• 著者: Maria R. Parkhurst, James C. Yang, Russell C. Langan, Mark E. Dudley, Debbie-Ann N. Nathan, Steven A. Feldman, Jeremy L. Davis, Richard A. Morgan, Maria J. Merino, Richard M. Sherry, Marybeth S. Hughes, Udai S. Kammula, Giao Q. Phan, Ramona M. Lim, Stephen A. Wank, Nicholas P. Restifo, Paul F. Robbins, Carolyn M. Laurencot, Steven A. Rosenberg
  • Corresponding author: Maria R. Parkhurst (Surgery Branch, National Cancer Institute, NIH, Bethesda, MD, USA)
  • 雑誌: Molecular Therapy
  • 発行年: 2011
  • Epub日: 2011-01-25
  • Article種別: Original Article / Phase I Clinical Trial
  • PMID: 21157437

背景

CEA (carcinoembryonic antigen, 癌胚性抗原) は180 kDaの糖タンパク質で、胎児期に高発現し、成人正常大腸粘膜の陰窩上部上皮細胞にも低レベルで発現する腫瘍関連抗原 (tumor-associated antigen: TAA) である。結腸直腸腺がんをはじめ膵がん・胃がん・肺腺がんにも高頻度に過剰発現し、長年がん免疫療法の標的候補として研究されてきた (Hammarström Semin Cancer Biol 1999)。ワクチン療法や抗体療法によるCEA標的アプローチは複数の臨床試験で探索されたが (Foon et al. J Clin Oncol 1999; Horig et al. Cancer Immunol Immunother 2000; Marshall et al. J Clin Oncol 2000)、誘導される免疫応答は弱く、有意な抗腫瘍効果を示したものはなかった。この手薄な成果の主因は、ワクチン誘導T細胞の機能的親和性が低いことにあると考えられていた。

TCR (T cell receptor) 遺伝子治療による養子免疫療法は、Morgan et al. Science 2006でヒトにおいて初めて有効性が示され、MART-1/gp100特異的TCR遺伝子導入T細胞がメラノーマの退縮を誘導することが報告された。Rosenbergグループはまた、Dudley et al. Science 2002でリンパ球除去前処置を組み合わせた養子細胞移入療法がメラノーマで高い奏効率をもたらすことを確立している。これらの成功を踏まえて著者らは、HLA-A0201トランスジェニックマウスをCEA:691-699ペプチドで免疫することで、ヒトの自己寛容を回避した高親和性マウスCEA特異的TCRを単離した (Parkhurst et al. Clin Cancer Res 2009)。α鎖CDR3 (complementarity-determining region 3) への単一アミノ酸置換により親和性をさらに強化し、in vitroでHLA-A0201陽性CEA陽性ヒト大腸がん細胞株に対する特異的認識を確認していた。同時期にはシグナル伝達ドメインを改変したキメラ受容体設計の研究も進展しており (Zhao et al. JImmunol 2009)、T細胞受容体エンジニアリングによる養子免疫療法の安全性・有効性向上は喫緊の課題であった。

しかしながら、高親和性TCRを用いた際に正常結腸粘膜に対してどの程度のオンターゲット毒性が生じるかという重大なgap in knowledgeが依然として未解明であった。正常組織にも発現するTAAを標的とする際の安全域の設定に関する知見が不足しており、本試験はこの課題に直接取り組む first-in-human 研究として設計された。

目的

標準化学療法に不応な転移性大腸がん患者を対象に、リンパ球除去前処置後にCEA:691-699特異的高親和性マウスTCR遺伝子導入自己T細胞とIL-2 (interleukin-2) を投与し、安全性(特に正常結腸粘膜へのオンターゲット・オフ腫瘍毒性)と抗腫瘍効果を評価することを目的とした。NCT00923806として登録された第1相試験であり、主要評価項目は有害事象の発生率と用量制限毒性 (dose-limiting toxicity: DLT) の同定、副次評価項目はRECIST基準による客観的奏効と血清CEA値の変化であった。

結果

血清CEAの劇的低下と客観的腫瘍退縮: 全n=3例において、遺伝子導入T細胞投与後1ヶ月以内に血清CEAタンパク質はベースライン値 (患者1: 281 µg/l、患者2: 865 µg/l、患者3: 226 µg/l) からそれぞれ7499%低下した (Figure 1a)。最低値は投与後34ヶ月で記録されたが、その後は再上昇した。腫瘍退縮評価では、患者3 (52歳男性、結腸がん、肝・肺・傍大動脈リンパ節転移) が投与4ヶ月後のCTで転移巣全体の49%縮小を示し、RECIST基準による確認部分奏効 (PR: partial response) を達成した (Figure 1b)。患者1 (55歳男性、直腸がん、副腎・肺転移) は投与2ヶ月後に肺転移が17%縮小したが、5ヶ月で進行した。患者2 (43歳男性、直腸がん、肺・リンパ節転移) は奏効なしであった。投与T細胞数はそれぞれ4×10⁸、2×10⁸、2×10⁸個で、マウスTCRβ鎖発現効率は79.2%、89.8%、90.1%であった (Table 1)。in vitro機能試験では、全患者のT細胞がHLA-A*0201陽性CEA陽性標的細胞 (H508, SW1463) に対して顕著なIFN-γ産生 (患者1: 陰性対照比41-fold [1,529 pg/ml vs. 37 pg/ml]、患者2: 8,731 pg/ml、患者3: 10,292 pg/ml) と高い ELISPOT反応を示した (Table 1)。なお、血清CEAの低下と腫瘍縮小が相関しなかった理由として、限られた数の腫瘍細胞の障害による一過的なCEA放出や、前処置化学療法 (cyclophosphamide + fludarabine) の些細な寄与も否定できない。

重篤なオンターゲット・オフ腫瘍性炎症性大腸炎と用量制限毒性の発現: 全n=3例において、T細胞投与後58日目に下痢が出現し (患者1: Grade 2、患者2・3: Grade 3)、2週間持続した後46週で自然軽快した (Figure 2)。発熱は投与後7~9日目に全例で認められ、補液を要したが血行動態は安定していた。連続大腸内視鏡検査では、投与前に正常であった粘膜が投与後7日目には浮腫・多発潰瘍・粘膜ひだ消失を呈した (Figure 2, 上段)。生検のヘマトキシリン・エオシン染色では腺上皮のほぼ完全な脱落と肉芽組織への置換が示され、CD3免疫染色では高度T細胞浸潤が確認された (Figure 2, 中段・下段)。大腸炎の経過中に施行した便培養・クロストリジウム・ディフィシル毒素検査はn=3例すべてで陰性であり、感染性腸炎は否定された。また、脱落粘膜でのCEA消失と再生粘膜でのCEA再発現が免疫染色で確認された。Grade 3大腸炎はDLTと判定され、FDA (Food and Drug Administration) の要件に従い本試験への追加登録が中止された。患者1・2にはブデソニドとメサラミンが投与されたが患者3には投与されず、局所ステロイドの大腸炎軽減への寄与は不明確であった。

遺伝子導入T細胞の体内動態と末梢血持続性: 生検組織の定量PCR解析により、患者1では投与後68日目の大腸生検で投与PBL比12%のレトロウイルスDNAコピー数が検出され、食道・胃・十二指腸でも有意な量が認められた (Figure 3a)。患者2・3の結腸生検でも同様の浸潤が確認された。患者3の結腸・胃生検の単細胞懸濁液をFACS解析した結果、CD3陽性T細胞の約30%がマウスCEA TCRを発現し、その7586%がCD8陽性であった (Figure 3b)。末梢血では投与後約1ヶ月の時点で、患者1の全CD3陽性T細胞の23%、患者2で6%、患者3で1%がマウスCEA TCRを発現していた。血清IFN-γレベルは投与後56日で57174 pg/mlのピークに達した (Figure 3c)。T細胞の末梢血持続性と臨床効果は相関しなかった: 最も高い持続性を示した患者1が奏効せず、最も低い患者3が奏効を示した。T細胞の表現型は患者1でCD45RA陰性・CD27陰性の終末分化型が優勢であったのに対し、患者2・3ではナイーブ・セントラルメモリー・エフェクターメモリーの混合集団であり、これは患者1のT細胞がin vitroで2回の刺激を受けたためと考えられる。患者2・3では投与後3~4ヶ月で抗マウスCEA TCR IgG抗体が検出され、これらの抗体はin vitroで抗原特異的IFN-γ産生を阻害した。患者1ではこのような抗体は6ヶ月後まで検出されなかった。

T細胞クローン持続と免疫応答の相違: 末梢血中のマウスTCR発現T細胞のELISPOT解析では、患者1で投与後10日・26日に、患者3で投与後11日にCEAペプチド特異的反応性が確認された。ただし、これらの細胞はHLA-A*0201陽性CEA陽性腫瘍細胞には反応せず、他のACT (adoptive cell transfer) プロトコルでも観察されるT細胞静止化 (quiescence) によるものと推測された。T細胞静止化は大腸炎が自然軽快した理由の一つとして考えられ、CEA反応性T細胞が継続して存在するにもかかわらず炎症が消退したことと整合する。本試験ではn=3という限定的な症例数のため、T細胞表現型・持続性・大腸炎重症度・腫瘍応答の関係について統計的な相関解析は実施できなかったが、これらの相違の基盤として腫瘍微小環境内でのT細胞機能抑制 (Whiteside Oncogene 2008) や、腫瘍とのCEA発現密度の差異が考えられる。

考察/結論

本試験は、TCR遺伝子導入T細胞による養子免疫療法が転移性大腸がんにおいて初めてRECIST客観的奏効を達成したことを実証した歴史的報告であり、同時に腫瘍関連抗原を標的とする高親和性TCRによるオンターゲット・オフ腫瘍毒性の深刻さを最も明確に示した臨床試験として位置づけられる。

先行研究との違い: これまでのCEA標的ワクチン試験は軒並み抗腫瘍効果を示せなかったが、対照的に本試験は高親和性TCR遺伝子導入T細胞が転移性大腸がんで客観的奏効を誘導し得ることを示した。さらに、Morgan et al. Science 2006で示されたgp100/MART-1標的TCR遺伝子療法とは異なり、消化管粘膜に広範に発現するCEAを標的とした際にはより深刻なオンターゲット毒性が生じることが明確であった。既報のgp100 TCR試験ではメラノーマ患者16例中1例も自己免疫性大腸炎は発生しておらず、本試験の大腸炎がCEAの正常粘膜発現に特異的な現象であることとは対照的な相違が明確に示された。またメラノーマ試験のTIL (tumor-infiltrating lymphocytes) 投与細胞数の100分の1に相当する少数の高親和性T細胞が、腫瘍・正常組織の両方に強力な損傷を与えることを本試験で初めて示した。

新規性: 本研究で初めて、高親和性マウスTCR遺伝子導入T細胞がヒト正常結腸粘膜のCEAを認識して重篤な炎症性大腸炎を引き起こすことを in vivo で実証した。腫瘍細胞と正常細胞間の抗原発現量の差のみでは高親和性TCR遺伝子治療の安全域を確保できないことを新規に示したものである。また腫瘍応答と正常組織毒性が同一のオンターゲット機序で並行発生することも新規の重要な知見であり、この「効果と毒性の不可分性」は、TAAを標的とする養子免疫療法全体の設計原則に根本的な再考を迫るものである。

臨床応用: 本知見は、TAAを標的とする養子免疫療法の臨床応用において、抗原の正常組織発現プロファイルとTCR親和性のバランスが安全性に直結することを示す。この結果を受け、以降の開発はがん精巣抗原やネオアンチゲンなど真の腫瘍特異的抗原へのターゲットシフト、腫瘍特異的スプライスアイソフォームの探索、AND-gate (dual-antigen logic-gating circuit) による二重抗原認識要件の設定 (Zhao et al. JImmunol 2009 に代表される改良型受容体設計)、および局所投与戦略へと分岐した。bench-to-bedside 研究において安全性プロファイルの最適化が不可欠であることを示す重要な臨床的意義を持つ報告である。

残された課題: 今後の検討として、腫瘍応答が限定的であったにもかかわらず全例で強力な大腸炎が生じたメカニズムの解明が残された課題である。腫瘍微小環境 (TME: tumor microenvironment) によるT細胞機能抑制が腫瘍応答を制限した可能性が考えられるが、粘膜生検は採取できたものの腫瘍内浸潤T細胞の評価は実施不能であり、今後の研究で詳細を明らかにする必要がある。マウスCEAトランスジェニックモデルでは抗CD25前処置が腸炎を軽減しながら腫瘍退縮を保つ可能性が示されており、T制御細胞の除去が安全域改善に寄与するかどうかはfuture researchとして重要である。また腸内共生細菌によるTLR (Toll-like receptor) 刺激がリンパ球減少下の腸管局所でT細胞活性を増幅したという仮説も、共生菌叢負荷を軽減するアプローチの検証が今後の検討課題となる。さらに患者2・3でのマウスTCRに対する IgG抗体産生が長期抗腫瘍効果のlimitationとなる可能性が示されており、ヒト化TCR設計による免疫原性低減も残された重要課題の一つである。

方法

HLA-A*0201陽性かつ血清CEA高値の転移性大腸がん患者n=3を対象とした単群オープンラベル第1相試験 (NCT00923806)。全患者は大腸がんに対して既知の活性を有するレジメンを含む4種類以上の化学療法に不応であった。リンパ球除去前処置としてcyclophosphamide 60 mg/kg を2日間、fludarabine 25 mg/m² を5日間静脈投与した。その後、MSGV1 (murine stem cell virus-based splice-gag vector 1) バックボーンのレトロウイルスベクターによりCEA:691-699反応性マウスTCRのαおよびβ鎖を遺伝子導入した自己末梢血リンパ球 (PBL: peripheral blood lymphocytes) 2~4×10⁸個を静脈投与し、直後よりIL-2を720,000 IU/kgで8時間ごとに最大15回投与した。

患者末梢血単核細胞をOKT-3 (anti-CD3 monoclonal antibody) で刺激後2日目に、レトロネクチンコートプレート上に固定したレトロウイルス粒子で形質導入した。レトロウイルスDNA導入効率は、マウスTCRβ鎖定常領域抗体を用いたFACS (fluorescence-activated cell sorting) で評価した。T細胞の機能活性は、CEA:691-699ペプチド負荷T2細胞および大腸がん細胞株 (SW480, SW620, SW1463, H508) との20時間共培養後のIFN-γ (interferon-gamma) 産生量 (ELISA: enzyme-linked immunosorbent assay; pg/ml) とELISPOT (enzyme-linked immunospot) アッセイ (スポット数/10⁵ PBL) で確認した (Table 1)。全機能アッセイはデュプリケート (duplicate) で実施し、独立した実験で再現性を確認した。

評価項目: (1) 血清CEA値の経時測定 (ベースライン比%)、(2) RECIST 1.0基準によるCT評価 (2ヶ月ごと)、(3) 大腸内視鏡検査および粘膜生検 (治療前・治療後7日・10日・17日・25日・55日)、(4) 末梢血中のマウスTCR発現T細胞の持続性 (FACS・ELISPOT)、(5) 抗マウスTCR IgG抗体の産生 (FACS・IFN-γ阻害アッセイ)。生検検体のDNA抽出後、CFX96 (Bio-Rad real-time PCR detection system) を用いた定量PCRによりレトロウイルスDNAコピー数をβアクチンDNA量で補正し、ΔΔCt法により投与PBLに対する相対量として算出した。非定量PCRは患者1のDNAサンプルに対し、全長マウスCEA TCR αβコンストラクトを増幅するプライマーペアを用いて行った。FACS解析は生細胞 (ヨウ化プロピジウム陰性) のCD3陽性T細胞にゲーティングし、FACSCaliburとFlowJoソフトウェアで解析した。有害事象はCTCAE (Common Terminology Criteria for Adverse Events) v3.0で評価した。統計解析は記述統計を使用し、生存分析はカプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法を用いた。