• 著者: Byoung Chul Cho, Jin Hyun Ahn, Sung-Eun Lee, et al.
  • Corresponding author: N/A
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2007
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 17577030

背景

非小細胞肺がん (NSCLC) 治療において、上皮成長因子受容体 (EGFR) は重要な治療標的であり、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) であるゲフィチニブとエルロチニブは、その可逆的競合阻害薬として類似の作用機序を持つ。両薬剤は同一のEGFRチロシンキナーゼドメインに結合し、がん細胞の増殖と生存に関わるシグナル伝達経路を阻害する。ゲフィチニブは、当初、進行NSCLC患者に対する有望な治療選択肢として登場し、特にアジア人、腺癌患者、非喫煙者において高い奏効が報告された。EGFR遺伝子の活性化変異がゲフィチニブへの劇的な奏効と関連することが、Lynch et al. NEnglJMed 2004Paez et al. Science 2004Pao et al. ProcNatlAcadSciUSA 2004などの複数の研究で示された。しかし、Iressa Survival Evaluation in Lung Cancer (ISEL) 試験では、ゲフィチニブが先行化学療法後に進行した進行NSCLC患者の全生存期間を延長しないことが示され、米国および欧州連合では市場から撤退した(Thatcher et al. Lancet 2005)。一方、エルロチニブは、BR.21第III相試験において、先行化学療法後に進行した進行NSCLC患者の全生存期間を延長することが示され、米国食品医薬品局 (FDA) の承認を得た(Shepherd et al. NEnglJMed 2005)。

EGFR変異陽性NSCLC患者では、ゲフィチニブ治療後にほぼ全例で獲得耐性が生じることが知られているが、耐性後に同じ作用機序を持つ別のEGFR-TKIであるエルロチニブを投与した場合の有効性は未解明であった。理論的には、両薬剤が同一の標的に作用するため、クロス耐性(cross resistance)が予測される。しかし、ゲフィチニブ投与中に安定病変 (SD) を達成した患者では、疾患制御が維持されながらもEGFR経路への依存性が残存している可能性があり、エルロチニブへの感受性が保たれている可能性も考えられた。ゲフィチニブ治療後に進行した多くの患者が、その時点で他に治療選択肢を持たない状況であったため、エルロチニブがこれらの患者にとって潜在的な治療選択肢となるか否かを体系的に評価する必要があった。先行研究では、ゲフィチニブ失敗後のエルロチニブの臨床活性に関するデータが極めて不足しており、その有効性と安全性を評価する研究が求められていた。

目的

本第II相試験は、ゲフィチニブ治療後に疾患進行を経験した進行非小細胞肺がん (NSCLC) 患者を対象に、エルロチニブの抗腫瘍活性(奏効率 (ORR)、病勢コントロール率 (DCR)、無増悪生存期間 (PFS))および安全性を評価することを目的とした。特に、ゲフィチニブ治療中の最良効果(部分奏効 (PR) または安定病変 (SD))別にサブグループ解析を行い、エルロチニブの有効性との関連性を探索することを副次目的とした。さらに、利用可能な腫瘍検体を用いて、EGFR変異などのバイオマーカーと臨床アウトカムとの関係を探索的に解析することも目的とした。本研究は、ゲフィチニブ耐性後の患者に対するエルロチニブの治療的有用性を評価し、その後の治療戦略の確立に資する知見を得ることを目指した。

結果

全体奏効率および疾患コントロール率: 本試験の主要エンドポイントである全患者 (n=21) の病勢コントロール率 (DCR; CR+PR+SD) は28.6% (95% CI: 9.3-47.9%) であった (Table 3)。内訳は、部分奏効 (PR) が2例 (9.5%)、安定病変 (SD) が4例 (19.0%)、疾患進行 (PD) が15例 (71.4%) であった。完全奏効 (CR) は認められなかった。客観的奏効率 (ORR; CR+PR) は9.5% (95% CI: 3.0-22.0%) と低く、過半数 (71.4%) の患者でエルロチニブ投与後に一次進行が確認された。疾患制御期間の中央値は125日 (95% CI: 73-261日) であった。この結果は、ゲフィチニブ耐性後の患者集団への同一クラスEGFR-TKIであるエルロチニブ投与において、広範なクロス耐性が存在し、第一世代TKI間の逐次使用の全体的な有効性が限定的であることを示唆した。

ゲフィチニブ治療中の最良効果別DCRおよびORR: ゲフィチニブ治療中の最良効果別にエルロチニブの有効性を解析したところ、顕著な差が認められた。ゲフィチニブ治療中に安定病変 (SD) を達成した患者 (n=4) におけるエルロチニブ後のDCRは75% (3/4) と、非SD患者 (n=17) の17.6% (3/17) と比較して統計的に有意に高かった (p=0.050)。同様に、ゲフィチニブSD患者群のORRは50.0% (2/4) であり、非SD患者群の0% (0/17) と比較して有意に高かった (p=0.029)。ゲフィチニブSD患者群における奏効の内訳は、PRが2例、SDが1例であった。これに対し、ゲフィチニブ治療中に部分奏効 (PR) を達成した患者 (n=6) では、エルロチニブ後のDCRは33.3% (2/6) (PR 0例+SD 2例) であり、ゲフィチニブ治療中に疾患進行 (PD) であった患者 (n=11) では、エルロチニブ後のDCRは0% (0/11) であった。これらの結果は、ゲフィチニブ治療中の最良効果に沿った明確なグラディエント (DCR: 0% < 33.3% < 75%) が観察され、特にゲフィチニブSD例では腫瘍のEGFR依存性が完全には消失しておらず、エルロチニブによる一定の疾患制御が可能であることを強く示唆した (Table 4)。

無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS): 全患者における無増悪生存期間 (PFS) 中央値は60日 (約2.0ヶ月、95% CI: 43-77日) であった (Fig 1)。全生存期間 (OS) 中央値は158日 (約5.3ヶ月、95% CI: 141-175日) であった (Fig 1)。ゲフィチニブ治療中の最良効果は、エルロチニブ治療後の生存期間の予測因子でもあった。ゲフィチニブSD患者群は、非SD患者群と比較して有意に長いPFS中央値 (140日 vs 37日; p=0.005) を示した (Fig 2)。OS中央値についても、ゲフィチニブSD患者群では未到達であり、非SD患者群の150日と比較して長い傾向が認められた (p=0.043)。21例中2例がエルロチニブ投与後に23ヶ月超の長期生存を達成しており、これらはゲフィチニブSD群に属していた。

安全性プロファイル: 全患者21例がエルロチニブの投与を受け、安全性評価が可能であった。最も一般的な有害事象は皮疹であり、48% (10/21) の患者で発現した。内訳はGrade 1/2が43% (9/21)、Grade 3が5% (1/21) であった。下痢は33% (7/21) の患者で発現し、全てGrade 1/2であった。口内炎は14% (3/21)、悪心・嘔吐は24% (5/21) であった。Grade 4の有害事象は1例も認められず、間質性肺炎 (ILD) の報告もなかった。エルロチニブ治療による毒性関連の投与中止は、Grade 3の嘔吐により1例 (4.8%) のみであり、全体的に忍容性は良好であった。Grade 3の皮疹により1例で減量が必要となった。この毒性プロファイルは、ゲフィチニブ既投与例でエルロチニブへの切り替えが安全に実施できることを示した。

バイオマーカー解析と臨床アウトカム: EGFR変異は、利用可能な17検体中5検体 (29.4%) で検出され、全てエクソン19の欠失変異であった。EGFR変異の有無は、エルロチニブに対するDCR (EGFR変異陽性群20.0% (1/5) vs 非変異群33.3% (4/12)) やORR (EGFR変異陽性群0% (0/5) vs 非変異群16.7% (2/12)) との間に明確な相関は認められなかった。しかし、バイオマーカー結果が利用可能な17例中、EGFR非変異でゲフィチニブ治療中にSDを達成した患者 (n=3) では、DCRが100% (3/3) (非SDかつ/またはEGFR変異患者群21.4% (3/14) と比較してp=0.029)、ORRが66.7% (2/3) (非SDかつ/またはEGFR変異患者群0% (0/14) と比較してp=0.022) と有意に高かった。さらに、これらの患者はPFS中央値 (150日 vs 34日; p=0.004) およびOS中央値 (未到達 vs 120日; p=0.112) も長い傾向を示した。 21例中1例 (EGFR変異陽性でゲフィチニブに奏効した患者) で、疾患進行後に腫瘍組織の再生検が行われ、肝転移組織の変異解析により、エクソン19欠失変異に加えて二次的なT790M変異が検出された。この患者はその後のエルロチニブ治療で進行を認めた。

考察/結論

本研究は、ゲフィチニブ治療後に進行した進行NSCLC患者に対するエルロチニブの有効性と安全性を評価した初の第II相試験である。全体としての病勢コントロール率 (DCR) は28.6%と限定的であったが、これは同一作用機序の薬剤間でのクロス耐性が広範に存在することを示唆する。しかし、先行研究と異なり、本研究では特にゲフィチニブ治療中に安定病変 (SD) を達成した患者において、エルロチニブが有意に高いDCR (75% vs 17.6%, p=0.050) およびORR (50.0% vs 0%, p=0.029) を示すという注目すべきサブグループ結果を明らかにした。この所見は、ゲフィチニブSD例では腫瘍のEGFR経路依存性が完全には消失しておらず、エルロチニブの高い血中濃度や異なる薬理学的プロファイルによって一定の疾患制御が維持される可能性という仮説を支持する。エルロチニブはゲフィチニブよりも高濃度で野生型EGFRを阻害する能力が高い可能性が指摘されており、これがゲフィチニブSD患者における感受性維持の一因である可能性も考えられる。

新規性として、本研究で初めて、ゲフィチニブ治療中の最良効果が、その後のエルロチニブ治療に対する予測因子となり得ることを示唆した。特に、EGFR非変異でゲフィチニブSDを達成した患者群では、エルロチニブに対するDCRが100%と極めて高く、PFSおよびOSも長い傾向が観察された。これは、これらの患者群における腫瘍が、ゲフィチニブ耐性後も野生型EGFRへの依存性を維持している可能性を示唆する。

臨床応用の観点から、本知見は、ゲフィチニブ治療後に進行した患者群の中でも、特にゲフィチニブでSDを達成した患者、および野生型EGFRを有する患者において、エルロチニブが潜在的な治療選択肢となり得ることを示唆する。これは、当時の治療選択肢が限られていた状況において、患者層を層別化し、より効果的な治療を特定する上で重要な臨床的意義を持つ。しかし、ゲフィチニブに奏効したEGFR変異陽性患者がエルロチニブに反応しなかったことは、T790Mなどの二次耐性変異の発生によるクロス耐性を示唆しており、これはKobayashi et al. NEnglJMed 2005などの報告と一致する。

残された課題として、本研究は単施設での実施であり、症例数が少ない (n=21) ため、結果の一般化には限界がある。特に、ゲフィチニブSD群の症例数 (n=4) が極めて少なく、統計的比較には限界があった。また、EGFR変異解析が全患者で実施されたわけではなく、T790M変異などの詳細な耐性メカニズムの解析も限定的であった。今後の検討課題として、より大規模なコホートでの検証、ゲフィチニブ耐性メカニズム(特にT790M変異やKRAS変異など)とエルロチニブ奏効との詳細な関連性の解明、および異なるEGFR-TKI間の逐次投与戦略の最適化が挙げられる。現代の文脈では、第一・二世代EGFR-TKI間のクロス耐性は確立されており、T790M陽性例に対する第三世代TKI (オシメルチニブ) の登場により、同一世代TKI内での逐次投与の位置付けは低下したが、本研究のSD例での感受性維持という観察は、TKI耐性の不均一性を示す先見的知見として歴史的価値がある。

方法

本研究は、ゲフィチニブ治療後に進行した進行非小細胞肺がん (NSCLC) 患者を対象とした単群、非盲検、多施設共同第II相試験である。韓国の単一施設で実施され、合計21名の患者が登録され、全例が評価可能であった。

患者選択基準: 18歳以上の再発または転移性NSCLC患者で、2〜3レジメンの先行化学療法を受け、ゲフィチニブ治療中止後4ヶ月以内に疾患進行を認めた者が対象とされた。測定可能病変が少なくとも1つ存在し、ECOGパフォーマンスステータスが0〜3、余命が3ヶ月以上、かつ十分な臓器機能(WBC ≥ 3,000/μL、血小板 ≥ 100,000/μL、ヘモグロビン ≥ 9.0 g/dL、血清クレアチニン ≤ 1.5 × ULN、ビリルビン ≤ 1.25 × ULN、血清アミノトランスフェラーゼ ≤ 2.5 × ULN)を有することが求められた。先行治療の未解決の慢性毒性、他の活動性悪性腫瘍、制御不能な脳転移、または重篤な併存疾患を有する患者は除外された。

治療プロトコル: 患者にはエルロチニブ150 mg/日を、疾患進行または許容できない毒性が発現するまで経口投与した。150 mgから100 mgへの1回の減量が許容された。エルロチニブの投与は最大21日間中断可能であった。

評価項目: 主要評価項目は、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) 基準に基づく病勢コントロール率 (DCR; 完全奏効 (CR) + 部分奏効 (PR) + 安定病変 (SD) が90日以上持続) であった。副次評価項目として、奏効率 (RR; CR + PR)、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、および安全性(NCI Common Toxicity Criteria version 2.0に基づく有害事象の評価)が設定された。治療効果の評価は、CTスキャンにより4週間ごとに繰り返された。

患者背景: 登録患者21名の内訳は、中央年齢56歳、女性52.4% (n=11)、腺癌71.4% (n=15)、非喫煙者52.4% (n=11) であった (Table 1)。先行化学療法レジメン数は2レジメンが47.6% (n=10)、3レジメンが52.4% (n=11) であった (Table 2)。ゲフィチニブ治療中の最良効果は、PRが28.6% (n=6)、SDが19.0% (n=4)、PDが52.4% (n=11) であった。

バイオマーカー解析: 可能な限り腫瘍組織検体からEGFR (エクソン18〜21)、KRAS (エクソン2、コドン12/13)、およびp53 (エクソン5〜8) の遺伝子変異解析が実施された。EGFR変異は、利用可能な17検体中5検体 (29.4%) で検出され、全てエクソン19の欠失変異であった。KRAS変異は検出されなかった。

統計解析: サンプルサイズはSimonの2段階MiniMaxデザインを用いて決定された。DCRが40%であれば有用性を示唆し、15%を下限とした。α=0.05、β=0.2で、目標登録患者数は19名と推定され、追跡不能率10%を考慮し、合計21名が登録された。DCRおよびRRの比較にはFisherの正確確率検定が用いられた。生存期間の分布はKaplan-Meier法で推定され、PFSおよびOSの比較にはログランク検定が用いられた。本試験はNCT00465360として登録された。