- 著者: Jang Ho Cho, Sung Hee Lim, Ho Jung An, Ki Hwan Kim, et al.
- Corresponding author: Myung-Ju Ahn (Samsung Medical Center, Sungkyunkwan University School of Medicine, Seoul, Republic of Korea)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2020
- Epub日: 2019-12-11
- Article種別: Original Article
- PMID: 31825714
背景
EGFR変異陽性の非小細胞肺がん (NSCLC: non-small-cell lung cancer) に対するEGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI: tyrosine kinase inhibitor) の有効性は、IPASS試験 Mok et al. NEnglJMed 2009 やNEJ002試験 Maemondo et al. NEnglJMed 2010、WJTOG3405試験 Mitsudomi et al. LancetOncol 2010 などの第III相試験によって証明され、標準治療として確立された。しかし、これらの試験の対象は主にexon 19欠失やexon 21 L858R変異といった「典型変異」であった。一方、EGFR変異陽性NSCLCの約10%から20%を占める「非典型変異」は、G719X、L861Q、S768Iなどの多様な変異を含む不均一な集団である。第一世代EGFR-TKIの非典型変異に対する治療効果は限定的であり、奏効率や無増悪生存期間 (PFS: progression-free survival) は典型変異と比較して劣ることが報告されていた。第二世代EGFR-TKIであるアファチニブは、LUX-Lung 2、LUX-Lung 3 Sequist et al. JClinOncol 2013、LUX-Lung 6 Wu et al. LancetOncol 2014 試験の統合解析 Yang et al. LancetOncol 2015 において、非典型変異に対して良好な抗腫瘍活性を示したが、下痢や皮膚毒性などの副作用が強く、忍容性に課題があった。第三世代EGFR-TKIであるオシメルチニブは、FLAURA試験 Soria et al. NEnglJMed 2018 において典型変異に対して優れた有効性と安全性を実証したが、非典型変異に対する臨床的エビデンスは極めて不足しており、その有効性と安全性は未確立であった。前臨床モデルではオシメルチニブが非典型変異に対しても活性を示すことが示唆されていたが、実際の患者における前向きな臨床データが存在しないことが大きな課題であった。
目的
本研究 (KCSG-LU15-09試験) の目的は、exon 19欠失、L858R、T790M、およびexon 20挿入変異を除く、非典型EGFR変異 (G719X、L861Q、S768Iなど) を有する転移性または再発非小細胞肺がん (NSCLC) 患者を対象に、第三世代EGFR-TKIであるオシメルチニブ (1日1回80 mg投与) の有効性と安全性を前向きに評価することである。主要評価項目として、治験医師判定による客観的奏効率 (ORR: objective response rate) を評価し、副次評価項目として、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS: overall survival)、奏効期間 (DoR: duration of response)、および安全性を評価することを目的とした。また、脳転移などの中枢神経系 (CNS: central nervous system) 転移を有する患者における頭蓋内効果や、変異サブタイプ別の有効性を探索的に解析することも目的の一部である。
結果
患者背景とEGFR非典型変異の内訳: 2016年3月から2017年10月までに、韓国の7施設から合計37例の患者が登録された。治療開始後に同意を撤回した1例を除く36例 (n=36) が有効性および安全性の解析対象となった (Fig 1)。解析対象者の背景は、中央年齢60歳 (範囲:27-81歳)、男性22例 (61%)、女性14例 (39%)、非喫煙者16例 (44%)、組織型は腺がんが35例 (97%) であった (Table 1)。EGFR非典型変異の内訳は、G719X変異が19例 (53%)、L861Q変異が9例 (25%)、S768I変異が8例 (22%) であり、これらには重複する複合変異が含まれていた。具体的には、G719X + L861Qが2例、G719X + S768Iが2例であった。その他の変異として、L747S、S720A、exon 18欠失、exon 20 insertion H773_V774insH (histidine 773 and valine 774 insertion histidine) が各1例 (3%) 認められた。治療ラインとしては、一次治療としてオシメルチニブを投与された患者が22例 (61%)、二次治療が11例 (31%)、三次治療が3例 (8%) であった。
主要評価項目である客観的奏効率と腫瘍縮小効果: 主要評価項目である客観的奏効率 (ORR) は、全体で50% (36例中18例、95% CI 33-67%) を達成し、Simonの2段階デザインで設定した目標奏効率30%を大幅に上回った (Table A1)。奏効の内訳は、完全奏効 (CR: complete response) が0例、部分奏効 (PR: partial response) が18例 (50%)、安定 (SD: stable disease) が14例 (39%)、進行 (PD) が4例 (11%) であった。これにより、病勢コントロール率 (DCR: disease control rate) は89% (36例中32例、95% CI 78-100%) に達した。奏効が確認された18例のうち、15例 (83%) は投与開始後最初の腫瘍評価である6週時点で初期奏効が確認された。また、標的病変の縮小は評価可能患者の78% (36例中28例) で観察され、オシメルチニブの迅速かつ強力な腫瘍縮小効果が示された (Fig 2)。奏効期間 (DoR) の中央値は11.2ヶ月 (95% CI 7.7-14.7 months) であり、非典型変異に対しても持続的な治療効果が得られることが実証された。本試験は単群試験であり直接の比較群は存在しないが、典型変異を対象としたFLAURA試験 Soria et al. NEnglJMed 2018 におけるオシメルチニブ群のPFS中央値は 18.9 vs 10.2 months (HR 0.46, 95% CI 0.37-0.57, p<0.001) であった。
変異サブタイプ別の治療効果と感受性の差異: 探索的サブグループ解析として、主要な3つの非典型変異 (G719X、L861Q、S768I) におけるオシメルチニブの治療効果を評価した (Table 2)。L861Q変異を有する患者群 (n=9) では、ORRが78% (95% CI 44-100%) と極めて高い奏効率を示し、PFS中央値は15.2ヶ月 (95% CI 1.3-29.1 months) に達した。これは、L861Q変異がオシメルチニブに対して特に高い感受性を有することを示唆している。G719X変異を有する患者群 (n=19) では、ORRが53% (95% CI 28-77%)、PFS中央値が8.2ヶ月 (95% CI 6.2-10.2 months) であり、良好な治療効果が確認された。一方、S768I変異を有する患者群 (n=8) では、ORRが38% (95% CI 0-81%)、PFS中央値が12.3ヶ月 (95% CI 0-28.8 months) であった。S768I変異群における奏効率は他の2つの変異群と比較してやや低かったものの、一定の臨床的有用性が示された。
中枢神経系病変に対する頭蓋内効果と生存期間解析: 全解析対象 (n=36) におけるPFS中央値は8.2ヶ月 (95% CI 5.9-10.5 months) であった (Fig 3A)。6ヶ月PFS率は64% (95% CI 47-80%)、12ヶ月PFS率は39% (95% CI 22-56%) であった。OS中央値は、データカットオフ時点において死亡イベントが36例中7例 (19%) のみであったため未到達 (NR: not reached) であった (Fig 3B)。登録時にCNS転移を有していた患者は9例 (n=9) であった。CNS転移を有する患者群のPFS中央値は5.4ヶ月 (95% CI 2.8-8.0 months) であり、CNS転移を有さない患者群の9.8ヶ月 (95% CI 0.8-18.8 months) と比較して短い傾向が認められた。評価可能5例における頭蓋内客観的奏効率は40% (5例中2例) であった。参考として、T790M陽性例を対象としたAURA3試験 Mok et al. NEnglJMed 2017 におけるオシメルチニブ群のPFS中央値は 10.1 vs 4.4 months (HR 0.30, 95% CI 0.23-0.41, p<0.001) であった。
安全性プロファイルと良好な忍容性: 安全性解析対象となった36例において、何らかの有害事象 (AE) を経験した患者は34例 (94%) であった (Table 3)。頻度の高かった全グレードのAEは、皮疹が11例 (31%)、そう痒症が9例 (25%)、食欲不振が9例 (25%)、下痢が8例 (22%)、呼吸困難が8例 (22%) であった。観察されたAEの大部分はグレード1または2の軽度なものであった。グレード3以上の重篤なAEは2例 (6%) のみに認められ、内訳はグレード3の呼吸困難が1例 (3%)、グレード3の頭痛が1例 (3%) であった。ILDやQT延長症例は報告されなかった。AEによる一時休薬は6例 (17%) に必要であったが、減量を要した患者は1例 (3%) のみであり、AEを理由に治療を完全に中止した患者は認められず、極めて良好な忍容性が示された。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、ゲフィチニブやエルロチニブなどの第一世代EGFR-TKIを用いた先行研究 Mok et al. NEnglJMed 2009 や Maemondo et al. NEnglJMed 2010 と異なり、非典型EGFR変異を有するNSCLC患者に焦点を当て、第三世代TKIであるオシメルチニブの有効性を前向きに検証した。第一世代TKIでは非典型変異に対する奏効率が10%から40%程度と低調であったのに対し、本試験におけるオシメルチニブのORRは50%に達し、優れた治療効果を示した。また、第二世代TKIアファチニブの統合解析 Yang et al. LancetOncol 2015 と比較しても、オシメルチニブは特にL861Q変異において極めて高い奏効率 (78%) と長いPFS (15.2ヶ月) を示し、非典型変異に対する新たな強力な治療選択肢となることを示した。
新規性: 本研究は、非典型EGFR変異陽性のNSCLC患者に対するオシメルチニブの有効性と安全性を、前向き多施設共同第II相試験として本研究で初めて実証した。これまで前臨床データ Cross et al. CancerDiscov 2014 でのみ示唆されていたオシメルチニブの非典型変異に対する感受性を、実際の臨床現場において前向きに証明した最初の報告である。
臨床応用: 本試験の結果は、非典型EGFR変異陽性NSCLCの治療開発における重要なマイルストーンであり、実臨床における意思決定に直結する臨床的意義を持つ。特に、アファチニブと比較してオシメルチニブは下痢や皮膚毒性などの副作用が軽微であり、グレード3以上の有害事象が極めて少ないことから、長期投与における忍容性に優れている。また、脳転移を有する患者においても40%の頭蓋内奏効率を示したことは、中枢神経系への移行性が高いオシメルチニブの特性を活かした臨床応用を支持するものである。
残された課題: 一方で、いくつかの残された課題や制限事項も存在する。第一に、本試験は単群の第II相試験であり、症例数が36例と限定的であるため、各変異サブタイプにおける詳細な有効性を確定するには、さらなる大規模なコホートでの検証が必要である。第二に、EGFR変異の検出にローカルテストが用いられており、次世代シーケンスと比較して複合変異の検出感度が低かった可能性がある。第三に、一次治療と二次治療以降の患者が混在しているため、より均一な集団での評価が望まれる。
方法
本試験は、韓国の7施設で実施された多施設共同、単群、オープンラベル、第II相臨床試験である (試験識別番号:NCT03424759)。対象基準は、19歳以上、組織学的に確認された転移性または再発NSCLC、exon 19欠失、L858R、T790M、およびexon 20挿入を除くEGFR変異 (非典型変異) 陽性、ECOG (Eastern Cooperative Oncology Group) パフォーマンスステータス (PS: performance status) が2以下、適切な臓器機能を有する患者とした。除外基準は、過去のEGFR-TKI治療歴、オシメルチニブ初回投与前2週間以内の放射線治療または化学療法、間質性肺疾患 (ILD: interstitial lung disease) の既往、コントロール不良の脳転移などとした。登録された患者は、オシメルチニブ80 mgを1日1回経口投与され、疾患進行 (PD: progressive disease)、許容できない毒性の発現、または同意撤回まで治療が継続された。腫瘍評価は、ベースライン時および投与開始後は6週間ごと (2サイクルごと) に、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) version 1.1に基づいてコンピューター断層撮影 (CT) または磁気共鳴画像法 (MRI) を用いて実施された。EGFR変異の同定は、各施設でPNA (peptide nucleic acid) クランピング法、ダイレクトシーケンス法、または次世代シーケンス (NGS: next-generation sequencing) 法を用いて行われた。有害事象 (AE: adverse event) は、NCI-CTCAE (National Cancer Institute Common Terminology Criteria for Adverse Events) version 4.0を用いて評価された。グレード3以上の治療関連有害事象が発生した場合は、休薬および1段階の減量 (40 mg/日への減量) が許容された。統計解析は、オシメルチニブを少なくとも1回投与された全患者を対象に実施された。統計設計は、Simonの2段階最適デザインに基づき、期待奏効率を30%、閾値奏効率を10%に設定し、検出力90%、片側有意水準5%として、脱落率10%を考慮して目標症例数を37例と設定した。PFS、OS、およびDoRの生存時間解析には、Kaplan-Meier法が用いられた。すべての統計解析はSPSS version 24を用いて行われた。