• 著者: Klichinsky M, Ruella M, Shestova O, Lu XM, Best A, … June CH, Gill S et al.
  • Corresponding author: Saar Gill (saar.gill@pennmedicine.upenn.edu)
  • 雑誌: Nature Biotechnology
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-03-23
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 32361713

背景

キメラ抗原受容体 CAR (chimeric antigen receptor) を導入した T 細胞療法は B 細胞性血液腫瘍で目覚ましい成果を上げ、先行研究では Maude et al. 2014 が小児・若年成人 B-ALL で持続的寛解を示し tisagenlecleucel の承認に至るなど臨床に定着した。しかし固形がんへの応用は依然として困難で、これまでの研究 (June et al. 2018) でも抗原の不均一性・物理的バリア・免疫抑制的な腫瘍微小環境 TME (tumor microenvironment) が CAR-T の浸潤と持続を阻むことが繰り返し報告されてきた。固形腫瘍の TME には骨髄由来単球から分化した腫瘍関連マクロファージ TAM (tumor-associated macrophage) が大量に浸潤し、血管新生・浸潤・転移・免疫抑制を促進する免疫抑制性 (M2) 表現型を呈する点が、こうした難治性の一因とされてきた。これに対して TAM を depletion・再分極・脱抑制する治療 (CD47/SIRPα 軸阻害など) が臨床開発されてきたが、これらは既存の TAM に機械論的に依存しており、活性化型・抑制型双方の Fc 受容体を発現し、pro-tumoral な M2 表現型に偏り、かつ腫瘍関連抗原への特異性を欠くという根本的限界があった。一方でマクロファージは本来、貪食・細胞傷害・炎症性因子分泌・T 細胞への抗原提示を担う自然免疫の中核 effector であり、ADCP (antibody-dependent cellular phagocytosis) を介した抗体療法の主要 effector でもある。過去には Andreesen et al. 1998 をはじめ自己マクロファージを最大 3 × 10⁹ 個まで養子移入する臨床試験が実施され、安全性と feasibility は示されたものの顕著な抗腫瘍効果は得られなかった。すなわち腫瘍抗原への特異性を effector マクロファージに付与する方法論が確立されておらず (not yet established)、「抗原特異性を欠いたまま大量投与しても効かない」という点こそが先行研究に足りなかった核心的ギャップであった。この未解明の空白を埋めるべく、本研究はヒトマクロファージに CAR を発現させ貪食機能を腫瘍特異的に再方向付けすれば、標的化された抗腫瘍効果に加えて獲得免疫応答までも誘導できるのではないか、という仮説に立脚する。

目的

ヒト初代マクロファージに腫瘍抗原特異的 CAR を遺伝子導入した chimeric antigen receptor macrophage (CAR-M) を作製し、その抗原特異的貪食能・固形腫瘍異種移植モデルでの抗腫瘍活性・体内動態を検証するとともに、CAR-M が周囲の TME や宿主 T 細胞に及ぼす炎症性・抗原提示性の効果を明らかにすることを目的とした。

結果

CD3ζ ベース CAR がマクロファージの抗原特異的貪食を駆動する:まずヒト単球性白血病株 THP-1 (human monocytic cell line) に第一世代抗 CD19 CAR (CD3ζ 細胞内ドメインを持つ CAR19ζ、または ζ を欠く truncated CAR19Δζ) を導入した。CD3ζ は ADCP の標準シグナル分子である Fc 共通 γ 鎖 (FcεRI-γ) と相同性を持つ。CAR19ζ を発現する THP-1 のみが CD19⁺ K562 標的を抗原特異的に貪食し、CAR19Δζ も非導入対照 UTD (untransduced) も貪食しなかった (Fig. 1a,b)。この貪食は Syk・非筋ミオシン IIA・アクチン重合を要する能動過程で ADCP と同様であり、CD3ζ と Fcγ いずれのシグナルドメインでも活性は同等であった。さらに mesothelin あるいは HER2 を標的とする CAR-M も抗原陽性標的を貪食し (Fig. 1c,d)、CD3ζ ベース CAR が抗腫瘍貪食活性を方向付けられることが確立した。

キメラアデノウイルスベクターが初代ヒトマクロファージへの高効率遺伝子導入を実現する:初代ヒトマクロファージは遺伝子導入抵抗性が高いという長年の障壁があったが、マクロファージが group B アデノウイルスの docking 蛋白である CD46 (cluster of differentiation 46) を発現する (Fig. 1e) ことに着目し、複製不能なキメラアデノウイルスベクター Ad5f35 (adenovirus serotype 5/35 chimeric vector) を用いた。末梢血 CD14⁺ 単球を M1 傾向の GM-CSF で 7 日間分化させ抗 HER2 CAR を導入したところ、n=10 donors で高効率かつ再現性よく CAR が発現した (Fig. 1f,g)。in vitro 貪食・殺傷アッセイはいずれも n=3 technical replicates の triplicate で実施した。得られた抗 HER2 CAR-M は HER2⁺ ビーズおよび腫瘍細胞を抗原特異的に貪食し (Fig. 1h,i)、HER2⁺ 卵巣がん株 SKOV3 を用量・時間依存的に死滅させた (Fig. 1j,k)。貪食・殺傷の程度は CAR 発現量および標的抗原発現量と直接相関した。transgene を持たない empty Ad5f35 を等価な感染多重度 MOI (multiplicity of infection) で導入したマクロファージは抗腫瘍活性を欠いた。20 種の正常ヒト組織パネルでは正常細胞は貪食されず、on-target/off-tumor 毒性のリスクは低いと示された。

単回投与の CAR-M が固形腫瘍異種移植で腫瘍量を減らし生存を延長する:免疫不全 NSGS マウス (ヒト IL3 (interleukin 3)/GM-CSF/SCF (stem cell factor) を発現する NOD/SCID 系統) を用いた 2 つのモデルで in vivo 活性を検証した。第一に SKOV3 を静脈内投与して肺転移を作製し、7 × 10⁶ 個の細胞を単回静注した。CAR-M 治療群は腫瘍量が顕著に減少し (Fig. 2b)、全生存期間が延長した (生存中央値 CAR 88.5 日 vs Empty 63 日、P = 0.0047、log-rank Mantel-Cox 検定、Fig. 2c)。摘出肺の免疫組織化学では転移巣が確認され、CAR-M 治療後に GFP⁺ 腫瘍細胞が有意に減少した (Fig. 2d,e)。第二の腹腔内 carcinomatosis モデルでは、SKOV3 腹腔内投与の 2-4 時間後に CAR-M を腹腔内単回投与し、100 日間の連続生物発光イメージングで大半の個体に明瞭な腫瘍退縮を認めた (Fig. 2g)。体重変化に基づき有意な毒性はなく、CAR 治療群の全生存が有意に改善した (CAR vs UTD、P < 0.0001、Fig. 2h)。luciferase 共発現マクロファージを用いた検討では CAR-M は腫瘍のないマウスで少なくとも 62 日間体内に持続し (Fig. 2i)、5 種の固形腫瘍異種移植すべてに trafficking した (Fig. 2j)。静注後の正常組織では肝が主要な集積部位であった。

CAR-M は M1 炎症性表現型を獲得し TME を炎症性に再構築する:n=4 donors のトランスクリプトーム解析で、Ad5f35 導入マクロファージは UTD から明確に分離し、主成分分析でも classically activated (M1) 側へ、alternatively activated (M2) から離れて clustering した (Fig. 3a)。導入により多数の interferon 関連遺伝子が誘導され (Fig. 3b)、interferon シグナル・Th1 経路・iNOS シグナルなど M1 関連経路と抗原提示機構 (共刺激リガンド・MHC class I/II) が活性化された。この表現型は CAR と empty vector で同等であり、CAR 自体ではなくウイルスベクターによる誘導であること、また少なくとも 40 日間維持されることが示された。ヒト化免疫系 HIS (humanized immune system) マウスの TME 内でも CAR-M のみが M1 関連 interferon 応答遺伝子 (IFIT1, ISG15, IFITM1) を発現し、UTD は M2 マーカー MRC1 (CD206) を発現した (Fig. 3d)。単一細胞解析では CAR-M 投与で cluster 0 が富化され (86% が CAR 由来) MHC-II・TNF など炎症性遺伝子が増加し、CAR-M が TME を炎症性に作り変えることが示された (Fig. 3e,f)。

CAR-M は抗原提示・交差提示を介して T 細胞を活性化する:CAR-M は in vitro で M2A/M2C/M2D マクロファージを炎症性へ転換させ (Fig. 3g)、未熟樹状細胞の活性化・成熟マーカー (CD86, MHC-II) を誘導し (Fig. 3h)、静止/活性化ヒト T 細胞の遊走を促した (Fig. 3i)。さらに NY-ESO-1 を発現させた SKOV3 腫瘍を貪食した HLA-A201 (human leukocyte antigen A201) 陽性 CAR-M は、抗 NY-ESO-1 TCR T 細胞に CD69 誘導と IFNγ 産生を引き起こし、貪食した腫瘍由来抗原を交差提示できることを示した (Fig. 3k)。これは epitope spreading の可能性を示唆する。in vivo でも CAR-M とドナー由来 polyclonal T 細胞の併用は単独より深い抗腫瘍応答を示した。

考察/結論

本研究の最大の意義は、CAR-T が苦戦してきた固形がんに対し、効果器細胞を T 細胞からマクロファージへと置換するという発想の転換にある。先行研究で報告された従来の TAM 標的療法 (CD47/SIRPα 阻害など) が既存の免疫抑制性マクロファージに機械論的に依存し、抗原特異性を欠き、活性化型・抑制型双方の Fc 受容体を持つ M2 偏向細胞に作用させる既報の枠組みとは異なり、本手法は末梢血単球から分化させた初代マクロファージに腫瘍抗原特異的 CAR を付与し、自前の効果器をゼロから設計する。また過去の自己マクロファージ大量養子移入が抗腫瘍効果を示せなかったのと対照的に、抗原特異性の付与によって標的化された貪食と腫瘍縮小を達成した点が決定的な相違である。本研究で初めて、ヒト初代マクロファージへの高効率遺伝子導入 (キメラアデノ Ad5f35 による CD46 経由送達) と CAR 駆動の抗原特異的貪食を両立させ、加えて Ad5f35 が inflammasome を活性化して持続的な M1 表現型を付与するという novel な二重効果を見出した。これにより CAR-M は単なる貪食 effector にとどまらず、免疫抑制的 TME を炎症性へ再分極し、bystander M2 マクロファージを M1 へ転換し、抗原提示機構を増強し、貪食した腫瘍抗原を交差提示して宿主 T 細胞応答を賦活する「vaccinal effect」を発揮しうる。臨床応用の観点では、20 種の正常組織で off-tumor 毒性を認めず、固形腫瘍異種移植で単回投与が安全に生存を延長した点が translational に重要で、本プラットフォームは橋渡し研究として CAR-T 既存知見 (June et al. Science 2018Maude et al. NEnglJMed 2014) を固形がん領域へ展開する新たな細胞治療の柱となりうる。mesothelin 標的 CAR の固形がん適用 (Beatty et al. CancerImmunolRes 2014) や、腫瘍由来エクソソームが前転移ニッチで免疫抑制性マクロファージを誘導する機序 (Morrissey et al. CellMetab 2021) とも接続し、TME のマクロファージ生物学を治療的に逆転させる戦略として位置づけられる。残された課題として、本研究の異種移植・HIS モデルでは内因性 T 細胞との相互作用や免疫適格環境での挙動を完全には再現できず、CAR-M と endogenous T 細胞の相互作用は今後 syngeneic な免疫適格マウスモデルで評価する必要がある。さらに細胞死経路・貪食・T 細胞免疫に作用する薬剤との合理的併用、抗原 escape への対処、製造スケールと持続性の最適化が今後の検討課題として挙げられる。結論として、本研究は CAR-M を固形がん免疫療法の実行可能な新規モダリティとして確立し、後の臨床開発 (Carisma Therapeutics) の基盤を提供した。

方法

ヒト初代マクロファージは正常ドナーアフェレーシス由来 leukopack を elutriation し、MACS で CD14 陽性選択した単球を 10 ng/ml の recombinant human GM-CSF 存在下に RPMI + 10% FBS で 7 日間分化させて作製した。抗 HER2 CAR は CD8 leader・柔軟性 glycine-serine linker・CD8 hinge/膜貫通ドメインと EF1α プロモーターを用い、複製不能な E1/E3 欠失キメラアデノウイルスベクター (pAd5f35、Baylor Vector Development Laboratory で増幅) に組み込み、分化 5 日目に MOI 1 × 10³ plaque-forming units/cell で導入、7 日目に CAR 発現・純度を FACS で評価した。標的細胞株 (SKOV3, THP-1, K562, MDA-468 ほか、ATCC) は click beetle green luciferase と GFP を P2A で共発現する lentivirus で形質導入した。動物実験は UPenn IACUC 承認のもとヒト IL3 (interleukin 3)/GM-CSF/SCF (stem cell factor) を発現する免疫不全マウス (NSGS) で実施し、SKOV3 を IV または IP 投与した異種移植モデルに 7 × 10⁶ 個の細胞を単回投与、生物発光は IVIS Spectrum (PerkinElmer) + LivingImage v4.3.1 で測定した。HIS マウスは女性ドナー由来ヒト CD34⁺ 造血幹細胞を NSG に移植し男性ドナーマクロファージを腫瘍内投与、Y 染色体遺伝子マッピングで養子移入細胞と TME 内マクロファージを判別した。RNA-seq は TruSeq ライブラリを NextSeq で 75-bp single-end 取得し、Trimmomatic v0.36 でトリミング、STAR v2.6.0c で hg38 にマッピング、featureCounts v1.6.1 で計数後、DESeq2 (log fold change 1、adjusted P 0.05) で差次発現を解析した。単一細胞 RNA-seq は CellRanger V3 + Seurat v3.0.1、fastMNN によるバッチ補正、UMAP (resolution 0.4) で解析した。統計解析は GraphPad Prism 6.0 で行い、多群比較は Tukey の多重比較を伴う ANOVA、2 群比較は両側 t 検定、生存解析は log-rank Mantel-Cox 検定を用いた (* P < 0.05、** P < 0.01、*** P < 0.001、**** P < 0.0001)。RNA-seq データは GEO に GSE120084・GSE120086 として登録された。