• 著者: Eiki Ichihara, et al. (Okayama University Hospital, Okayama, Japan)
  • Corresponding author: Eiki Ichihara (Department of Allergy and Respiratory Medicine, Okayama University Hospital)
  • 雑誌: Lung Cancer
  • 発行年: 2019
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article (Retrospective)
  • PMID: 31097094

背景

Osimertinibは第三世代EGFR (epidermal growth factor receptor) チロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) として、EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺癌 (NSCLC) において極めて重要な役割を果たしている。特に、第一世代または第二世代EGFR-TKIによる治療後にT790M耐性変異を獲得した症例に対する二次治療としての有効性が、AURA3試験 (Yang et al. JClinOncol 2017) により示され、さらに未治療の進行期症例に対する一次治療としての優位性もFLAURA試験 (Soria et al. NEnglJMed 2018) によって確立された。しかし、これらの強力な薬剤を使用しても、患者は最終的に獲得耐性を来すことが知られている。耐性機序は多様であり、EGFR依存性の機序としてC797S変異の出現 (Thress et al. NatMed 2015) や、EGFR非依存性のバイパス経路活性化 (Piotrowska et al. CancerDiscov 2018)、小細胞肺癌への組織型転換 (Sequist et al. SciTranslMed 2011) などが報告されている。

osimertinibに対する獲得耐性後の治療戦略として、現在は殺細胞性抗がん剤による化学療法が標準治療とされているが、その効果は限定的であり、新たな治療選択肢の確立が望まれている。過去に第一世代EGFR-TKIであるgefitinibやerlotinibにおいては、耐性獲得後に化学療法などの治療期間 (drug holiday) を挟んで同薬を再投与 (rechallenge) することにより、一定の臨床的効果が得られることが報告されていた (Oh et al. LungCancer 2012)。しかし、第三世代EGFR-TKIであるosimertinibの獲得耐性後における再投与の有効性や安全性については、これまで臨床データが極めて不足しており、その臨床的意義は未解明のままであった。osimertinib獲得耐性後の再投与が、腫瘍内の不均一性 (heterogeneity) や感受性クローンの再増殖に基づいて有効に機能するかどうかを検証することは、治療選択肢が制限された臨床現場における重要な課題である。このように、osimertinib獲得耐性後の再投与に関する臨床データは著しく不足しており、その有効性を実証するための詳細な検討が急務とされている。

目的

本研究の目的は、osimertinibによる治療後に獲得耐性を来したEGFR遺伝子変異陽性の進行NSCLC患者を対象として、後続の化学療法などの治療を挟んだ後にosimertinibを再投与 (re-administration) した際の臨床的有効性および安全性を後方視的に評価することである。具体的には、客観的奏効率 (ORR: objective response rate)、病勢コントロール率 (DCR: disease control rate)、無増悪生存期間 (PFS: progression-free survival)、および全生存期間 (OS: overall survival) を明らかにする。さらに、初回osimertinib治療時の腫瘍縮小効果と再投与時における腫瘍縮小効果との相関関係を解析し、どのような患者群において再投与が有効であるかを予測するための指標を探索することを目的とする。

結果

患者背景と前治療のプロファイル: 解析対象となった17例の患者背景は、年齢中央値68歳 (範囲: 43-78歳)、男性6例、女性11例であった。ECOG PS (Eastern Cooperative Oncology Group performance status) はPS 0が3例、PS 1が8例、PS 2が4例、PS 3が2例であった。組織型は全例が肺腺癌であり、EGFR遺伝子変異のプロファイルは、エクソン19欠失 (ex19 del) + T790M変異が9例、エクソン21 L858R変異 + T790M変異が8例であった (Table 1)。初回osimertinib治療におけるPFS中央値は7.8ヶ月 (範囲: 0.9-9.9ヶ月) であった。ここで、標準治療としてのオシメルチニブの歴史的データを振り返ると、一次治療としての有効性を検証したFLAURA試験においては、オシメルチニブ群は標準治療群と比較して、PFS中央値が 17.2 vs 8.5 months (HR 0.46, 95% CI 0.37-0.57, p<0.001) と有意な延長を示している。また、二次治療としての有効性を示したAURA3試験においては、オシメルチニブ群のPFS中央値は化学療法群と比較して 10.1 vs 4.4 months (HR 0.30, 95% CI 0.23-0.41, p<0.001) であった。本研究の17例における初回osimertinib中止から再投与開始までの期間 (インターバル期間) の中央値は5.9ヶ月 (範囲: 0.6-19.0ヶ月) であり、この間に挟んだ後続治療レジメン数の中央値は1 (範囲: 1-4) であった。後続治療として、13例 (76%) がプラチナダブレット (白金製剤併用化学療法) およびドセタキセル (DOC: docetaxel) ±ラムシルマブ (RAM: ramucirumab) の投与を受け、4例 (24%) が免疫チェックポイント阻害薬 (ICI: immune checkpoint inhibitor) の投与を受けていた (Table 1)。

osimertinib再投与における臨床的有効性と生存期間: 測定可能病変を有する15例における客観的奏効率 (ORR) は33% (5/15例、すべて部分奏効 [PR: partial response]) であり、病勢コントロール率 (DCR) は73% (11/15例、PR 5例 + 安定 [SD: stable disease] 6例) であった (Table 2)。残る4例 (27%) は病勢進行 (PD) であった。測定可能病変を持たない癌性髄膜炎の2例のうち1例において、osimertinib再投与後に頭痛や悪心などの臨床症状の明らかな改善が認められ、全体として17例中12例 (71%) が再投与による臨床的ベネフィットを得た (Fig. 1A)。全17例における再投与後のPFS中央値は4.1ヶ月 (95% CI: 1.9-6.7ヶ月) であった (Fig. 1B)。また、全生存期間 (OS) の中央値は9.0ヶ月 (95% CI: 7.1-未到達 [not reached]) であった (Fig. 1C)。

初回治療と再投与時における腫瘍縮小効果の相関関係: 測定可能病変を有する15例において、初回osimertinib治療時の最大腫瘍縮小率と、再投与時における最大腫瘍縮小率との関連性を評価した (Fig. 2A)。散布図を用いた相関解析の結果、初回治療時の腫瘍縮小率と再投与時の腫瘍縮小率との間には中等度の正の相関関係が認められた (相関係数 r=0.585, 95% CI: 0.104-0.844, p=0.022) (Fig. 2B)。初回治療時に深い腫瘍縮小 (深い奏効) を示した患者ほど、再投与時においても良好な腫瘍縮小を示す傾向が確認された。一方で、初回osimertinib治療のPFS、インターバル期間の長さ、およびインターバル期間中の治療レジメン数は、再投与時の有効性 (PFSや腫瘍縮小率) と有意な関連を示さなかった。

再投与時における安全性と有害事象のプロファイル: osimertinib再投与における有害事象 (AE) は全体として軽度であり、極めて良好な耐薬性を示した (Table 3)。Grade 3以上の有害事象は、がん自体の進行に起因すると判断されたGrade 3の血小板減少症が1例 (6%) およびGrade 3の静脈血栓症が1例 (6%) に認められたのみであった。治療関連死や、有害事象によるosimertinibの投与中止、減量を必要とした症例は存在しなかった。主な有害事象は、下痢 (6%)、口内炎 (12%)、食欲不振 (6%)、皮疹 (12%)、末梢神経障害 (6%)、好中球減少症 (12%)、貧血 (6%)、AST/ALT上昇 (12%) などであり、そのほとんどがGrade 1または2 of 軽度なものであった (Table 3)。特筆すべき点として、初回osimertinib治療時に全体で7.0% (4/57例) に認められた薬剤性肺障害 (間質性肺炎) は、再投与時には1例も発生しなかった。これは、初回治療時に肺障害を発症しなかった安全な症例のみが再投与の対象となったためと考えられた。

考察/結論

本研究は、osimertinib獲得耐性後に化学療法などの後続治療を挟んで同薬を再投与する治療戦略の臨床的有効性と安全性を、世界で初めて系統的に示した後方視的解析である。

先行研究との違い: 過去に第一世代または第二世代EGFR-TKIで行われた再投与の研究 (Oh et al. LungCancer 2012) と異なり、本研究は第三世代EGFR-TKIであるosimertinibに対する獲得耐性例に焦点を当てている。第一世代TKIの再投与におけるPFS中央値が2.0-3.4ヶ月であったのに対し、本研究におけるosimertinib再投与のPFS中央値は4.1ヶ月 (95% CI: 1.9-6.7ヶ月) であり、これまでの報告と同等以上の良好な病勢制御効果が示された。

新規性: 本研究で初めて、初回osimertinib治療時の最大腫瘍縮小率と再投与時の腫瘍縮小率との間に有意な中等度の正の相関 (r=0.585) が存在することを新規に明らかにした。これは、初回治療時にosimertinib感受性の高いクローンを多く含んでいた腫瘍ほど、獲得耐性後の化学療法期間中に耐性クローンが淘汰され、再投与時に再びosimertinib感受性クローンが優位に再増殖するという腫瘍内不均一性の仮説を支持する重要な知見である。

臨床応用: 本知見は、osimertinib獲得耐性後の治療選択肢が極めて限定されている臨床現場において、再投与が実用的な救済治療になり得るという臨床的有用性を示している。特に、全身状態 (PS) が良好に維持されており、初回osimertinib治療時に深い奏効 (深い腫瘍縮小) が得られた患者群に対して、化学療法後の後方ラインでosimertinibを再投与することは、生存期間のさらなる延長に寄与する可能性があり、臨床応用に直結する。また、高い中枢移行性を有するosimertinibの特性を活かし、癌性髄膜炎などの脳転移増悪例に対しても再投与が有効な選択肢となることが示唆された。

残された課題: 今後の課題として、本研究が単一施設における17例という極めて小規模な後方視的解析であるというlimitationが挙げられる。また、対象患者がT790M陽性二次治療後のosimertinib耐性例に限定されており、現在の臨床現場の主流である一次治療としてのosimertinib (Soria et al. NEnglJMed 2018) の耐性例における再投与の有効性は未確立である。さらに、再投与開始前における再生検やリキッドバイオプシーを用いた耐性遺伝子 (C797S変異の有無など) の評価が行われておらず、再投与が有効な分子生物学的サブグループの同定が今後の重要な研究方向性である。

方法

本研究は、2016年6月から2018年4月までに岡山大学病院 (Okayama University Hospital) においてosimertinibによる治療を受けた進行期または再発EGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者57例の医療記録を後方視的に調査した単一施設の後方視的コホート研究 (retrospective cohort study) である。このうち、osimertinib治療後に画像上または臨床的に病勢進行 (PD: progressive disease) が確認され、その後1レジメン以上の後続治療 (化学療法など) を挟んだ後にosimertinibの再投与を受けた17例を解析対象とした。なお、有害事象による一時中止後の再開例は除外した。本研究は特定の臨床試験登録番号 (NCT番号) は持たないが、岡山大学病院の倫理委員会の承認を得て実施された。なお、対比として言及するFLAURA試験 (NCT02296138) やAURA3試験 (NCT02151067) の知見も参考とした。

腫瘍の応答評価は、測定可能病変を有する15例において、RECIST (Response Evaluation Criteria for Solid Tumors) バージョン1.1基準に基づいてコンピュータ断層撮影 (CT) 画像を用いて評価した。測定可能病変を持たない癌性髄膜炎の2例については、臨床症状の変化によって効果を評価した。安全性および有害事象 (AE: adverse event) の評価には、CTCAE (Common Terminology Criteria for Adverse Events) バージョン4.0を使用した。

統計学的解析において、主要評価項目 (primary endpoint) であるPFSおよび副次評価項目 (secondary endpoint) であるOSの算出にはKaplan-Meier法を用い、生存曲線を作成した。群間の生存期間の比較や生存率の評価には log-rank test を用いた。また、予後因子の探索には Cox proportional hazards モデルを用いた。PFSは再投与開始日から病勢進行または死亡が確認された日までの期間、OSは再投与開始日から死亡が確認された日までの期間と定義した。初回投与時と再投与時における最大腫瘍縮小率の相関関係の評価には、ピアソン (Pearson) の相関係数および95%信頼区間 (CI: confidence interval) を算出した。