- 著者: Julie R. Park, David L. DiGiusto, Marilyn Slovak, Christine Wright, Araceli Naranjo, Jamie Wagner, Hunsar B. Meechoovet, Bautista C., Chang W. C., Ostberg J. R., Michael C. Jensen
- Corresponding author: Michael C. Jensen (Division of Cancer Immunotherapeutics and Tumor Immunology, Beckman Research Institute, City of Hope National Medical Center, Duarte, California, USA)
- 雑誌: Molecular Therapy
- 発行年: 2007
- Epub日: 2007-03-13
- Article種別: Original Article
- PMID: 17299405
背景
高リスク神経芽腫は、N-myc遺伝子増幅やステージ4といった臨床的特徴を有する小児期の代表的な悪性腫瘍であり、多剤併用化学療法、外科的切除、放射線療法、造血幹細胞移植を用いた強力な集学的治療を行っても、その5年生存率は40%から50%程度に留まる。特に、初期治療に不応の難治例や再発例における予後は極めて不良であり、生存率の劇的な改善をもたらす新規治療戦略の確立が急務である。L1細胞接着分子 (L1-CAM; CD171) は、神経発生期に重要な役割を果たす免疫グロブリンスーパーファミリーに属する接着分子であり、成人の正常組織における発現は中枢神経系、副腎髄質、交感神経節、および一部の腎上皮細胞に厳局している。これに対し、小児神経芽腫においては腫瘍細胞の98%以上でL1-CAMが高発現しており、腫瘍の進行度や転移能と密接に相関することが既報により明らかになっている。さらに、L1-CAMは結腸癌、悪性神経膠腫、皮膚悪性黒色腫、卵巣癌、前立腺癌、腎細胞癌、子宮癌など、多岐にわたる固形癌において過剰発現し、腫瘍細胞の増殖、遊走、浸潤、および転移を促進する因子として機能することが報告されている。
これらの知見に基づき、L1-CAMを標的としたキメラ抗原受容体 (CAR; chimeric antigen receptor) 導入T細胞療法の開発が進められてきた。先行研究において、抗L1-CAMモノクローナル抗体CE7由来の単鎖可変領域 (scFv; single-chain variable fragment) をCD4膜貫通ドメインおよびCD3ζ細胞内シグナル伝達ドメインに融合した第一世代CARであるCE7R (CE7-based chimeric antigen receptor) が構築され、in vitroにおける特異的細胞傷害活性が確認されていた。また、安全性を担保する目的で、選択マーカーおよび自殺遺伝子として機能するHyTK (ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼと単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ (HSV-TK) の融合遺伝子) を同一ベクター内に組み込み、ガンシクロビル投与による細胞除去システムが設計された。しかしながら、CAR-T細胞療法の初期開発期において、小児固形腫瘍に対する臨床応用は世界的に手薄であり、実用化に向けた臨床データは圧倒的に不足していた。特に、L1-CAMが正常な脳組織や副腎髄質にも発現していることから、投与されたCAR-T細胞が正常組織を攻撃するオンターゲット・オフ腫瘍毒性 (on-target/off-tumor toxicity) を誘発する懸念が未解明のまま残されており、臨床における安全性と実行可能性の検証には大きなギャップが存在していた。本研究は、小児固形腫瘍に対するCAR-T細胞療法の安全性、持続性、および治療効果をヒトで初めて検証し、この重要な学術的・臨床的課題を解決することを目的として計画された。
先行研究である Morgan et al. Science 2006 やDudleyらの報告、さらにはRiddellらの知見により、遺伝子改変T細胞療法の有効性が示されてきた。しかし、小児固形腫瘍における安全性と持続性に関する知見は極めて不足しており、正常組織を温存しつつ腫瘍を標的化できるかという課題は未解明のままであった。
目的
本第I相パイロット臨床試験 (試験ID: NCT00052959) は、再発または治療抵抗性の高リスク小児神経芽腫患者を対象とし、L1-CAM特異的CE7Rおよび選択・自殺遺伝子HyTKを共発現する自家CD8+細胞傷害性Tリンパ球 (CTL; cytolytic T lymphocyte) クローンを静脈内投与した際の安全性と実行可能性を評価することを主要目的とした。具体的には、(1) L1-CAMを発現する正常組織 (中枢神経系、副腎髄質、交感神経節) に対する自己免疫毒性やその他の重篤な有害事象の有無を評価して安全性プロファイルを確立すること、(2) 投与用量を漸増させた際の忍容性を確認すること、(3) 投与後の末梢血中におけるCAR-T細胞のin vivo持続期間を経時的に測定すること、および (4) 骨髄生検や画像診断 (CT、MIBG (meta-iodobenzylguanidine) シンチグラフィ) を用いて抗腫瘍活性の予備的評価を行うことを副次目的とした。これにより、小児固形腫瘍に対する遺伝子改変T細胞療法の臨床的基盤を構築することを目指した。
結果
自家CAR-T細胞の製造成功率: 本試験には計10名の患者が登録され、そのうち8名から自家CAR-T細胞の製造が開始された。最終的に、厳格な品質管理基準を満たした臨床用細胞製品の製造に成功したのは6名 (製造成功率75%) であった (Table 1)。製造に失敗した2名のうち、1名はサザンブロット解析で複数バンドが検出され単一クローン性が否定されたため、もう1名は内因性TCRαβの発現低下が認められたため除外された。登録された6名の患者に対し、計12回の細胞輸注が実施された。このうち9回は10^8 cells/m2、3回は10^9 cells/m2の用量で投与された。 (Table 1)
オンターゲット毒性の安全性評価: すべての投与において、L1-CAMを発現する正常組織に対する自己免疫的なオンターゲット毒性は一切観察されなかった (Table 2)。具体的には、投与後のMRI検査および神経学的診察において、脳症、認知機能障害、運動失調などの神経学的異常所見は認められなかった。また、血中コルチゾール値および副腎皮質刺激ホルモン (ACTH) 値の測定による副腎機能評価、ならびに血圧、心拍数、発汗能のモニタリングによる自律神経機能評価においても、機能低下や異常は検出されなかった。 (Table 2) (Fig 2)
治療関連有害事象の発生頻度: 治療に関連するGrade 4以上の重篤な有害事象、および治療抵抗性の毒性による死亡例は認められなかった。Grade 3の有害事象として、10^8 cells/m2投与群において、一過性のリンパ球減少症 (n=1)、好中球減少症 (n=2)、低ヘモグロビン血症 (n=1)、およびカテーテル関連菌血症 (n=2) が報告されたが、これらは適切な抗生物質投与および支持療法により速やかに軽快した。また、10^9 cells/m2の高用量投与群において、Grade 3の間質性肺炎が1例 (UPN019) で認められたが、これも一時的な酸素投与と対症療法により回復した。 (Table 2)
CAR-T細胞の体内持続性と腫瘍負荷: 投与後の末梢血中におけるCAR-T細胞の持続期間は、患者間で著しい多様性を示した (Figure 5)。定量PCR解析の結果、CTやMIBGシンチグラフィで測定可能な活動性のバルキー病変 (bulky disease) を有していた5名の患者 (UPN014、UPN015、UPN017、UPN019、UPN022) においては、CAR-T細胞は投与後1日から7日以内に末梢血中から急速に消失した。これに対し、初回投与時に骨髄中の微小残存病変 (MRD; minimal residual disease) のみを有し、腫瘍負荷量が極めて限定的であった患者1名 (UPN016) においては、CAR-T細胞が投与後42日間にわたって末梢血中に検出され、有意に長い持続性を示した。バルキー病変群の持続期間中央値は3日 (95% CI: 1-7日) であったのに対し、MRD群のUPN016では42日間と著明に延長しており (vs バルキー群; p<0.05)、腫瘍負荷量とCAR-T細胞持続期間の逆相関はSpearman ρ = -0.90 (n=6) と強固であった。 (Figure 5)
臨床奏効率と生存期間の解析: 評価対象となった6名全体において、完全奏効 (CR; complete response) は得られなかったが、腫瘍負荷量が最小限であった患者UPN016において、顕著な抗腫瘍活性が観察された (Table 3)。この患者は、10^8 cells/m2のCAR-T細胞を2回投与され、投与後35日目の評価で安定疾患 (SD; stable disease) を維持し、56日目の評価において部分奏効 (PR; partial response) を達成した。骨髄生検において、治療前に認められていた神経芽腫細胞の浸潤が著明に減少していることが確認された。一方、バルキー病変を有していた他の5名の患者は、いずれも投与後35日目までに疾患進行 (PD; progressive disease) と判定された。 (Table 3)
自殺遺伝子HyTKの機能検証: 製造されたすべてのCTLクローンにおいて、HyTK遺伝子の導入によるハイグロマイシンB選択効率は極めて高く、純度95%以上のCAR+ T細胞が得られた。また、in vitroにおけるガンシクロビル感受性試験において、5 μMのガンシクロビル添加により、すべてのクローンで細胞生存率が10%未満に低下することが確認され、自殺遺伝子としての機能が正常に作動することが実証された (Table 1)。臨床において、重篤な毒性発現によるガンシクロビル緊急投与を要した症例は存在しなかった。 (Table 1)
考察/結論
先行研究との違い: 遺伝子改変T細胞を用いた先行研究である Morgan et al. Science 2006 やDudleyらの報告が、主に成人の転移性悪性黒色腫を対象とし、かつポリクローナルなT細胞集団を使用していたのとは対照的に、本研究は予後不良な小児固形腫瘍である神経芽腫を対象とし、厳格にクローニングされた単一の自家CD8+ CTLクローンを用いた点において大きく異なる。また、安全性を最大限に高めるためにHyTK選択・自殺遺伝子システムを臨床実装し、細胞製品の均一性と安全制御性を厳密に管理した点も、これまでのアプローチと一線を画している。
新規性: 本研究は、正常な神経組織や副腎髄質にも低レベルで発現しているL1-CAMを標的としたCAR-T細胞が、ヒトにおいてオンターゲット・オフ腫瘍毒性を一切誘発することなく、極めて優れた安全性と忍容性を示すことを世界で初めて実証した。さらに、CAR-T細胞のin vivoにおける持続期間が、患者の腫瘍負荷量と逆相関するという新規の臨床的現象を明らかにした。この「疾患量と持続性の逆相関」という発見は、固形腫瘍におけるCAR-T細胞の動態を理解する上で極めて重要な学術的成果である。
臨床応用: 本研究の成果は、L1-CAMを標的としたCAR-T細胞療法の臨床応用を強力に後押しするものである。臨床的意義として、バルキー病変を有する症例ではCAR-T細胞が急速に消失したのに対し、微小残存病変 (MRD) のみの症例 (UPN016) で42日以上の長期持続と部分奏効 (PR) が得られたことから、本療法は腫瘍量を極限まで減らした「地固め療法 (consolidation therapy)」の局面で最も高い臨床的有用性を発揮することが示唆された。したがって、今後の臨床現場においては、投与前にリンパ球除去化学療法 (プレコンディショニング) を行い、 homeostatic cytokines (IL-7/IL-15) の分泌を促す環境を整えた上で、MRD期の患児に投与する戦略が極めて合理的であると考えられる。
残された課題: 今後の検討課題として、第一世代CARの限界である「共刺激シグナルの欠如」に起因するin vivo増殖能・持続性の不足を克服するため、CD28や4-1BBドメインを組み込んだ第二世代CARへの移行が必須である (Milone et al. MolTher 2009)。また、自家CTLクローンの製造には平均172日という膨大な時間を要し、その間に原疾患が進行して離脱する症例が存在したことから、製造期間の短縮 (ポリクローナルCAR-T製造への移行) や、既製品 (off-the-shelf) としてのアロジェニックCAR-Tの開発が今後の重要な研究方向性である。また、HyTK自殺遺伝子に代表される安全スイッチの概念は後続の臨床応用 (DiStasi et al. NEnglJMed 2011) へと発展し、CAR-T療法の安全管理の礎を築いた。さらに、固形腫瘍特有の免疫抑制性微小環境 (TGF-βやPD-L1など) を克服するための併用療法や、腫瘍局所へのホーミングをPET画像等で評価する技術の確立が、今後の課題として残されている。
方法
患者選択と試験デザイン: 本試験は、City of Hope National Medical Centerにて実施された単施設共同第I相パイロット臨床試験である。対象は、標準的な集学的治療後に再発したか、あるいは初期治療抵抗性を示した高リスク神経芽腫の小児および若年成人患者 (2歳から17歳) とした。患者は登録後、細胞製造のための末梢血白血球除去 (アフェレーシス) を受けた。投与前リンパ球除去化学療法 (プレコンディショニング) は実施せず、IL-2の全身投与も併用しない設計とした。投与用量は、コホート1 (用量レベル1: 10^8 cells/m2) およびコホート2 (用量レベル2: 10^9 cells/m2) の2段階で設定され、各患者に対して最大3回の静脈内投与を計画した。有害事象の評価は、NCI Common Toxicity Criteria (CTC) version 2.0に基づいて実施された。
CAR-T細胞の製造と品質管理: 患者から採取した末梢血単核細胞 (PBMC; peripheral blood mononuclear cell) を、抗CD3モノクローナル抗体 (OKT3) および重合ヒトIL-2を用いて活性化した。続いて、CE7RおよびHyTKを二シストロン性に発現するプラスミドベクターをエレクトロポレーション法により遺伝子導入した。ハイグロマイシンBを用いた薬剤選択および限界希釈法によるクローニングを行い、単一のベクター挿入を有するCD8+ CTLクローンを単離した。その後、放射線照射済みの同種PBMCおよびエプスタイン・バーウイルス (EBV) 変性LCL (lymphoblastoid cell line) をフィーダー細胞として用いたREM (rapid expansion method) により、臨床投与に必要な細胞数 (10^9から10^10個オーダー) まで大規模培養した。製造された細胞製品は、サザンブロット法による単一バンド挿入の確認、ウェスタンブロット法による66-kdのCE7Rキメラζタンパク質および16-kdの内因性CD3ζタンパク質の検出、フローサイトメトリーによるTCRαβおよびCD8の均一な発現、51Cr放出試験によるBe-2 (human neuroblastoma cell line) に対する特異的細胞傷害活性 (E:T比 25:1において50%以上の特異的細胞溶解)、ガンシクロビル感受性試験 (5 μMガンシクロビル存在下で14日間培養後の生存率10%未満)、無抗原・無IL-2依存性増殖の否定、ならびに無菌試験、マイコプラズマ否定試験、エンドトキシン測定 (5 EU/kg未満) からなる厳格なリリース基準を満たすことを必須とした。
持続性および有効性の評価: 投与後の末梢血中におけるCAR-T細胞の持続性は、CE7Rベクター特異的プライマーおよびプローブを用いたリアルタイム定量PCR (qPCR) 法により、ゲノムDNA 1 μgあたりのCE7R遺伝子コピー数として経時的に測定した。本アッセイの検出感度は0.001%に設定された。臨床反応は、投与後35日目および56日目に、CT、131I-MIBGシンチグラフィ、および骨髄生検を用いて評価し、RECIST基準に準じて判定した。統計解析には、Fisher’s exact試験およびKaplan-Meier法を用いた。