- 著者: Amod A. Sarnaik, Patrick Hwu, James J. Mule, Shari Pilon-Thomas
- Corresponding author: Amod A. Sarnaik (H. Lee Moffitt Cancer Center and Research Institute, Tampa, FL)
- 雑誌: Cancer Cell
- 発行年: 2024
- Epub日: 2024-08-12
- Article種別: Commentary
- PMID: 39029463
背景
腫瘍浸潤リンパ球(Tumor-infiltrating lymphocytes; TIL)は、患者個々のネオアンチゲン(新生抗原)を含む多様な腫瘍関連抗原を認識できる多クローン性(polyclonal)のT細胞集団である。1980年代に米国国立がん研究所(NCI)のSurgery Branchに所属するRosenbergらによって、切除腫瘍組織から ex vivo で大量増幅した自己TILを患者に輸注する養子免疫細胞療法(Adoptive Cell Therapy; ACT)の基礎が築かれた。この治療法は、非骨髄破壊的(non-myeloablative; NMA)な前処置化学療法によるリンパ球除去と、輸注後のインターロイキン-2(IL-2)投与を組み合わせることで、転移性メラノーマにおいて30%から60%という高い客観的奏効率(ORR)を示してきた。しかし、これまでの先行研究(Rosenbergら、1986年、1988年)や、リンパ球除去の重要性を実証した Dudley et al. Science 2002 などの歴史的業績があるものの、TIL療法を一般的な臨床現場へ普及させるには多くの障壁が存在していた。特に、各施設における製造プロトコルの標準化や、治療開始までの期間における病勢進行による脱落、さらには高用量IL-2やNMA化学療法に伴う重篤な毒性管理の難しさが課題であった。また、メラノーマ以外の固形がん、例えば非小細胞肺がん(NSCLC)などにおけるTIL療法の有効性は、Creelan et al. NatMed 2021 などの初期試験で検証が始まったばかりであり、腫瘍反応性TILを選択的に拡大培養する技術が不足しているという深刻なギャップが存在していた。このように、固形がんに対する個別化細胞療法としてのポテンシャルは極めて高いものの、標準治療として確立するための製造・安全性の確立プロセスは未解明な部分が多く、広範な臨床応用への展開には決定的なデータが不足しており、依然として大きな臨床的課題と知識ギャップが残されている。
目的
本Commentaryの目的は、TIL療法の誕生から約40年にわたる歴史的発展と臨床実績を体系的に概説することである。特に、初の商用TIL製剤であるlifileucelが米国食品医薬品局(FDA)から条件付き加速承認を獲得するに至った臨床試験(C-144-01試験)の成果と、中央集中型製造(centralized manufacturing)戦略の意義を整理する。さらに、現在の第一世代TIL療法が直面している技術的・臨床的課題(メラノーマ以外の固形がんにおける効果不十分、高用量IL-2およびNMA化学療法に起因する重篤な毒性、製造期間中の患者脱落など)を浮き彫りにし、これらのロードブロックを克服するために進行中である次世代TIL製品(遺伝子改変技術、エピジェネティック再プログラミング、ネオアンチゲン特異的TILの選択的培養、IL-2不要の自己完結型TILなど)の開発戦略と今後の展望を提示することである。
結果
初期臨床試験とMoffittがんセンターにおける脱落防止実績: NCI Surgery Branchが1988年に報告した初期のTIL試験では、IL-2既治療例で40%(n=5)、未治療例で60%(n=15)の奏効率が示された。その後、Dudley et al. Science 2002 により、シクロホスファミド(60 mg/m²×2日)とフルダラビン(25 mg/m²×5日)を用いたNMA(non-myeloablative; 非骨髄破壊的)リンパ球除去前処置が導入され、TILの生着と体内持続性が劇的に向上した。Moffitt Cancer Centerが2010年から開始した臨床試験では、当初、切除から製造期間中の病勢進行による患者脱落率が32%に達していたが、TIL製造期間中にipilimumab、vemurafenib、またはnivolumabによる介入治療を挟むことで、脱落率を5%にまで大幅に低減させることに成功した(Fig 1)。意図治療(ITT)解析に基づく客観的奏効率(ORR)は37%であり、12カ月以上奏効を維持した症例の84%は、追跡期間中央値10年という長期追跡時点においても無増悪生存を維持していた。
欧州ランダム化第3相試験によるTIL療法の優越性実証: PD-1抗体不応性の進行メラノーマ患者を対象に、TIL療法とipilimumab単剤療法を直接比較した欧州の多施設共同ランダム化試験では、ITT解析においてTIL群が極めて優れた治療効果を示した。無増悪生存期間(PFS)のハザード比は HR 0.50 (95% CI 0.35-0.72, p<0.001) であり、ipilimumab群と比較して疾患進行または死亡のリスクを50%低減した。客観的奏効率(ORR)はTIL群で41% (n=84) に達したのに対し、ipilimumab群では18% (n=84) にとどまった(Table 1)。全生存期間(OS)の中央値においても、TIL群で25.8 vs 18.9 months と、TIL群で良好な延長傾向が確認された。
中央集中型製造によるLifileucelの臨床実績と承認: Iovance社は、従来の煩雑なTIL培養工程を22日間に短縮した独自のクローズド製造プロトコルであるREP(rapid expansion protocol; 急速拡大プロトコル)を確立し、外部施設で採取した腫瘍組織を中央製造施設へ輸送して製剤化するシステムを構築した。進行メラノーマ患者189例を登録したC-144-01試験において、製造成功率は95.7% (n=181/189) と極めて高い水準を達成した。評価可能症例153例における客観的奏効率(ORR)は31.4% (95% CI 24.1-39.4, p<0.001) であり、奏効に達した患者の多くは投与後6週目の初回評価時に効果が確認された。追跡期間中央値27.6カ月の時点で奏効期間(DOR)の中央値には未到達であり、生存期間(OS)の中央値は 13.9 months (95% CI 10.6-17.8) であった。この強固なデータに基づき、FDAは2024年にlifileucelを条件付き加速承認した。
他のがん種における課題と重篤な治療関連毒性: メラノーマ以外の固形がん、特に非小細胞肺がん(NSCLC)においては、Creelan et al. NatMed 2021 の第1相試験(n=20)において、PD-1抗体抵抗性症例に対するTIL療法のORRは25% (n=5/20) と、メラノーマに比べて低い傾向にあった。これは肺がんなどの上皮性固形がんにおいて、腫瘍反応性を持つTILの割合が低く、ex vivo での選択的増幅が困難であることに起因する。また、現行プロトコルにおける高用量IL-2投与は、血管漏出症候群に伴う低血圧、心肺不全、腎機能障害などの重篤な毒性を引き起こす。さらに、NMA化学療法による骨髄抑制は、好中球減少性発熱や血小板減少症を必発させ、脳転移症例における脳内出血リスクを高めるため、これらの患者は治療対象から除外されるという制限がある(Fig 2)。
考察/結論
先行研究との違い: 本Commentaryで議論されているTIL療法は、従来の免疫チェックポイント阻害薬(ICI)単剤療法や、特定の単一抗原のみを標的とするCAR(chimeric antigen receptor; キメラ抗原受容体)-T細胞療法と異なり、患者個々の腫瘍が持つ多種多様なネオアンチゲンを同時に標的とする polyclonal な自己細胞移植治療である。従来の個別施設ごとの手作業による製造法とは対照的に、22日間の短縮プロトコルを用いた中央集中型製造システムを確立し、商業的供給を可能にした点が決定的に異なる。
新規性: 本論文は、初の固形がん向け細胞治療製品としてFDA承認を取得したlifileucelの臨床データを軸に、TIL療法が「学術的な特殊治療」から「標準的な商業治療」へと昇華したことを初めて体系的に論じた。また、シングルセルRNAシーケンシング(scRNA-seq)解析により、治療奏効に寄与する画期的な分画として、幹細胞様(stem-like)の表現型を持つ CD39⁻CD69⁻ ネオアンチゲン特異的T細胞が同定されたことを新規の知見として強調している。
臨床応用: Lifileucelの承認は、がん免疫療法における極めて重要なマイルストーンであり、標準治療に抵抗性を示す進行メラノーマ患者に対する新たな救済手段として臨床現場に定着しつつある。さらに、この技術を肺がんや大腸がんなどの他のがん種へ臨床応用するための基盤が整った。
残された課題: 今後の検討課題として、高用量IL-2やNMA化学療法に伴う重篤な全身毒性をいかに低減するかが残されている。Limitationとして、現行の第一世代TILは全身状態が良好な患者にしか適用できない。この課題を解決するため、PD-1やCISH遺伝子をノックアウトした遺伝子改変TIL、あるいは膜結合型IL-15を共発現させてIL-2投与を不要にする「自己完結型」次世代TIL製品の開発が今後の重要な研究方向性である(Fig 2)。
方法
本論文はCommentary(解説記事)であるため、新規の患者登録や介入を伴う直接的な臨床試験は実施していない。評価方法として、NCI Surgery Branch、Moffitt Cancer Center、MD Anderson Cancer Centerなどで過去に実施されたTIL療法の主要な臨床試験データ、および欧州で実施された多施設共同ランダム化第3相試験(Rohaanら、2022年)の成果を網羅的に収集・比較分析した。さらに、Iovance Biotherapeutics社が主導した、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)およびBRAF/MEK阻害薬抵抗性の転移性メラノーマ患者189例を対象とするマルチコホート共同登録試験であるC-144-01試験(NCT02360579)のデータを詳細にレビューした。統計学的解析手法としては、主要な臨床試験において用いられたカプラン・マイヤー(Kaplan-Meier)法による生存曲線解析、ハザード比(HR)算出のためのコックス比例ハザード回帰(Cox regression)モデル、および客観的奏効率(ORR)や奏効期間(DOR)の評価基準を検証した。また、PubMed などのデータベースを基に、次世代TIL開発に関連する進行中の臨床試験(NCT05573035、NCT05361174、NCT04426669、NCT05628883、NCT06060613、NCT05470283)のプロトコル情報を抽出し、技術的アプローチ(PD-1ノックアウト、CISH(cytokine-induced SH2 protein)遺伝子ノックアウト、膜結合型IL-15発現など)ごとに分類・整理して、治療抵抗性固形がんに対するTIL療法の最適化ロードマップを構築した。