- 著者: In-Jae Oh, Hee-Jung Ban, Kyu-Sik Kim, Young-Chul Kim
- Corresponding author: Young-Chul Kim (Chonnam National University Hwasun Hospital, Jeonnam, South Korea)
- 雑誌: Lung Cancer
- 発行年: 2012
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 22333554
背景
EGFR-TKIであるゲフィチニブは、EGFR変異陽性非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者において高い奏効率を示すが、多くの患者は最終的に獲得耐性を来し、疾患が進行する。ゲフィチニブ治療後の標準治療は細胞傷害性化学療法への移行であるが、腫瘍が依然としてEGFR依存性を保持しているという「oncogene addiction」仮説に基づき、化学療法後にゲフィチニブを再投与 (retreatment) することで、再び疾患制御が得られる可能性が後方視的研究で示唆されていた (Watanabe et al. BMCCancer 2011、Tomizawa et al. 2010)。しかし、この仮説を前向きに検証した第II相試験のエビデンスは当時存在せず、臨床的ギャップが残されていた。特に、初回EGFR-TKI治療後に疾患制御を達成した患者群におけるゲフィチニブ再投与の有効性と安全性を前向きに評価することは、治療選択肢が限られる状況において重要な課題であった。本試験は、ゲフィチニブ再投与を前向きに評価した初の第II相試験として、疾患制御率 (DCR) を主要評価項目として設定し、その臨床的有用性を検証することを目的とした。この分野では、前向き試験によるエビデンスが不足しており、特にゲフィチニブ再投与の最適な患者選択基準や耐性メカニズムの解明が未解明であった。
目的
初回ゲフィチニブ治療で疾患制御 (部分奏効 [PR] または病勢安定 [SD] が3ヶ月以上) が得られた後に増悪し、かつ少なくとも1レジメンの細胞傷害性化学療法を受けた進行NSCLC患者を対象に、ゲフィチニブ再投与 (250mg/日) の疾患制御率 (DCR;完全奏効 [CR] + PR + SD) を主要評価項目として評価する。本研究の仮説は、ゲフィチニブ再投与によるDCRが30%以上であることであった (帰無仮説 H0: 10%、対立仮説 H1: 30%)。副次評価項目として、奏効率 (ORR)、無増悪生存期間 (TTP)、全生存期間 (OS)、および安全性を評価した。
結果
患者背景: 2009年2月から2010年7月にかけて、合計n=23例の患者が本試験に登録された。患者の年齢中央値は65歳 (範囲45〜79歳) であった。登録患者の多くは女性 (86.9%)、非喫煙者 (91.3%)、腺癌 (95.7%) であった。ECOG PSは、PS 1が17例 (73.9%)、PS 2が4例 (17.4%)、PS 3が2例 (8.7%) であった。初回ゲフィチニブ治療への応答は、PRが10例 (43.5%)、SDが13例 (56.5%) であった。初回ゲフィチニブ治療のTTP中央値は9.1ヶ月 (95% CI 5.2〜13.3ヶ月) であった。初回ゲフィチニブ治療での増悪から再投与開始までの期間中央値は7.0ヶ月 (95% CI 3.8〜7.5ヶ月) であった。多くの患者がゲフィチニブ再投与を5次治療以降として受けており、先行化学療法レジメン数は2レジメンが8例、3レジメンが11例、4レジメン以上が4例であった (Table 1)。
主要評価項目:疾患制御率 (DCR) および奏効率 (RR): ITT集団 (n=23) におけるDCRは65.2% (15/23例;95% CI 42.7〜83.6%) であり、事前設定された仮説 (H1: 30%) を大幅に上回り、主要評価項目を達成した。RRは21.7% (5/23例;95% CI 7.5〜43.7%) であった。内訳はPRが5例、SDが10例、PDが5例であった。3例は急速な臨床悪化のため放射線学的評価が不可能であった。評価可能であった20例では、DCRは75.0% (95% CI 50.9〜91.3%)、RRは25.0% (95% CI 8.7〜49.1%) であった (Figure 1, Figure 2)。このDCRは、後方視的Tomizawa試験 (2010) のDCR 65%と一致する結果であった。
生存期間: 追跡期間中央値265日において、TTP中央値は103日 (95% CI 70〜134日)、OS中央値は343日 (95% CI 235〜409日) であった (Figure 3A)。ゲフィチニブ再投与でPRまたはSDを達成した患者は、PDの患者と比較して有意に長いTTP (128 vs 29日、p<0.001) およびOS (428 vs 96日、p=0.007) を示した。ECOG PSが良好な患者 (PS 1) は、PSが不良な患者 (PS 2または3) と比較して有意に長いTTP (PS 1: 109日 vs PS 2: 24日、PS 3: 29日、p=0.004) およびOS (PS 1: 428日 vs PS 2: 46日、PS 3: 15日、p<0.001) を示した。初回ゲフィチニブ治療でPRを達成した患者は、SDを達成した患者と比較して、再投与後のTTPが有意に長かった (中央値109日 [95% CI 86〜202日] vs 42日 [95% CI 45〜95日]、p=0.010) (Figure 3B)。皮疹の発現はTTPの延長傾向と関連していた (128 vs 91日、p=0.065)。
EGFR変異解析と予測因子: 初回診断時の腫瘍組織14検体中、13検体 (92.9%) でEGFR変異が検出された。内訳はexon 19欠失が9例、L858R変異が3例、exon 19欠失、L858R、T790Mの複合変異が1例であった。野生型EGFRは1例のみであった (Table 3)。EGFR変異の有無や特定の変異タイプは、再投与後の奏効や生存期間を統計的に予測する因子とはならなかった (少数例のため統計的検出力不足)。再投与で奏効した5例は全て女性、非喫煙者、腺癌であり、初回ゲフィチニブのTTPは全例114日以上であった。全身性進行 (systemic PD) を示した患者群のDCRは85.7%であり、局所進行 (local PD) を示した患者群の28.6%と比較して有意に高かった (p=0.029)。再生検が実施された3例では、T790M変異は検出されなかった。
安全性: 全23例が少なくとも1回のゲフィチニブ投与を受け、毒性評価が可能であった。最も頻繁に報告された有害事象はGrade 1または2の皮疹であり、26.1%の患者に認められた。Grade 3の皮疹は2例 (8.7%) に発生したが、皮膚科的処置により用量減量は不要であった。Grade 3の間質性肺炎が1例 (4.3%) に発生し、ゲフィチニブは中止されたが、ステロイド治療後に回復した。全体として、ゲフィチニブ再投与の安全性プロファイルは既知の毒性プロファイルと一致しており、忍容性は良好であった。
考察/結論
本第II相試験は、初回ゲフィチニブ治療後に疾患制御を得た進行NSCLC患者において、細胞傷害性化学療法後のゲフィチニブ再投与がDCR 65.2%という高い疾患制御率をもたらすことを、前向き試験として初めて確認した。この結果は、後方視的Tomizawa試験 (2010) のDCR 65%と一致しており、初回EGFR-TKI治療後に疾患制御を達成した患者群における再投与の臨床的有用性を強く支持するものである。
先行研究との違い: これまでの多くの研究が、初回EGFR-TKI失敗後に別のEGFR-TKIへの切り替えを検討していたのに対し (例: Cho et al. JClinOncol 2007)、本研究は初回ゲフィチニブ失敗後に少なくとも1レジメンの化学療法を挟んだ上で、同じゲフィチニブを再投与するという点で、これまでの研究デザインと異なっている。この治療シーケンスは、化学療法期間中にEGFR依存性クローンが再増殖する機会を与え、その後のEGFR-TKI再投与による効果を最大化する可能性を示唆している。
新規性: 本研究で初めて、初回EGFR-TKI治療後に疾患制御を得た患者において、化学療法失敗後のEGFR-TKI再投与が許容可能なDCRと生存期間延長をもたらすことを前向きに実証した。特に、初回ゲフィチニブ治療でPRを達成した患者は、再投与後のTTPが有意に長く (中央値109日 [95% CI 86〜202日] vs 42日 [95% CI 45〜95日]、p=0.010)、初回応答の深さが再投与への感受性と関連することが示された点は新規の知見である。また、全身性進行を示した患者群でDCRが有意に高かったことも、再投与の対象患者を特定する上で重要な情報となる。
臨床応用: 本知見は、当時のEGFR-TKI耐性後の治療戦略において、「TKI-化学療法-TKI再投与」というシーケンスが、特にEGFR変異陽性患者において有効な選択肢となり得ることを示唆する。これにより、一部の患者は化学療法の毒性を回避し、数ヶ月間のQOLを維持できる可能性がある。本研究の患者背景 (EGFR変異陽性、女性、非喫煙者の高率) は、ゲフィチニブおよびEGFR-TKI感受性集団を代表しており、現代のEGFR変異陽性NSCLCの治療シーケンス研究において重要な文脈的参照点となる。
残された課題: 本研究は単群の小規模な第II相試験であり、対照群がないため、ゲフィチニブ再投与の真の有効性を厳密に評価するには限界がある。また、EGFR変異解析が14検体と少数であり、T790M変異の検出も3例の再生検に限定されたため、耐性メカニズムと再投与効果の関連性についてはさらなる大規模な検討が必要である。今日の視点からは、第三世代TKIであるオシメルチニブの登場により、T790M陽性耐性例への最適治療は大きく変化しており、本研究の知見を現代の治療アルゴリズムに直接適用するには注意が必要である。今後の検討課題として、バイオマーカーによる再投与の最適な患者選択、およびより大規模なランダム化比較試験による有効性の検証が残されている。
方法
本研究は、韓国の全南大学校華順病院で実施された単群非盲検前向き第II相試験 (ClinicalTrials.gov登録番号: NCT00824746) である。適格基準は以下の通りであった。病理学的に確定診断された再発または転移性NSCLC患者で、初回ゲフィチニブ治療により3ヶ月以上のPRまたはSDを達成した後、疾患が進行した者。初回ゲフィチニブ治療失敗後に少なくとも1レジメンの細胞傷害性化学療法を受けていること。ECOGパフォーマンスステータス (PS) が0〜2であること。測定可能病変を有すること。ゲフィチニブ以外のEGFR-TKIやその他のTKIによる治療歴がないこと。
患者はゲフィチニブ250mgを1日1回経口投与され、疾患進行または許容できない毒性が発現するまで治療を継続した。治療効果の評価は、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) ガイドラインバージョン1.1 (Eisenhauer et al. EurJCancer 2009) に基づき、治療開始後4週目、その後8週ごとにCTスキャンを用いて実施された。主要評価項目はITT (intention-to-treat) 集団におけるDCRであった。副次評価項目はORR、TTP、OS、および安全性であった。TTPは治療開始日から疾患進行または死亡までの期間、OSは治療開始日から死亡までの期間と定義された。有害事象はNCI-CTCAE (National Cancer Institute’s Common Terminology Criteria for Adverse Events) バージョン3.0に従って評価された。
EGFR変異解析は、初回診断時の腫瘍組織から得られたDNAサンプル14例に対して、PNA (Peptide Nucleic Acid) クランピングPCR法および直接シーケンス法を用いて実施された。統計解析には、Simonの2段階MiniMaxデザインが用いられ、DCRの目標活性レベルを30% (P1)、最小関心DCRを10% (P0) と設定し、有意水準0.05、検出力80%で20例の登録が必要とされた。追跡期間中の脱落率10%を考慮し、合計23例の登録が計画された。DCRおよびORRはFisherの正確検定を用いて比較され、TTPおよびOSの推定にはカプラン・マイヤー法が用いられた。全ての解析はPASW (Predictive Analytics Software) 統計ソフトウェアバージョン18.0を用いて実施された。