• 著者: Laura Mezquita, Aurélie Swalduz, Cécile Jovelet, Sandra Ortiz-Cuaran, Karen Howarth, David Planchard, Virginie Avrillon, Gonzalo Recondo, Solène Marteau, Jose Carlos Benitez, Frank De Kievit, Vincent Plagnol, Ludovic Lacroix, Luc Odier, Etienne Rouleau, Pierre Fournel, Caroline Caramella, Claire Tissot, Julien Adam, Samuel Woodhouse, Claudio Nicotra, Edouard Auclin, Jordi Remon, Clive Morris, Emma Green, Christophe Massard, Maurice Pérol, Luc Friboulet, Benjamin Besse, and Pierre Saintigny
  • Corresponding author: Pierre Saintigny (Department of Medical Oncology, Centre Léon Bérard, Cancer Research Center of Lyon, Lyon, France)
  • 雑誌: JCO Precision Oncology
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-04-02
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 32923908

背景

ALK転座(約5%)およびROS1融合(約2%)は、進行非小細胞肺がん(NSCLC)において重要な治療標的となるドライバー遺伝子異常であり、それぞれに特異的なチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)による標的療法が確立されている。TKIは進行NSCLC患者の予後を劇的に改善したが、残念ながらほぼ全例が最終的にTKI耐性を獲得する。分子検査は診断時のみならず、TKI耐性進行時にも耐性機序を同定し、次治療を選択するために不可欠である。組織生検は分子検査のゴールドスタンダードであるが、最大30%の症例で組織品質が不十分であるという問題があり、反復生検は侵襲性が高く、患者への負担が大きいと報告されている (Goldman et al. Ann Oncol 2018; Zugazagoitia et al. Ann Oncol 2019)。

近年、血漿中の循環腫瘍DNA(ctDNA)を解析する液体生検は、NSCLCの分子検査における非侵襲的な代替手段として注目され、臨床ガイドラインにも取り入れられつつある (Rolfo et al. J Thorac Oncol 2018)。例えば、EGFR変異陽性NSCLCにおいては、液体生検によるEGFR変異検出の臨床的有用性が確立され、治療選択に広く利用されている (Soria et al. NEnglJMed 2018)。しかし、ALK/ROS1陽性NSCLCにおける液体生検の臨床的有用性に関する大規模な前向きデータは依然として限られており、特にアンプリコンベースの次世代シーケンシング(NGS)アッセイの性能、耐性変異検出能力、および臨床アウトカムとの関連については、さらなる検証が必要とされていた。この領域には知識ギャップが残されている。

先行研究では、ハイブリッドキャプチャー法を用いた液体生検でALK融合の検出感度が55%と報告されており (Cui et al. Oncotarget 2017)、またRNAエクソソームや血小板を用いたRT-PCR法でも63-65%の感度が示されている (Nilsson et al. Oncotarget 2016)。これらの結果は、液体生検が組織生検の代替となりうる可能性を示唆するものの、その感度は組織生検には及ばず、特にTKI未治療患者における検出感度や、TKI耐性獲得後の耐性変異プロファイルの包括的な評価に関するデータは不足していた。また、TKI耐性機序の多様性や、複数の耐性変異が共存する複雑な耐性プロファイルが、治療選択や予後にどのように影響するかについても、液体生検を用いた詳細な解析は未解明な点が多かった。本研究は、これらの知識ギャップを埋めることを目的としている。

目的

本研究の目的は、フランスの多施設前向きコホートにおいて、InVisionFirst-LungアンプリコンベースのctDNA次世代シーケンシング(NGS)アッセイ(36遺伝子パネル)の臨床的有用性を評価することである。具体的には、ALK/ROS1陽性進行NSCLC患者における以下の点を検証する。

  1. TKI未治療患者におけるALK/ROS1融合遺伝子の検出感度。
  2. TKI耐性進行時におけるALKおよびROS1耐性変異の検出能力と、その変異プロファイルの多様性。
  3. ctDNAで検出された融合遺伝子および耐性変異が、患者の臨床アウトカム(全生存期間(OS)および次治療への無増悪生存期間(PFS))とどのように関連するか。

これらの評価を通じて、液体生検がALK/ROS1陽性NSCLC患者の治療選択および予後予測において、臨床的に有用なツールとなりうるかを明らかにすることを目指した。

結果

ALK/ROS1融合検出(TKI未治療患者): TKI未治療患者27検体(ALK 25検体、ROS1 2検体)が解析対象となった。このうち18例(ALK 16例、ROS1 2例)で融合遺伝子が血漿ctDNAから検出され、ALKおよびROS1融合遺伝子全体の検出感度は67%であった。ALKコホートでは、バリアント1が8例、バリアント2が2例、バリアント3が6例で検出された。ROS1コホートでは、CD74-ROS1融合が1例、SLC34A2-ROS1融合が1例で検出された。融合遺伝子の検出率は、転移部位数が多い患者や内臓転移を有する患者で有意に高く、これは腫瘍量の多さを反映していると考えられた。

治療中の融合検出率とctDNAクリアランス: 治療中の患者から収集されたサンプルにおける融合検出率は、治療奏効時(RECIST v1.1によるCR/PR)には143検体中14検体(10%)と低かった(ALK 11%、ROS1 6%)。これに対し、TKI耐性進行時には、ALK陽性患者74検体中33検体(45%)、ROS1陽性患者10検体中3検体(30%)で融合遺伝子が検出され、有意に高い検出率を示した。この結果は、ctDNAクリアランスが治療反応の代替マーカーとして機能する可能性を示唆している。

TKI耐性進行時におけるALK耐性変異検出: TKI耐性進行時に収集された74検体のうち、22%(16検体)でALK耐性変異が検出された。内訳は、単一のALK変異が5例、複雑なALK変異(2つ以上のALK変異)が3例、ALK変異と他の遺伝子変異の共存が8例であった(Fig 1A)。ALK耐性変異は、骨転移や肝転移を伴う進行例で75〜80%と高頻度に検出された一方、孤立性の中枢神経系(CNS)進行または胸腔内進行例では10%と低かった。次世代TKI治療後のALK耐性変異検出率は最大43%であり、クリゾチニブ(crizotinib)治療後(11%)と比較して有意に高かった(Fig 1B)。最も頻繁に検出されたALK耐性変異はG1202Rであり、16例中7例(44%)で認められ、その多くは次世代TKI治療後に検出された。非ALK変異は41%(74検体中30検体)で検出され、TP53変異が最も多く(74検体中26検体)、そのうち54%(26検体中14検体)が単独変異であった。

TKI耐性進行時におけるROS1耐性変異検出: TKI耐性進行時のROS1陽性患者10検体中3検体(30%)でROS1 G2032R耐性変異が検出された(Fig 1C, 1D)。これらのROS1 G2032R変異は全て、CTNNB1やTP53などの他の共存変異を伴っていた。あるROS1陽性患者(SLC34A2-ROS1融合)では、クリゾチニブ治療失敗時にROS1 G2032R変異が新たに検出された。ROS1 G2032R変異が検出された患者は、全員が次治療のTKIに対して短期間(3ヶ月未満)で進行した。

ALK陽性患者におけるctDNA変異と全生存期間(OS)の関連: ALK陽性患者74例におけるctDNA変異の有無と全生存期間(OS)の関連を解析した(Fig 2A)。ctDNA陰性群のOS中央値は105.7ヶ月(95% CI 105.7-NR)と最も良好であった。これに対し、ALK変異検出群のOS中央値は58.5ヶ月(95% CI 26.9-NR)、非ALK変異検出群のOS中央値は44.1ヶ月(95% CI 21.7-NR)であり、ctDNA陰性群と比較して有意に不良な予後を示した(p=0.001)。特に、複雑なALK変異(2つ以上の変異)を有する患者は、単一のALK変異を有する患者と比較して、OS中央値が26.9ヶ月(95% CI 13.9-NR)と極めて不良な予後と強く関連していた(p=0.003)(Fig 2B)。この関連は、一次TKI投与集団においても再現された(p=0.038)。

ALK陽性患者におけるctDNA変異と次治療への無増悪生存期間(PFS)の関連: 次治療への無増悪生存期間(PFS)についても同様の傾向が認められた。ctDNA陰性群の次治療PFS中央値は20.7ヶ月(95% CI 6.3-NR)であったのに対し、非ALK変異検出群では8ヶ月(95% CI 2.8-NR)、ALK変異検出群では2.8ヶ月(95% CI 1.2-NR)と有意に短かった(p=0.03)。さらに、ALK変異を有するサブグループにおいて、複雑なALK変異は次治療PFS中央値1.7ヶ月(95% CI 0.9-NR)と極めて短く、単一のALK変異群の6.3ヶ月(95% CI 1.8-NR)と比較して有意に不良であった(p=0.003)。これらの結果は、ctDNA解析が治療効果予測に有用であることを強く示唆している。

ROS1コホートの所見: ROS1陽性患者においても、全体的な傾向はALKコホートと類似していた。ctDNA陰性患者は良好なアウトカムを示し、ROS1 G2032R変異が検出された患者は次治療TKIに対して短いPFSを示した。ROS1 G2032R変異が検出された全患者は、次治療TKIに対して3ヶ月未満で進行した。

考察/結論

本研究は、ALK/ROS1陽性進行NSCLC患者におけるアンプリコンベース液体生検の臨床的有用性を前向きに評価した最大規模のリアルワールドコホート研究である。主要な知見は以下の3点に集約される。

先行研究との違い: 本研究で得られたTKI未治療患者におけるALK/ROS1融合検出感度67%は、Gainor et al. CancerDiscov 2016や他の研究で報告された組織生検の検出率には及ばないものの、ハイブリッドキャプチャー法(55%)やRNAエクソソーム(63%)など、これまでの他の液体生検アプローチと同等であった。これは、アンプリコンベースNGSの特性を反映しており、組織採取が困難な症例における補完的診断ツールとしての役割や、治療前の腫瘍量評価ツールとしての有用性を示唆する。

新規性: 本研究で初めて、TKI耐性進行時における耐性変異検出(ALK 22%、ROS1 30%)と、変異タイプによる予後予測能が、液体生検の最大の臨床的価値であることを示した。特に、複雑なALK変異群が極めて不良な予後(OS中央値26.9ヶ月、次治療PFS 1.7ヶ月)と関連していたことは新規の知見である。これは、多クローン性の耐性腫瘍の存在を示唆しており、単純な次世代TKIへの切り替えだけでは制御が困難なことを示唆する。また、ROS1 G2032R変異が検出された全患者が次治療TKIに短期間(3ヶ月未満)で進行した点は、この変異固有の薬剤耐性が液体生検でも確認されることを示す重要な知見であり、Shaw et al. LancetOncol 2017の報告とも一致する。

臨床応用: 本研究の結果は、液体生検がALK/ROS1陽性NSCLC患者の治療選択および予後予測に臨床的有用性を持つことを強く支持する。特に、TKI耐性進行時に検出される耐性変異のプロファイルは、次治療のTKI選択において重要な情報を提供する。複雑なALK変異やROS1 G2032R変異の検出は、より強力な次世代TKIや、他の治療戦略への早期切り替えを検討する根拠となりうる。ctDNA陰性患者の良好な予後は、腫瘍量が少ないか、腫瘍の異質性が低いことを示唆し、治療継続の判断材料となりうる。これらの知見は、Merker et al. JClinOncol 2018Planchard et al. AnnOncol 2018が提唱する液体生検の臨床現場での活用をさらに後押しするものである。

残された課題: 本研究にはいくつかの限界が存在する。第一に、アンプリコンベースNGSは既知の融合パートナーに限定されるため、既知の融合パートナーがカバーする90〜95%のALK/ROS1集団にしか適用できない。第二に、サンプルサイズが限られており、サンプル収集時期の異質性が高い。しかし、我々の知る限り、これはALK/ROS1陽性患者を対象とした最大規模のリアルワールド前向きコホート研究である。第三に、ALK集団の約半数がクリゾチニブ治療後の検体であり、これは現在の標準治療(次世代TKI)が導入される前のデータである。今後の課題として、ロルラチニブ(lorlatinib)などの次世代TKI使用後の液体生検による耐性プロファイルの評価や、レポトレクチニブ(repotrectinib)などG2032R変異に活性を有する新規TKIとの組み合わせにおける液体生検ガイド治療選択の前向き検証が必要である。

方法

本研究は、フランス国内の8施設(Gustave Roussy、Centre Léon Bérardを含む)が参加した前向き多施設共同研究として実施された。2015年10月から2018年8月までの期間に、組織生検によりALKまたはROS1融合遺伝子陽性と確認された進行NSCLC患者128例が登録された。本研究はLIBIL研究(ClinicalTrials.gov識別子: NCT02511288)の一部として実施され、全ての患者から書面によるインフォームドコンセントが得られ、施設倫理委員会によってプロトコルが承認された。

患者コホート: ALK陽性患者101例、ROS1陽性患者27例が含まれた。患者のベースライン特性は、中央値年齢がALK群で52歳(範囲21-84歳)、ROS1群で54歳(範囲26-83歳)であった。非喫煙者はALK群で58%、ROS1群で69%を占めた。組織型は両群ともに腺癌が90%以上であった。ベースライン時に脳転移を有する患者はALK群で42%、ROS1群で35%であった。患者の多くは既に複数回の前治療を受けており、前治療ラインの中央値は両群ともに2であった(Table 1)。

サンプル収集とctDNA解析: 患者からは合計405検体の血漿サンプルが収集された。内訳は、TKI未治療患者から29検体(ALK 25検体、ROS1 4検体)、TKI治療中の患者から375検体(うち疾患進行時105検体)であった。血漿は分離後、Inivata社(英国ケンブリッジおよび米国リサーチトライアングルパーク)に集約され、InVisionFirst-Lungアッセイを用いてctDNA解析が実施された。このアッセイは、36遺伝子パネルを対象としたアンプリコンベースの次世代シーケンシング(NGS)であり、既知の融合パートナー、一塩基多型(SNV)、挿入・欠失(indel)、コピー数変化、および遺伝子融合を検出する。融合遺伝子量は、各時点でのコントロールSNPプライマーに対して正規化された融合リード数を用いて評価された。

統計解析: 融合遺伝子の検出感度は、組織検査(FISHまたはNGS)を基準として、真陽性/(真陽性+偽陰性)として算出された。臨床アウトカム解析には、カプラン・マイヤー法を用いて生存曲線が推定され、ログランク検定により群間比較が行われた。全てのP値は両側検定であり、p値が0.05未満を統計的に有意と判断した。患者特性と治療反応の関連は、フィッシャー正確検定を用いて評価された。ALK変異の定義として、単一のALK変異を「single ALK」、2つ以上のALK耐性変異を「complex ALK」と定義した。その他の体細胞変異は「non-ALK」または「non-ROS1」と定義し、36遺伝子パネル内で変異が検出されなかった場合は「ctDNA陰性」とした。