• 著者: Yangbing Zhao, Qiong J. Wang, Shicheng Yang, James N. Kochenderfer, Zhili Zheng, Xiaosong Zhong, Michel Sadelain, Zelig Eshhar, Steven A. Rosenberg, Richard A. Morgan
  • Corresponding author: Richard A. Morgan (Surgery Branch, National Cancer Institute, National Institutes of Health)
  • 雑誌: Journal of Immunology
  • 発行年: 2009
  • Epub日: 2009-10-05
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 19843940

背景

養子細胞療法 (ACT) は、転移性メラノーマ患者に対する最も効果的な治療法の一つとして確立されている。リンパ球除去を伴う前処置レジメンと腫瘍反応性自己腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) のACTにより、抗腫瘍T細胞によるクローン再増殖が観察され、他の治療法に抵抗性の転移性メラノーマ患者の50%で客観的臨床奏功、一部では完全奏功が報告されている (Dudley et al. Science 2002)。さらに、化学療法に全身放射線照射を追加することでリンパ球除去を強化すると、客観的奏功率は72%に向上した。しかし、高親和性TILはメラノーマ患者からしか得られないため、一般的な上皮性腫瘍に存在する共通のがん関連抗原に対する広範な反応性を持つT細胞の生成が求められている。

遺伝子導入により循環ヒトリンパ球に抗原受容体やACTに有効な特性を付与する柔軟性が提供される。遺伝子改変自己リンパ球を用いたヒトがんの退縮を媒介する初の臨床試験が報告され、MART-1メラノーマ抗原に反応するTCRを導入された患者の一部で長期的な客観的腫瘍退縮が認められた (Morgan et al. Science 2006)。しかし、TCR改変リンパ球を用いたがん治療における奏功率の低下は、TCR遺伝子治療のさらなる最適化が必要であることを示唆している。また、現在のTCRベースの遺伝子治療はHLA-A2拘束性エピトープを標的としており、ACTで治療可能な患者数が大幅に制限されるという課題がある。

キメラ抗原受容体 (CAR) は、単鎖抗体 (scFv) の抗原結合ドメインとT細胞シグナルドメインを連結した人工的なハイブリッドタンパク質である。CARの主な特徴は、T細胞の特異性と殺傷/エフェクター活性を非MHC拘束的に選択された標的に再指向させる能力であり、これはモノクローナル抗体 (mAb) の抗原結合特性を利用している (Eshhar et al)。この非MHC拘束性抗原認識により、CAR発現T細胞はHLA状態に依存せず患者の腫瘍細胞を認識できる可能性があり、HLA発現を喪失または下方制御した腫瘍(腫瘍免疫回避の主要メカニズム)も効果的に治療できる可能性がある。

ErbB2 (HER2/Neu) は、がん特異的治療の最も研究されている標的の一つである。ErbB2の細胞外ドメインを標的とするmAbであるHerceptin (トラスツズマブ) は、ErbB2過剰発現乳癌で治療活性を示すが、一部のErbB2陽性腫瘍はHerceptin治療に反応しないため、作用機序のさらなる理解と追加治療法の開発が求められている。ErbB2に対するCARはin vitroおよび動物モデルでよく特徴付けられ、試験されてきたが、臨床応用にはいくつかの限界を克服する必要がある。これまでに報告されたErbB2ベースのCARは、マウスmAb由来のscFvで構成されており、ヒト臨床試験で抗CAR免疫応答を誘発することが示されている (Lamers et al. JClinOncol 2006)。CD3ζのみ、またはCD28とCD3ζを含むCARは、T細胞活性化と機能に強力なシグナルを伝達するが、共刺激シグナルなしでは実質的なIL-2分泌を誘導するには不十分であることが示されている (Maher et al. NatBiotechnol 2002)。また、scFv-CD3ζ構成のCARでは、培養中にトランスジーン発現の消失が観察されることがあり、これはT細胞の持続性にとって重要な課題となる。ヒト化4D5 (Herceptin) scFvは免疫原性が低いとされ、CARへの応用は論理的であるが、最適なシグナル伝達ドメインの設計は未確立であった。特に、CD3ζシグナルが低レベルのErbB2認識によって活性化誘導性細胞死 (AICD) を誘発し、トランスジーン発現の消失を引き起こす可能性が指摘されており、このメカニズムの解明と克服が喫緊の課題として残されていた。CAR-T細胞の長期的なin vivo持続性と抗腫瘍効果を最大化するための共刺激シグナル伝達経路の最適化に関する知識には、まだ不足している部分がある。

目的

本研究の目的は、Herceptin (4D5) scFvをベースとした抗ErbB2 キメラ抗原受容体 (CAR) の機能を詳細に評価することである。特に、培養中に観察されるトランスジーン発現消失の根本的な機序が、低レベルのErbB2認識による活性化誘導性細胞死 (AICD) であるという仮説を検証し、そのメカニズムを解明することを目指した。さらに、CD28および4-1BB共刺激ドメインをCAR設計に最適化して組み込むことにより、形質導入Tリンパ球の生存、エフェクター機能、およびin vivoでの抗腫瘍活性を大幅に改善できるかを評価することを目的とした。最終的には、臨床応用可能な、持続性と強力な抗腫瘍効果を兼ね備えた次世代CAR-T細胞の設計指針を確立することを目指す。

結果

ErbB2特異的反応性: 4D5-28Zを形質導入したPBLは、ErbB2陽性腫瘍細胞株 (SK-OV3, SK-BR3, BT-474, MDA361, MDA231, 624.38melなど) との共培養により、高レベルのIFN-γを分泌した (Fig. 1C)。ErbB2陰性細胞株であるMDA468やCEMとの共培養では、IFN-γ分泌は低レベルまたは陰性であった。51Cr放出アッセイでは、4D5-28Z形質導入PBLはErbB2陽性標的細胞 (SK-Br3, SK-OV3, 624.38mel) に対し、E:T比依存的に特異的な細胞傷害活性を示した (Fig. 1D)。抗ErbB2抗体 (N29, 市販IgG) によるブロッキング実験では、MDA231および624.38melに対する認識が阻害され、NY-ESO-1 TCRには影響がなかったことから、抗原特異性が確認された (Fig. 2A-B)。NIH3T3細胞にErbB2を形質導入したクローンを用いた実験では、細胞表面のErbB2発現量 (MFI) とIFN-γ分泌量が高い相関を示し (Fig. 2D-E)、4D5 CARの認識が抗原依存的であることが裏付けられた。

CD3ζシグナルによるトランスジーン消失とAICD: 4D5-28Zを形質導入したPBLでは、形質導入後のトランスジーン発現が時間経過とともに減少した。一方、CD28とCD3ζの両方の細胞内ドメインを欠損させた4D5-28D構築物では発現が持続し、CD3ζのみを含む4D5-CD8HTZ構築物でも発現減少が観察されたことから、CD3ζシグナル伝達がトランスジーン発現減少の原因であることが示唆された (Fig. 3B)。scFvの親和性変異体 (4D5-1 Kd=2.5×10^-8 M / 25 nM, 4D5-3 Kd=4.4×10^-9 M, 親株 Kd=3×10^-10 M / 0.3 nM) を用いた実験でもトランスジーン発現減少は親和性に依存せずに発生した (Fig. 3B)。Table Iに示すように、OKT3刺激PBMCには低レベルのErbB2 mRNAが検出された (例: PBMC1: day0 8,970コピー → day2 608コピー/10^6 β-アクチン; PBMC3: day0 22,210コピー)。CD3ζが完全なCAR (4D5-28Z, 4D5-28HTZ, 4D5-CD8HTZ) では、タンパク質、RNA、DNAコピー数の全てが相関して減少した。一方、NY-ESO-1 TCR、FMC63-28Z (抗CD19抗体由来CAR)、SP6-28Z (抗トリニトロフェニルCAR)、LNGFR-28Z (低親和性神経成長因子受容体CAR) では減少は認められなかった。CD3ζを欠損させた4D5-28D、または3つのITAM全てを変異させた4D5-28ZMでは減少が見られなかったことから、活性化誘導性細胞死 (AICD) 仮説が支持された。CD3ζのITAM AとCの両方を変異させた28ZB構築物ではトランスジーン発現が維持されたことから、ITAM B単独の存在下ではアポトーシス耐性が得られることが示唆された (Fig. 4B)。SK-BR3との共培養では、4D5-28Z形質導入PBLのAnnexin V陽性細胞が78%​であったのに対し、非形質導入細胞 (NV) では30%、ITAM全てを変異させた4D5-28ZMでは26% (対照と同等) であった (Fig. 4C)。これらの結果は、ITAM AとCがITAM Bよりも強力なアポトーシスシグナルを伝達することを示唆している。

4-1BB共刺激ドメインの追加による効果: CD8ヒンジ/膜貫通ドメインを用いたCAR構築物において、形質導入後10日から30日までのトランスジーン発現を比較したところ、4D5-28Zでは44.2%から12.3%​に減少したのに対し、4-1BBを含むCAR (4D5-CD8-28BBZ) では35.1%から86.8%​に維持された (Fig. 5B)。プロピジウムヨウジド (PI) 陽性死細胞の割合は、CD8HTZで38.8%、CD8-28Zで47.3%​であったのに対し、CD8-28BBZでは14.6%​と有意に低かった (Fig. 5C)。SK-BR3との共培養におけるIFN-γ産生は、4-1BB含有CARで最大2倍に増加し、IL-2産生もCD8-28BBZで増加した (Suppl Fig. 2)。51Cr放出アッセイでは、CD8-28BBZはCD8-28Zと比較して、SK-BR3およびMDA361に対する細胞傷害活性が有意に高かった (p<0.01, two-way ANOVA, Fig. 5E)。

Bcl-xLおよびNKG2Dの発現誘導: ErbB2-Fc刺激後の細胞内Bcl-xL発現は、CD8-28BBZ形質導入PBLで59.8%​であったのに対し、28Zでは38.7%​であった (Suppl Fig. 3)。ウェスタンブロット解析でも、SK-OV3刺激後のBcl-xLタンパク質発現はCD8-28BBZで28Zよりも高かった。NKG2Dの発現は、4D5-CD8-28BBZ形質導入T細胞で64.1%​に増加したのに対し、4-1BBを欠くCARでは22.6-32.7%​であった (Fig. 6B)。

新鮮腫瘍に対する反応性およびin vivo抗腫瘍効果: 3人のメラノーマ患者由来の新鮮腫瘍消化物 (FACSでErbB2陽性) に対し、4D5-CD8-28BBZ形質導入PBLは有意な細胞傷害活性を示した (Fig. 7B)。BT-474異種移植モデル (n=7-10 mice/group) では、SP6-28Z対照群はHBSS群と同等の腫瘍増殖を示したが、4D5-28Zおよび4D5-CD8-28BBZ形質導入PBLは劇的な腫瘍増殖抑制効果を示した。72日後の腫瘍体積は、CD8-28BBZ群が28Z群よりも有意に小さかった (p<0.05, Fig. 7C)。この結果は、4D5-CD8-28BBZ CAR-T細胞がin vivoで優れた抗腫瘍効果を発揮することを示している。

考察/結論

ErbB2は正常組織でも低レベルで発現しており、高親和性scFv CARはオンターゲット/オフ腫瘍毒性のリスクを伴う可能性がある。本研究は、Herceptin scFv CARにおいて、CD3ζ ITAMを介した活性化誘導性細胞死 (AICD)​がトランスジーン発現消失の主要な原因であることを初めて示した。この現象は、PBMC中に低レベルで発現する内因性ErbB2の認識によって引き起こされると考えられた。親和性を低下させたCAR (25 nM) では腫瘍認識能が大幅に減少するため、in vivoでの効果を最大化するには高親和性scFvによるアビディティの維持が必要であると考察される。

先行研究との違い: これまでのCAR研究では、CD3ζ単独またはCD28とCD3ζの組み合わせが用いられてきたが、本研究では、CD3ζシグナルが低レベルの抗原認識によってAICDを誘発し、トランスジーン発現の消失を引き起こすというメカニズムを詳細に解明した点で、これまでの報告とは異なる知見を提供している。特に、CD3ζの個々のITAMがアポトーシスシグナル伝達において異なる寄与を持つことを示した点は新規である。

新規性: 本研究で初めて、4-1BB共刺激ドメインの追加が、Bcl-xLおよびNKG2Dの発現を上調し、AICDを抑制することで、トランスジーン発現の持続性、サイトカイン産生、細胞傷害活性、およびin vivoでの抗腫瘍活性を大幅に改善することを新規に実証した。特に、4D5-CD8-28BBZ構築物が、臨床的なT細胞の増殖と持続性に必要な特性を達成できることを示した点は、次世代CAR設計における重要な新規知見である。NKG2Dの誘導は、MIC分子を介した免疫抑制の回避という副次的な効果も示唆しており (Raulet et al. NatRevImmunol 2003)、これは本研究の新規性の一つである。

臨床応用: 本知見は、ErbB2過剰発現腫瘍患者に対するCAR-T細胞療法の臨床応用に直結する。特に、4-1BB共刺激ドメインを組み込んだCAR (4D5-CD8-28BBZ) は、in vitroでの持続的なトランスジーン発現と強力なエフェクター機能、およびin vivoでの優れた腫瘍制御効果を示したことから、臨床試験でのT細胞の長期生着と抗腫瘍効果の向上に貢献する可能性が高い。ヒト化scFvと最適化されたシグナル伝達ドメイン (4-1BB) の組み合わせは、従来のCAR-T細胞療法における短期的な持続性という課題を克服し、より効果的な養子免疫療法の開発に繋がる臨床的意義を持つ。

残された課題: 今後の検討課題として、ErbB2過剰発現患者の慎重な選択、Herceptinとは異なる経路で発生する可能性のある心毒性の評価、および臨床用量と前処置レジメンの最適化が残されている。また、4-1BBシグナルが制御性T細胞 (Treg) の増殖も促進する可能性が報告されているが、CAR内に4-1BBをcis配置することで、CAR陽性T細胞のみが恩恵を受け、Tregの非選択的活性化を回避できるかどうかのさらなる検証が必要である。これらの課題を克服することで、本研究で開発されたCAR-T細胞は、がん患者に対する養子免疫療法の有効性を大幅に向上させる可能性を秘めている。

方法

転移性メラノーマ患者由来の末梢血リンパ球 (PBL) を、OKT3 (50 ng/ml) とIL-2 (300 IU/ml) で活性化し、RetroNectinコートプレート上でMSGV-1 (Murine Stem Cell Virus-based vector 1) γ-レトロウイルスベクターを用いてCARまたはNY-ESO-1 TCR (1G4-AIB) を形質導入した。主要なCAR構築物として、4D5 scFvにCD28とCD3ζシグナルドメインを連結した4D5-28Z、およびCD8αヒンジ/膜貫通ドメインにCD28、4-1BB、CD3ζシグナルドメインを組み込んだ4D5-CD8-28BBZを用いた。ErbB2発現は抗ErbB2 Affibodyを用いたフローサイトメトリー (FACS) で検出した。CAR発現はErbB2-Fc融合タンパク質と抗ヒトIgG Fc抗体を用いて検出した。サイトカイン産生は、24時間の共培養後にELISA (IFN-γ, IL-2, TNF-α) で測定した。細胞傷害活性は、5×10^3個の標的細胞を用いた4時間の51Cr放出アッセイで評価した。トランスジーン発現の持続性は、形質導入後8日、21日、35日にFACSでモニタリングし、RNAレベルではRT-qPCR (LTR領域)、DNAコピー数レベルではゲノムqPCR (ベクターコピー数) で定量した。アポトーシスはAnnexin V/PI染色によるFACSで評価し、PI陽性死細胞の割合を算出した。Bcl-xLおよびNKG2Dの発現は、ErbB2-Fcプレート刺激後20時間の細胞内FACSまたはウェスタンブロットで検出した。ErbB2 mRNA発現は、5人のドナーPBMCでRT-qPCRにより定量した (β-アクチン10^6コピーあたりのコピー数)。

in vivo試験では、SCID雌マウス (n=7-10/group) の乳腺脂肪パッドにBT-474ヒト乳癌細胞 (3×10^6個) をMatrigelと共に移植した。移植後7日目にシクロホスファミド200 mg/kgを腹腔内投与し、10日目に形質導入PBL (1.5-2×10^6個) を静脈内投与した。その後、IL-2 2000 IUを1日2回、7日間腹腔内投与した。対照群としてHBSS (PBLなし) およびSP6 CAR (抗トリニトロフェニル) を用いた。腫瘍体積は経時的に測定し、72日後の腫瘍体積についてtwo-way ANOVAを用いて統計解析を行った。抗体ブロッキングアッセイでは、腫瘍細胞とT細胞を抗ErbB2抗体 (mAb N29または市販の抗ErbB2 IgG) と共にインキュベートし、IFN-γ産生をELISAで測定した。