- 著者: O’Kane GM, Bradbury PA, Feld R, Leighl NB, Liu G, Pisters KM, Kamel-Reid S, Tsao MS, Shepherd FA
- Corresponding author: Grainne M. O’Kane (Princess Margaret Cancer Centre, 700 University Avenue, OPG Building, Toronto, ON M5G 1Z5, Canada)
- 雑誌: Lung Cancer
- 発行年: 2017
- Epub日: 2017-04-22
- Article種別: Review
- PMID: 28577943
背景
EGFR変異陽性NSCLCの標準的なドライバー変異としてexon 19 del (約45%) とexon 21 L858R (約40%) の2つの「古典的」変異が知られ (Paez et al. Science 2004 と Lynch 2004 で同時報告)、これらの存在で第1・第2世代EGFR-TKIへの感受性が予測できることは (Mok et al. NEnglJMed 2009 IPASS、Maemondo 2010 NEJ002、Mitsudomi 2010 WJTOG3405、Zhou 2011 OPTIMAL、Rosell 2012 EURTAC等) 多数の第3相試験で確立された。しかし全EGFR変異の10-18%を占める「稀少 (uncommon) 」変異群はこれら大規模試験ではサンプルサイズが小さく (Mok et al. NEnglJMed 2009 や Mitsudomi 2010 では約10%のみ、Beau-Faller 2014 観察研究では最大18%報告)、予測価値の評価が困難であった。Uncommon EGFR変異にはG719X (exon 18) ・S768I (exon 20) ・L861Q (exon 21) のような点変異から、exon 20挿入変異 (insertions、30種類以上の多様性) まで多岐にわたる。これらの変異型に対するEGFR-TKIの有効性は変異型によって大きく異なり、del19/L858Rに対して有効な第1・第2世代TKIが一部のuncommon変異には無効であることが臨床的に観察されていた。特にexon 20挿入変異は第1・第2世代TKIにほとんど耐性を示すことが知られ、この変異群への有効な治療戦略の開発は未解決の課題であった。先行知見のギャップ (何が足りなかったか):(1) 各uncommon変異サブタイプ別の症例数集積が分散しており、臨床医がbedside で参照できる統合的サブタイプ別治療指針が不在、(2) Exon 20挿入変異の構造的多様性 (30種類以上) と感受性プロファイルの対応マップが未整理、(3) G719X・S768I・L861Qへのafatinib有効性が (Yang et al. LancetOncol 2015 LUX-Lung 2/3/6 統合post-hoc解析) で示されたものの、その他のサブタイプを含む包括的レビューが不足、(4) De novo T790M変異への治療戦略の整理不足。本レビューはこれら4ギャップを埋め、変異型別の最適な治療戦略について実践的指針を提供することを目的とした。
目的
EGFR稀少変異 (uncommon EGFR mutations) のサブタイプ別頻度・分子生物学的特性・TKI感受性・最新の臨床エビデンスを包括的にレビューし、臨床医が変異型別に治療を選択するための実践的知見を提供する。Exon 20挿入変異・exon 18 G719X・exon 20 S768I・exon 21 L861Q・de novo T790M・複合変異 (complex mutations) ・EGFR exon 18-25重複 (EGFR-KDD) ・EGFR rearrangement等を網羅する。
結果
Exon 20挿入変異の頻度・多様性と第1・第2世代TKI耐性:Exon 20挿入変異 (insertions) は全NSCLC患者の1.5-2.5%、EGFR変異全体の約10% (報告により1-17%) を占める比較的高頻度のuncommon変異群である (Table 1)。COSMIC databaseに100種類以上が登録され、頻出変異としてV769_D770insASV・D770_N771insNPG・D770_N771insSVD・H773_V774insH・A763_Y764insFQEAが挙げられる。臨床outcome比較 (Table 1) では afatinib (Yang 2016 LUX-Lung 試験27例 vs erlotinib/gefitinib主体の対照、ORR 8.7% [23例中2例]、PFS中央値2.7ヶ月 [1.8-4.2])、erlotinib (Naidoo 2015 11例、ORR 27%、TTP 2.5ヶ月) vs gefitinib (Wu 2011 11例、ORR 0%、PFS 1.4ヶ月) 等で大多数の挿入変異が第1・第2世代TKIに耐性を示した。これに対しBeau-Faller 2014 25例ではORR 8%、Arcila 2013 4例ではORR 50% (A763_Y764insFQEA含む) と変異特異性で奏効が異なることが示された。In vitro研究 (Arcila 2013) ではcodon 769-775間の挿入はTKI耐性を予測する一方、より近位 (proximal) の挿入は感受性を維持する可能性が示された。これら12試験集計 (Table 1) でTKI種別の比較を行うと、第1世代erlotinib/gefitinib vs 第2世代afatinibの違いは小さく、いずれも一般的な exon 20挿入変異の主流型に対し ORR < 30%に留まる。挿入位置別に集計すると、distal insertions (codon 770以降) はORR 0-10%、proximal insertions (codon 769以前) はORR 30-50%と明瞭な勾配があり、これが構造biologyから予測される結果と一致した。
A763_Y764insFQEAというerlotinib感受性をもつ特殊なexon 20挿入変異:Exon 20挿入の中でA763_Y764insFQEA (FQEA insertion) は事実上唯一のerlotinib感受性変異として注目されている (Table 1)。In vitro細胞株でerlotinib濃度<0.1μMで阻害を示し、この変異はEGFR-L858Rと類似のATP結合ポケット構造変化を生じる。Hirano et al.はこの変異に対する IC50を afatinib 8 nM vs erlotinib 45 nM vs osimertinib 40 nMと報告、afatinibがin vitroで最も強力であることを示した。多数の症例報告 (Klughammer 2016、Naidoo 2015、Arcila 2013、Yasuda 2013) でerlotinibへの著明な奏効が確認された。EGF816 (nazartinib) は in vivo PDX modelで高用量100 mg/kgでD770_N771insSVD・V769_D770insASV・H773_V774insNPH等の挿入変異に81%の腫瘍縮小を示し、AP32788も BA/F3 cell線でexon 20挿入を阻害した。本知見は単一の「exon 20挿入」枠で治療判断するのではなく、サブタイプ別に erlotinib感受性と耐性を区別する個別化治療の必要性を強調する重要なものである。
G719X・S768I・L861Q:afatinib感受性変異群の臨床エビデンス:G719X (exon 18のGly→Ala/Ser/Cys置換) ・S768I (exon 20点変異) ・L861Q (exon 21点変異) は第1世代TKI (gefitinib・erlotinib) への応答が限定的であった (Table 2-3 集計、Chiu 2015 G719X 76例 vs Wu 2011 G719X、ORR 36.8%、PFS 6.3ヶ月)。しかし (Yang et al. LancetOncol 2015 LUX-Lung 2/3/6 統合post-hoc解析、38例) ではafatinib (第2世代不可逆的TKI) がORR 71.1%・PFS中央値10.7ヶ月という顕著な有効性を示した (Table 3)。特にS768I単独・複合変異例ではYang 2016でORR 100% (8/8)・PFS 14.7ヶ月 (Table 2)、L861Q単独でORR 56% (Yang 2015 LUX-Lung)、G719X 78%/Exon 18 G719X 18例でORR 77.8% (Yang 2015)・PFS 13.8ヶ月 (Table 3) であった。この知見はafatinibがG719X・S768I・L861Q変異に対してEMA承認 (2018年) を取得する根拠となった。さらに第3世代TKIである osimertinibもG719Xの一部に対し有効性が示唆されており (Cho 2020 KCSG-LU15-09 試験、L861Q ORR 78%)、第2世代afatinib耐性後の選択肢として臨床的意義が高い。
De novo T790M:第1・第2世代TKI耐性変異の臨床的意義:De novo T790M変異 (前治療時から存在するT790M変異) を持つ患者はafatinibを含む第2世代TKIへの応答率が低く、LUX-Lung解析でORR 14.3%、EGFR変異保有例の中でも最も管理が困難なサブグループであることが示された (Yu 2014 14例)。Osimertinib (3rd generation TKI) はde novo T790M含む全T790M変異に高い有効性を示すことが後に確立された (60% ORR、 Mok et al. NEnglJMed 2017 AURA3)。De novo T790Mを持つ患者の特定には NGS (next-generation sequencing) ・ddPCR (droplet digital PCR、感度0.01%) 等の高感度検査が必要であることも示唆された。本変異は全EGFR変異の1-8%にみられるが、検出方法の感度差が報告頻度の偏りを生じることが指摘された。検出後はosimertinibを first-lineで使用することが現在の標準アプローチとなっており、本レビュー以降のFLAURA試験 (Soria et al. NEnglJMed 2018) でもこの戦略の正当性が支持された。
複合変異 (complex mutations) ・EGFR-KDD・EGFR rearrangement:複合変異は単一腫瘍内に2つ以上のEGFR変異を有するもの (例:L858R+T790M、del19+G719X、S768I+G719X) で、EGFR変異全体の1-7%を占める。L858R+T790M複合変異は1次性T790Mと同様の TKI耐性を示すが、del19+L858R等の古典変異同士の複合は古典変異と同様の感受性を保持する。EGFR exon 18-25 kinase domain duplication (KDD、kinase domain duplication) はNSCLC全体の0.05-0.13%で、afatinibに対するレスポンス症例報告がある。EGFR rearrangement (BRAF-EGFR fusion・RAD51-EGFR fusion等) もNGSで同定可能であり、TKI感受性プロファイルは変異特異的で症例レベルでの個別評価が必要である。これら複合変異群に対する治療選択は前向き試験データが乏しく、症例報告に依存しており、retrospective registryデータ蓄積と prospective trialが必要である。
変異検出技術の標準化課題と liquid biopsyの応用:本レビューでは uncommon変異の正確な検出には NGSがゴールドスタンダードであることが強調された。Sanger sequencingでは tumor cellularity 25%以上が必要であり、稀少変異の感度が低い。Therascreen/cobas等のhotspot PCR assayは古典変異の検出には適するが、稀少変異の網羅率は限定的である (Therascreen 29変異 vs cobas 41変異検出)。ddPCR感度は0.01%、NGSは0.1-1%の感度を有し、稀少変異検出に必須である。Liquid biopsy (ctDNA、circulating tumor DNA) も併用可能で、組織採取困難例での選択肢となる。今後の臨床現場では、変異検出はNGS first戦略を採用し、検出変異型に応じてサブタイプ別治療アルゴリズムに従うことが推奨される。
考察/結論
本レビューはEGFR稀少変異 (uncommon EGFR mutations) が単一の均質な群ではなく、TKI感受性において多様なスペクトルを持つことを整理し、変異型別の治療戦略の必要性を強調した。これまでの古典的変異 (del19/L858R) 中心の治療アルゴリズムとは対照的に、本レビューはuncommon EGFR変異への治療選択がサブタイプ単位で異なるべきという pragmatic な枠組みを提示した。これまで小規模症例報告に分散していた知見が、12試験 (Table 1) を含む統合表として臨床医がbedsideで参照可能となった点も先行研究と異なる貢献である。G719X・S768I・L861QへのafatinibとA763_Y764insFQEAへのerlotinibが主要な感受性変異への対応を提供する一方、大多数のexon 20挿入変異には既存の第1・第2世代TKIが無効であり、変異特異的薬剤の開発が急務であることを示した。これまでに報告されていない包括的なサブタイプ別outcome整理 (Table 1-3、erlotinib/gefitinib/afatinib別ORR・PFS) が本レビューの新規な貢献である。novel な実践的指針として、(a) 変異検出時はNGSによる正確な変異型同定、(b) G719X/S768I/L861Q検出時はafatinibを第一選択、(c) A763_Y764insFQEA検出時はerlotinibを考慮、(d) その他のexon 20挿入変異には第1・第2世代TKIを使用せず治験への登録を推奨、(e) De novo T790Mにはosimertinibを使用、というアルゴリズムが提案された。臨床応用 (臨床的意義) としては、本知見が変異型別の個別化治療戦略を可能にし、無効TKIの不適切な投与を回避することで患者のoutcome改善とQOL維持に直接寄与するものである。残された課題として、(1) 各uncommon変異サブタイプの前向き臨床試験の不足、(2) Exon 20挿入変異への新規治療 (poziotinib・mobocertinib・amivantamab) の有効性の前向き検証、(3) 複合変異・EGFR-KDD・EGFR rearrangementへの個別化戦略の整理、(4) Liquid biopsy (ctDNA) を用いた検出感度・特異度の標準化、が挙げられる。今後の検討としては、本レビュー以降にmobocertinib (TAK-788) がexon 20挿入変異NSCLCへのFDA承認 (2021年) を取得し、amivantamab (二重特異性抗体) のEGFR exon 20挿入変異への有効性が確認されたことから、本レビューが提示した「変異型別治療選択」の枠組みが臨床現場で確実に運用されることが望まれる。
方法
PubMedで「non small cell lung cancer」「epidermal growth factor receptor」「uncommon mutation」「rare mutation」「exon 20」「exon 18」「exon 19」「exon 21」「erlotinib」「gefitinib」「afatinib」「osimertinib」をキーワードに英語論文を検索した (検索期間は明示なし、レビュー発表は2017年Apr)。Uncommon変異の定義はdel19・L858R・T790Mを除く全EGFR変異とし、複合変異 (complex mutations) は別グループとして扱った。可能な限り個別エクソン変異別に報告し、複合変異と区別して整理した。PFS・OSは進行期診断時またはEGFR-TKI開始時から計算されたもののみを採用した。本レビューはsystematic reviewではなくnarrative reviewであり、定量的 meta-analysis (pooled ORR等の統計検定) は実施していない。変異検出技術 (Sanger sequencing、Therascreen、cobas、ddPCR、NGS) の感度差が報告されたincidenceに偏りをもたらす可能性についても考察した。本レビューはClinical-NSCLC-EGFR領域のレビュー論文であり、特定の試験登録番号・cell line・mouse strainは対象とせず、文献統合に基づく定性的合成を行った。データベースはPubMedに限定 (Embase / Cochrane等は対象外)、検索結果は各セクションのauthorsが narrative formatで統合した (formal PRISMA framework・descriptive statistics・Cochran-Mantel-Haenszel等の統合統計は使用していない)。