- 著者: Lin JJ, Choudhury NJ, Yoda S, Zhu VW, Johnson TW, Sakhtemani R, Dagogo-Jack I, Digumarthy SR, Lee C, Do A, Peterson J, Prutisto-Chang K, Malik W, Hubbeling HG, Langenbucher A, Schoenfeld AJ, Falcon CJ, Temel JS, Sequist LV, Yeap BY, Lennerz JK, Shaw AT, Lawrence MS, Ou SHI, Hata AN, Drilon A, Gainor JF
- Corresponding author: Justin F. Gainor (Massachusetts General Hospital, Boston, MA, USA)
- 雑誌: Clinical Cancer Research
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-03-08
- Article種別: Original Article
- PMID: 33685866
背景
ROS1融合遺伝子陽性非小細胞肺癌(NSCLC)は、ROS1チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)に高い感受性を示す独特な分子サブタイプである。初期治療の標準はcrizotinibまたはentrectinibであり、特にcrizotinibはROS1融合陽性肺癌の第I相拡大コホートにおいて、客観的奏効率(ORR)72%、無増悪生存期間(PFS)中央値19.2ヶ月という顕著な有効性を示した Shaw et al. NEnglJMed 2014。entrectinibもまた、統合解析においてORR 77%、PFS中央値19ヶ月という有効性が示され、承認されている Drilon et al. LancetOncol 2020。しかし、これらのTKI治療にもかかわらず、ほとんどの患者で薬剤耐性が inevitably 発生し、治療効果の持続期間を制限している。
ROS1とALKは臨床的および生物学的に類似性が高いため、ROS1阻害薬耐性克服の取り組みは、ALK融合陽性NSCLCでの経験からヒントを得ることが多かった Gainor et al. CancerDiscov 2016。次世代ALK/ROS1阻害薬であるlorlatinibは、ROS1融合陽性NSCLCにおいて、未治療患者でORR 62%、crizotinib既治療患者でORR 35%の有効性を示し、脳転移に対しても高い浸透性を持つことが報告されている。NCCNガイドラインでは、crizotinibまたはentrectinibでの病勢進行後の選択肢としてlorlatinibが挙げられている。
これまで、ROS1阻害薬に対する耐性メカニズムの理解は、主にcrizotinibに対するROS1依存性耐性に焦点が当てられてきた。ROS1 G2032R、D2033N、S1986F/Yなどのcrizotinib耐性変異が患者サンプルで同定されているが、これらの変異の頻度に関する報告は小規模な症例シリーズに限られており、8%から50%以上と幅広く、系統的な解析が不足していた。特に、lorlatinibに対するROS1融合陽性肺癌における耐性メカニズムは、ROS1 G2032K変異がlorlatinib耐性に関与するという単一の症例報告を除いて、2021年時点ではほとんど未解明であった。ALK陽性肺癌で蓄積された逐次TKI療法の知見(耐性変異に基づく薬剤選択)をROS1へ応用するためには、ROS1固有の耐性機序の体系的理解が必須であり、この知識ギャップが残されていた。このため、ROS1融合陽性NSCLCにおける耐性メカニズムの包括的な理解が不足しており、最適な治療戦略を確立するための重要な課題となっていた。
目的
本研究の目的は、ROS1融合陽性NSCLC患者におけるcrizotinibおよびlorlatinib耐性後の生検検体を対象とした、当時最大規模の多施設コホート研究を実施することである。これにより、これらのTKIに対する耐性メカニズムの頻度とスペクトルを網羅的に解析し、特にlorlatinib耐性における新規のROS1キナーゼドメイン変異を同定することを目指した。さらに、同定された耐性変異に対する既存および開発中のROS1阻害薬の感受性を前臨床モデルで評価し、その構造的基盤を解明する。最終的に、これらの知見に基づき、ROS1融合陽性NSCLCにおける最適なTKI逐次療法の設計に資する臨床的および前臨床的エビデンスを提供することを目的とする。また、ROS1キナーゼドメイン変異以外のROS1非依存性耐性メカニズムについても探索し、将来的な併用療法戦略の可能性を検討する。本研究は、ROS1融合陽性NSCLCの治療戦略における未解明な点を明らかにし、患者の個別化医療の進展に貢献することを目指す。
結果
患者背景とcrizotinib/lorlatinibでの治療成績: 本研究の対象となった55例のROS1融合陽性NSCLC患者の診断時中央年齢は50歳(範囲22-81歳)であり、75%が女性、96%が非喫煙者または軽喫煙者であった。全例が腺癌と診断された。ROS1融合パートナーはCD74が最も多く(44%)、次いでSDC4(15%)、EZR(9%)、SLC34A2(9%)であった(Table 1)。Crizotinibでの無増悪期間(TTP)中央値は10.1ヶ月(95% CI 6.9-12.4ヶ月)、治療期間中央値は13ヶ月であった。Lorlatinibを投与された25例におけるTTP中央値は8.5ヶ月(95% CI 5.1-13.8ヶ月)、治療期間中央値は13.7ヶ月であった。合計47のpost-crizotinib生検と32のpost-lorlatinib生検が解析された(Figure 1)。
Crizotinib耐性後のROS1変異スペクトル: 47のpost-crizotinib生検(重複時点を除外した42例を主解析)のうち、ROS1キナーゼドメイン変異は16例(38%)に検出された。最も頻繁に検出されたのは溶媒フロント変異であるROS1 G2032Rで、全crizotinib耐性例の約3分の1に相当した。その他、ROS1 D2033N(2.4%)およびROS1 S1986F(2.4%)が検出された(Figure 2A)。ROS1 G2032R陽性例でlorlatinibが投与された場合、TTPは3.2-6.1ヶ月と短く、lorlatinibがG2032R変異を克服するのに十分な効果を示さない可能性が示唆された。ある症例(MGH0003.A)では、post-crizotinib血漿検体でROS1 G2032R(VAF 0.4%)が検出されたが、同時期の組織生検では検出されなかった。この患者は9ヶ月後に再進行し、再度の血漿および胸水生検(MGH0003.B)でROS1 G2032R(VAF 5.7%)が両検体で確認された。
Lorlatinib耐性後のROS1変異スペクトル: 32のpost-lorlatinib生検(重複時点を除外した28例)のうち、ROS1変異は13例(46%)に同定された(Figure 2A)。lorlatinib耐性におけるROS1変異の頻度(46%)はcrizotinib耐性(38%)よりも数値上高かったが、統計的に有意な差は認められなかった(p=0.621)。最も一般的なROS1変異はROS1 G2032Rで、9例(32%)に検出された。この変異はlorlatinibに対してIC50値が196.6 nmol/L(野生型0.7 nmol/Lの281倍)と著しく活性が低下していた。新規の耐性変異であるROS1 L2086Fが3例(11%)に単独または複合変異として検出された(L2086F単独、G2032R/L2086F複合、S1986F/G2032R/L2086F複合)。また、ROS1 S1986F/L2000V複合変異が1例のlorlatinib耐性検体で同定された。11例のlorlatinib耐性症例のうち、6例(55%)ではcrizotinib耐性時およびlorlatinib耐性時のいずれの生検でもROS1変異が検出されなかった。3例(27%)はlorlatinib治療中に新たなROS1変異を獲得した。
Ba/F3モデルでの前臨床感受性試験: Ba/F3細胞モデルを用いた薬剤感受性試験の結果、ROS1 G2032R変異はcrizotinib、entrectinib、ceritinib、brigatinibに対して完全に耐性を示し、lorlatinibもIC50値が196.6 nmol/Lと低活性であった(Figure 3A, B)。一方、repotrectinib(IC50 23.1 nmol/L)およびタイプII TKIであるcabozantinib(IC50 17.5 nmol/L)は、ROS1 G2032Rに対して中程度の活性を維持した。taletrectinibも53.3 nmol/Lと中等度の活性を示した。ROS1 L2086F変異は、crizotinib、entrectinib、lorlatinib、repotrectinib、ceritinib、taletrectinibといった現行のタイプI ROS1阻害薬全般に対して耐性を示した(IC50 >500 nmol/L以上)。しかし、cabozantinibはL2086F単独およびL2086F含有複合変異ROS1に対してIC50値が3.6-16.4 nmol/Lと強い活性を維持し、30 nmol/LでROS1リン酸化の完全な抑制が確認された(Figure 3C)。BrigatinibはL2086Fに対してIC50 159.3 nmol/L(野生型9.4 nmol/Lの17倍低下)と部分的な活性低下を示した。新規変異L2000V(単独)およびS1986F/L2000V複合変異はcrizotinib感受性をわずかに低下させたが、lorlatinibへの耐性は示さなかった。
L2086Fの構造モデリングとcabozantinib臨床効果: ROS1 L2086F変異の構造モデリングでは、lorlatinibのfluorophenyl基とG2101-N2084-R2083で形成されるポケット内でのL2086F(フェニル側鎖)による重篤な立体衝突が予測された(Figure 4A)。これは、Ba/F3細胞モデルでの薬剤感受性結果と一致する。一方、cabozantinibの近縁類似体であるforetinibは、ROS1のDFG-out(Asp-Phe-Gly out)構造への結合においてL2086Fを受容可能であることが示唆された。実際に、ROS1 L2086F陽性のlorlatinib耐性患者(MGH0026)では、cabozantinib投与後約11ヶ月間の病勢制御が得られた(Figure 4C)。この患者では、cabozantinib治療後のTTPが長く、L2086F変異に対するcabozantinibの臨床的有効性が示唆された。
ROS1非依存性耐性機序: crizotinib耐性例の約60%およびlorlatinib耐性例の約50%においてROS1変異が検出されず、ROS1非依存性またはバイパス経路の関与が示唆された(Figure 2B)。lorlatinib耐性例では、MET増幅(4%)、KRAS G12C変異(4%)、KRAS増幅(4%)、NRAS G60E変異(4%)、MAP2K1変異(4%)が同定された。crizotinib耐性例では、NF1機能喪失変異が5例(7%)に認められた。特に、MET増幅はEGFR、ALK、RET融合陽性NSCLCにおけるバイパスシグナル伝達の既知のメカニズムであり Engelman et al. Science 2007、本コホートでも2例(2.9%)の生検で検出された。例えば、MGH0034ではlorlatinib耐性脳転移検体でMET増幅が確認され、MGH0014ではcrizotinib耐性副腎生検でMET増幅とMET L1195V変異が検出された。KRAS G12C変異の検出は、現在利用可能な共有結合性阻害薬による治療の可能性を示唆する。
考察/結論
本研究は、ROS1融合陽性NSCLCにおけるcrizotinibおよびlorlatinib耐性メカニズムを解析した当時最大規模の多施設コホート研究である。crizotinib耐性生検の38%、lorlatinib耐性生検の46%においてROS1キナーゼドメイン変異が同定され、これらの変異がROS1陽性肺癌治療における重要な課題であることが示された。
先行研究との違い: ROS1 G2032Rは、ALKの類似変異(ALK G1202R)がlorlatinibによって克服されるのとは対照的に、ROS1においてはlorlatinibでも克服困難であることが前臨床および臨床データで確認された。これは、ALKとROS1のキナーゼドメインにおける構造的差異に起因すると考えられ、ALK G1202Rに対するlorlatinibの強力な活性とは対照的な結果である。lorlatinibのROS1 G2032Rに対するIC50値は196.6 nmol/Lであり、野生型ROS1に対するIC50値0.7 nmol/Lと比較して著しく高かった。
新規性: 本研究で初めて、lorlatinib耐性においてROS1 L2086F変異が繰り返し検出される新規の耐性メカニズムとして同定された。このL2086F変異は、タイプI ROS1阻害薬全般に耐性を示すが、タイプII阻害薬であるcabozantinibには感受性が保たれるという知見は新規である。これは、TRK融合陽性腫瘍におけるTRK xDFG変異がタイプI阻害薬に耐性を示す一方でタイプII阻害薬に感受性を示すという概念とも整合する。L2086F変異は、lorlatinibの結合部位に立体的な衝突を引き起こすことが構造モデリングによって予測された。
臨床応用: 本知見は、ROS1陽性肺癌における最適なTKI逐次療法の設計において、リバイオプシー(生検再施行)と次世代シーケンス(NGS)による耐性変異の同定が不可欠であることを強調する。特に、ROS1 G2032R変異が同定されたcrizotinibまたはentrectinib耐性患者に対しては、lorlatinib(ceritinibやbrigatinibと同様に)が持続的なベネフィットを提供する可能性は低い。repotrectinibやtaletrectinibのような代替阻害薬が臨床試験で検討されるべきである。実際に、その後のTRIDENT-1試験(repotrectinib)では、本研究で示されたG2032R耐性後の有効性が臨床的に実証された。ROS1 L2086F変異が存在する場合、cabozantinibが後続治療オプションとして重要な位置を占める可能性がある。cabozantinibは多標的キナーゼ阻害薬であり、その毒性プロファイルから汎用性に限界があるものの、L2086F変異のような特定の耐性メカニズムを持つ患者にとっては有効な選択肢となり得る。さらに、KRAS G12C変異など、現在では共有結合性阻害薬で治療可能なRAS-MAPK経路の異常が同定されたことは、ROS1 TKI耐性後の併用療法戦略の探索を支持する。
残された課題: 本研究は後向き研究であり、比較的小規模なコホートであるという限界がある。lorlatinib耐性コホートにおける選択バイアスも排除できない。また、lorlatinib治療前の生検データが常に利用可能ではなかったため、遺伝子変異が既存のものかlorlatinib治療中に獲得されたものかを常に判断することはできなかった。さらに、約40%のlorlatinib耐性例では、遺伝子シーケンスのみでは耐性メカニズムが不明であった。今後の検討課題として、エピゲノム、RNA、タンパク質レベルでのシグナル伝達異常メカニズムのさらなる解明が必要である。また、ROS1 L2086F変異の発生頻度と臨床的意義をより正確に評価するためには、NGSパネルがこの変異を確実にカバーするよう改善する必要がある。
方法
本研究は、マサチューセッツ総合病院(MGH、n=37)、メモリアルスローンケタリングがんセンター(MSKCC、n=11)、カリフォルニア大学アーバイン校(UCI、n=7)の3施設で、ROS1融合陽性NSCLC患者55例を対象とした後向きコホート研究として実施された。これらの患者はcrizotinibまたはlorlatinib治療後に病勢進行し、腫瘍組織または血漿生検が実施された。本研究の主要エンドポイントは、crizotinibおよびlorlatinib耐性後のROS1キナーゼドメイン変異およびROS1非依存性耐性メカニズムの同定と頻度解析であった。
遺伝子解析は、合計47のpost-crizotinib生検および32のpost-lorlatinib生検に対して行われた。組織生検56例は、MGH SNaPshot DNAベースのジェノタイピングパネルとRNAベースのNGSアッセイ(Solid Fusion Assay、n=27)、FoundationOne(n=11)、MSK IMPACT(n=9) Cheng et al. JMolDiagn 2015、OncoPanel(n=4)、Ion Ampliseq Comprehensive Cancer Panel(n=1)、Moffitt STAR Solid Tumor Assay(n=1)、University of Vermont Medical Center Solid Tumor Gene Panel(n=1)を用いて解析された。2例の腫瘍生検は全エクソームシーケンス(WES)で解析された。16のMGH SNaPshot解析サンプルでは、ROS1キナーゼドメインのサンガーシーケンスも実施された。23例の液体生検は、Guardant360 Cell-free DNA(cfDNA、n=17)、FoundationACT(n=3)、またはResolution Bioscience(n=3)アッセイを用いてジェノタイピングされた。MET FISHは、2つの治療後腫瘍サンプルで実施された。
薬剤感受性アッセイでは、非変異型CD74-ROS1または各種変異型CD74-ROS1(G2032R、L2000V、L2086F、S1986F/L2000V、S1986F/L2086F、S1986F/G2032R、G2032R/L2086F、S1986F/G2032R/L2086F)を発現するBa/F3細胞株が構築された。これらの細胞は、crizotinib、entrectinib、lorlatinib、repotrectinib、cabozantinib、ceritinib、brigatinib、taletrectinib、およびalectinib(ROS1活性のないALK TKI)で処理され、2日後の細胞生存率がCellTiter-Gloを用いて測定され、IC50値がGraphPad Prismの4パラメータロジスティック回帰モデルで算出された。
構造モデリングは、ROS1に結合したlorlatinib(PDB 4UXL)およびMETに結合したcabozantinibの近縁類似体であるforetinib(PDB 3LQ8)の共結晶構造を起点として実施された。ROS1 L2086F変異がlorlatinib結合に与える影響が予測された。
統計解析には、Stataバージョン14.2を用いて、TTPおよび治療期間の中央値がKaplan-Meier法で推定された。lorlatinib耐性検体とcrizotinib耐性検体におけるROS1変異の頻度比較には、両側仮説に基づくFisherの正確検定が使用された。