• 著者: Zhao W, Zhu H, Zhang S, Yao W, Yin T, Tong F, Ran Y, Ding Z, Xiong H, Han Y, Sun H, Feng J
  • Corresponding author: N/A
  • 雑誌: OncoTargets and Therapy
  • 発行年: 2017
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Case Report
  • PMID: 28860822

背景

ROS1融合遺伝子は非小細胞肺癌(NSCLC)において約2.4%の頻度で認められる遺伝子変異であり、CD74、SLC34A2、EZR、LRIG3など複数の融合パートナーが報告されている Takeuchi et al. NatMed 2012。ROS1融合陽性NSCLCに対しては、ALKおよびMETを標的とするチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)であるクリゾチニブが有効であり、2016年3月11日に米国FDAによって進行性転移性ROS1再構成NSCLCの治療薬として承認された Shaw et al. NEnglJMed 2014。クリゾチニブの第I相臨床試験では、ROS1融合陽性NSCLC患者50例(FISHで49例、RT-PCRで1例検出)において、奏効率(ORR)72%、奏効期間中央値(DOR)17.6ヶ月、無増悪生存期間中央値(PFS)19.2ヶ月という良好な成績が報告されている。

SLC34A2-ROS1融合はROS1融合陽性NSCLCにおいて2番目に多い融合タイプの一つであり Bergethon et al. JClinOncol 2012、EML4-ALK融合と同様に染色体内の欠失と融合によって生成されると考えられている。しかし、SLC34A2とROS1のブレークポイントの位置は報告によって異なり、複数のバリアントが存在する。ROS1融合の標準的な検出方法としては、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)や増幅抵抗性変異システムPCR(ARMS-PCR)が広く用いられている。しかし、ARMS-PCRは既知のプライマーターゲット配列を利用するため、プライマー設計に含まれていないブレークポイントを持つ新規バリアントは偽陰性となる可能性がある。FISHもまた、ゲノム上で近接した染色体内逆位(intrachromosomal rearrangement)の場合、シグナル分離が不明瞭となり偽陰性を示すことがある。例えば、FIG-ROS1融合では染色体内欠失によりFISHが偽陰性となることが報告されている Rimkunas et al. ClinCancerRes 2012。これらの従来の検出方法は、コストが高く、精度が低い場合があり、特に未知の重要な変異の検出には適していないという課題が残されている。

このため、既知バリアントに基づく検出方法のみに依存すると、稀な新規融合バリアントを見逃す可能性があり、患者が標的治療の恩恵を受けられない事態が生じうる。次世代シーケンシング(NGS)は、既知および未知の遺伝子変異を包括的に同定するための有用な方法として注目されており、ROS1融合遺伝子の検出においてもその感度の高さが期待されている。しかし、NGSによって同定された新規ROS1融合バリアントに対するクリゾチニブの治療効果に関する報告は依然として不足している。

目的

本症例報告の目的は、従来のARMS-PCRおよびFISHでは検出困難であった新規SLC34A2-ROS1融合バリアントをNGSパネルによって同定し、当該バリアントを有する肺腺癌患者におけるクリゾチニブの治療効果およびその分子学的背景を詳細に報告することである。これにより、NGSの臨床的有用性と、新規ROS1融合バリアントに対するクリゾチニブの有効性を示すことを目指した。

結果

患者背景と初期治療: 48歳女性患者は背部痛を主訴に受診し、左乳癌の疑いがあったが、その後の生検で肺腺癌のリンパ節転移(両側頸部および左腋窩リンパ節)と診断された。喫煙歴は10年間(1パック/日)であった。初回ARMS-PCRによるEGFR、ALK、ROS1遺伝子変異検索は全て陰性であった。患者はドセタキセルとシスプラチンによる化学療法を2サイクル受けたが、病勢進行(PD)のため2015年12月9日に中止された。PET/CTでは多発リンパ節転移が確認された。その後、ペメトレキセド、シスプラチン、ベバシズマブによる化学療法2サイクルと局所放射線療法(4,400 cGy/22f/5w)を併用したが、骨髄抑制が重度であったため中止された。

ROS1融合遺伝子の検出と新規バリアントの同定: 従来のARMS-PCRではROS1融合遺伝子は検出されなかった。また、FISH(ROS1 break-apart assay)も陰性であった。しかし、NGS-483遺伝子パネルを用いた解析により、新規のSLC34A2-ROS1融合遺伝子が同定された。この新規バリアントは、SLC34A2遺伝子のエクソン13の3’UTR領域(chr4:25678781)が破壊され、ROS1遺伝子のイントロン31〜32間(intronic_e32_e31、chr6:117653720)に逆位で連結するものであった (Figure 1)。サンガーシーケンスにより、このブレークポイントの正確性が確認された (Figure 2)。この新規ブレークポイントは、従来のARMS-PCRのプライマーターゲット配列(SLC34A2エクソン4/13のコーディング領域)に含まれていなかったため、ARMS-PCRでは偽陰性となった。また、FISHにおいても、染色体6q22上の近接した逆位構造のため、ブレークアパートシグナルが不明瞭となり偽陰性を示したと考えられる。同時に、TP53 p.E132Q変異も同定されたが、これはTP53のDNA結合ドメインに存在し、タンパク質機能への影響は不明であり、ドライバー変異とは見なされなかった。

クリゾチニブによる治療奏効: 新規SLC34A2-ROS1融合バリアントがROS1キナーゼドメインを破壊しないと予測されたため、患者は2016年3月24日からクリゾチニブ(250 mg、1日2回)の投与を開始した。治療開始2週間後には、乳房腫瘤の縮小、疼痛の緩和、QOLの改善が認められた。2ヶ月後のPET/CT評価では、ほとんどの転移性リンパ節が消失し、代謝が正常に戻っていることが確認された (Figure 3)。11ヶ月後(2017年2月)のCT評価でも、右肺下葉基底区の不規則な結節はわずかに縮小し、代謝も低下しており、新たな腫瘍転移は認められなかった。患者の全身状態は良好に維持され、原発巣の改善、リンパ節転移の消失、代謝の正常化が確認された。重篤な有害事象は報告されず、軽度の視覚障害や倦怠感といった一般的なクリゾチニブの副作用のみであった。

ctDNAによる治療モニタリング: クリゾチニブ投与7ヶ月後(2016年7月)および13ヶ月後(2017年1月)に実施された血漿ctDNA解析では、SLC34A2-ROS1融合バリアントのシグナルは検出されなかった。この結果は、PET/CTデータと一致しており、分子レベルでの深い奏効が達成され、それが持続していることを示唆した。

考察/結論

本症例報告は、ARMS-PCRおよびFISHでは検出されなかった新規SLC34A2-ROS1融合バリアントをRNAベースのNGSによって正確に同定し、クリゾチニブによる優れた治療効果を達成した初めての報告の一つである。この結果は、ROS1融合陽性NSCLC患者の診断と治療において重要な臨床的意義を持つ。

先行研究との違い: 既報のSLC34A2-ROS1融合バリアントの多くは、SLC34A2のエクソン4またはエクソン13のコーディング領域とROS1のエクソン32/34の間にブレークポイントを持つことが報告されている Awad et al. NEnglJMed 2013。本症例で同定されたSLC34A2-ROS1融合は、SLC34A2のエクソン13の3’UTR領域という非コーディング領域にブレークポイントを持つ点で、これまでの報告とは異なる新規バリアントである。この違いは、従来のARMS-PCRのプライマー設計がコーディング領域に限定されていたため、本バリアントが検出されなかった主要な原因であると考えられる。

新規性: 本研究で初めて、SLC34A2の3’UTRがROS1のイントロンに連結する新規SLC34A2-ROS1融合バリアントをNGSで同定し、このバリアントがROS1キナーゼドメインを保持し、クリゾチニブに感受性を示すことを実証した。この知見は、ROS1キナーゼドメインを保持する新規融合バリアントも既知バリアントと同様にクリゾチニブに応答する可能性を強く支持する。また、ARMS-PCRおよびFISHが偽陰性となる稀なケースにおいて、NGSがROS1融合遺伝子を検出する上で極めて有用であることを示した点も新規性が高い。

臨床応用: 本知見は、ROS1融合陽性NSCLC患者に対する診断戦略に重要な臨床的含意を持つ。現行の標準検出法であるARMS-PCRやFISHが、新規ブレークポイントを持つROS1融合を見逃す可能性があることを示しており、NGSベースの包括的遺伝子検査がROS1融合の感度の高い検出に不可欠であることを明示している。特に、従来の検査で陰性であったにもかかわらず臨床的にROS1融合が強く疑われる患者に対しては、NGSの実施が推奨される。さらに、ctDNA解析が治療奏効の非侵襲的モニタリングツールとして活用できる可能性も示唆された。本症例は、ROS1陽性NSCLC患者に対してNGSベースの包括的遺伝子検査を実施することの重要性を強調する教訓的報告であり、感度の高い検査体制の整備が見逃し例を減らす上で不可欠である。

残された課題: 今後の検討課題として、この新規SLC34A2-ROS1融合バリアントの機能的特性をin vitroおよびin vivoで詳細に解析し、ROS1キナーゼ活性化のメカニズムを解明する必要がある。また、TP53 p.E132Q変異のクリゾチニブ奏効への影響についても、さらなる研究が必要である。本症例は単一の症例報告であるため、その結果を一般化するには限界がある。より大規模なコホート研究や臨床試験を通じて、NGSによる新規ROS1融合バリアントの検出頻度、クリゾチニブに対する奏効の普遍性、および予後への影響を評価することが今後の方向性となる。

方法

本研究は単一症例のデータを記述する症例報告である。患者は48歳女性、肺腺癌と診断され、多発リンパ節転移を伴う進行期であった。10年間の喫煙歴(1パック/日)があり、遺伝性疾患の家族歴はなかった。

遺伝子検査: 初回生検組織より、EGFR、ALK、ROS1遺伝子変異の検索がARMS-PCR(Amoy Diagnostics Co., Ltd, Xiamen, People’s Republic of China)によって実施されたが、全て陰性であった。その後、治療抵抗性を示したため、NGS-483遺伝子パネル(Novogene Bioinformatics Technology Co., Ltd, Beijing, People’s Republic of China)を用いた包括的遺伝子解析が実施された。NGSでは、483遺伝子の全エクソンおよび一部イントロンの非反復領域に沿ってビオチン化オリゴプローブが設計され、増幅されたエクソンおよびイントロンDNAがHiSeq X Tenシーケンサー(Illumina, San Diego, CA, USA)で150 bpのペアエンドリードとしてシーケンスされた。NGS解析により、新規SLC34A2-ROS1融合遺伝子とTP53 p.E132Q変異が同定された。

融合遺伝子の検証: NGSで同定された新規SLC34A2-ROS1融合バリアントのブレークポイント(chr6:117653720, chr4:25678781)を検証するため、ROS1遺伝子のブレークポイント下流およびSLC34A2遺伝子の上流ブレークポイントに基づいてプライマーペアが設計された。直接サンガーシーケンスにより、SLC34A2エクソン13の3’非翻訳領域(3’UTR)が破壊され、ROS1のイントロン31〜32間(intronic_e32_e31)に逆位で連結していることが確認された。この新規ブレークポイントはCOSMICデータベース(http://cancer.sanger.ac.uk/cosmic)には含まれていなかった。さらに、FISHアッセイ(Guangzhou Anpingping [LBP] Pharmaceutical Technology Co., Ltd)も実施されたが、結果は陰性であった。

治療と評価: 患者は2016年3月24日からクリゾチニブ(250 mg、1日2回)の投与を開始した。治療効果は、投与2ヶ月後のPET/CTおよび11ヶ月後のCT評価によって判断された。治療中の副作用もモニタリングされた。

ctDNA解析: 治療中の融合遺伝子発現をモニタリングするため、液体生検として血漿中の循環腫瘍DNA(ctDNA)が用いられた。クリゾチニブ投与7ヶ月後(2016年7月)および13ヶ月後(2017年1月)に、NGS-483遺伝子パネルを用いてctDNA中のSLC34A2-ROS1融合バリアントの有無が評価された。