- 著者: Jason D. Merker, Geoffrey R. Oxnard, Carolyn Compton, Maximilian Diehn, Patricia Hurley, Alexander J. Lazar, Neal Lindeman, Christina M. Lockwood, Alex J. Rai, Richard L. Schilsky, Apostolia M. Tsimberidou, Patricia Vasalos, Brooke L. Billman, Thomas K. Oliver, Suanna S. Bruinooge, Daniel F. Hayes, Nicholas C. Turner
- Corresponding author: Tom Oliver (American Society of Clinical Oncology, Alexandria, VA, USA)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-03-05
- Article種別: Review
- PMID: 29504847
背景
血中循環腫瘍DNA (circulating tumor DNA: ctDNA) アッセイは、腫瘍由来の体細胞変異を血漿中の細胞遊離DNA (cell-free DNA: cfDNA) から検出する手法として、がんゲノム医療において急速に臨床応用が進められている。しかし、その臨床実装にあたっては、前解析的要因、分析的妥当性、および臨床的妥当性・有用性に関する統一的なエビデンスベースが未確立であるという深刻な課題が存在する。組織生検と比較して、ctDNAは低侵襲性であり、連続的な採取が可能で、腫瘍の空間的不均一性をより広範にカバーできるという利点を持つ。一方で、検体採取から処理までの時間、チューブの種類、cfDNA抽出方法といった前解析ステップにおいて、アッセイの品質が大きく変動する可能性がある。さらに、組織検体とctDNAの結果の不一致、およびアッセイ間の検出限界 (lower limit of detection: LOD) の違いが結果の解釈を複雑にしている。
これまでの研究において、ctDNAの検出が早期および進行がんの両方で可能であることが示されている (Bettegowda et al. SciTranslMed 2014)。また、ctDNAを用いた治療モニタリングの可能性も報告されている (Dawson et al. NEnglJMed 2013)。さらに、超高感度なctDNA定量技術の開発も進められてきた (Newman et al. NatMed 2014)。しかし、これらの知見は断片的であり、包括的なガイドラインが不足していた。特に、前解析的変数、分析的妥当性、結果の解釈と報告、臨床的妥当性、および臨床的有用性に関する統一された評価枠組みが未解明であり、この知識のギャップを埋めるための体系的なエビデンス評価が不足していた。
目的
本合同レビューの目的は、固形腫瘍患者におけるctDNAアッセイの臨床的利用に関する現時点でのエビデンスを系統的に評価し、以下の主要な側面について包括的な枠組みを提示することである。具体的には、前解析的変数、分析的妥当性、結果の解釈と報告、臨床的妥当性、および臨床的有用性の各項目について、利用可能な文献を精査し、その知見を統合する。これにより、ctDNAアッセイの適切な臨床運用を確立し、将来の研究の方向性を明確にすることを目指す。特に、様々な臨床シナリオ(治療選択、治療モニタリング、微小残存病変検出、早期がんスクリーニング)におけるctDNAアッセイの役割を評価し、エビデンスが不十分な領域を特定する。最終的には、臨床医および病理医がctDNAアッセイの結果を適切に解釈し、患者ケアに適用するための実践的な指針を提供することを意図している。
結果
前解析的変数における血漿の優位性と処理時間: ctDNA解析に最適な検体タイプは血漿であると示された。血清は凝固過程での白血球溶解によりバックグラウンドDNAが増加し、ctDNAが希釈されるため推奨されない。K2EDTA (ethylenediaminetetraacetic acid: エチレンジアミン四酢酸) チューブを使用する場合、白血球溶解による正常白血球DNAの混入とctDNAの希釈を避けるため、採血後6時間以内の処理が必須である。Streck社製などの細胞安定化チューブは、採血から処理までの時間を48時間まで延長できる柔軟性を提供し、一部のチューブではさらに長期間の処理延期が可能である。遠心分離は、低速と高速の連続的な処理が推奨され、ろ過も代替手段として有効である。未処理全血の冷蔵または加温保管は、白血球溶解を介してDNAレベルを最大10倍 (10-fold) 増加させることが報告されている。凍結血漿の保管は問題ないが、凍結前に血漿分離が必須であり、未分離全血の凍結は避けるべきである。また、複数回の凍結融解サイクルは核酸の分解を引き起こし、ctDNA検出能力を低下させる可能性があるため、避けるべきである。様々なcfDNA精製キットや方法が存在し、それらがcfDNAの収量と純度に影響を与えるため、チューブの種類や下流の分析方法を考慮した最適な精製アプローチを選択する必要がある (Table 2)。
分析的妥当性と検出限界の評価: ctDNAアッセイは、単一または少数の遺伝子を対象とする「ターゲットアッセイ」(PCRベース、リアルタイムPCR、デジタルPCRなど)と、より広範な遺伝子をカバーする「広範囲アッセイ」(次世代シーケンシングベース、50以上の遺伝子を解析)に分類される。単一変異の LOD はアッセイに依存し、0.1%から1%未満の範囲であり、腫瘍遺伝子型判定アッセイよりも約2桁低い LOD が必要とされる。分析的妥当性の評価には、腫瘍組織と血漿ctDNAのコンコーダンス(一致率)比較が一般的に用いられるが、腫瘍タイプ、病期、不均一性、クローン性、採取間隔といった生物学的要因が分析的要因と交絡する可能性がある。そのため、細胞株、遺伝子改変細胞株、既知のバリアントアレル頻度 (variant allele fraction: VAF) やコピー数を持つ人工DNAコンストラクトなどの標準化された参照物質を用いたバリデーションが望ましい。分析的特異度は一般的に95%以上である。異なるアッセイ間でのNGS比較研究は少数であり、アッセイ性能の違いにより結果が異なる可能性があるため、相互交換可能とはみなせない。クロスプラットフォーム比較、アッセイの堅牢性、および技能試験スキームの開発が今後の課題である (Table 3)。
結果の解釈とCHIP由来変異の鑑別: 体細胞変異と生殖細胞系列変異の判別には、(i) VAFが50%を大幅に下回る、(ii) 既知の反復性体細胞変異である、(iii) 集団データベースで稀である、という3つの条件を統合して評価することが推奨される。ctDNA/cfDNA比は患者間で大きく変動し、VAFから実際の腫瘍純度を直接推定することは困難である。クローン性造血 (clonal hematopoiesis of indeterminate potential: CHIP) は、50歳代以降の約5%(60-69歳)から10%(70歳以上)で検出される年齢関連の体細胞クローン性である。造血細胞はcfDNAの大部分を占めるため、DNMT3A、TET2、ASXL1、TP53、JAK2、SF3B1、GNB1 (G protein subunit beta 1: Gタンパク質サブユニットβ1)、PPM1D (protein phosphatase, Mg2+/Mn2+ dependent 1D: プロテインホスファターゼ1D)、GNAS、BCORL1などの遺伝子変異の解釈には慎重を要する。これらの変異が検出された場合、「negative」ではなく「not detected」「undetected」「uninformative」と報告すべきである。ctDNAアッセイと組織検査の間には不一致率が存在するため、体細胞変異が検出されなかった場合には、その限界を明確に報告する必要がある (Fig 2)。
進行がんにおける臨床的妥当性と有用性: PCRベースのctDNAドライバー変異検出は、高い特異度と中程度の感度を示す。非小細胞肺がん (NSCLC) におけるEGFRドライバー変異の検出では、組織遺伝子型をリファレンス標準とした5つの研究のレビューにおいて、特異度は平均96% (95% CI 83-99%)、感度は平均66% (95% CI 63-69%) であった。後天性耐性変異であるEGFR T790Mについては、感度は中程度であり、特異度は40-78%とばらつきが見られた。これは治療耐性のゲノム異質性に起因すると考えられる (Oxnard et al. JClinOncol 2016)。大腸がんのKRAS遺伝子型判定も同様に、高い特異度と中程度の感度を示す。組織とctDNAのコンコーダンスはEGFR変異で70-90%であった。治療選択においては、ctDNA検査は疾患進行時に実施する方が信頼性が高い。これは、治療奏効期にはctDNAレベルが減少し、感度が低下する可能性があるためである。FDAおよび欧州で承認されたアッセイは臨床的妥当性が確立されているが、臨床的有用性は主にレトロスペクティブ解析に基づいている。ctDNA陽性結果は標的療法開始を支持するが、検出されなかった結果は組織検体での確認が必要である (Fig 1)。例えば、Mok et al. NEnglJMed 2017 の研究では、プラチナ製剤とペメトレキセドと比較してオシメルチニブがEGFR T790M陽性肺がん患者のPFSを大幅に延長することを示したが、ctDNA陽性のみの患者群の転帰は組織陽性患者群よりも劣る可能性が示唆された。
その他の臨床設定におけるエビデンスの限界: 治療モニタリング、微小残存病変 (minimal residual disease: MRD) 検出、早期がん診断、術後補助療法後の再発検出、およびがんスクリーニングにおけるctDNAアッセイの臨床的妥当性はまだ発展途上であり、臨床的有用性に関するエビデンスは不十分である。特にがんスクリーニングにおいては、臨床試験外での使用を支持するエビデンスは皆無である。脳腫瘍などでは、血液脳関門の存在によりctDNAの放出が少なく、組織とctDNAの不一致が頻繁に発生する。ctDNAを用いた治療効果のモニタリングは、非侵襲的で放射線被曝がなく、費用対効果が高い可能性があるが、定量的な測定の信頼性や異なる施設間での結果の互換性には課題が残る。ctDNAレベルの変化と腫瘍反応や転帰との相関は、肺がん、大腸がん、乳がん、リンパ腫、悪性黒色腫などの小規模な概念実証研究で示されているが、大規模な前向き検証研究が不足している。例えば、Diehl et al. NatMed 2008 はctDNAが腫瘍ダイナミクスを評価できる可能性を示したが、その臨床的有用性についてはさらなる検証が必要である。また、ctDNAによる進行が画像診断による進行に先行して検出される場合があるが、ctDNA進行に基づく治療変更が患者転帰を改善するというエビデンスはまだない。早期がんにおけるMRD検出の可能性は期待されているが、現在の研究はレトロスペクティブであり、前向き研究での検証が不足している。偽陰性率や偽陽性率も十分に確立されていない。
考察/結論
本ASCO/CAP合同レビューは、ctDNAアッセイの臨床運用に関する初の包括的なエビデンス統合であり、その意義は大きい。特に、前解析的要因(血漿の優先、EDTAチューブは6時間以内、細胞安定化チューブは48時間以内の処理)、分析的妥当性(LODは0.1-1%未満、標準化された参照物質によるバリデーションの必要性)、解釈と報告(体細胞/生殖細胞系列変異の判別基準3条件、CHIPへの注意)、および臨床的有用性(進行がんの治療選択においてのみ有用性が確立されており、スクリーニング、MRD、補助療法におけるエビデンスは不十分)の4つの主要な側面でコンセンサスを確立した。
先行研究との違い: これまでの単一施設報告や小規模なレビューと異なり、本レビューは1,338報の文献から77報を厳選した系統的レビューという厳格な方法論を採用している。これにより、臨床医や病理医が日常診療で信頼できるエビデンスに基づいた基準を提示した点で、これまでの報告と対照的である。特に、CHIPが血漿cfDNAにおける主要な偽陽性源であること、NSCLCのEGFR変異において組織とctDNAの不一致が10-30%発生すること、および治療進行時の検体採取が感度を最大化する鍵であることを定量的に示した点は新規性がある。
新規性: 本レビューは、ASCOおよびCAPの合同専門家パネルとして、ctDNAアッセイの臨床的有用性が確立されている特定の進行がん(例:NSCLCにおけるEGFR変異検出)と、エビデンスが不足している他の臨床設定(早期がん、治療モニタリング、スクリーニング)とを明確に区別した基準を本研究で初めて提示した。また、ctDNAアッセイの検出限界が腫瘍遺伝子型判定アッセイよりも2桁程度低い必要があることを強調し、標準化された参照物質を用いた分析的妥当性の検証の重要性を提唱した。
臨床応用: 本レビューは、ctDNAアッセイの臨床応用として、(i) NSCLCにおけるEGFR変異検出(組織検体が不十分な場合の代替)、(ii) 疾患進行時のctDNAリキッドリバイオプシー、(iii) ctDNA陰性結果の組織検体による確認方針、(iv) CHIPに基づく偽陽性の認識と解釈の必要性を明確化した。これらの指針は、臨床現場でのctDNAアッセイの適切な導入と利用に直接的な影響を与える。
残された課題: 今後の検討課題として、(1) 早期がんおよびスクリーニングにおける臨床的有用性を確立するための前向き無作為化比較試験の実施、(2) 広範囲NGSアッセイのクロスプラットフォーム技能試験の開発、(3) 食事、運動、炎症、妊娠、代謝異常といった前解析的生物学的要因がctDNAアッセイに与える定量的影響の評価、(4) CHIP由来変異と真の腫瘍由来変異を鑑別するためのバフィーコート同時解析の導入、(5) 腫瘍タイプ別に臨床的に意味のある最小検出限界 (LOD) の規定が残されている。本レビューにおける limitation を克服するため、今後の研究方向性として、標準化された臨床試験デザインによる検証が望まれる。
方法
本レビューは、米国臨床腫瘍学会 (ASCO) と米国病理学会 (CAP) が共同で組織した専門家パネルによる系統的レビューである。文献検索は、医療情報専門家と協力して策定された「liquid biopsies」「blood」「cancer abnormalities」「pre-analytical」「analytical」「interpretation」「reporting」「utility」「validity」といった概念を含む検索戦略を用いて、2017年3月20日までに行われた。主要データベースは PubMed とし、英語論文に限定し、2007年1月から2017年3月までの期間の文献を対象とした。コメント、社説、書簡は除外された。Cochrane Library、National Guideline Clearinghouse、ClinicalTrials.gov、および関連する米国および国際機関のウェブサイトでも追加の検索が実施された。
初期検索により1,338件のユニークな文献が同定され、タイトルおよび抄録スクリーニングによる一次スクリーニングの結果、390件が全文レビューの対象として選択された。さらに、専門家パネルが31件の追加文献を提示し、最終的に77件の論文が本レビューに採用された。採用された文献は、4つのワーキンググループ(前解析、分析的妥当性、解釈と報告、臨床的妥当性と有用性)に分かれて評価・執筆された。
本レビューでは、米国疾病対策センター (Centers for Disease Control and Prevention: CDC) の Evaluation of Genomic Applications in Practice and Prevention (EGAPP) イニシアチブが提唱し、米国医学研究所が改訂した3つの概念(分析的妥当性、臨床的妥当性、臨床的有用性)を評価の枠組みとして採用した。統計的解析の評価においては、各研究で報告された感度、特異度、陽性適中率、陰性適中率などの診断精度指標を抽出し、メタ解析的アプローチを用いて統合した。生存分析や予測因子の評価に関しては、Cox比例ハザード回帰モデル (Cox regression) や Kaplan-Meier 法に基づくハザード比などの統計手法の適切性を個別に精査した。