは77.8% (14/18例; 95% CI 52.4-93.6) であった。PFS中央値は13.8ヶ月 (95% CI 6.8-NE)、OS中央値は26.9ヶ月 (95% CI 16.4-NE) であった。
  • L861Q変異 (n=16): ORRは56.3% (9/16例; 95% CI 29.9-80.2) であった。PFS中央値は8.2ヶ月 (95% CI 4.5-16.6)、OS中央値は17.1ヶ月 (95% CI 15.3-21.6) であった。
  • S768I変異 (n=8): ORRは100.0% (8/8例; 95% CI 63.1-100.0) と最も高い活性を示した。PFS中央値は14.7ヶ月 (95% CI 2.6-NE)、OS中央値は推定不能 (NE; 95% CI 3.4-NE) であった。 これらの結果から、S768IおよびG719X変異は特にafatinibに高感受性であり、L861Q変異も有意な効果を示すことが明らかになった。

Group 2 (de novo T790M変異) におけるafatinibの活性: Group 2 (n=14) の患者では、afatinibの活性は限定的であった。ORRは14.3% (2/14例; 95% CI 1.8-42.8) であり、DCRは64.3% (9/14例; 95% CI 35.1-87.2) であった (Table 2)。PFS中央値は2.9ヶ月 (95% CI 1.2-8.3) と短く、OS中央値は14.9ヶ月 (95% CI 8.1-24.9) であった。奏効した2例のDoR中央値は8.2ヶ月 (4.1-12.4) であった。T790MとL858Rの複合変異を有する6例では、PFS中央値7.5ヶ月、OS中央値22.9ヶ月と、T790M単独または他の複合変異と比較してやや良好な傾向が認められた。しかし、T790Mとdel19の複合変異を有する3例では、PFS中央値1.2ヶ月と特に不良な結果であった。これは、臨床用量のafatinibではde novo T790M変異を完全に阻害することが困難であることを示唆している。

Group 3 (exon 20挿入変異) におけるafatinibの活性: Group 3 (n=23) の患者でも、afatinibの活性は限定的であった。ORRは8.7% (2/23例; 95% CI 1.1-28.0) であり、DCRは65.2% (15/23例; 95% CI 42.7-83.6) であった (Table 2)。PFS中央値は2.7ヶ月 (95% CI 1.8-4.2) と短く、OS中央値は9.2ヶ月 (95% CI 4.1-14.2) であった。奏効した2例のDoR中央値は7.1ヶ月 (4.2-10.1) であった。これらの結果は、exon 20挿入変異がATP結合ポケットの構造変化を引き起こし、第一世代および第二世代のEGFR-TKI全てに対する感受性を低下させるというin vitroデータと一致する。

化学療法群との比較 (LUX-Lung 3およびLUX-Lung 6のuncommon変異例): 化学療法群 (n=25) におけるuncommon変異患者の全体ORRは24.0% (95% CI 9.4-45.1) であり、PFS中央値は8.2ヶ月 (95% CI 5.2-10.8)、OS中央値は30.2ヶ月 (95% CI 13.0-42.3) であった (Figure 3)。特にGroup 1のuncommon変異を有する化学療法患者 (n=18) では、PFS中央値11.9ヶ月、OS中央値NEと、Group 2 (n=3) およびGroup 3 (n=4) の化学療法患者よりも良好な傾向が認められた。個別のuncommon変異に対する化学療法のORRは、G719X変異で30.8% (4/13例)、L861Q変異で0.0% (0/5例)、S768I変異で33.3% (2/6例) であり、afatinibと比較して全体的に低いORRが示された。

考察/結論

本合算解析は、LUX-Lung 2/3/6試験のデータを用いて、uncommon EGFR変異を機能的に「主要uncommon変異 (Group 1)」、「de novo T790M変異 (Group 2)」、「exon 20挿入変異 (Group 3)」に分類し、afatinibへの感受性が変異サブタイプによって大きく異なることを初めて体系的に示した。

先行研究との違い: これまでのuncommon EGFR変異に関する研究は、主にin vitroデータや少数の症例報告、あるいは第一世代EGFR-TKIに限定されており、その臨床的有効性には一貫性がなかった。例えば、NEJ002試験ではG719XおよびL861Qに対するゲフィチニブの有効性が低いと報告されたが (Watanabe et al. J Thorac Oncol 2014)、本研究ではこれらの変異に対するafatinibの高い活性が示され、薬剤選択の重要性が強調された点で、これまでの報告と対照的な結果であった。本研究は、大規模な前向き臨床試験のデータを統合した事後解析であり、uncommon変異を詳細に分類し、不可逆的ERBBファミリー阻害薬であるafatinibの活性を評価した点で、これまでの報告と異なる。

新規性: 本研究で初めて、G719X、L861Q、S768Iなどの主要uncommon変異 (Group 1) を有する患者において、afatinibがdel19やL858R変異に匹敵する高いORR (71.1%) と良好なPFS中央値 (10.7ヶ月) を示すことを明らかにした。特にS768I変異では100%のORRが観察され、これらの変異がafatinibに高感受性であることを新規に同定した。これにより、uncommon変異の分子学的異質性を考慮した個別化治療の必要性が明確に示された。

臨床応用: 本知見は、uncommon EGFR変異を有するNSCLC患者の治療決定に重要な臨床的意義を持つ。G719X、L861Q、S768Iなどの主要uncommon変異が検出された場合、afatinibが有効な治療選択肢となりうることを示唆する。これらのデータは、その後のEGFR uncommon変異を主対象とした専用試験 (例: LUX-Lung 7のuncommon変異解析) の礎となり、2020年代以降の肺癌診療ガイドラインにおいて、これらの変異に対するafatinibの推奨根拠の一部となっている。一方、de novo T790M変異やexon 20挿入変異に対するafatinibの限定的な活性は、これらの変異に対する新たな治療開発 (例: exon 20挿入へのポジオチニブ、モボセルチニブ、アミバンタマブ;T790M選択的治療へのオシメルチニブ) の必要性を明確に示した。

残された課題: 本研究のlimitationとして、uncommon EGFR変異コホートの患者数が比較的少ないこと、および分子学的異質性が高いことが挙げられる。これにより、各遺伝子サブグループ内での数値的な不均衡が生じ、正式な統計的比較が困難であった。また、化学療法群との比較も、患者数が少ないことや試験間で異なる化学療法レジメンが使用されたため、解釈には注意が必要である。今後の検討課題として、より大規模な患者集団でのuncommon変異サブタイプごとの前向き試験や、リアルワールドデータを用いた検証が望まれる。特に、複合変異のEGFR-TKI感受性に関するさらなる詳細な解析や、T790M変異の対立遺伝子頻度と治療効果の関係についても、今後の研究で解明されるべき課題である。

方法

本研究は、LUX-Lung 2 (NCT00525148)、LUX-Lung 3 (NCT00949650)、およびLUX-Lung 6 (NCT01121393) のafatinib投与群から得られた前向きに収集されたデータを統合した事後合算解析である。対象患者は、EGFR変異陽性の進行 (ステージIIIB-IV) 肺腺癌患者で、EGFR-TKI未治療であった。LUX-Lung 2試験では、afatinib 50mgまたは40mgが投与され、LUX-Lung 3およびLUX-Lung 6試験ではafatinib 40mgが投与された。

患者選択と変異分類: 合計600例のafatinib投与患者のうち、del19およびL858R以外のuncommon EGFR変異を有する75例を解析対象とした。これらのuncommon変異は、既報のEGFR-TKI感受性の違いに基づき、以下の3つの機能的グループに分類された。

  • Group 1: Exon 18-21の点変異または重複変異 (例: L861Q、G719X、S768Iなど)。これらの変異は単独または他の変異との複合で存在し、38例が含まれた。
  • Group 2: De novo T790M変異。単独または他の変異との複合で存在し、14例が含まれた。
  • Group 3: Exon 20挿入変異。23例が含まれた。 さらに、uncommon変異の中で最も頻度の高いG719X、L861Q、S768Iの各変異についても、単独または複合変異としてサブグループ解析を実施した。

評価項目: 主要評価項目は、独立中央画像判定による客観的奏効率 (ORR) であった。副次評価項目には、無増悪生存期間 (PFS)、奏効期間 (DoR)、病勢コントロール率 (DCR)、および全生存期間 (OS) が含まれた。安全性プロファイルも評価された。腫瘍反応はRECIST (version 1.1) に基づき、中央独立放射線レビューによって前向きに評価された。

EGFR変異の検出: EGFR変異は、LUX-Lung 2では直接シークエンシングにより、LUX-Lung 3およびLUX-Lung 6ではバリデートされたテストキット (TheraScreen EGFR 29; Qiagen) を用いた中央検査により同定された。LUX-Lung 2で用いられた直接シークエンシングは、TheraScreen29で検出可能な29種類の変異に限定されず、より広範なuncommon EGFR変異の検出を可能にした。

統計解析: 本研究は事後解析であり、各変異グループにおけるORRおよびDCRは、正確なClopper-Pearson 95%信頼区間 (CI) とともに算出された。PFS、OS、およびDoRの中央値は、Kaplan-Meier法を用いて95% CIとともに推定された。患者数が少ないため、グループ間の正式な統計的比較は行われなかった。PFSおよびOSの中央追跡期間は、逆Kaplan-Meier法を用いて算出された。統計解析はSAS (version 9.4) を用いて実施された。