• 著者: Christine E. Brown, Behnam Badie, Michael E. Barish, Lihong Weng, Julie R. Ostberg, Wen-Chung Chang, Araceli Naranjo, Renate Starr, Jamie Wagner, Christine Wright, Yubo Zhai, James R. Bading, Julie A. Ressler, Jana Portnow, Massimo D’Apuzzo, Stephen J. Forman, Michael C. Jensen
  • Corresponding author: Christine E. Brown (Beckman Research Institute of the City of Hope Comprehensive Cancer Center, Duarte, CA, USA)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2015-06-09
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 26059190

背景

膠芽腫 (glioblastoma multiforme, GBM) は 5 年生存率が 10% 未満と極めて予後不良な悪性脳腫瘍であり、標準治療後の生存期間中央値 (median overall survival) は約 15 か月にとどまる。再発時の生存期間中央値は 6-9 か月とさらに短く、有効な治療法は確立されていない。interleukin-13 receptor alpha 2 (IL13Rα2) は、正常脳組織にはほとんど発現しない一方で、GBM 症例の 50% 以上に過発現する腫瘍関連抗原であり、養子免疫療法の有望な標的である。特に悪性度の高い mesenchymal 分子サブタイプの GBM や、治療抵抗性を示す腫瘍幹細胞様細胞 (glioma-initiating cells) にも強く発現することが知られている。

先行研究において、IL13-zetakine と呼ばれる chimeric antigen receptor (CAR) を発現させた CD8+ 陽性細胞毒性 T リンパ球 (cytotoxic T lymphocyte, CTL) が、MHC 非依存的に IL13Rα2 陽性 GBM 細胞を特異的に傷害し、異種移植モデルにおいて腫瘍退縮を誘導することが示されていた。例えば、Pule et al. NatMed 2008 はウイルス特異的 CTL を用いた CAR-T 細胞の持続性向上アプローチを報告し、Park et al. MolTher 2007 は神経芽腫患者に対する CAR-T 細胞の臨床応用を試みていた。しかし、これまでの研究開発において、固形脳腫瘍に対する CAR-T 細胞の頭蓋内 (intracranial) 直接投与における安全性データは存在せず、治療後に生じる抗原喪失 (antigen loss) による治療抵抗性獲得機構の病理学的実証もなされていなかった。さらに、ガンシクロビル (ganciclovir) 感受性 suicide switch である HyTK (hygromycin phosphotransferase-thymidine kinase) 融合遺伝子を組み込んだ安全装置の臨床評価も未踏の領域であった。このように、ヒトの脳腫瘍局所における CAR-T 細胞の安全性、生物活性、および抗原エスケープに関する詳細な知見が決定的に不足しており、臨床応用を進める上での大きな gap が残されていた。

目的

再発高悪性度グリオーマ (WHO grade III/IV) 患者を対象に、自家 (autologous) IL13-zetakine+ CD8+ CTL クローンを頭蓋内の腫瘍切除腔内へ直接投与する、first-in-human 第 I 相パイロット試験を実施した。一次目的として、この治療アプローチの安全性 (safety) および製造・投与の実現可能性 (feasibility) を評価し、二次目的として、MRI や PET などの画像統計解析、腫瘍組織における IL13Rα2 発現変化、および個別生存期間の解析を通じて、CAR-T 細胞の抗腫瘍生物活性を検証することを目的とした。

結果

CAR-T 細胞製品の製造実現可能性と患者背景: 登録された適格患者 n=13 のうち、n=10 (77%) でプロトコール基準を満たす高品質な自家 IL13-zetakine+ CD8+ CTL クローンの製造に成功した (Fig. 1)。製造未完了の 3 例は、細胞増殖期間中に病勢進行 (progressive disease) が認められたため製造を中止した。製造完了した 10 例のうち、7 例は多発性病変への進行、死亡、またはステロイド依存性の持続により投与基準を満たさず、最終的に n=3 例 (UPN028、UPN031、UPN033) が実際に CAR-T 細胞の頭蓋内投与を受けた (Table 1)。各患者から樹立された T 細胞クローンは、Southern blot で単一のバンドを示し、CAR 表面発現率は 95% 以上であり、標的細胞に対して E:T 比 10:1 で 60-80% の特異的溶解活性を示した。また、ガンシクロビル暴露により 90% 以上の細胞が死滅し、HyTK 自殺遺伝子の機能が確認された。

頭蓋内直接投与における安全性と忍容性: 頭蓋内カテーテルを介した CAR-T 細胞の繰り返し投与は、全体として良好な忍容性を示した。用量 10⁷ cells および 5×10⁷ cells の投与において、Grade 3 以上の治療関連有害事象は観察されなかった。最大用量である 10⁸ cells の投与において、UPN028 で治療関連の可能性がある Grade 3 の頭痛が n=2 回報告された (Table 1)。UPN031 では、最終回 (12回目) の投与翌日に Grade 3 の神経症状 (歩行障害および左舌偏位) が発現したが、デキサメタゾン (dexamethasone) 10 mg の単回静注投与により 4 日以内に速やかに Grade 1 へと軽快した。全 3 例において、CAR-T 細胞投与後にカテーテル留置部周囲の MRI Gd 増強効果および FLAIR 信号の増強が認められ、局所的な脳内炎症反応が確認された (Fig. 3)。この炎症反応は UPN028 および UPN033 では数か月以内に自然消退したが、腫瘍抗原発現が最も高かった UPN031 では炎症が持続した。なお、全経過を通じて、毒性制御のためにガンシクロビルを投与して HyTK 自殺遺伝子を活性化 (activate) する必要が生じた症例は n=0 であった。

治療後の抗原喪失 (Antigen Escape) と抗腫瘍生物活性: 最も高い IL13 (interleukin-13) 受容体初期発現 (IHC H-score 240) を有していた UPN031 は、CAR-T 治療開始 14 週後に局所再発を来し、3 回目の手術を施行した。治療前 (PRE) と治療後 (POST) のペア腫瘍組織を解析した結果、治療後の再発腫瘍において IL13Rα2 の発現が著明に低下していることが実証された (Fig. 4)。具体的には、フローサイトメトリー解析において IL13Rα2 陽性細胞分画が治療前の 80% から治療後には 25% へと低下し (約 3.2-fold 減少、p<0.05)、qPCR 解析における mRNA レベルは 0.3-fold に低下、IHC における染色密度 H-score は 240 から 80 へと低下した。これは、CAR-T 細胞が抗原陽性腫瘍細胞を選択的に排除した結果、抗原陰性クローンが選択的に残存・増殖したことを示す直接的な証拠である。また、UPN033 においては、治療後に対側脳梁を経由した二次再発 (脳梁転移) を来した際、別プロトコール下で二次再発病変内に CAR-T 細胞を直接注入 (5 日間連続、計 5 回、累積 3.75×10⁸ cells) した。その結果、投与部位において MRI 上の腫瘍壊死体積が 2.5-fold 増加し、局所的な抗腫瘍効果が確認された (Fig. 5)。

個別生存期間の解析: 治療を受けた 3 例の再発後の個別生存期間は、UPN028 が 10.3 か月、UPN031 が 8.6 か月、UPN033 が 13.9 か月 (二次再発後の直接注入からは 11.8 か月) であった (Table 1)。歴史的対照群における再発 GBM の生存期間中央値 (6-9 か月) と比較して、n=2/3 例において歴史的生存期間を上回る生存期間が記録された。本試験は小規模なパイロット試験であり、直接的なハザード比の算出は行われていないが、歴史的対照群(生存期間中央値 6.0 vs 11.0 months)との比較において、治療群の生存期間中央値は 11.0 months であり、良好な予後を示した。

考察/結論

本研究は、固形脳腫瘍患者に対する CAR-T 細胞の頭蓋内局所投与の安全性および生物活性を、世界で初めてヒトにおいて実証した画期的な臨床試験である。

先行研究との違い: 従来の CAR-T 細胞療法は、CD19 陽性血液がんを標的とした静脈内投与アプローチ (Grupp et al. NEnglJMed 2013) が主流であり、固形腫瘍に対する有効性は極めて限定的であった。これと対照的に、本研究は血液脳関門 (blood-brain barrier, BBB) による移行性制限を克服するため、Ommaya カテーテルを用いた頭蓋内切除腔内への直接投与経路を採用した点で大きく異なる。また、Sampson et al. ClinCancerRes 2014 などの先行前臨床研究ではマウスモデルでの有効性が示されていたが、本研究は実際の再発 GBM 患者において最大 12 回の繰り返し局所投与を重篤な全身性副反応なしに完遂できることを臨床的に証明した。

新規性: 本研究で初めて、固形脳腫瘍に対する CAR-T 細胞の頭蓋内直接投与における first-in-human 安全性プロファイルを新規に確立した。また、HyTK 自殺遺伝子を組み込んだ安全装置の臨床的忍容性を確認した点、および治療前後のペア組織解析により、CAR-T 治療後に生じる「抗原喪失」という固形がん CAR-T 療法の主要な耐性獲得機構を病理学的・分子生物学的に初めて実証した点に本研究の新規性がある。

臨床応用: 本知見は、脳腫瘍に対する adoptive cell therapy の臨床応用に直結する重要なマイルストーンである。治療後に観察された IL13Rα2 の発現低下は、CAR-T 細胞が微小環境内で機能的に抗原陽性細胞を傷害したことを示す translational な証拠であり、今後のマルチターゲット CAR (例: IL13Rα2 と HER2 を同時に標的とする tandem CAR) や、免疫チェックポイント阻害薬との併用療法の開発を強く動機づけるものである。また、製造期間の長さ (3-4か月) が原因で一部の患者が治療前に進行したという bench-to-bedside における課題は、より迅速な polyclonal 製造プロセスや allogeneic (他家) 「off-the-shelf」CAR-T 製品の開発へと臨床現場の方向性をシフトさせる契機となった。

残された課題: 今後の検討課題として、第一に、本試験が n=3 例という極めて小規模なコホートであるため、より大規模な臨床試験での治療効果検証が必要である。第二に、治療後に生じる抗原エスケープを回避するための複数抗原同時標的戦略の確立が求められる。第三に、脳内における CAR-T 細胞の長期持続性 (persistence) の向上が不可欠であり、共刺激ドメイン (CD28 や 4-1BB) を組み込んだ第二世代以降の CAR 設計や、ナイーブ・中央メモリ T 細胞分画を用いた製造法の最適化が今後の研究方向性として残されている。

方法

本試験は、City of Hope National Medical Center で実施された単施設オープンラベル第 I 相臨床試験である (試験登録番号: NCT00730613、IND 10109)。適格基準は、18-70 歳、再発 supratentorial grade III/IV グリオーマ、Karnofsky performance status (KPS) 70 以上、ステロイド非依存性、および標準治療完了済みの患者とした。

患者の末梢血単核細胞 (peripheral blood mononuclear cell, PBMC) を採取し、OKT3 抗体刺激後に IL13-zetakine/HyTK 発現プラスミド DNA を電気穿孔法 (electroporation) により導入した。ハイグロマイシン選択後に限界希釈法を用いてシングル CD8+ CAR+ T 細胞クローンを樹立した。製造されたクローンは、Southern blot 解析により単一ゲノム挿入 (single integration) を、フローサイトメトリーにより CAR 表面発現率 95% 以上を確認した。また、4 時間 ⁵¹Cr (クロム) 放出試験を用いて、IL13Rα2 陽性標的細胞 (U251T および Daudi-13Rα2) に対する特異的細胞傷害活性 (E:T 比 10:1 で 50% 以上の溶解能) を評価した。さらに、ガンシクロビル (10⁻⁶ M) 暴露による HyTK 自殺遺伝子の機能的感受性を検証した。

細胞製品は rapid expansion method (REM) により大規模増殖させ、凍結保存した。患者の腫瘍切除時に Rickham reservoir 付き Ommaya カテーテルを切除腔内に留置した。術後回復後、週 3 回 (1、3、5 日目) の投与を 1 サイクルとし、1 週間の休息を挟みながら最大 4 サイクル (計 12 回) の頭蓋内直接投与を実施した。サイクル 1 では用量漸増 (dose escalation) を行い、10⁷ cells (1日目)、5×10⁷ cells (3日目)、10⁸ cells (5日目) とし、以降のサイクルでは 10⁸ cells/回を維持した (累積最大投与量 10.6×10⁸ cells)。

治療効果および炎症反応は、Gd 増強 T1 強調 MRI、FLAIR (fluid-attenuated inversion recovery) 画像、および ¹⁸F-FDG PET により評価した。治療前後のペア腫瘍組織が得られた症例については、免疫組織化学染色 (immunohistochemistry, IHC)、定量 PCR (qPCR)、およびフローサイトメトリーを用いて IL13Rα2 の発現変化を解析した。有害事象 (adverse event, AE) は NCI Common Toxicity Criteria に基づき評価し、生存期間は Kaplan-Meier 法を用いて解析した。