- 著者: Jacqulyne P. Robichaux, Xiuning Le, Rajakumar Vijayan, J. Kevin Hicks, Brett W. Carter, Yasir Y. Elamin, Alissa Poteete, Hanlin Gao, Monique B. Nilsson, Scott Roarty, Mehmet Altan, Maria Kalhor, Tina Cascone, Lecia V. Sequist, Helena A. Yu, Zofia Piotrowska, Sarah B. Goldberg, Laura Q. Chow, Vassiliki A. Papadimitrakopoulou, Vamsidhar Velcheti, Roy S. Herbst, Gregory J. Riely, Mark Awad, Nicolas Girard, Paul K. Paik, Don L. Gibbons, Kathryn C. Arbour, Jianjun Zhang, Jianjun Chen, Jing Wang, John V. Heymach
- Corresponding author: John V. Heymach (The University of Texas MD Anderson Cancer Center, Houston, TX, USA)
- 雑誌: Nature
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-10-06
- Article種別: Original Article
- PMID: 34526717
背景
EGFR (epidermal growth factor receptor) 変異陽性の非小細胞肺がん (NSCLC) に対する治療は、第一世代、第二世代、および第三世代の EGFR-TKI (tyrosine kinase inhibitor) の登場によって劇的な進歩を遂げてきた。これまでの大規模臨床試験である Mok et al. NEnglJMed 2009 や Rosell et al. LancetOncol 2012、さらに Soria et al. NEnglJMed 2018 において、EGFR-TKI は exon 19 deletion (Del19) および exon 21 L858R 変異を有する「古典的 (classical)」変異陽性例に対して極めて高い有効性を示してきた。しかし、EGFR 変異全体の約 10% から 30% を占める非典型 (atypical) 変異群に関しては、その最適な治療戦略が確立されていなかった。
非典型変異には、G719X (exon 18)、S768I (exon 20)、L861Q (exon 21)、および多種多様な Ex20ins (exon 20 insertion) 変異などが含まれる。これまでの臨床研究である Yang et al. LancetOncol 2015 や Cho et al. JClinOncol 2020 では、afatinib や osimertinib の非典型変異に対する臨床的活性が部分的に示されてきたものの、変異ごとの薬剤感受性の不均一性が極めて高く、どの変異に対してどの世代の TKI を選択すべきかという合理的判断基準が不足していた。
従来の分類体系は、変異が存在する「exon 番号」に基づいて定義されていた。しかし、この分類法はキナーゼドメインの 3D 立体構造や機能的特性を反映しておらず、例えば同じ exon 20 内に T790M 抵抗性変異、S768I 感受性変異、および TKI 抵抗性の Ex20ins 変異が混在するという構造的・機能的ミスマッチが生じていた。このように、非典型変異の立体構造変化と薬剤感受性との相関関係は未解明であり、個々の変異に対する最適薬を予測するフレームワークが未確立であった。何が足りなかったかというと、大規模ゲノムデータと系統的な in vitro 薬剤スクリーニング、および実臨床における治療転帰データを統合し、構造機能に基づいて EGFR 変異を再分類するアプローチが不足していた。この知識ギャップを解消することが、非典型変異を有する患者への精密医療を実践する上での重要な課題であった。
目的
本研究の目的は、16,715 例の EGFR 変異陽性 NSCLC 患者の大規模ゲノムデータベース、76 系統の変異導入 Ba/F3 細胞株を用いた 18 種類の EGFR 阻害薬に対するハイスループットスクリーニング、患者由来異種移植 (PDX) モデル、および分子モデリングによる 3D 構造解析を統合し、EGFR 変異の構造的変化に基づく新しい分類体系 (structure-based classification) を確立することである。これにより、従来の exon 番号に基づく分類よりも正確に薬剤感受性を予測し、非典型変異を含む個々の変異陽性患者に対して最適な EGFR-TKI を選択するための臨床的アルゴリズムを提示することを目指す。
結果
構造機能に基づく 4 つの EGFR 変異サブグループの同定: 分子モデリングと 76 系統の Ba/F3 細胞株を用いた 18 種類の薬物スクリーニングデータの階層的クラスタリング解析により、EGFR 変異は従来の exon 分類を凌駕する 4 つの明確な構造機能グループに分類された (Fig 2)。16,715 例のゲノムプロファイリングにおいて、各サブグループの頻度は Classical-like が 67.1%、PACC (P-loop and alphaC-helix compressing) が 9.6%、Ex20ins-L (exon 20 loop insertions) が 7.4%、T790M-like 3S が 7.8%、T790M-like 3R が 1.5% であった。CART アルゴリズムを用いた機械学習解析において、構造機能に基づく 4 群分類は、従来の exon 番号に基づく分類と比較して、薬剤感受性を予測する変数重要度 (variable importance) が有意に高かった (p<0.0001) (Fig 2c)。
Classical-like 変異群の薬剤感受性: L858R や各種 Ex19del、および ATP 結合ポケットから離れた位置にあり受容体構造に大きな歪みを与えない非典型変異 (L861Q や A763insFQEA など) が含まれる。このグループは、第一世代から第三世代までのすべての EGFR-TKI に対して高い感受性を示した (IC50 < 100 nM)。
T790M-like 変異群の耐性プロファイル: 疎水性コアに変異を持ち、ATP 親和性を高めるか共有結合を阻害する特徴を持つ。この群はさらに、第三世代 TKI に感受性を示す T790M-like-3S (T790M 単独など) と、耐性を示す T790M-like-3R (C797S、L718Q、L792H を伴う複合変異など) に細分化された。3R サブグループは既存の EGFR-TKI に極めて高い耐性を示したが、ALK 阻害薬である brigatinib や PKC (protein kinase C) 阻害薬である midostaurin に対して選択的な感受性を示した (IC50 100-500 nM)。
Exon 20 loop insertion (Ex20ins-L) 変異群の不均一性: αC-helix の C 末端ループ領域に挿入変異を持つグループであり、薬物結合ポケットが狭窄している。この群は poziotinib や tarloxotinib などの Ex20ins 活性型 TKI にのみ感受性を示した。さらに、挿入位置により near-loop (Ex20ins-NL) と far-loop (Ex20ins-FL) に細分され、Ex20ins-NL の方が poziotinib に対する感受性が有意に高かった (p=0.0025)。
P-loop and αC-helix compressing (PACC) 変異群の特徴: G719X (exon 18)、L747X (exon 19)、S768I (exon 20)、L792X (exon 20)、T854I (exon 21) など、複数の exon にまたがる変異が統合された。立体構造解析により、これらの変異は P-loop と αC-helix の相対的距離を圧縮し、結合ポケットの形状を変化させることが判明した (Fig 5)。この構造変化により、第三世代 TKI である osimertinib の結合は立体障害により阻害されるが、コンパクトな構造を持つ第二世代 TKI (afatinib や dacomitinib) は影響を受けず、極めて高い選択性と感受性を維持した (IC50 1-10 nM)。
PACC 変異群における第二世代 TKI の圧倒的な臨床的優位性: 実臨床コホートにおいて、PACC 変異を有する患者は osimertinib よりも第二世代 TKI 治療で劇的に良好な転帰を示した。PACC 変異陽性 NSCLC 患者において、第一ライン治療における TTF 中央値は、第二世代 TKI 群で 21.7 months であったのに対し、第三世代 TKI (osimertinib) 群では 4.1 months であり、第二世代 TKI 群は第三世代 TKI 群と比較して、治療失敗のリスクを大幅に低減した [HR 0.23 (95% CI 0.15-0.35, p<0.0001)] (Fig 4c)。また、公開データベース (n=358) を用いた afatinib 治療の解析において、PACC 群の DOT 中央値は 17.1 months であり、Ex20ins-L 群の 4.1 months や T790M-like 群の 7.8 months などの非PACC群 (n=202) と比較して有意に延長していた [HR 0.45 (95% CI 0.32-0.62, p<0.0001)] (Fig 4a)。
PDX モデルにおける PACC 変異への治療効果検証: G719A 変異を有する PACC 陽性 PDX モデル (n=5 mice) において、osimertinib 投与群 (5 mg/kg または 25 mg/kg) では腫瘍増殖を抑制できなかったのに対し、第二世代 TKI である afatinib および poziotinib 投与群では著明な腫瘍縮小効果が得られた (p<0.0001) (Fig 3b)。
獲得耐性機序としての PACC 変異の同定と治療救援: 第一ライン osimertinib 治療後に再生検を行った L858R 陽性患者 3 例において、獲得耐性機序として PACC 変異 (L718V、V765L、C797S) の出現が確認された。これらの患者に対し、osimertinib 中止後に第二世代 TKI (afatinib) を投与したところ、全例で腫瘍縮小および長期の病勢コントロールが得られた。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、従来の「古典的変異 vs 非典型変異」という二分法や、「exon 18/19/20/21」という遺伝子上の位置に基づく単純な分類法と異なり、キナーゼドメインの 3D 立体構造変化と薬物結合ポケットの物理的特性に基づいて EGFR 変異を 4 つのグループに再定義した。従来の exon 分類では、例えば同じ exon 20 変異であっても T790M、S768I、Ex20ins で薬剤感受性が全く異なるという不均一性を説明できなかったが、本研究の構造分類はこの限界を完全に克服した。
新規性: 本研究で初めて、G719X、S768I、L747X、T854I などの非典型変異が「PACC (P-loop and αC-helix compressing) 変異」という単一の構造的特徴を持つグループとして統合され、この群が第二世代 EGFR-TKI に対し極めて高い感受性を示すことが新規に解明された。さらに、実臨床において PACC 変異群に対する afatinib などの第二世代 TKI の TTF が 21.7 か月に達し、osimertinib の 4.1 か月を圧倒的に上回るという逆説的な臨床的優位性を初めて大規模コホートで実証した。
臨床応用: 本研究の成果は、EGFR 変異陽性 NSCLC のファーストライン治療における TKI 選択アルゴリズムの臨床応用に直結する。臨床的意義として、NGS パネル検査で G719X や S768I などの PACC 変異が検出された場合、現在の標準治療である osimertinib ではなく、afatinib などの第二世代 TKI を第一選択薬として推奨する強力な科学的根拠が提示された。また、osimertinib 治療後に獲得された L718V などの耐性変異に対しても、第二世代 TKI による救援治療が極めて有効であるという臨床戦略が確立された。
残された課題: 今後の検討課題として、本研究が後ろ向きコホートに基づいているため、PACC 変異に対する第二世代 TKI と第三世代 TKI の治療効果を直接比較する前向きランダム化比較試験 (prospective RCT) による検証が必要である。また、第二世代 TKI は野生型 EGFR 阻害作用に伴う皮膚毒性や下痢などの有害事象が多いため、PACC 変異に選択的であり、かつ中枢神経系 (CNS) 移行性に優れた新規 TKI の開発が望まれる。さらに、複数の変異が同乗する複合変異 (compound mutations) における構造変化の予測精度の向上や、アジア人コホートにおける再現性の検証が今後の課題として残されている。
結論として、本研究は 16,715 例のゲノム解析と 76 系統の細胞株スクリーニングを統合し、立体構造に基づく画期的な EGFR 変異 4 群分類を確立した。特に PACC 変異に対する第二世代 TKI の極めて高い有効性を実証したことで、非典型変異を有する NSCLC 患者における精密医療のガイドラインを再定義する landmark study である。
方法
患者コホートの構築: MD Anderson Cancer Center の GEMINI (Genomic Marker-Guided Therapy Initiative) データベース、Moffitt Cancer Center、Foundation Medicine、Guardant Health、および cBioPortal から、EGFR 変異陽性 NSCLC 患者計 16,715 例のゲノムプロファイリングデータを収集した。組織生検または液体生検 (ctDNA) に基づく次世代シーケンシング (NGS) により変異型を同定した。臨床解析対象として、EGFR-TKI 治療を受けた患者の治療失敗までの期間 (TTF: time to treatment failure) および治療期間 (DOT: duration of treatment) を後ろ向きに評価した。
in vitro 変異導入細胞株モデル: マウスインターロイキン-3 (IL-3) 依存性プロB細胞株である Ba/F3 細胞を用い、レトロウイルスベクターを用いて exons 18-21 にわたる計 76 種類の EGFR 変異を安定導入した。IL-3 非存在下での増殖能を確認することで、導入された変異 EGFR の自律的活性化能を検証した。これらの細胞株に対し、第一世代、第二世代、第三世代、および Ex20ins 活性型を含む計 18 種類の EGFR 阻害薬を 7 段階の濃度で 72 時間曝露し、CellTiter-Glo アッセイを用いて細胞生存率を測定、半数阻害濃度 (IC50) を算出した。野生型 (WT) EGFR 発現 Ba/F3 細胞に対する比率 (Mutant/WT IC50 比) を算出し、選択性を評価した。
患者由来異種移植 (PDX) モデル: EGFR G719A 変異、S768dupSVD (S768 duplication SVD) 変異、および L858R/E709K 複合変異を有する NSCLC 患者の腫瘍組織を免疫不全マウス (NSG マウス) の皮下に移植し、PDX モデルを樹立した。腫瘍体積が 150-325 mm3 に達した時点で、vehicle、erlotinib (100 mg/kg)、afatinib (20 mg/kg)、poziotinib (2.5 mg/kg)、osimertinib (5 mg/kg または 25 mg/kg) の各群にランダム化し、週 5 日、最大 28 日間経口投与した。
3D 構造解析およびドッキングシミュレーション: PDB (Protein Data Bank) から野生型 EGFR および各変異体の結晶構造を取得し、Molecular Operating Environment (MOE) および PyMOL を用いて分子モデリングを実施した。各変異が P-loop (アミノ酸残基 718-728)、αC-helix (残基 754-770)、T790 gatekeeper 残基、および薬物結合ポケットに与える立体構造的変化を解析した。また、osimertinib や poziotinib とのドッキングシミュレーションにより、結合エネルギーおよび相互作用の変化を予測した。
統計解析: 薬剤感受性データに基づく階層的クラスタリングには R の ComplexHeatmap パッケージを用いた。構造分類と exon 分類の予測精度比較には、分類回帰木 (CART: classification and regression trees) アルゴリズムおよび Spearman の順位相関係数を用いた。臨床コホートにおける TTF および DOT の比較には Kaplan-Meier 法を用い、群間比較はログランク (log-rank) 検定および Cox 比例ハザードモデル (ハザード比 [HR] および 95% 信頼区間 [CI]) を用いて算出した。統計的有意水準は両側 p<0.05 とした。