- 著者: Drilon A, Siena S, Dziadziuszko R, Barlesi F, Krebs MG, Shaw AT, de Braud F, Rolfo C, Ahn MJ, Wolf J, Seto T, Cho BC, Patel MR, Chiu CH, John T, Goto K, Karapetis CS, Arkenau HT, Kim SW, Ohe Y, Li YC, Chae YK, Chung CH, Otterson GA, Murakami H, Lin CC, Tan DSW, Prenen H, Riehl T, Chow-Maneval E, Simmons B, Cui N, Johnson A, Eng S, Wilson TR, Doebele RC
- Corresponding author: Robert C Doebele (University of Colorado, Aurora, CO, USA)
- 雑誌: Lancet Oncology
- 発行年: 2020
- Epub日: 2019-12-11
- Article種別: Original Article
- PMID: 31838015
背景
ROS1融合 (gene fusion) はNSCLCの1-2%に認められるドライバー変異であり、最も頻度の高い融合パートナーはCD74 (cluster of differentiation 74) で、ROS1チロシンキナーゼドメインを含む3’領域と5’上流パートナーが結合して構成的キナーゼ活性化と下流シグナル増強を介した腫瘍増殖を駆動する。ROS1融合陽性NSCLCでは診断時にすでに約36%の患者がCNS転移を有しており、治療経過中にさらに多くの患者が頭蓋内進行を来すことが報告されていた (Patil et al. JThoracOncol 2018)。チロシンキナーゼ阻害薬 (tyrosine kinase inhibitor; TKI) であるcrizotinibはROS1融合陽性NSCLCに対してORR (objective response rate) 72%、PFS (progression-free survival) 中央値15.9ヶ月という有効性が報告され標準治療として確立されていたが (Shaw et al. NEnglJMed 2014)、CNSへの移行性に乏しく、治療中の患者の約半数でCNSのみの病勢進行が生じることが重大な課題であった。Ceritinibも代替TKIとして検討されたが頭蓋内ORRは25%にとどまり、CNS転移例を有効にコントロールできる新規ROS1阻害薬に対する gap in knowledge が存在していた (Roys et al. CancerChemotherPharmacol 2019)。Entrectinibは多標的キナーゼ阻害薬 (TRKA/B/C、ROS1、ALK) として設計され、in vitroにおいてcrizotinibの約40倍のROS1阻害活性 (IC50 0.2 nM) を示し、前臨床モデルで血液脳関門 (blood-brain barrier; BBB) 移行比0.4-1.9という高い中枢神経移行性が確認されていた。Phase 1試験 (ALKA-372-001, STARTRK-1) での初期結果はentrectinibの有望な抗腫瘍活性を示唆していたが、ROS1陽性NSCLCに特化した統合的な大規模前向きエビデンスは未確立であり、特にCNS転移を有する患者コホートでの体系的なデータが不足していた。
目的
ALKA-372-001、STARTRK-1、STARTRK-2 (Screening Patients for Efficient and Optimal Selecting Therapies for ROS1 and TRK, 第2相) の3試験の事前規定統合解析として、ROS1 TKI未治療のROS1融合陽性NSCLC患者に対するentrectinibの有効性 (ORR、DOR [duration of response]、PFS、OS [overall survival]、頭蓋内ORR) と安全性を評価し、規制当局への承認申請に資するエビデンスを提供する。
結果
ベースライン特性と客観的奏効率 (ORR):
有効性評価集団n=53の中央年齢は53歳 (IQR 46-61)、女性34例 (64%)、アジア人19例 (36%)、非喫煙者31例 (59%)、腺癌52例 (98%) であった (Table 1)。ベースラインCNS転移は投与者評価で23例 (43%)、BICR評価で20例 (38%) に認められた。CNS転移20例のうち12例が測定可能病変を有し、前治療ありは8例 (35%)。治療ラインは0ライン17例 (32%)、1ライン23例 (43%)、2ライン以上13例 (25%)。融合パートナーはCD74-ROS1が21例 (40%) と最多で、次いでSLC34A2 (solute carrier family 34 member 2)-ROS1が7例 (13%)、SDC4 (syndecan-4)-ROS1が6例 (11%)、EZR-ROS1が5例 (9%)、TPM3-ROS1が2例 (4%)、不明が12例 (23%) であった。中央追跡期間は15.5ヶ月 (IQR 13.4-20.2)。
主要エンドポイントのORRはBICR評価で53例中41例、77% (95% CI 64-88) であり、完全奏効 (CR) 3例 (6%)、部分奏効 (PR) 38例 (72%) を含んだ (Table 2, Figure 1A)。安定病変 (SD) は1例 (2%) のみで、病勢コントロール率 (CR+PR+SD) は94%であった。ほぼすべての患者で標的病変の縮小が認められ (Figure 1A)、CNS転移を有する患者でも同様の腫瘍縮小が観察された (Figure 1B)。奏効は早期に出現し、多くの患者で最初の追跡画像評価時 (サイクル1終了後4週) に確認された。融合パートナー別ORRはCD74-ROS1 21例中18例 (86%)、非CD74-ROS1 20例中13例 (65%)、不明 12例中10例 (83%) であり、パートナー種別間に有意差は認めなかった (事前規定サブグループ解析)。
奏効持続期間 (DOR)・PFS・OS:
DOR中央値はBICR評価で24.6ヶ月 (95% CI 11.4-34.8) であった (Figure 2A)。サブグループ解析ではDOR中央値: CNS転移なし群 24.6ヶ月 (95% CI 11.4-34.8) vs CNS転移あり群 12.6ヶ月 (95% CI 6.5-NE) であった。PFS中央値はBICR評価で19.0ヶ月 (95% CI 12.2-36.6) であり (Figure 2B)。CNS転移なし群 26.3ヶ月 (95% CI 15.7-36.6) vs CNS転移あり群 13.6ヶ月 (95% CI 4.5-NE) であり (Table 2)、CNS転移の有無によるPFS差が明確に示された。OS中央値は未到達 (95% CI 15.1-NE) であり (Figure 2C)、12ヶ月OS率は85% (95% CI 74-95)、18ヶ月OS率は82% (95% CI 70-93) であった。データカットオフ時の死亡は9例 (17%) のみで、全例が治療非関連死と判断された。
頭蓋内活性 (CNS転移例の評価):
BICR評価でベースラインCNS転移を有する20例中11例 (55%; 95% CI 32-77) が頭蓋内奏効を達成し、CR 4例 (20%)、PR 7例 (35%) を含んだ (Table 2, Figure 1C)。以前に放射線治療を受けていない、もしくは2ヶ月以上前に放射線治療を受けた測定可能CNS転移を有する7例のうち5例 (71%) が頭蓋内奏効を示した。頭蓋内DOR中央値は12.9ヶ月 (95% CI 5.6-NE)、頭蓋内PFS中央値は7.7ヶ月 (95% CI 3.8-19.3; 13例でイベント発生) であった。全有効性評価集団53例でのCNS進行イベントは18例 (34%)、CNS進行までの期間の中央値は未到達 (95% CI 15.1-NE) であり (Figure 2D)、中央追跡期間15.5ヶ月においてentrectinibの持続的なCNS進行抑制効果が示された。
安全性プロファイル (安全性評価集団n=134):
安全性評価集団134例の治療期間中央値は8.3ヶ月 (IQR 4.6-14.6)。全134例に少なくとも1件の治療出現有害事象 (any grade) が認められた。治療関連有害事象 (treatment-related adverse event; TRAE) はgrade 1-2が79例 (59%)、grade 3が41例 (31%)、grade 4が5例 (4%) に発生した (Table 3)。最も頻度の高いgrade 3-4 TRAEは体重増加10例 (8%) と好中球減少5例 (4%) であった。全TRAEとして最多は味覚異常 (dysgeusia) 56例 (42%)、便秘44例 (33%)、浮動性めまい (dizziness) 43例 (32%)、疲労32例 (24%)、感覚異常 (paraesthesia) 23例 (17%) であり、これらはいずれも大半がgrade 1-2であった。重篤なTRAEは15例 (11%) に計21件報告され、最頻は神経系障害4例 (3%) と心臓障害3例 (2%) であった。TRAEによる投与中断は7例 (5%)、用量減量は46例 (34%) で生じたが、治療関連死は認められなかった。TRK (tropomyosin receptor kinase) A/B/C阻害によるオンターゲット毒性として、神経系有害事象 (浮動性めまい、感覚異常、認知障害) および体重増加が観察されたが、概ね管理可能であり用量調整により長期投与が可能であった。
考察/結論
本統合解析は、TKI未治療のROS1融合陽性NSCLC患者においてentrectinibが高い奏効率 (ORR 77%)、持続的な奏効 (DOR中央値24.6ヶ月)、良好な頭蓋内活性 (頭蓋内ORR 55%、CR 4例含む) を示すことを実証した。これまでの研究においてcrizotinibがORR 72%・PFS中央値15.9ヶ月 (PROFILE 1001) を示していたのと対照的に、本研究ではCNS転移を有する患者を43%含む予後不良集団においても同等以上のORRとPFSが達成された。CNS転移あり群でのPFS中央値はcrizotinibの既報 (OxOnc試験: 10.2ヶ月) とは異なり、entrectinibでは13.6ヶ月を示し、同群でのDOR中央値もcrizotinibの19.7ヶ月を上回る24.6ヶ月 (全体集団) であった。頭蓋内ORR 55% (CR 4例) はceritinibの報告値25%とは相違しており、entrectinibのBBB透過性が臨床的意義を有することを新規なエビデンスとして実証している。さらに本研究は、これまで報告されていない前向きROS1 TKIによるCNS進行時間 (time to CNS progression) の解析を初めて実施し、中央値未到達という有望な結果を提示した点でも新規に重要な知見を提供した。
臨床応用の観点から、本データはentrectinibの米国FDA承認 (2019年8月) の直接的な根拠となり、TKI未治療のROS1融合陽性NSCLC患者に対する第一選択薬の一つとして確立された。現在NCCNおよびESMOガイドラインではcrizotinibとentrectinibの両薬が第一選択として推奨されており、CNS転移を有する患者ではentrectinibの臨床的意義がより大きいと位置づけられている。安全性に関しては、grade 3-4 TRAEの主体は体重増加 (8%) と好中球減少 (4%) であり、用量調整による管理が可能な許容できるプロファイルであることが示された。
本研究の limitation として、単一アームデザインと少数例 (n=53) による交叉試験比較の制約、および進行後生検が必須ではなかったためentrectinibへの後天性耐性機序が十分に解明されていない点があげられる。ROS1キナーゼドメイン変異によるTKI耐性は8-53%の患者に報告されており、次世代阻害薬 (lorlatinib、repotrectinib、cabozantinib) による耐性後治療の確立が残された課題である。今後の検討として、entrectinib耐性機序の体系的解明、各融合パートナー別の詳細な有効性データの集積、およびCNS転移例における最適なファーストライン選択と次世代阻害薬とのシーケンシング戦略の確立が重要な future research として挙げられる。
方法
ALKA-372-001 (phase I、イタリア2施設、EudraCT 2012-000148-88)、STARTRK-1 (phase I、10施設、NCT02097810)、STARTRK-2 (phase II、グローバル150施設以上15ヶ国、NCT02568267) の3試験を統合解析した。有効性評価集団の適格基準は、ROS1融合陽性 (FISH [fluorescence in-situ hybridisation]/RT-PCR/NGSによる確認)、ROS1 TKI未治療、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) v1.1による測定可能病変あり、ECOG PS (Eastern Cooperative Oncology Group performance status) 0-2、entrectinib ≥600 mg/日投与かつ追跡期間12ヶ月以上を満たす18歳以上の患者とした。有効性評価集団n=53、全安全性解析集団n=134 (TKI治療歴あり27例・追跡12ヶ月未満47例・ECOG PS 2超3例・バイオマーカー不適格1例を含む)。Entrectinibは600 mgを1日1回経口投与 (4週1サイクル)、病勢進行・忍容不能な毒性・同意撤回まで継続。データカットオフは2018年5月31日。主要エンドポイントは盲検独立中央判定 (blinded independent central review; BICR) によるORR (CR+PR) とDOR。副次エンドポイントはBICR評価によるPFS、OS、頭蓋内ORR・DOR・PFS、安全性。統計解析はClopper-Pearson法 (ORRの95% CI 算出)、Kaplan-Meier法 (DOR/PFS/OS/頭蓋内PFS等の時間-事象エンドポイント)、SASソフトウェア (version 9.3以上) を使用。正式な仮説検定は実施せず。融合パートナー別のサブグループ解析は事前規定済み。