• 著者: Luis A. Rojas, Zachary Sethna, Kevin C. Soares, Cristina Olcese, Nan Pang, Erin Patterson, Jayon Lihm, Nicholas Ceglia, Pablo Guasp, Alexander Chu, Rebecca Yu, Adrienne Kaya Chandra, Theresa Waters, Jennifer Ruan, Masataka Amisaki, Abderezak Zebboudj, Zagaa Odgerel, George Payne, Evelyna Derhovanessian, Felicitas Müller, Ina Rhee, Mahesh Yadav, Anton Dobrin, Michel Sadelain, Marta Łuksza, Noah Cohen, Laura Tang, Olca Basturk, Mithat Gönen, Seth Katz, Richard Kinh Do, Andrew S. Epstein, Parisa Momtaz, Wungki Park, Ryan Sugarman, Anna M. Varghese, Elizabeth Won, Avni Desai, Alice C. Wei, Michael I. D’Angelica, T. Peter Kingham, Ira Mellman, Taha Merghoub, Jedd D. Wolchok, Ugur Sahin, Özlem Türeci, Benjamin D. Greenbaum, William R. Jarnagin, Jeffrey Drebin, Eileen M. O’Reilly, Vinod P. Balachandran
  • Corresponding author: Benjamin D. Greenbaum (Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York), Vinod P. Balachandran (Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York)
  • 雑誌: Nature
  • 発行年: 2023
  • Epub日: 2023-05-10
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 37165196

背景

膵管腺がん (pancreatic ductal adenocarcinoma; PDAC) は、極めて予後不良な難治性悪性腫瘍である。世界のがん統計を報告した Sung et al. CACancerJClin 2021 によると、膵がんは世界のがん死亡原因の第 7 位に位置し、その罹患率は年々増加傾向にある。手術による完全切除のみが唯一の根治的治療法であるが、術後補助化学療法を施行したとしても、約 90% の患者が術後 7-9 か月という極めて短期間のうちに再発を来す。さらに、PDAC は免疫チェックポイント阻害薬 (immune checkpoint inhibitor; ICI) に対する奏効率が 5% 未満と極めて低く、その原因として腫瘍遺伝子変異量 (tumor mutational burden; TMB) が低く、ネオ抗原 (neoantigen) が少ない「cold tumor (免疫学的に不活性な腫瘍)」であることが Yarchoan et al. NEnglJMed 2017 などで指摘されてきた。

しかし、近年の研究により、PDAC においても予測より多くのネオ抗原が存在し、長期生存例では免疫原性の高いネオ抗原と活性化 CD8 陽性 T 細胞の浸潤が豊富であることが判明した。ネオ抗原はがん免疫療法において極めて有望な標的とされているが Schumacher et al. Science 2015、個々の患者の腫瘍に特異的なネオ抗原を同定し、それを標的とした個別化ワクチンを術後補助療法の段階で迅速に製造・投与する治療戦略の有効性や実現可能性は十分に検証されておらず、多くの課題が残されている。特に、複雑な外科手術の後に、限られた時間枠の中で個別化ワクチンをオンタイムで製造し、標準的な化学療法と安全に併用できるかという点については、これまで明確なエビデンスが不足していた。また、免疫抑制的な微小環境を克服し、冷たい腫瘍である PDAC において強力な de novo (新規) の T 細胞応答を誘導できるかどうかも未解明のままであった。このように、切除可能 PDAC に対する個別化ネオ抗原ワクチンの臨床的有用性や、術後補助療法としての最適な逐次併用レジメンの確立には大きな gap が残されている。

目的

本研究の目的は、切除可能な膵管腺がん (PDAC) 患者を対象として、術後補助療法の枠組みにおいて、抗 PD-L1 抗体である atezolizumab、個別化 mRNA ネオ抗原ワクチンである autogene cevumeran (Individualized NeoAntigen-Specific Therapy; iNeST)、および多剤併用化学療法レジメンである mFOLFIRINOX (folinic acid, fluorouracil, irinotecan, oxaliplatin) を逐次併用投与する新規レジメンの安全性、製造の実現可能性 (オンタイムでの提供)、およびワクチン誘導性のネオ抗原特異的 T 細胞応答の誘導能を検証することである。さらに、主要な副次評価項目として、18 か月時点における再発不含生存期間 (recurrence-free survival; RFS) および全生存期間 (overall survival; OS) に対する本治療レジメンの影響を評価し、ワクチン応答性と臨床アウトカムとの相関関係を明らかにすることを目的とする。

結果

個別化 mRNA ワクチンの高い製造実現可能性と安全性: スクリーニングされた 34 例のうち、28 例がプロトコルに従って手術切除を受け、19 例が atezolizumab 投与に移行した。このうち n=16 patients (84%) において個別化 mRNA ワクチンである autogene cevumeran の製造に成功した (Fig. 1b)。製造失敗は不十分な腫瘍組織量に起因する 1 例 (5%) のみであった。手術から atezolizumab 投与開始までの期間中央値は 6.1 週間、ワクチン初回投与開始までの期間中央値は 9.4 週間であり、複雑な術後経過の中でもオンタイムでの投与が達成された (Fig. 1d)。安全性に関して、atezolizumab 投与群 (n=19 patients) では grade 3 以上の有害事象 (adverse event; AE) は観察されず、autogene cevumeran 投与群 (n=16 patients) においても grade 3 の AE (発熱および高血圧) を認めたのは 1 例 (6%) のみであり、プロトコルで定義された許容限界値である 25% を大幅に下回った (Fig. 1c)。

ex vivo ELISpot による強力なネオ抗原特異的 T 細胞応答の誘導: ex vivo IFNγ ELISpot アッセイの結果、ワクチン投与を受けた n=16 patientsn=8 responders (50%) において、強力な de novo のネオ抗原特異的 T 細胞応答が誘導され、これらを応答群 (responder) と定義した (Fig. 1e)。投与された計 230 個のネオ抗原のうち、25 個 (11%) に対して特異的な T 細胞応答が確認された。応答群 n=8 responders のうち 4 例 (50%) では、2 種類以上のネオ抗原を標的とする多重特異的 (polytopic) な応答が観察された (Fig. 1f)。ワクチン投与前においては、いずれの患者でもワクチン標的ネオ抗原に対する T 細胞応答は検出されず、本治療により新規に免疫応答が惹起されたことが示された。応答の強度は末梢血単核球 (peripheral blood mononuclear cell; PBMC) 100万個あたり 100 から 2,000 スポット以上に及び、強力な免疫活性化が確認された (Fig. 1g)。

CloneTrack による de novo T 細胞クローンの拡張と表現型の同定: 新規開発された TCR Vβ シーケンス追跡法 CloneTrack を用いた解析により、応答群 n=8 responders の全例において、ワクチン投与後に de novo で T 細胞クローンが著明に拡張していることが確認された (Fig. 2a)。CloneTrack のアルゴリズムでは、fold change < 2 のクローンを排除し、有意な拡張のみを厳格に同定した。拡張したクローンは末梢血中の全 T 細胞の最大 10% (中央値 2.8%) を占めるに至り、これは治療前のベースラインと比較して 2.0-fold increase 以上の著明なクローン拡大を示していた (Fig. 2c)。scRNA-seq 解析により、これらのワクチン拡張クローンは、perforin 1 (PRF1) や granzyme B (GZMB)、IFNγ を高発現する CD8 陽性エフェクター T 細胞の表現型を示した (Fig. 2f)。これらの T 細胞は、術後補助化学療法である mFOLFIRINOX の投与中もその機能を維持し、46 週目のブースター投与により、7 例中 7 例 (100%) の全例において同一のプライミングクローンが再拡張を示した (Fig. 2i)。また、これらのクローンは最長 2 年間にわたり末梢血中に持続的に検出された。

ワクチン応答群における再発不含生存期間の有意な延長: 追跡期間中央値 18.0 か月における臨床アウトカムの解析において、ワクチン応答群 (n=8 responders) は非応答群 (n=8 non-responders) と比較して、術後の再発不含生存期間 (RFS) が有意に延長した。具体的には、術後 RFS 中央値は 未到達 vs 13.4か月 であり、主要エンドポイントにおけるハザード比は HR 0.08 (95% CI 0.01-0.4, p=0.003) と極めて有意な再発リスクの低下を示した (Fig. 3b)。術後化学療法の開始遅延などのバイアスを排除するためのランドマーク解析 (最終ワクチンプライミング投与完了時点を起点とする解析) においても、応答群 (n=8 responders) は非応答群 (n=7 non-responders) に対し、有意な RFS の延長を示した。ランドマーク RFS 中央値は 未到達 vs 11.0か月 であり、サブグループ解析に相当するこの評価でのハザード比は HR 0.06 (95% CI 0.008-0.40, p=0.008) であった (Fig. 3b)。この応答性の違いは、患者背景や腫瘍の進行度、術後化学療法の投与サイクル数、あるいは患者本来の全身的な免疫能の差によるものではなかった。実際、同時期に接種された無関係な SARS-CoV-2 mRNA ワクチンに対する抗体価や T 細胞応答は、応答群と非応答群との間で同等であった。

ワクチン誘導 T 細胞による微小転移巣の制御示唆: 個別症例の解析において、ワクチン応答群の 1 例 (症例29) は、ワクチン投与後に血清 CA19-9 値の上昇とともに肝臓に 7 mm の新規疑わしい病変が出現した (Fig. 4a)。この病変の生検組織を解析したところ、がん細胞は検出されず、高密度のリンパ球浸潤が観察された (Fig. 4b)。CloneTrack 解析により、末梢血中でワクチンにより拡張した n=15 clones of CD8 陽性 T 細胞クローンのすべてが、この肝生検組織内に集積していることが判明した (Fig. 4b)。さらに、デジタル液滴 PCR (digital droplet PCR; ddPCR) 解析を n=2 technical replicates で実施したところ、この浸潤部位から極めて微量の TP53 (R175H) 変異 DNA が検出され、これが原発巣と同一の変異を持つ微小転移巣であることが裏付けられた (Fig. 4c)。この肝病変は、その後の画像評価において完全に消失し、ワクチン誘導 T 細胞が微小転移を効果的に排除したことが強く示唆された。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、黒色腫などの免疫原性が高い「hot tumor (免疫学的に活性な腫瘍)」を対象とした先行研究 Sahin et al. Nature 2017Ott et al. Cell 2020 とは対照的に、遺伝子変異量が極めて低く、免疫チェックポイント阻害薬に不応であると考えられてきた膵管腺がん (PDAC) を対象とした。従来の免疫療法アプローチと異なり、術後補助療法の極めて早期の段階で、個別化 mRNA ワクチン、抗 PD-L1 抗体、および強力な多剤併用化学療法 (mFOLFIRINOX) を逐次的に組み合わせることで、免疫抑制的な微小環境を克服し、患者の 50% において強力な T 細胞応答を誘導できることを示した。

新規性: 本研究は、免疫学的に極めて「冷たい」腫瘍である PDAC において、個別化 mRNA ネオ抗原ワクチンが de novo で高頻度かつ高強度な polyclonal CD8 陽性エフェクター T 細胞応答を誘導し、これが臨床的な再発遅延と直接的に相関することを本研究で初めて実証した。また、新規に開発された TCR 追跡アルゴリズム「CloneTrack」を用いることで、ワクチンによって誘導された T 細胞クローンが、atezolizumab によって拡張したクローンとは完全に独立した新規の集団であることを明らかにした。さらに、画像上出現した肝微小転移病変に対して、ワクチン誘導 T 細胞が特異的に浸潤し、これを完全に排除したことを示す臨床的・免疫学的な直接証拠を新規に提示した。

臨床応用: 本研究の知見は、難治性悪性腫瘍である PDAC に対する個別化がんワクチンの臨床応用に向けた重要なマイルストーンとなる。臨床的意義として、外科手術後の複雑な全身状態にある患者に対し、平均 9 週間という極めて短い期間で個別化ワクチンをオンタイムで製造・投与する臨床ワークフローの実現可能性が証明された点が挙げられる。さらに、術後補助化学療法である mFOLFIRINOX の投与下においても、ワクチンによって誘導された T 細胞がそのエフェクター機能を維持し、ブースター投与によって効果的に再活性化されるという知見は、がんワクチンと標準的化学療法との併用療法の妥当性を支持し、今後の臨床現場における治療パラダイムを大きく転換する可能性を秘めている。

残された課題: 本研究における残された課題として、まず phase I 試験であるため症例数が限定的であり、ワクチン応答群と非応答群を分ける宿主側および腫瘍側の要因 (human leukocyte antigen; HLA アレル、major histocompatibility complex; MHC クラス II 提示効率、KRAS 変異特異的な免疫原性など) の詳細な解明が今後の課題である。また、本試験は単一アームの非ランダム化試験であるため、観察された RFS の延長効果がワクチンによる直接的な効果であるかを検証するためには、現在進行中の国際共同ランダム化 phase II 試験である IMCODE (Individualized Melanoma and Cancer Vaccine) 003 試験 (BNT122) の結果を待つ必要がある。さらに、腫瘍組織内への T 細胞浸潤の動態や、MHC クラス II 制限性ネオ抗原の寄与、および KRAS などの共有ネオ抗原を標的としたワクチンとの組み合わせ戦略についても、今後の検討課題として残されている。

方法

本研究は、Memorial Sloan Kettering Cancer Center (MSKCC) において実施された単施設、オープンラベル、医師主導の phase I 臨床試験である (試験登録番号: NCT04161755)。対象は、ECOG (Eastern Cooperative Oncology Group) パフォーマンスステータスが 0-1 で、切除可能な PDAC と診断され、術前治療歴のない患者とした。

治療プロトコルとして、以下の逐次併用療法を規定した。まず、手術切除から約 6 週間後に atezolizumab (1,200 mg) を単回静脈内投与した。その後、術後約 9 週間から autogene cevumeran (各患者の腫瘍から予測された最大 20 種類のネオ抗原をコードする一価または二価の uridine-lipoplex mRNA ナノ粒子) を、1 回あたり 25 µg で計 8 回のプライミング投与 (週 1 回) を行い、術後 46 週目に 9 回目のブースター投与を行った。さらに、術後 21 週間から標準的な化学療法である mFOLFIRINOX を最大 12 サイクル投与した。

ワクチンの設計にあたっては、切除腫瘍組織およびマッチさせた末梢血から DNA および RNA を抽出し、全エクソームシーケンス (whole-exome sequencing; WES) および RNA シーケンスを施行した。体細胞遺伝子変異の同定には、468 遺伝子を標的としたハイブリダイゼーションキャプチャー法である MSK-IMPACT (Memorial Sloan Kettering-Integrated Mutation Profiling of Actionable Cancer Targets) アッセイを用いた Cheng et al. JMolDiagn 2015

免疫応答の評価として、ex vivo IFNγ ELISpot アッセイを用いてネオ抗原特異的 T 細胞応答を測定した。また、T 細胞受容体 (T cell receptor; TCR) Vβ シーケンスデータに基づき、治療前後の末梢血中における特定の T 細胞クローンの動態を追跡する新しい数理的解析手法「CloneTrack」を開発・適用した。さらに、単細胞 RNA シーケンス (single-cell RNA sequencing; scRNA-seq) を用いて、ワクチンにより拡張した T 細胞の表現型解析を行った。単細胞データの解析には、Scanpy などの python ライブラリを用いた Wolf et al. GenomeBiol 2018。統計解析においては、生存曲線の比較に log-rank 検定を用い、2 群間の比較には Mann-Whitney 検定、Fisher’s exact 検定、および二項検定を適用した。