• 著者: Song A, Kim TM, Kim DW, Kim S, Keam B, Lee SH, Heo DS
  • Corresponding author: Dong-Wan Kim (Department of Internal Medicine, Seoul National University Hospital, Seoul, Republic of Korea)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2015-02-16
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 25688157

背景

ROS1遺伝子再編成は非小細胞肺癌 (NSCLC) 全体の0.7〜1.7%に認められ、若年・非喫煙・腺癌に多い独立した分子サブタイプを形成する (Rikova et al. Cell 2007, Bergethon et al. JClinOncol 2012)。Crizotinib (クリゾチニブ) はALK/MET/ROS1を標的とするチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) であり、ROS1陽性NSCLCに対して客観的奏効率 (ORR) 72%、無増悪生存期間 (PFS) 中央値19.2か月という顕著な臨床有効性を示し (Shaw et al. NEnglJMed 2014)、標準治療として確立されつつあった。しかし、ALK陽性NSCLCにおけるクリゾチニブ耐性と同様に、ROS1陽性腫瘍の大多数は最終的にクリゾチニブに対する獲得耐性を発症することが知られている。

ALK陽性NSCLCにおいては、L1196M (ゲートキーパー変異)、G1202R (溶媒フロント変異)、C1156Yなどの複数のALK二次変異や、EGFR/KITなどのバイパス経路活性化が耐性機序として解明されていた (Katayama et al. SciTranslMed 2012)。ROS1においては、Awad et al. (NEJM 2013) がCD74-ROS1陽性患者のクリゾチニブ耐性腫瘍でROS1 G2032R変異 (溶媒フロント変異であり、ALK G1202Rと類似位置) を初めて報告した。また、Davies et al. (PLoS One 2013) はSDC4-ROS1陽性患者でEGFR経路活性化が耐性に関与することを報告していた。しかし、2015年時点ではROS1耐性機序の全体像は非常に限定的な知識しかなく、複数の機序が同一患者集団内でどのように分布するかは未解明であった。特に、ALK耐性で報告されていたような多様な二次変異やバイパス経路の網羅的な解析は不足しており、ROS1再編成陽性NSCLCにおけるクリゾチニブ獲得耐性の分子メカニズムの異質性や、それに対する克服戦略は十分に確立されていなかった。

本研究は、CD74-ROS1再編成陽性患者2例の臨床耐性腫瘍サンプルと、SLC34A2-ROS1陽性細胞株HCC78から樹立したin vitro耐性モデル (HCC78CR1/2/3) を用い、ROS1陽性NSCLCのクリゾチニブ獲得耐性機序を網羅的に解析し、その異質性を明らかにするとともに、各耐性機序に対する克服戦略を探索することを目的として実施された。この研究は、ROS1再編成NSCLCにおけるクリゾチニブ耐性メカニズムに関する知識のギャップを埋めることを目指したものである。

目的

ROS1陽性NSCLCにおけるクリゾチニブ獲得耐性の分子機序を、以下の2つのアプローチを用いて系統的に解析し、その異質性 (heterogeneity) を明らかにするとともに、各耐性機序に対する克服戦略を探索することである。

  1. 臨床検体を用いた解析: CD74-ROS1陽性患者2例の前治療およびクリゾチニブ耐性後の腫瘍検体(全エクソームシーケンス (WES) およびRNAシーケンス (RNA-seq) を含む)を比較解析する。
  2. in vitro耐性モデルを用いた解析: SLC34A2-ROS1陽性HCC78細胞から段階的なクリゾチニブ曝露によって樹立した3クローンのin vitro耐性モデル (HCC78CR1, CR2, CR3) を用いて、分子レベルでの耐性メカニズムを詳細に解明する。

具体的には、ROS1キナーゼドメインの二次変異の同定、EGFR経路の活性化の評価、上皮間葉転換 (EMT) の関与の検討、およびこれらの耐性機序に対する薬剤感受性の評価を通じて、ROS1再編成NSCLCにおけるクリゾチニブ耐性克服のための個別化治療戦略の基盤を確立することを目指した。

結果

患者1 (CD74-ROS1) におけるROS1 G2032R変異の同定: CD74-ROS1再編成を有する患者1のクリゾチニブ耐性腫瘍 (右卵巣転移) のSanger sequencing解析により、ROS1 c.6094G→A変異 (p.Gly2032Arg; G2032R) が耐性腫瘍クローンの100%に同定された (Fig. 1B)。前治療腫瘍組織ではこの変異は検出されず、クリゾチニブ治療により選択された獲得変異と判断された。G2032R変異はROS1キナーゼドメインの溶媒フロント (solvent front) 領域に位置し、ALK G1202Rと構造的に類似した位置である。この変異は、クリゾチニブのアデニンポケット結合に立体障害を与え、結合親和性 (Kd) を大幅に低下させる機序と考えられた。この結果は、Awad et al. (NEJM 2013) の報告を独立して確認するものであった。

HCC78CR1/2細胞における新規ROS1 L2155S変異の同定: in vitro耐性モデルのHCC78CR1とHCC78CR2細胞では、Sanger sequencing解析によりROS1 c.6464T→C変異 (p.Leu2155Ser; L2155S) が同定された (Fig. 2B)。HCC78CR1では73.3%のcDNAクローン、HCC78CR2では76.2%のクローンにL2155S変異が保有されていた。X線結晶構造解析では、ROS1 L2155S変異のPseudo ΔΔG値は-5.76 kcal/molと算出され、タンパク質構造を高度に不安定化し、立体構造変化を引き起こすことが予測された (Fig. 2C)。この変異は当時ROS1耐性変異として未報告の新規変異であり、ALK類似変異 (ALK F1323) は既知の変異誘発スクリーニングでは同定されていなかった。L2155S変異を有するBa/F3細胞 (CD74-ROS1 L2155S) は、クリゾチニブ (IC50 > WT比約130倍)、TAE684、およびforetinibの全てに対して耐性を示した (Fig. 3A, B, C)。

耐性細胞のIC50比較とクリゾチニブ交叉耐性プロファイル: In vitro増殖アッセイでは、HCC78CR1/2/3細胞はいずれも親株HCC78に比べてクリゾチニブIC50が少なくとも8倍以上高値を示した (HCC78 IC50 82.0±9.75 nmol/L; HCC78CR1 IC50 2163.9±454.8 nmol/L; HCC78CR2 IC50 718.4±79.5 nmol/L) (Fig. 2A)。Ba/F3細胞でのCD74-ROS1変異体比較では、G2032R変異体はWTと比較して約128倍の耐性を示した (IC50 = 353.64±20.15 nmol/L vs WT IC50 = 2.76±0.82 nmol/L)。G2032R変異体はforetinibに感受性を示したが、L2155S変異体はforetinibにも耐性を示した。また、ROS1 G2032R、L2155S、L2026M (ゲートキーパー類似)、G2101A (ALK G1269A類似) の各変異体はいずれもクリゾチニブに耐性を示し、G2101A (10倍) とL2026M (38倍) は中等度の耐性、G2032RとL2155Sは高度の耐性であった (Fig. 3A)。

HCC78CR3細胞におけるEGFR経路活性化: ROS1変異を有さないHCC78CR3細胞では、Phospho-RTKアレイとEGFR Signaling Antibody Arrayにより、p-EGFR (Thr669・Tyr1068)、p-MEK1/2 (Ser217/221)、p-PLCγ1 (Ser1248)、p-ERK1/2 (Thr202/Tyr204) のHCC78比較で有意な亢進が認められた (Fig. 4A)。RNA-seqではEGFR発現量がHCC78CR3でHCC78の2.6倍に増加し、EGFRリガンドのHB-EGF (heparin-binding EGF) も2.4倍の亢進が認められた (Supplementary Table S4)。ROS1変異なし、KRAS変異なし、EGFR変異なしを確認した上で、EGFR経路活性化がバイパス耐性機序として機能することが示された。可逆的EGFR TKI (gefitinib) と抗EGFR抗体 (cetuximab) はHCC78CR3に無効であったが (Supplementary Fig. S6)、不可逆EGFR TKI (dacomitinib・afatinib) はHCC78CR3に対して単剤でIC50低値を示し、クリゾチニブとの相乗効果も確認された (HCC78CR3: dacomitinib + crizotinib vs dacomitinib単剤で相乗的増殖抑制) (Fig. 4B, C)。

EMT (上皮間葉転換) の関与: 患者2のクリゾチニブ耐性腫瘍検体 (WESにより追加のROS1/EGFR/ALK/KRAS/MET変異なし) では、E-cadherinの消失とvimentin発現の維持または増加が認められ、EMT的変化が確認された (Fig. 5A)。同様に、HCC78CR1/2細胞ではvimentin、fibronectin、α-smooth muscle actinの増加とE-cadherinの消失、および紡錘形形態変化 (spindle-shaped morphology) が観察された (Fig. 5B, C)。HCC78CR3細胞ではEMT変化は認められず、クローン間で耐性機序が明確に異なることが示された。パスウェイ濃縮解析 (MSigDB + Fisher検定) では、HCC78CR3ではEGFR経路濃縮が認められ、EMTシグネチャはなかった。一方、HCC78CR1/2ではEMT所見があり、EGFR亢進はなかったことから、分子レベルで互いに排他的な耐性パターンを示した (Supplementary Table S5)。

考察/結論

本研究は、ROS1陽性NSCLCにおけるクリゾチニブ獲得耐性機序の異質性を初めて包括的に示した論文であり、臨床検体とin vitroモデルを組み合わせた多面的解析により3種類の耐性機序 (ROS1二次変異、EGFR活性化、EMT) を同定した。

先行研究との違い: Awad et al. (NEJM 2013) が初報告したG2032R変異を本研究が独立して確認したことに加え、新規ROS1 L2155S変異、HCC78CR3細胞でのEGFR活性化、患者2でのEMT変化という3種類の異なる耐性機序を単一の研究で示した点に最大の独自性がある。これは、これまでのROS1耐性研究が個別の機序に焦点を当てていたのと対照的である。特にL2155S変異はクリゾチニブ、TAE684、foretinib全てへの耐性を示す「pan-resistant」プロファイルを持ち、当時報告がなかった難治性変異として重要である。一方で、ALK耐性との類似性 (G2032R ≒ ALK G1202R、L2026M ≒ ALK L1196Mゲートキーパー、G2101A ≒ ALK G1269A) が示されたことで、ROS1とALKが構造的・機能的にパラレルな耐性機序を共有することが確認された。

新規性: 本研究で初めて、ROS1キナーゼドメインの新規L2155S変異を同定し、その機能的意義をin vitroで示した。この変異は、既報のROS1変異とは異なる薬剤感受性プロファイルを有し、ROS1阻害薬に対する広範な耐性を示す可能性が示唆された。また、EGFR経路の活性化がROS1変異を伴わない耐性機序として機能すること、およびEMTが別の耐性機序として関与することを、臨床検体とin vitroモデルの両方で明確に示した点は新規性が高い。

臨床応用への示唆: 本研究の知見は、クリゾチニブ耐性後の治療戦略の個別化の重要性を示唆する。 (1) G2032R変異にはforetinib等のマルチターゲット阻害薬が有効である可能性が示された。この知見は、その後lorlatinib (ROS1/ALK阻害薬、G2032R活性あり) やrepotrectinib (G2032R克服を意識して設計された次世代ROS1 TKI) などの次世代ROS1 TKIの開発に繋がっていった。 (2) EGFR活性化耐性には不可逆EGFR TKI (afatinib・dacomitinib) 単剤またはクリゾチニブ併用が有効であり、これはEGFR-ROS1コアクティベーション患者での併用戦略の根拠となった。 (3) EMTを伴う耐性パターンは分子的ターゲットを持ちにくく、後続研究でのEMT逆転戦略 (HDAC阻害薬等) の必要性を示唆した。本研究が示した耐性後の生検・分子解析によるpersonalized治療選択の重要性は、現在のROS1陽性NSCLC治療ガイドラインにも反映されている。これらの知見は、ROS1再編成NSCLC患者の臨床現場における治療選択に大きな影響を与える。

残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationが残されている。 (1) 臨床患者数が2例のみと少なく、各耐性機序の頻度や臨床的重要性を統計的に評価できなかった。現在の大規模後ろ向き研究 (PROFILE 1001後継など) では複合的な耐性機序の頻度分布が明らかにされつつある。 (2) L2155S変異の臨床症例は本報告後もほとんど報告されておらず、患者レベルでの臨床的意義は依然不明確である。 (3) 本研究では検討されなかった耐性機序 (METアンプリフィケーション、KRAS変異、CD74-ROS1以外の融合型の変異パターン差異) が後の研究で追加同定されており、ROS1耐性景観はさらに複雑であることが判明している。 (4) EMTによる耐性の可逆性や治療標的としての評価は未解決であり、現在もROS1耐性研究の重要課題として残されている。今後の研究では、これらの残された課題を解決し、ROS1再編成NSCLCの耐性克服に向けたさらなる進展が期待される。

方法

患者コホートと腫瘍サンプル: 本研究は、クリゾチニブ第I相試験 (ClinicalTrials.gov識別子: NCT00585195) に登録されたROS1再編成陽性NSCLC患者2例から得られた腫瘍組織を用いて実施されたレトロスペクティブコホート研究である。患者1は46歳女性・非喫煙者で、術後再発後にクリゾチニブ (250 mg 1日2回) を投与され、12か月で進行性疾患 (PD) を認めた。ROS1 FISH陽性率は86% (> 15%のカットオフ) であった。患者2は50歳女性・非喫煙者で、ステージIV腺癌に対しクリゾチニブを開始後5か月で脳転移増悪を認めた。ROS1 FISH陽性率は70%であった。患者1ではパラフィン包埋術後組織と耐性後新鮮腫瘍組織、患者2では前治療および耐性後新鮮腫瘍組織が用いられた。患者2の検体では、正常血液と前治療・耐性後腫瘍組織の全エクソームシーケンス (WES: Illumina Nextera) による比較解析を実施した。

in vitro耐性モデルの樹立: HCC78細胞 (SLC34A2-ROS1融合陽性) を、クリゾチニブ100 nmol/Lから開始し、最終的に1 μmol/Lまで6か月かけて漸増曝露することで、3種の耐性クローン (HCC78CR1, HCC78CR2, HCC78CR3) を樹立した。各クローンは短鎖タンデムリピート (STR) 解析によりDNA認証された (Supplementary Table S1)。HCC78CR1/2/3の細胞増殖IC50を親株HCC78と比較した。

分子解析手法: ROS1キナーゼドメインの二次変異は、患者腫瘍組織およびHCC78CR細胞株から抽出したcDNAのダイレクトシークエンス (Sanger法) により同定された。同定されたCD74-ROS1変異体は、レトロウイルスベクターを用いてBa/F3細胞に導入され、クリゾチニブ、foretinib (フォレチニブ)、およびTAE684に対する増殖抑制効果がCCK-8 (Cell Counting Kit-8) アッセイ (72時間) で評価された。リン酸化受容体型チロシンキナーゼ (Phospho-RTK) アレイ (R&D Systems Human Phospho-RTK Array Kit) およびEGFRシグナル伝達抗体アレイ (Cell Signaling PathScan EGFR Signaling Antibody Array Kit) を用いて、EGFR経路の活性化が評価された。RNA-seqはHCC78とHCC78CR3細胞間で実施され、MSigDBとFisher検定を用いてパスウェイ濃縮解析が行われた。上皮間葉転換 (EMT) の評価には、E-cadherin、vimentin、fibronectin、α-smooth muscle actinのウェスタンブロットおよび免疫組織染色が用いられた。

薬剤感受性評価: Foretinib (ROS1/MET/VEGFR2マルチターゲット阻害薬)、dacomitinib (ダコミチニブ、不可逆的EGFR/HER2 TKI)、afatinib (アファチニブ、不可逆的EGFR/HER2 TKI)、gefitinib (ゲフィチニブ、可逆的EGFR TKI)、cetuximab (セツキシマブ、抗EGFR抗体) の単剤およびクリゾチニブとの併用療法におけるHCC78およびHCC78CR1-3細胞の増殖抑制IC50が比較された。これらの薬剤はSelleck Chemicalsから購入された。