- 著者: John H. Sampson, Bryan D. Choi, Luis Sanchez-Perez, Carter M. Suryadevara, David J. Snyder, Catherine T. Flores, Robert J. Schmittling, Smita K. Nair, Elizabeth A. Reap, Pamela K. Norberg, James E. Herndon II, Chien-Tsun Kuan, Richard A. Morgan, Steven A. Rosenberg, Laura A. Johnson
- Corresponding author: Laura A. Johnson (University of Pennsylvania), John H. Sampson (Duke University Medical Center)
- 雑誌: Clinical Cancer Research
- 発行年: 2014
- Epub日: 2013-10-29
- Article種別: Original Article
- PMID: 24352643
背景
膠芽腫 (glioblastoma: GBM) は、中枢神経系において最も頻度が高く、かつ極めて予後不良な悪性脳腫瘍である。手術、放射線治療、テモゾロミドによる集学的治療を行っても、生存期間中央値は15か月未満にとどまる。従来の治療法は非特異的であり、正常脳組織への副次的障害が避けられない。これに対し、免疫療法、特にキメラ抗原受容体 (chimeric antigen receptor: CAR)-T細胞療法は、腫瘍特異的にがん細胞を排除できる可能性を秘めている。EGFRvIII (epidermal growth factor receptor variant III) は正常組織には一切発現せず、GBMの約30%に発現する構成的活性型変異体であり、理想的な腫瘍特異的抗原として標的開発が進められてきた。
しかし、先行研究の多くは免疫不全マウスにヒト腫瘍を移植した異種移植モデルに依存しており、宿主の免疫系が介在する治療効果や毒性の正確な評価が困難であった。例えば、標的抗原が正常組織に微量でも発現している場合、CAR-T細胞療法は重篤な致死的毒性を引き起こすことが報告されているが (Morgan et al. MolTher 2010)、免疫不全モデルではこのような自己免疫毒性を予測できない。また、治療効果を最大化するためのリンパ枯渇前処置の必要性や、治療後に誘導される内因性免疫応答の評価も、免疫不全モデルでは解析が不可能であった。このように、完全な免疫担当同系モデルを用いた前臨床評価が圧倒的に不足しており、臨床応用へのトランスレーショナルな gap を埋めるための研究が強く求められていた。
さらに、これまでのアプローチでは、CAR-T細胞が脳内という免疫特権部位に到達し、有効に機能するかどうかという根本的な問いに対する検証が不十分であった。加えて、単一の標的抗原を狙う治療法において、抗原消失 (antigen loss) による腫瘍の治療抵抗性獲得や再発をどのように防ぐかという課題が残されていた。先行研究である Dudley et al. Science 2002 や Morgan et al. Science 2006 では、養子免疫細胞療法の可能性が示されているものの、脳腫瘍におけるエピトープスプレッディング (epitope spreading) を介した宿主免疫の能動的な誘導能については未解明であり、前臨床段階での実証データが決定的に不足していた。
目的
本研究の目的は、マウス由来のEGFRvIII特異的第三世代mCAR (murine CAR) を新たに構築し、完全な免疫担当同系脳腫瘍マウスモデルを用いてその有効性と安全性を検証することである。具体的には、VM/Dkマウスに同系SMA560vIII (EGFRvIII-expressing SMA560 subline) グリオーマを移植したモデルにおいて、静脈内投与されたmCAR-T細胞が血液脳関門を越えて脳内腫瘍を根絶できるかを検証する。さらに、治療効果におけるリンパ枯渇前処置の必要性、用量依存的な抗腫瘍効果、in vivo でのCAR-T細胞の持続性、可溶性ペプチドを用いたCAR活性の制御機構、および腫瘍抗原消失による再発を克服するためのエピトープスプレッディングを介した宿主免疫の誘導能を明らかにすることを目的とする。
結果
EGFRvIII mCAR-T細胞の抗原特異的活性とin vitroペプチド阻害: 遺伝子導入により、VM/DkマウスT細胞の表面にmCARが 58% の効率で発現した。IFNγ ELISpotアッセイにおいて、mCAR-T細胞はSMA560vIII細胞に対して特異的なIFNγ産生を示したが、EGFRvIII陰性のSMA560細胞に対しては反応しなかった (p<0.05) (Fig. 1D)。この抗原特異的活性は、可溶性PEPvIIIペプチドの添加によって用量依存的に最大 75% まで阻害されたが (p<0.01)、無関係なIDH (isocitrate dehydrogenase) ペプチドでは阻害されず、mCARの高度な抗原特異性が実証された (Fig. 1E)。
リンパ枯渇前処置依存的な脳内腫瘍治療効果: 脳内SMA560vIII腫瘍モデルにおいて、5 Gy TBIによるリンパ枯渇前処置を行わずにmCAR-T細胞を投与した群では、対照GFP-T細胞群と比較して生存期間の延長は認められなかった (Fig. 2A)。しかし、5 Gy TBIによる前処置を行った群では、mCAR-T細胞投与により生存期間が著明に延長し、生存中央値はGFP群の20日からmCAR群の35日へと有意に改善した (p<0.01) (Fig. 2B)。これにより、免疫担当モデルにおけるリンパ枯渇前処置の絶対的必要性が示された。
用量依存的な腫瘍根絶効果: 脳内腫瘍モデルにおいて、mCAR-T細胞の治療効果は用量依存的であった。低用量 (0.7 × 10⁵ 個, n=8 mice) では生存ベネフィットはなかったが、3.5 × 10⁶ 個から 1.0 × 10⁷ 個の投与群では生存期間が有意に延長し (p<0.0002)、最高用量 (1.0 × 10⁷ 個) 投与群では全例 (n=8 mice) が完全治癒に至った (Fig. 3A)。皮下腫瘍モデルにおいても、5 Gy TBI後にmCAR-T細胞を投与した群では、8匹中5匹で腫瘍が完全に消失し、対照群と比較して腫瘍増殖が著しく抑制された (p<0.0001) (Fig. 3B)。
末梢血中におけるmCAR-T細胞の長期持続性: 5 Gy TBI後にmCAR-T細胞を投与したマウスの末梢血を解析したところ、投与後35日以上の長期にわたりmCAR-T細胞が検出された。循環血液中のmCAR-T細胞の割合は、投与7日後の 4.5% から35日後には 1.5% へと低下したが (Fig. 4A)、絶対数は 15〜25 個/μL血液で安定して維持されていた (Fig. 4B)。これは、宿主の内因性リンパ球が放射線照射から回復したことによる相対的な分率低下であり、移植細胞自体はin vivoで持続していることを示している。
エピトープスプレッディングによる抗原消失再発の克服: mCAR-T細胞療法によりSMA560vIII腫瘍が治癒した長期生存マウス (n=10 mice) に対し、EGFRvIII陰性の親株SMA560細胞を再チャレンジしたところ、全例が腫瘍を完全に拒絶し、長期生存を維持した (p<0.0001) (Fig. 5A)。in vivoで14日間パスパージしたSMA560腫瘍のEGFRvIII発現率は 1.20% と極めて低く、拒絶はEGFRvIIIへの交差反応によるものではないことが確認された (Fig. 5B)。さらに、EGFRvIII陰性腫瘍の再チャレンジ後に、末梢血中のmCAR-T細胞の絶対数および割合が有意に増加したことから (p<0.05) (Fig. 5D)、mCAR-T細胞が内因性免疫系をプライミングし、エピトープスプレッディングを介して抗原消失腫瘍に対する宿主免疫を構築したことが示された。
可溶性ペプチドによるin vivoでのCAR活性阻害: 脳内腫瘍モデルにおいて、mCAR-T細胞投与後4時間および10日後に 100 μg の可溶性PEPvIIIペプチドを静脈内投与した群では、mCAR-T細胞単独群と比較して生存期間が有意に短縮した (p<0.05) (Fig. 2C)。この結果は、可溶性ペプチドがin vivoでCAR-T細胞の活性を競合的に阻害できることを示しており、オンターゲット・オフタキシティ発生時の安全スイッチとして機能する可能性を実証した。
考察/結論
本研究は、完全な免疫担当同系モデルを用いることで、第三世代EGFRvIII特異的CAR-T細胞が脳内グリオーマを根絶できること、およびその治療プロセスにおいて宿主免疫系との重要な相互作用が存在することを明らかにした。
先行研究との違い: 本研究は、従来の免疫不全マウスを用いた異種移植モデル研究と異なり、完全な免疫担当同系モデルを用いることで、リンパ枯渇前処置がCAR-T細胞の治療効果発現に不可欠であることを初めて明確に示した。これは、臨床試験においてフルダラビンやシクロホスファミドによる前処置が必須であるとする知見 (Porter et al. NEnglJMed 2011, Grupp et al. NEnglJMed 2013) と極めて良く一致しており、前臨床モデルとしての同系モデルの妥当性を裏付けている。
新規性: 本研究で初めて、EGFRvIII特異的CAR-T細胞による腫瘍傷害に伴い、エピトープスプレッディングが誘導され、本来標的としていないEGFRvIII陰性腫瘍に対しても宿主が長期的な防御免疫を獲得することを新規に同定した。これは、CAR-T細胞療法の最大の課題である「抗原消失による腫瘍再発」に対する極めて有望な解決策を提示している。また、可溶性PEPvIIIペプチドの静脈内投与により、in vivo でCAR-T細胞の活性を一時的にブロックできることを示した安全スイッチの概念実証も、これまで報告されていない新規な知見である。
臨床応用: 本研究のトランスレーショナルな臨床的意義は極めて高い。EGFRvIIIは正常組織に発現しないため、HER2/ERBB2標的CAR-T細胞で報告されたような重篤な自己免疫毒性 (Morgan et al. MolTher 2010) を回避できる。本研究で示されたリンパ枯渇前処置の重要性やエピトープスプレッディングの知見は、現在進行中のGBM患者を対象とした複数の臨床試験のプロトコル設計に直接反映されている。また、可溶性ペプチドを用いた毒性制御戦略は、臨床現場における安全なCAR-T細胞療法の運用に貢献すると期待される。
残された課題: 今後の検討課題として、mCAR-T細胞がどのような分子・細胞間相互作用を介して宿主の樹状細胞やナイーブT細胞を活性化し、エピトープスプレッディングを誘導するのか、その詳細な免疫学的メカニズムを解明する必要がある。また、本研究は腫瘍移植後3〜5日という比較的早期の治療モデルであるため、より進行した巨大な脳内腫瘍や、GBM特有の高度な免疫抑制性微小環境における有効性の検証が今後の課題として残されている。
方法
本研究では、ヒト抗EGFRvIII scFv (single-chain variable fragment) であるクローン139の配列に、マウス由来のシグナル伝達ドメイン (mCD8TM-mCD28-m4-1BB-mCD3ζ) を融合した第三世代mCARを構築した。この遺伝子をMSGV1 (murine stem cell virus-based splice-donor vector LTR-driven 1) レトロウイルスベクターに組み込み、ConA (Concanavalin A) で活性化したVM/Dkマウス脾臓由来T細胞に形質導入した。in vitro での抗原特異的活性は、EGFRvIII陽性SMA560vIII細胞または陰性SMA560細胞と共培養し、IFNγ ELISpotアッセイを用いて評価した。
in vivo 実験では、VM/Dkマウスの脳内に 5 × 10⁴ 個のSMA560vIII細胞を立体定位脳手術により移植した (day 0)。移植3〜5日後に、リンパ枯渇前処置として5 Gy TBI (total body irradiation: 全身照射) を行うか、あるいは行わない条件下で、様々な用量 (0.7 × 10⁵ 〜 1.0 × 10⁷ 個) のmCAR-T細胞または対照GFP-T (green fluorescent protein-transduced T) 細胞を尾静脈から静脈内投与した。皮下腫瘍モデルでは、5 × 10⁵ 個のSMA560vIII細胞を右側腹部に移植し、腫瘍面積を経時的に測定した。
in vivo でのペプチドブロッキング実験では、mCAR-T細胞投与の4時間後に100 μgの可溶性EGFRvIIIペプチドである PEPvIII (soluble EGFRvIII-derived peptide, sequence: LEEKKGNYVVTDHC) を静脈内投与し、10日後に再投与した。末梢血中のmCAR-T細胞の持続性は、PEPvIII-PE (PEPvIII-phycoerythrin) 多量体を用いたフローサイトメトリーにより5週間にわたり追跡した。長期生存マウス (60日以上) に対しては、対側側腹部にEGFRvIII陰性の親株SMA560細胞を 5 × 10⁵ 個移植して再チャレンジ実験を行い、エピトープスプレッディングの有無を評価した。生存曲線の比較にはログランク (log-rank) 検定を用い、腫瘍増殖の比較には2-way ANOVAを用いた。