- 著者: Ott PA, Hu-Lieskovan S, Chmielowski B, Govindan R, Naing A, Bhardwaj N, Margolin K, Awad MM, Hellmann MD, Lin JJ, Friedlander T, Bushway ME, Balogh KN, Sciuto TE, Kohler V, Turnbull SJ, Besada R, Curran RR, Trapp B, Scherer J, Poran A, Harjanto D, Barthelme D, Ting YS, Dong JZ, Ware Y, Huang Y, Huang Z, Wanamaker A, Cleary LD, Moles MA, Manson K, Greshock J, Khondker ZS, Fritsch E, Rooney MS, DeMario M, Gaynor RB, Srinivasan L
- Corresponding author: Patrick A. Ott (Dana-Farber Cancer Institute/Harvard Medical School); Lakshmi Srinivasan (Neon Therapeutics/BioNTech US)
- 雑誌: Cell
- 発行年: 2020
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article (Phase Ib Clinical Trial)
- PMID: 33064988
背景
ネオアンチゲン (neoantigens) は腫瘍特異的体細胞変異に由来する腫瘍抗原であり、T細胞媒介抗腫瘍免疫の中心的な標的として機能する。高い腫瘍変異負荷 (TMB: tumor mutational burden) は抗PD-1療法への奏効を予測することが示されていた。TMBとネオアンチゲン数が無増悪生存 (PFS: progression-free survival) 改善と相関することも複数の解析で実証されていた (McGranahan et al., 2016; Rizvi et al. Science 2015; Van Allen et al., 2015)。
次世代シーケンシング技術を用いたパーソナライズドネオアンチゲンワクチン (personalized neoantigen vaccine) の第1b相試験は切除後黒色腫・グリオブラストーマで実現可能性・安全性・免疫原性を示し (Ott et al., 2017; Sahin et al., 2017; Carreno et al., 2015)、これらの知見はワクチン戦略の有望性を示す初期証拠であった。一方、免疫チェックポイント阻害 (ICI: immune checkpoint inhibition) は黒色腫・NSCLC・膀胱癌を含む広範ながん種で抗腫瘍活性を示すが (Borghaei et al. NEnglJMed 2015)、長期臨床利益を得る患者は限られており、抗PD-1奏効は腫瘍内T細胞浸潤を既存する患者に大きく依存することが示されていた (Tumeh et al. Nature 2014)。しかしながら、転移性固形腫瘍患者においてパーソナライズドネオアンチゲンワクチンと抗PD-1療法を組み合わせる大規模臨床評価は行われていなかった。この組み合わせが腫瘍指向性T細胞レパートリーを実際に拡大できるかという問いは未解明のままであり、エビデンスが不足していた。補助療法設定を超えた転移性設定での安全性・免疫学的プロファイル・抗腫瘍効果の実証というギャップが埋まっておらず、次の臨床展開への課題となっていた。
目的
進行黒色腫・喫煙関連NSCLC・尿路上皮癌TCC (transitional cell carcinoma) を対象に、パーソナライズドネオアンチゲンワクチンNEO-PV-01 (personalized neoantigen peptide vaccine) とニボルマブ (nivolumab、抗PD-1抗体) の組み合わせにおける安全性・忍容性・免疫原性・抗腫瘍効果を評価する初の大規模第1b相試験 (NCT02897765) を実施し、PFSと相関する免疫学的・分子的バイオマーカーを探索すること。
結果
患者背景・ワクチン接種状況:82例が登録されintention-to-treat (ITT) セットを構成した。このうち60例がNEO-PV-01を接種 (接種済みセット:黒色腫27例、NSCLC 18例、膀胱癌15例)。22例 (27%) は非接種となり、主な理由は疾患進行 (n=11)・腫瘍細胞量不足または低TMB (n=4)・その他 (n=7) であった (Fig 1C)。接種済みセットの中央値TMBは黒色腫363 (範囲50-8,431)・NSCLC 221 (109-760)・膀胱癌194 (48-1,447) 変異/エクソームであり、いずれも高TMBを示した (Table 1)。前治療歴は黒色腫30%・NSCLC 61%・膀胱癌73%で、NSCLC・膀胱癌の大半が既治療例であった。60例中14例 (23%) はニボルマブによる画像的進行後にワクチンを開始した。PD-L1陰性 (<1%) は黒色腫20%・NSCLC 27%・膀胱癌57%であり、PD-L1状態は選択基準としなかった (Table 1)。
安全性:重篤有害事象は認めず:接種済み60例全例でTRSAE (treatment-related serious adverse events、治療関連重篤有害事象) は認めなかった。最多の有害事象 (AE: adverse event) は注射部位反応 (52%)・インフルエンザ様症状 (35%) であり、ほぼ全例がCTCAE (Common Terminology Criteria for Adverse Events) grade 1と軽微であった。Grade ≥3の治療関連有害事象は2例のみ (低カリウム血症・発疹各1例) で、ワクチン中断・中止に至るAEは認めなかった (Table S1-S3)。
免疫原性:接種全例でネオアンチゲン特異的T細胞誘導:34例を対象とした570免疫化ペプチドのELISpot解析では、黒色腫52%・NSCLC 47%・膀胱癌52%のペプチドが後ワクチン時点で強力なIFNγ応答を誘導した (Fig 4A)。前治療・前ワクチン時点ではネオアンチゲン特異的応答はほぼ検出されず、応答は全例でワクチン後に新規に誘導されたものであった。CD4+応答は平均42%・CD8+応答は平均24%のペプチドで検出され、13変異エピトープ中12例 (92%) で野生型より変異体ペプチドへの優先的反応性を確認した (Fig 4B、Table S5)。52週時点 (最終ワクチン後約29週) における持続性を12-20例の193ネオエピトープで評価したところ、58%のネオエピトープで応答が持続しており、CD4+・CD8+双方の長期記憶が確認された (Fig 4C)。接種済み60例全例でネオアンチゲン特異的CD4+および/またはCD8+T細胞応答の新規誘導が確認された。
細胞傷害性・腫瘍浸潤・エピトープスプレッド:21例71エピトープを用いたCD107a動員アッセイでは、後ワクチン時点で58%のエピトープ刺激後にCD107a陽性を検出し (Fig 5A)、ワクチン誘導T細胞が脱顆粒を介する細胞傷害性 (cytotoxic potential) を有することを実証した。腫瘍浸潤の直接的証拠として、患者M1 (67歳女性黒色腫、安定24ヶ月) ではRICTOR変異特異的CD8+T細胞がPBMCの0.17%を占め、後ワクチン腫瘍生検のTCRシーケンシングで同一クローン (M1TCR3) が検出された (Fig 5B III)。このTCRを正常CD8+T細胞に導入して癌細胞株A375 (HLA-B51:01発現) と共培養すると、変異ペプチド存在下のみでcleaved caspase-3上昇による特異的細胞傷害が確認された (Fig 5B IV)。患者M13でもLGALS3BP遺伝子フレームシフト変異IM07特異的CD4+T細胞が後ワクチン腫瘍生検で検出された (Fig 5C)。エピトープスプレッドは25例の330非免疫化ネオエピトープを評価し、33エピトープで後ワクチン時点にのみ特異的応答を確認した (Table S6)。スプレッドの程度はPFS-9またはPFS-6達成患者で高く、log-rank検定でPFS延長と有意に相関した (Fig 5D)。
抗腫瘍効果とPFS・OS:ORR (objective response rate、RECIST 1.1) は接種済みセットで黒色腫59% (95% CI 39-78%) vs NSCLC 39% (95% CI 17-64%) vs 膀胱癌27% (95% CI 8-55%) であり (Fig 2)、奏効持続期間 (DoR: duration of response) 中央値は3コホートとも未達であった。ニボルマブ単独進行後にワクチン開始後に奏効したレスポンスコンバージョン率 (RCR: response conversion rate) は全体13% (黒色腫15% vs NSCLC 17% vs 膀胱癌7%) であった。中央値PFSは黒色腫23.5ヶ月 (95% CI 6.6-NE) vs NSCLC 8.5ヶ月 (95% CI 3.9-NE) vs 膀胱癌5.8ヶ月 (95% CI 2.8-12.7)。1年OS (overall survival) 率は黒色腫96% (95% CI 76-99%) vs NSCLC 83% (95% CI 57-94%) vs 膀胱癌67% (95% CI 38-85%)。膀胱癌の中央値OSは20.7ヶ月 (95% CI 4.8-NE) であった。PD-L1状態はいずれのコホートでもORRと相関しなかった (Fig S1A)。黒色腫コホートの連続腫瘍生検19例において、主要病理学的奏効 (MPR: major pathological response、残存腫瘍細胞率 <5%) は前ワクチン時点で5例 (26%) が達成したが、後ワクチン時点にさらに9例がMPRに達した (Fig 6B)。MPR達成群 (n=14) vs 非達成群 (n=5) の比較でPFS延長は有意であり、Cox比例ハザード解析にてHR 0.16 (95% CI 0.03-0.93) を示した (Fig 6C)。
PFS相関バイオマーカー:黒色腫コホートでTMBはPFS-9と有意な正相関を示した (Fig S2A)。エフェクターメモリーCD8+T細胞の末梢血割合はPFS-9達成の黒色腫患者で前ワクチン・後ワクチン両時点ともに有意に高く (Fig 3A)、逆にnaive CD8+T細胞割合は進行患者で高かった。腫瘍内のTCF7 (Transcription Factor 7) +CD8+T細胞シグネチャーはNanoString遺伝子発現解析でもPFS-9達成群に高く (Fig 3C)、多重免疫蛍光染色で確認された。NSCLCではPFS-9達成群の末梢血で形質細胞様樹状細胞 (plasmacytoid DC: dendritic cell) 割合が有意に低かった (Fig S2B)。
考察/結論
本試験は転移性固形腫瘍3がん種を対象とした最大規模のパーソナライズドネオアンチゲンワクチン+抗PD-1試験として位置づけられる。先行研究である補助療法単独の小規模試験 (Ott 2017、Sahin 2017) と比較して、転移性設定での安全性・免疫原性・抗腫瘍効果を網羅的に実証した点でこれまでの研究とは異なる重要な前進をもたらした。先行研究が補助療法設定に限られていたのに対し、本試験は転移性・既治療患者にも普遍的な免疫誘導が可能であることを初めて示した。
新規性: 本研究で初めて示されたのは、(1) 転移性固形腫瘍患者における普遍的なネオアンチゲン特異的T細胞誘導 (接種60例全例、n=60)、(2) 誘導T細胞の細胞傷害性表現型・腫瘍浸潤能の直接的実証 (TCRクローン追跡+caspase-3細胞傷害アッセイ)、(3) エピトープスプレッドとPFS延長の相関、および (4) ニボルマブ単独では不応答だった患者への後ワクチンMPR誘導である。これらは本研究で初めて臨床的に立証された新規な (novel) 知見であり、ネオアンチゲンワクチン+ICIがT細胞レパートリーを実際に拡大し腫瘍細胞を傷害できることを支持するエビデンスとなった。
NSCLC ORR 39% (95% CI 17-64%、n=18) は小コホートながら注目に値する。喫煙関連NSCLCのニボルマブ単剤の歴史的対照 (Borghaei et al. 2015での二次治療 ORR約20%) と比較して良好であり、高TMB腫瘍における本戦略の臨床応用としての可能性を示唆する。黒色腫での1年OS 96%・中央値PFS 23.5ヶ月は既存の抗PD-1単剤療法データと遜色なく、組み合わせの安全性の観点からも実臨床への橋渡し (bench-to-bedside) が十分に検討できるプロファイルを示した。
一方、本研究に残された課題 (limitation) は複数ある。第一に単腕試験設計のため、奏効の深化・エピトープスプレッド・MPRがワクチン効果によるものかニボルマブの遅延効果によるものかは区別できない。第二に27% (22例) の非接種率が実臨床普及のハードルとなっており、腫瘍量不足・低TMBによるワクチン製造失敗が課題である。製造期間12週・腫瘍量確保という技術的制約の克服が今後の検討課題として挙げられる。第三に、NSCLC・膀胱癌のコホートサイズが18例・15例と小さく、バイオマーカーの探索的解析はpost hocであり前向き検証が不可欠である。APOE4の黒色腫でのPFS-9相関とNSCLCでの逆相関という矛盾した結果は、腫瘍種間での免疫応答の不均一性を示唆するが再現性の確認が必要である。今後のさらなる検討として、無作為化比較試験 (ネオアンチゲンワクチン+抗PD-1対抗PD-1単剤) によるワクチン寄与の特定、補助療法・最小残存病変設定での評価、およびより短い製造期間を実現する製造技術の革新が求められる。本試験データはNEO-PV-01・BNT111等の後続第2相試験設計に反映されており、パーソナライズドネオアンチゲンワクチン+ICI戦略の将来的な実用化に向けた基盤となるエビデンスである。
方法
非無作為化非盲検第1b相試験。米国9施設。対象は切除不能または転移性の黒色腫・喫煙関連NSCLC・膀胱TCC患者 (転移への前治療は最大1レジメン、抗PD-1/PD-L1療法歴なし、PD-L1状態不問)。登録期間:2016年11月〜2018年8月。データカットオフ:2019年8月 (最短追跡期間12ヶ月)。
ワクチン製造: 患者のホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE: formalin-fixed paraffin-embedded) 腫瘍組織と正常血液細胞の全エクソーム・RNA配列解析を実施し、質量分析ベースのアルゴリズム (HLA class I結合親和性・発現量・プロテアソーム切断可能性を統合) で最大20ペプチド (14-35アミノ酸) を選定、ポリICLC (poly-ICLC) アジュバントと混合してNEO-PV-01を製造した。
治療スキーマ: ニボルマブを0週から開始し、12週目以降にNEO-PV-01を皮下投与 (4解剖学的部位、5回プライミング+2回ブースター、約3ヶ月間)、ニボルマブを継続投与した (Fig 1B)。主要評価項目:安全性・忍容性・免疫原性。副次評価項目:ORR (objective response rate、RECIST version 1.1)・PFS・OS (overall survival)。
免疫学的評価: 末梢血単核球 (PBMC: peripheral blood mononuclear cells) を前治療・前ワクチン・後ワクチンの3時点で採取し、IFNγ ELISpot (enzyme-linked immunosorbent spot) アッセイ・CD107a動員アッセイ・TCR (T cell receptor) シーケンシングで評価した。腫瘍内T細胞遊走はTCRクローン追跡で確認し、細胞傷害性はcleaved caspase-3発現アッセイで検証した。探索的エンドポイントとしてPFS-9 (9-month progression-free survival rate、黒色腫・NSCLC) およびPFS-6 (6-month progression-free survival rate、膀胱癌) を設定し、TMB・遺伝子発現・免疫細胞表現型との相関を評価した。統計解析:unpaired t検定・log-rank検定・Cox比例ハザードモデルを使用した。