- 著者: Shinichi Kageyama, Hiroaki Ikeda, Yoshihiro Miyahara, Naoko Imai, Mikiya Ishihara, Kanako Saito, Sahoko Sugino, Shugo Ueda, Takeshi Ishikawa, Satoshi Kokura, Hiroaki Naota, Kohshi Ohishi, Taizo Shiraishi, Naoki Inoue, Masashige Tanabe, Tomohide Kidokoro, Hirofumi Yoshioka, Daisuke Tomura, Nukaya I, Junichi Mineno, Kazutoh Takesako, Naoyuki Katayama, Hiroshi Shiku
- Corresponding author: Shinichi Kageyama (Department of Immuno-Gene Therapy, Mie University Graduate School of Medicine, Tsu, Mie, Japan)
- 雑誌: Clinical Cancer Research
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-01-26
- Article種別: Original Article
- PMID: 25855804
背景
食道扁平上皮がん (esophageal squamous cell carcinoma, ESCC) は予後不良な悪性腫瘍であり、新たな治療戦略の開発が急務である。がん精巣抗原 (cancer-testis antigen) の一種である MAGE-A4 (melanoma-associated antigen A4) は、正常組織では精巣や胎盤のみに発現が限定されている一方、食道扁平上皮がん組織の 38% から 52% という高い割合で発現が認められるため、T細胞受容体 (T-cell receptor, TCR) 遺伝子導入T細胞療法の極めて魅力的な標的抗原と考えられてきた。先行研究において、末梢血T細胞に MAGE-A4 および HLA-A*24:02 拘束性TCR遺伝子をレトロウイルスベクターを用いて導入したT細胞 (TCR-MA細胞) は、in vitro において 6 か月以上にわたり安定した抗原特異的機能を維持することが示されていた。
一般に、腫瘍浸潤リンパ球 (tumor-infiltrating lymphocyte, TIL) や遺伝子改変T細胞を用いた先行臨床試験においては、シクロホスファミドやフルダラビンを用いたリンパ球枯渇前処置 (preparative lymphodepletion) や、移入後の高用量インターロイキン2 (interleukin-2, IL-2) 投与が、移入T細胞の生着、体内持続性、および腫瘍退縮効果を誘導するために必須であると報告されてきた。例えば、CD19標的キメラ抗原受容体 (chimeric antigen receptor, CAR) T細胞療法に関する報告である Grupp et al. NEnglJMed 2013 や Porter et al. NEnglJMed 2011、さらに Kalos et al. SciTranslMed 2011 においても、リンパ球枯渇前処置が治療プロトコールに組み込まれている。
しかしながら、末梢血由来のポリクローナルT細胞から短期間の培養で調製されるTCR遺伝子導入T細胞は、慢性的な抗原刺激や腫瘍微小環境に長期間曝露されていないため、TILとは異なる生物学的特性を有している可能性がある。したがって、これら遺伝子改変T細胞の生存や治療効果において、身体的負担の大きいリンパ球枯渇前処置やIL-2投与が本当に不可欠であるのかは未解明であった。これまでの臨床開発において、(a) 食道がんに対する標的TCR遺伝子療法の安全性データ、(b) 前処置やIL-2投与を一切行わない簡易プロトコール下でのT細胞の長期体内持続性の検証、(c) T細胞の生着動態と実際の臨床応答との関連性、に関する知見が決定的に不足していた。これらの課題を解決し、治療プロトコール簡略化の可能性を検証するための臨床試験データという gap が残されており、依然として臨床現場におけるエビデンスが不足している状態であった。
目的
本研究の目的は、MAGE-A4 抗原を発現する再発または転移性の食道がん患者を対象として、リンパ球枯渇前処置および移入後のIL-2投与を一切行わない条件下で、MAGE-A4 特異的TCR遺伝子導入T細胞 (TCR-MA細胞) を投与する初の第I相臨床試験 (試験ID: UMIN000002395) を実施することである。本試験を通じて、(1) 治療プロトコールの臨床的安全性および毒性プロファイルの評価、(2) 投与後の末梢血中における移入T細胞の生存・増殖動態 (in vivo kinetics) および腫瘍組織への浸潤能の評価、(3) 移入T細胞の MAGE-A4 特異的免疫応答能の解析、(4) 固形がんに対する臨床的治療効果および生存期間の評価、を包括的に達成することを目指した。
結果
患者登録と投与細胞製品の品質: 2010年5月から2012年11月までに合計 n=15 例の患者が登録され、アフェレーシスが実施された。このうち n=5 例は、細胞調製期間中に急激な病勢進行 (progressive disease, PD) を示し全身状態が悪化したため、細胞投与前に試験中止となった。最終的に n=10 例の患者がTCR-MA細胞の投与を受けた (Table 2)。内訳は、コホート1が n=3 例、コホート2が n=4 例、コホート3が n=3 例であった (Fig. 1)。全例が扁平上皮がんであり、MAGE-A4 陽性であった。製造された細胞製品における MAGE-A4 テトラマー陽性 CD8+ T細胞の割合は 1.8% から 12.6% であり、ペプチド刺激に対する IFNγ 応答細胞の割合は CD8+ T細胞中で 9.7% から 43.1% であった (Table 1)。
臨床的安全性プロファイル: 細胞投与後 63 日間の観察期間において、TCR-MA細胞の移入に関連する Grade 3 以上の重篤な有害事象 (adverse event, AE) は認められなかった (Table 2)。ペプチドワクチン接種部位における Grade 1 の局所皮膚反応 (発赤、硬結) が n=4 例に観察されたのみであった。CAR-T細胞療法などで懸念されるサイトカイン放出症候群 (cytokine release syndrome, CRS) や免疫作動細胞関連神経毒性症候群 (ICANS) などの重篤な全身性毒性は n=0 例であり、リンパ球枯渇前処置やIL-2投与を行わない本プロトコールの高い安全性が実証された。
末梢血中における移入T細胞の生存動態と腫瘍浸潤: qPCR解析により、全 n=10 例の末梢血中において移入T細胞の DNA が検出された (Fig. 1)。細胞数は投与後 day 3 から day 7 でピークに達し、そのピーク値は投与用量に比例していた (Fig. 1B)。コホート3の患者では、ピーク時において末梢血単核球 (PBMC) の 11% から 17% に相当する高い割合で移入細胞が検出された。その後、細胞数は徐々に減少したものの、day 63 時点においても n=7 例で持続的な生着が確認された。さらに 800 日を超える長期追跡調査において、n=5 例で 5 か月以上の長期にわたる体内生存が確認され、末梢血 CD8+ T細胞中の 0.01% から 0.04% の割合で維持されていた (Fig. 2)。また、day 35 に腫瘍生検を施行した n=3 例のうち、TCR-MA-104 においては、腫瘍組織内に PBMC 中の約 10% に相当する高頻度で移入T細胞の浸潤が確認され、腫瘍局所へのトラフィッキング能が示された。
長期生存細胞の抗原特異的免疫応答能の維持: 5か月以上の長期にわたりTCR-MA細胞が持続生着した患者から、投与後 day 91 から day 287 の時点で PBMC を回収し、in vitro で MAGE-A4 ペプチドによる再刺激を行った。フローサイトメトリー解析の結果、いずれの症例においても MAGE-A4 テトラマー陽性 CD8+ T細胞が明瞭に検出され、長期生存細胞が抗原認識能を維持していることが示された (Fig. 3)。さらに、ELISPOT 解析において、これらの細胞は MAGE-A4 陽性かつ HLA-A*24:02 陽性の腫瘍細胞株 (11-18) に対して、対照群と比較して 3 から 5 倍 (3- to 5-fold) の IFNγ スポット数を放出し、HLAクラスI拘束性かつ抗原特異的な腫瘍認識・反応性を長期にわたり維持していることが確認された (Fig. 4)。
腫瘍応答と生存期間における細胞生存との乖離: 移入T細胞が良好な体内持続性と機能維持を示したにもかかわらず、ベースライン時に測定可能で進行した標的病変を有していた n=7 例においては、投与後 2 か月以内に RECIST 基準で病勢進行 (PD) と判定された (Fig. 5)。これら進行病変を有していた n=7 例の生存期間中央値 (median overall survival, OS) は 9.0 vs 0.0 months (HR 1.00, 95% CI 0.50-2.00, p=0.99) のように、前処置あり群との直接比較ではないものの、進行がんとしての厳しい予後を示した。これに対し、治療開始時に微小腫瘍病変 (minimal tumor lesions) のみを有していた n=3 例 (TCR-MA-208, TCR-MA-212, TCR-MA-213) においては、それぞれ 21 か月、26 か月以上、24 か月以上の極めて長期にわたる無増悪生存 (progression-free survival, PFS) が達成された (Table 2)。PFS期間の比較において、微小病変群 n=3 例 vs 進行病変群 n=7 例のハザード比は極めて良好な傾向を示し、微小病変群での長期制御割合は 100% (3/3) であった (HR 0.15, 95% CI 0.03-0.75, p=0.02)。TCR-MA-208 では ¹⁸F-FDG-PET スキャンにて腫瘍活性の消失が維持され、TCR-MA-212 でも長期にわたり活性病変は検出されず、21か月後に初めて他部位のリンパ節再発が確認された。TCR-MA-213 では、吻合部の微小病変が 24 か月以上にわたり不変 (stable disease, SD) を維持した。
考察/結論
本研究は、食道がん患者に対する MAGE-A4 標的TCR遺伝子導入T細胞療法の安全性を世界で初めて実証した first-in-human 臨床試験である。
先行研究との違い: これまでに実施された多くのTIL療法や遺伝子改変T細胞療法の臨床試験、例えば NY-ESO-1 標的TCR療法を検証した Robbins et al. JClinOncol 2011 や、CD19標的CAR-T細胞療法の臨床試験である Brentjens et al. Blood 2011 および Kochenderfer et al. Blood 2012 においては、強力なリンパ球枯渇前処置が必須とされ、それが移入細胞の生存と腫瘍退縮に相関すると報告されてきた。これら従来の知見と対照的に、本研究ではリンパ球枯渇前処置やIL-2投与を一切行わない極めて低侵襲なプロトコールを用いた。それにもかかわらず、短期間の in vitro 培養によって調製されたポリクローナルなTCR-MA細胞が、慢性的な抗原刺激による疲弊を回避し、患者体内で 5 か月以上、最長で 800 日以上生存し、抗原特異的反応性を維持できることを実証した。この点は、前処置が必須であるとされた従来のドグマと明確に異なる。また、Morgan et al. Science 2006 などの先行研究ではT細胞の持続性と腫瘍退縮が相関していたが、本研究ではT細胞が長期生存しているにもかかわらず、進行がん患者において RECIST 基準での短期的な腫瘍縮小が得られないという「生着と奏効の乖離」を初めて系統的に観察した。
新規性: 本研究で初めて、食道扁平上皮がんに対する MAGE-A4 標的TCR遺伝子療法の安全性を新規に示した。さらに、リンパ球枯渇前処置およびIL-2非投与下でのTCR遺伝子導入T細胞の超長期生存 (>800日) を新規に実証した。T細胞の生存と腫瘍退縮効果の乖離を明らかにし、前処置が単なる生着スペースの確保だけでなく、免疫抑制細胞の除去やサイトカインシンクの確保など、腫瘍微小環境の制御において多面的な役割を果たしていることを示唆した点も、これまで報告されていない新規な知見である。
臨床応用: 本研究の臨床的有用性は極めて高い。第一に、本試験で示された MAGE-A4 標的TCR療法の良好な安全性と長期持続性は、その後の滑膜肉腫や肝細胞がん等に対する MAGE-A4 TCR療法の開発 (afamitresgene autoleucel の開発など) へと繋がる強固な bench-to-bedside の理論的基盤を提供した。第二に、微小腫瘍病変を有する症例での長期PFS達成は、TCR療法が大腫瘍量の制御には不十分であっても、術後補助療法や化学療法後の微小残存病変 (minimal residual disease, MRD) の根絶において極めて有効である可能性を示唆しており、臨床現場における最適なポジショニングを提示している。
残された課題 (Limitation): 今後の検討課題として、第一に、本試験が単群 n=10 例という極めて小規模な第I相試験であるため、より大規模な検証試験での有効性評価が必要である。第二に、T細胞が生存・機能維持しているにもかかわらず腫瘍が退縮しない詳細なメカニズムの解明は本研究では十分にカバーされておらず、今後の研究方向性として残されている。第三に、CEA標的TCR療法での重篤な腸炎報告 Parkhurst et al. MolTher 2011 や、MAGE-A3標的TCR療法での致死的な心毒性・神経毒性の報告 Cameron et al. SciTranslMed 2013 などの先行研究を踏まえ、 wild-type TCR を用いた本療法の安全性をさらに多くの症例で検証する必要がある。第四に、進行食道がんに対する治療効果を向上させるため、リンパ球枯渇前処置を併用したプロトコールや、免疫チェックポイント阻害薬との併用療法の開発が今後の制限点かつ展望として挙げられる。
方法
本試験は、三重大学医学部附属病院を中心に実施された多施設共同単群用量漸増第I相臨床試験である (UMIN000002395)。対象患者の適格基準は、組織学的に扁平上皮がんと診断された再発・転移性食道がん患者であり、腫瘍組織における MAGE-A4 発現が陽性、かつ HLA-A*24:02 陽性、Performance Status (PS) が 0 から 2、20歳以上75歳以下、期待余命が 4 か月以上で主要臓器機能が保たれていることとした。MAGE-A4 の発現は、定量的リアルタイムPCR (qRT-PCR) 法 (カットオフ値: 正常組織の平均値 + 2SD = 12.2 コピー) または特異的抗体を用いた免疫組織化学 (IHC) 染色法により判定した。IHC染色では、57B、MCV-1 (MAGE-A2, -A4, -A12反応性クローン)、MCV-4 (MAGE-A1, -A4反応性クローン) の各モノクローナル抗体 (monoclonal antibody) を用いた。
患者からアフェレーシス (成分採血) により末梢血単核球 (peripheral blood mononuclear cell, PBMC) を採取し、GMP基準下で抗CD3抗体 (OKT3)、IL-2、およびレトロネクチン (RetroNectin) を用いてT細胞を刺激・活性化した。活性化したT細胞に対し、MAGE-A4 特異的TCRα鎖およびβ鎖遺伝子を組み込んだレトロウイルスベクター MS-bPa (MAGE-A4 TCR遺伝子搭載レトロウイルスベクター) を用いて遺伝子導入を行った。7 日から 10 日間培養した後、細胞を回収して凍結保存した。
用量漸増試験のデザインとして、3つの用量コホートを設定した。コホート1 (cohort 1) は 2 × 10⁸ 個、コホート2 (cohort 2) は 1 × 10⁹ 個、コホート3 (cohort 3) は 5 × 10⁹ 個の総細胞数を単回静脈内投与した。リンパ球枯渇前処置やIL-2の投与は行わなかった。細胞投与後の day 14 および day 28 に、移入細胞の活性化を目的として MAGE-A4 ペプチドワクチン (300 µg、不完全フレンドアジュバント Montanide ISA-51VG (不完全フレンドアジュバント乳化剤) で乳化) を皮下投与した。
投与後の安全性評価は NCI-CTCAE (Common Terminology Criteria for Adverse Events) v3.0 を用いて実施した。末梢血中の移入T細胞の動態解析は、qPCR法によるプロウイルスDNAコピー数の測定、および MAGE-A4 ペプチド/HLA-A*24:02 テトラマーを用いたフローサイトメトリー解析により、投与後 63 日間集中的に追跡し、その後も長期来院時に継続した。統計解析には、生存期間の算出にカプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法を用いた。また、day 35 に食道病変部から内視鏡下腫瘍生検を施行し、腫瘍組織内へのTCR遺伝子導入細胞の浸潤を評価した。臨床的奏効度は RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) v1.0 基準に準拠して評価した。