• 著者: Ziming Li, Lan Shen, Ding Ding, Jia Huang, Jie Zhang, Zhiwei Chen, Shun Lu
  • Corresponding author: Shun Lu, MD, PhD (Shanghai Lung Cancer Center, Shanghai Chest Hospital, Shanghai Jiao Tong University, Shanghai, China)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-04-25
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 29704675

背景

ROS1融合遺伝子は、非小細胞肺がん (NSCLC) において、クリゾチニブなどのALK/ROS1/MET阻害剤による効果的な治療標的として確立されている。ROS1融合の全体的な有病率はNSCLCで約2%と報告されており、肺腺癌では最大3.3%に達する。ROS1染色体再構成は、元々膠芽腫で記述され、ROS1 (6q22) がFIG (fused in glioblastoma) 遺伝子と融合することが報告された (Rikova et al. Cell 2007)。ROS1融合タンパク質ではキナーゼドメインが完全に保持され、mRNAレベルでの接合点は常にエクソン32から36の5’末端で発生する。

前臨床研究では、ROS1再構成細胞株がROS1キナーゼ阻害剤であるクリゾチニブに感受性を示すことが実証されている。ROS1陽性NSCLC患者を対象としたPROFILE 1001試験の第I相研究では、クリゾチニブによる顕著な抗腫瘍活性が観察され、客観的奏効割合 (ORR) は69.8%であった (Shaw et al. NEnglJMed 2014)。同様に、欧州の後ろ向き研究でも、ROS1陽性肺がんに対するクリゾチニブの印象的な臨床活性が報告されている (Mazieres et al. JClinOncol 2015)。これらの結果に基づき、クリゾチニブは米国でROS1融合遺伝子陽性の転移性NSCLC患者の治療薬として承認された。

ROS1融合は14種類以上のパートナー遺伝子との組み合わせがNSCLCで報告されており、CD74 (CD74 molecule gene) が最多 (約44%)、EZR (ezrin gene) (約19%)、SDC4 (syndecan 4 gene) (約11%)、SLC34A2 (solute carrier family 34 member 2 gene) (約6%) などが知られている (Takeuchi et al. NatMed 2012)。EGFR変異では、エクソン19欠失とL858R点変異でチロシンキナーゼ阻害剤 (TKI) 感受性が異なること、またALK陽性NSCLCではEML4-ALKバリアントによってクリゾチニブ感受性が異なることが示されている。しかし、ROS1陽性NSCLCにおけるPROFILE 1001試験では、融合パートナーによるクリゾチニブ有効性の差異に関するデータが不十分であり、ROS1融合パートナーとクリゾチニブの治療効果との関係は未解明な部分が多かった。

CD74-ROS1はROS1融合タンパク質の中で最もよく研究されており、前臨床データからCD74-ROS1がFIG-ROS1と異なりE-Syt1 (extended synaptotagmin 1) のリン酸化を介して独特の浸潤性フェノタイプを示すことが示唆されていた。このことは、異なるROS1融合パートナーが異なる生物学的特性や治療反応性を持つ可能性を示唆しているが、臨床的なデータは不足している。特に、特定の融合パートナーが脳転移の発生率やクリゾチチニブの有効性に影響を与えるかどうかについては、さらなる検討が必要である。これらの知識ギャップを埋めることが、ROS1陽性NSCLC患者の個別化治療戦略を確立するために重要である。

目的

本研究の目的は、ROS1融合パートナーの種類 (CD74-ROS1 vs non-CD74-ROS1) が、クリゾチニブ治療を受けたROS1再構成NSCLC患者の治療成績 (客観的奏効割合 (ORR)、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)) および臨床病理学的特徴 (脳転移率) に異なる影響を与えるかを評価することである。具体的には、CD74-ROS1融合パートナーを有する患者と非CD74-ROS1融合パートナーを有する患者の間で、クリゾチニブの有効性および治療前脳転移の発生率に統計学的に有意な差があるかを検証することを目的とした。また、多変量解析を用いて、ROS1融合パートナーの種類が独立した予後因子であるか、あるいは他の臨床病理学的因子(例えば脳転移)がより重要な予後因子であるかを明らかにすることも目的とした。これにより、ROS1融合パートナーの層別化が、ROS1陽性NSCLC患者の個別化治療戦略に役立つ可能性を探る。

結果

ROS1融合パートナーの分布: ROS1融合パートナーが同定された36例のうち、19例がCD74-ROS1群、17例がnon-CD74-ROS1群に分類された。最も頻繁に検出されたROS1融合パートナーはCD74-ROS1 (CD74-E6とROS1-E34) であり、16例 (44.4%) に認められた。デュアルCD74-ROS1 (CD74-E6とROS1-E32/34) は2例 (5.6%)、CD74とSDC4の複合融合 (SDC4-E2, ROS1-E32/CD74-E6, ROS1-E34) は1例 (2.8%) に認められた。non-CD74-ROS1群では、EZR-ROS1 (EZR-E10とROS1-E34) が7例 (19.4%)、SDC4-ROS1 (SDC4-E2とROS1-E32) が4例 (11.1%) に認められた。SLC34A2-ROS1 (SLC34A2-E14delとROS1-E32)、TPM3-ROS1 (TPM3-E8とROS1-E35)、およびSDC4とEZRの複合融合 (SDC4-E2, ROS1-E32/EZR-E10, ROS1-E34) はそれぞれ2例 (5.6%) に認められた (Figure 1)。デュアルROS1融合は合計5例に認められ、腫瘍の不均一性を反映している可能性が示唆された。

臨床特徴の比較: CD74-ROS1群とnon-CD74-ROS1群の間で、治療前脳転移の発生率に有意差が認められた。CD74-ROS1群では6例 (31.6%) に脳転移が認められたのに対し、non-CD74-ROS1群では脳転移は認められなかった (0%) (p=0.02)。その他の臨床的特徴(性別、年齢、病期、治療ライン、喫煙状況など)については、両群間で統計学的に有意な差は認められなかった (Table 2)。

クリゾチニブの奏効: 全患者におけるクリゾチニブのORRは83.3% (36例中30例がPR) であった。non-CD74-ROS1群ではORRが94.11% (17例中16例がPR、0例がSD、1例がPD) であったのに対し、CD74-ROS1群ではORRが73.68% (19例中14例がPR、5例がSD、0例がPD) であった。non-CD74-ROS1群でORRが高い傾向が認められたものの、この差は統計学的に有意ではなかった (p=0.18)。

無増悪生存期間 (PFS): 全患者における中央値PFSは12.63ヶ月 (IQR 7.67〜19.30ヶ月) であった。non-CD74-ROS1群のPFS中央値は17.63ヶ月 (IQR 8.87〜未到達) であったのに対し、CD74-ROS1群では12.63ヶ月 (IQR 6.80〜17.77ヶ月) であり、non-CD74-ROS1群で有意にPFSが長かった (p=0.048) (Figure 2A)。単変量解析では、高齢 (p=0.035)、喫煙歴 (p=0.019)、脳転移の存在 (p=0.011)、およびCD74-ROS1融合パートナーの存在 (p=0.048) がPFSの有意な不良因子として同定された (Table 3)。しかし、多変量解析では、これらの因子はいずれもPFSと統計学的に有意な関連を示さなかった。脳転移 (HR 3.150, 95% CI 0.949-10.450, p=0.061) および喫煙歴 (HR 3.148, 95% CI 0.928-10.675, p=0.066) は高いハザード比を示したが、統計的有意性には達しなかった。

全生存期間 (OS): 全患者における中央値OSは32.70ヶ月 (IQR 18.77ヶ月〜未到達) であった。non-CD74-ROS1群のOS中央値は44.50ヶ月 (IQR 21.40〜未到達) であったのに対し、CD74-ROS1群では24.33ヶ月 (IQR 15.23〜32.70ヶ月) であり、non-CD74-ROS1群で有意にOSが長かった (p=0.036) (Figure 2B)。単変量解析および多変量解析の結果はTable 4に示されている。多変量Cox比例ハザードモデル解析では、クリゾチニブ治療前の脳転移の存在のみが、OSの独立した有意な予後不良因子として同定された (HR 8.973, 95% CI 1.723-46.720, p=0.010)。CD74-ROS1融合パートナー自体は、多変量解析においてOSの独立した不良因子として有意ではなかった (HR 1.492, 95% CI 0.428-4.778, p=0.562)。

脳転移進行: 最終フォローアップ時点で、クリゾチニブ治療を受けた23例 (63.9%) が病勢進行を認めた。これらの患者のうち、6例 (26.1%) で脳進行が観察され、内訳はCD74-ROS1群で3例、non-CD74-ROS1群で3例であった。これら6例のうち5例は、クリゾチニブ治療開始時に脳転移を認めなかった。クリゾチニブ治療後の脳進行率は、CD74-ROS1群で21.4% (14例中3例)、non-CD74-ROS1群で33.3% (9例中3例) であり、両群間に有意差は認められなかった (p=0.643)。脳進行を認めた6例は全脳放射線療法を受け、5例で頭蓋内病変が制御された。

耐性変異: 病勢進行後に生検を受けた5例のうち、次世代シーケンシング (NGS) またはSanger sequencingで解析された5例において、ROS1 G2032R耐性変異が2例 (40%) で検出された。これら2例はいずれもCD74-ROS1群の患者であった。

考察/結論

本研究は、ROS1融合パートナーの種類とクリゾチニブ治療成績の関係を評価した最大規模の単施設コホート研究である。本研究から2つの主要な知見が得られた。

新規性: 第1に、クリゾチニブ治療前の脳転移率がCD74-ROS1群で有意に高かった (31.6% vs 0%、p=0.02)。この差異は、CD74-ROS1融合タンパク質がE-Syt1リン酸化を介して独特の浸潤性シグナルを活性化するという前臨床データ (Jun et al. Cancer Res 2012) と整合しており、CD74-ROS1が脳転移傾向と関連する生物学的機序を示唆する新規の知見である。本研究で初めて、CD74-ROS1融合パートナーを有する患者における治療前脳転移の高頻度を臨床的に示した。

先行研究との違い: 第2に、non-CD74-ROS1群ではCD74-ROS1群に比べてPFS (17.63ヶ月 vs 12.63ヶ月, p=0.048) およびOS (44.50ヶ月 vs 24.33ヶ月, p=0.036) ともに有意に延長していた。これは、PROFILE 1001試験でROS1融合パートナーとクリゾチニブの有効性の間に明確な相関が示されなかったこととは対照的である。しかし、多変量解析ではROS1融合パートナーの種類自体は独立した予後因子として有意でなかった。OSの予後不良因子として独立的に残ったのは治療前脳転移 (HR 8.973, 95% CI 1.723-46.720, p=0.010) であり、CD74-ROS1群のOS劣化はむしろ脳転移の高率を介して説明される可能性が高い。

臨床応用: EGFR変異 (Del19 vs L858R) やALKバリアント (EML4-ALK variant 1 vs others) でのTKI感受性差異と同様に、ROS1融合パートナーも治療効果と予後の予測因子となる可能性がある。特に、CD74-ROS1融合を有する患者では治療前脳転移のリスクが高いことが示唆され、これらの患者に対してはより厳重な脳転移スクリーニングや予防的治療戦略の検討が臨床応用として重要となる。また、病勢進行後に検出されたROS1 G2032R耐性変異の2例がともにCD74-ROS1群から検出されたことは、CD74-ROS1のTKI耐性パターンの特殊性を示唆し、将来的な耐性克服戦略の開発に役立つ可能性がある。

残された課題: 本研究の制限としては、後ろ向き単施設研究であること、サンプルサイズが限定的であること、および融合パートナー群が不均一であることなどが挙げられる。特に、多変量解析でROS1融合パートナー自体が独立した予後因子として有意でなかったのは、サンプルサイズが十分でなかったためである可能性が残された課題として考えられる。これらの知見を検証するためには、大規模な前向き多施設研究による確認が今後の研究方向性として必要である。

方法

本研究は、2014年4月から2016年12月までに上海胸部病院でクリゾチニブ治療を受けたROS1再構成NSCLC患者の診療記録を後ろ向きにレビューした単施設コホート研究である。2400例以上のNSCLC患者から、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応 (RT-PCR) 法によりROS1陽性と同定された49例 (2.0%) のうち、腫瘍組織検体がSanger sequencingによるROS1融合パートナーの評価に利用可能であった36例を解析対象とした。

ROS1融合パートナーはSanger sequencingで同定され、患者はCD74-ROS1群 (n=19) とnon-CD74-ROS1群 (n=17) に分類された。クリゾチニブは250 mgを1日2回投与され、病勢進行 (PD) または許容できない毒性が生じるまで継続された。腫瘍奏効の評価は、Eisenhauer et al. EurJCancer 2009 に基づく放射線学的評価によって行われた。ORRは完全奏効 (CR) または部分奏効 (PR) を達成した患者の割合として算出された。疾患制御率 (DCR) はCR、PR、または安定疾患 (SD) を達成した患者の割合として定義された。

OSは初回治療開始日から死亡または最終フォローアップ日までと定義され、PFSはクリゾチニブ治療開始日からRECIST v1.1で定義されるPD日までと算出された。最終フォローアップ日は2017年10月1日であり、中央値追跡期間は31.9ヶ月であった。本研究は上海胸部病院の治験審査委員会によって承認された。

統計解析にはRソフトウェア (バージョン3.3.3) およびRStudioソフトウェア (バージョン1.1.383) が用いられた。連続変数の比較にはt検定またはWilcoxon検定が、カテゴリデータの比較にはカイ二乗検定またはFisherの正確検定が適切に用いられた。生存率の推定にはKaplan-Meier法が用いられ、生存分布の比較にはログランク検定が用いられた。多変量生存解析にはCox比例ハザードモデルが用いられ、単変量解析でp値が0.2未満の変数が多変量解析に含められた。比例ハザード仮定の確認にはSchoenfeld残差が用いられた。すべての検定は両側であり、p値が0.05未満の場合を統計的に有意とみなした。

患者背景 (全36例) は、中央値年齢50.8歳 (範囲32〜78歳)、女性23例 (63.9%)、非喫煙者31例 (86.1%) であった。組織型は全例が腺癌であった。病期はステージIVが30例 (83.3%)、術後再発が6例 (16.7%) であった。ECOG PS (Eastern Cooperative Oncology Group performance status) は0〜1が34例 (94.4%)、2が2例 (5.6%) であった。クリゾチニブの治療ラインは、1次治療が14例 (38.9%)、2次治療が15例 (41.7%)、3次治療以降が7例 (19.4%) であった。治療前脳転移は6例 (16.7%) に認められた。