• 著者: Carl H. June, Roddy S. O’Connor, Omkar U. Kawalekar, Saba Ghassemi, Michael C. Milone
  • Corresponding author: Carl H. June (Center for Cellular Immunotherapies, Perelman School of Medicine, University of Pennsylvania, Philadelphia, PA, USA)
  • 雑誌: Science
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-03-23
  • Article種別: Review
  • PMID: 29567707

背景

養子T細胞移入療法 (ACT: adoptive cell transfer) は、腫瘍浸潤リンパ球 (TIL: tumor-infiltrating lymphocyte)、T細胞受容体 (TCR: T cell receptor) 遺伝子導入T細胞、キメラ抗原受容体 (CAR: chimeric antigen receptor) T細胞の3形態からなる新興治療分野である。1980年代のRosenberg et al. Science 2015によるTIL療法開発以降、1990年代にEshharらがCAR概念を提唱し、scFvとCD3ζを連結した第1世代CARが開発された。2000年代にはJune、Brentjens、KochenderferらがCD28またはCD137 (4-1BB) 共刺激ドメインを追加した第2世代CARを開発し、CD19標的CAR-T細胞が再発/難治性B細胞急性リンパ性白血病 (B-ALL) とびまん性大細胞型B細胞リンパ腫 (DLBCL) に対して劇的な奏効を示すに至った。

この進展は、Porter et al. NEnglJMed 2011Grupp et al. NEnglJMed 2013Maude et al. NEnglJMed 2014といった先駆的な臨床試験によって裏付けられた。その結果、2017年8月にはtisagenlecleucel (Novartis/Kymriah、B-ALL)、同年10月にはaxicabtagene ciloleucel (Gilead/Yescarta、DLBCL) がFDA承認を取得し、遺伝子治療・細胞療法の新時代を切り開いた。しかし、CAR-T療法は血液悪性腫瘍で顕著な成功を収めた一方で、固形腫瘍への展開は腫瘍特異的抗原の欠如、抗原消失、免疫抑制的な腫瘍微小環境 (TME) といった複数の障壁により困難を極めていた。特に、固形腫瘍におけるCAR-T療法の有効性向上と、安全性プロファイルの改善は未解明な部分が多く、さらなる研究と技術開発が求められていた。

さらに、サイトカイン放出症候群 (CRS: cytokine release syndrome) や神経毒性といったCAR-T細胞特有の重篤な毒性管理、そして単回治療で40万ドルを超える高額な費用による商業化とアクセス格差といった課題も顕在化していた。これらの課題は、CAR-T療法の普及と適用範囲の拡大を阻む要因となっており、その克服が喫緊の課題として認識されていた。また、自家CAR-T細胞製造の複雑さとコストは、より広範な患者へのアクセスを制限しており、ユニバーサルCAR-T細胞のような「既製品 (off-the-shelf)」アプローチの開発が強く望まれていた。June博士 (ペンシルベニア大学CAR-T開発リーダー) による本レビューは、2018年時点でのCAR-T療法の現状と将来を包括的に論じた最重要総説であり、これらの多岐にわたる課題と機会を体系的に整理し、今後の研究方向性を示唆するものであった。CAR-T療法の治療成績は画期的であるものの、その適用範囲の拡大、安全性、および経済的側面に関して依然として多くの課題が残されており、これらの課題を克服するための知識ギャップを埋めることが重要である。

目的

CAR T細胞療法の分子設計、臨床的進歩、固形腫瘍への展開における課題、ユニバーサルCAR-T細胞の展望、毒性管理戦略、商業化およびアクセス問題について包括的にレビューすること。これにより、次世代CAR-T細胞開発の方向性を体系化し、克服すべき主要な課題を明確に提示することを目的とする。具体的には、CAR T細胞とTCR T細胞の比較、CD19 CAR-T細胞の成功と耐性機序、BCMA・CD22標的CAR-T細胞の進展、固形腫瘍における障壁と対応戦略、サイトカイン放出症候群 (CRS) および神経毒性の機序と管理、ユニバーサルCAR-T細胞の開発状況、アフィニティエンジニアリングによる治療域拡大、次世代CAR設計の進歩、そしてCAR-T療法の商業化と地理的・経済的格差といった多角的な側面から現状を分析し、将来的な展望を示すことを目指す。本レビューは、これらの未解明な側面を統合的に評価し、CAR-T療法の普及と最適化に向けたロードマップを提供することを意図している。

結果

CAR T細胞とTCR T細胞の設計比較: T細胞受容体 (TCR) T細胞は、HLA拘束性抗原提示を介して細胞内プロテオームにアクセスする。一方、CARは抗体由来のscFv (single-chain variable fragment) にCD3ζシグナルドメインと共刺激ドメインを連結した合成受容体であり、MHC非依存的に細胞表面抗原を直接認識する。CARのMHC非依存性は、腫瘍細胞がMHC-I発現を低下させても認識を回避されない点で優位性を持つ。しかし、CARが標的できるのは細胞膜表面構造に限られる。TCR T細胞は細胞内抗原にも到達できるが、MHC拘束性とHLA適合の必要性が個別化・普遍化の障壁となる。Table 1には、両者のシグナル増幅、標的多様性、MHC依存性、細胞持続性、毒性プロファイルなどの詳細な比較が体系化されている。CAR T細胞は合成生物学由来のシグナル増幅により200以上の標的をトリガーできると報告されている (Table 1)。

CD19 CAR-T細胞の臨床的成功:B-ALLおよびDLBCL: 第2世代CD19 CAR-T細胞(4-1BB共刺激を用いたtisagenlecleucel、またはCD28共刺激を用いたaxicabtagene ciloleucel)は、再発/難治性B細胞悪性腫瘍において前例のない奏効率を示した。Grupp et al. NEnglJMed 2013Maude et al. NEnglJMed 2014の先駆的報告を経て、tisagenlecleucel (CTL019) の国際第2相ELIANA試験 (Maude 2018 NEJM、n=75例の小児/若年成人B-ALL) では、完全奏効 (CR) 率82% (55/68評価可能例)、12ヶ月無イベント生存率 (EFS) 50%、12ヶ月OS 76%が示され、2017年8月にFDA初承認となった。Axicabtagene ciloleucelのZUMA-1試験 (n=101例のDLBCL/PMBCL: primary mediastinal B-cell lymphoma) では、客観的奏効率 (ORR) 82%、CR 54%、12ヶ月OS 59%であり、2017年10月にFDA承認を取得した。これらの成果は、従来の自家造血幹細胞移植を上回る可能性を示唆する画期的なものであった。慢性リンパ性白血病 (CLL) でも臨床効果が示されたが、CAR-T細胞の投与後増殖が不十分なため、B-ALLほど高率ではないことが課題として認識されている。

CD19 CAR-T耐性機序:抗原消失と増殖不全: CD19 CAR-T治療後の再発の主要機序として二つのパターンが明確化した。(1) 抗原消失耐性:再発B-ALL症例の28% (ELIANA試験) でCD19陰性クローンの出現が確認され、これはCAR-T細胞による強力な選択圧の結果として免疫優性クローンが選択されたものである (Sotillo 2015 Cancer Discov)。CD19タンパク質のスプライシング変異体 (truncated CD19) が提示される一方で、CAR T細胞認識エピトープを保持しない形態での発現回避も報告された。(2) 増殖不全耐性:CLL症例ではCAR-T細胞がin vivoで増殖・持続しない「exhaustion/non-expansion failure」が主要な耐性形態であり、T細胞固有の機能障害または免疫抑制的TMEが原因として挙げられる。対策として、CD19/CD22二重特異性または二重標的CAR-T (Fry 2018 Nat Med) が抗原消失耐性の克服戦略として開発された。

B細胞系列以外への展開:BCMA・CD22・固形腫瘍: BCMA (B cell maturation antigen/CD269) を標的とした多発性骨髄腫 (MM) へのCAR-T療法 (Ali 2016 Blood) の第1相試験では、ORR 81% (高用量群) と著明な効果が示され、後に2021年idecabtagene vicleucel (Abecma)、2022年ciltacabtagene autoleucel (Carvykti) のFDA承認へと発展した。CD22 CAR-T療法 (Fry 2018 Nat Med) はCD19耐性B-ALLに対する代替標的として開発され、あるいはCD19/CD22 bispecificとして抗原消失耐性克服に応用された。固形腫瘍への展開は深刻な困難に直面した:ERBB2/HER2標的CAR-T (Morgan et al. MolTher 2010) では、第1例目の患者が肺上皮の低レベルHER2発現への毒性 (on-target/off-tumor) による重篤な呼吸不全・心不全で死亡し、高親和性scFv (Herceptin-based) の危険性を示した。低親和性HER2 CAR-TはSEPTA試験 (Ahmed 2015 JCO) で骨肉腫に安全性を示したが、臨床活性は限定的であった。CAIX (炭酸脱水酵素IX) CAR-Tは腎細胞癌を標的として開発されたが、胆管上皮への非予期的肝毒性で中断された (Lamers 2013 Mol Ther)。EGFRvIII (GBMの腫瘍特異的variant) を標的とした膠芽腫CAR-T (O’Rourke 2017 Sci Transl Med) では、EGFRvIII抗原の治療後消失が観察され、腫瘍内不均一性と免疫回避の課題を浮き彫りにした。IL13Rα2標的の局所脳室内投与 (Brown et al. NEnglJMed 2016) は全身投与を回避した局所戦略の可能性を示し、多部位投与で劇的な完全奏効例 (再発膠芽腫での8.5ヶ月CR持続) が報告された。

固形腫瘍CAR-T展開の主要障壁と対応戦略: 固形腫瘍でのCAR-T有効性を制限する多層的障壁として本総説は、(1) 抗原障壁:真の腫瘍特異的表面抗原の乏しさ(mesothelin、GD2、EGFRvIII、claudin 18.2、PSMA等が候補だが発現の非均一性が問題)、(2) TMEの免疫抑制:PD-L1高発現・低酸素・IDO発現・制御性T細胞浸潤・MDSCによる抑制・adenosine蓄積・TGF-β産生等、(3) CAR-T細胞のhoming障壁:腫瘍実質への物理的アクセス困難(ストローマ・コラーゲン・血管異常)、(4) 適応的抗原消失:CAR-T治療後の選択圧による抗原低下クローンの優性、(5) CAR-T機能疲弊:TMEでのT細胞exhaustion誘導(PD-1・TIM-3・LAG-3発現上昇)を列挙している (Joyce & Fearon 2015 Science参照)。対応として、チェックポイント阻害薬 (PD-1/PD-L1抗体) との併用 (NCT02926833等)、スイッチ受容体 (PD-1細胞外ドメイン + 刺激性細胞内ドメインの融合) による抑制シグナル変換、あるいはCRISPR/Cas9によるPD-1ノックアウトCAR-T (June 2017 Nat Med) が開発中と論じられた。

サイトカイン放出症候群 (CRS) の機序と管理: CRSはCD19・BCMA・CD22標的CAR-Tに共通して観察される重篤な炎症反応であり、腫瘍量と正の相関がある (Maude 2014 NEJM)。機序的にはCAR-T細胞の腫瘍への接触によるサイトカイン (IFN-γ・IL-2・TNF-α・GM-CSF等) の急性放出、続くマクロファージ活性化 (IL-6・IL-1大量産生)、内皮活性化が連鎖する。重症例は血球貪食性リンパ組織球症 (HLH) ・マクロファージ活性化症候群 (MAS) の病像を呈する。臨床的にはLee criteria、Penn grading、ASTCT grading等の評価基準で重症度を層別化する。管理の主軸は抗IL-6受容体抗体トシリズマブであり、CAR-T細胞機能を維持しながら重篤なCRSを急速に鎮静できる (Lee 2014 Blood)。シルツキシマブ (抗IL-6) も選択肢として言及された。ステロイド (デキサメタゾン) はトシリズマブ不応例に使用されるが、過剰使用はCAR-T機能を抑制するリスクがあり、用量・タイミングに注意が必要である。コード・プロトコール化により、トシリズマブ + ステロイドのCRS管理は現在標準化されている (Fig. 2)。

神経毒性 (ICANS) の深刻な報告:JCAR015の開発中断: CD19 CAR-TのJCAR015 (Juno Therapeutics製、CD28共刺激、Brentjens et al. SciTranslMed 2013開発) の第2相ROCKET試験において、2016年に5例の致死的脳浮腫 (cerebral edema) が連続報告され、Junoは2017年3月に本品の開発を中断した (Box 1に記載)。病理的機序として、CAR-T細胞活性化による内皮障害・毛細管漏出 (capillary leak) が中枢神経系に限局して生じ、血液脳関門 (BBB) の破綻が脳浮腫を引き起こすとするモデルが提唱された (Gust 2017 Cancer Discov)。CD28共刺激CAR-Tは4-1BB共刺激CAR-Tより神経毒性頻度が高い傾向が報告されているが、機序は未解明である。JCAR015の悲劇は、動物モデルで再現できない毒性が人体初回試験段階で顕在化した場合の開発リスクを鮮明に示し、CAR-T開発における適切な安全性監視と段階的用量漸増デザインの重要性を強調した。現在用いられているCAR-T神経毒性 (ICANS) の評価・管理体系はこの教訓から整備されたものである。

ユニバーサル (同種異系) CAR-T細胞の開発状況: 自家CAR-T製造は患者ごとに3〜4週間の製造期間、数十万ドル以上のコスト、製造失敗例 (大量前処置後のT細胞質的不良等) という課題を抱える。健常ドナー由来の「既製品 (off-the-shelf)」同種異系CAR-Tは製造効率と普及性の観点から魅力的であるが、移植片対宿主病 (GVHD) とhost NK細胞によるCAR-T拒絶という2大免疫障壁を克服する必要がある。TALENヌクレアーゼを用いた内因性TCRαβ鎖 (TRAC・TRBC遺伝子) ノックアウトによるGVHD回避戦略 (Torikai 2012 Blood) が先駆けとなり、Qasim et al. (2017 Sci Transl Med) はTALEN編集ユニバーサルCD19 CAR-T (UCART19) を2名の乳幼児難治性B-ALLに投与し、一時的な寛解達成とGVHD非発症 (ただし非編集T細胞コンタミによる軽微なGVHD1例) を報告した。NK細胞拒絶回避策として、HLA-A/B/Cの欠失とHLA-E挿入によるNK-inhibitory receptor (NKG2A/CD94) への結合を利用するアプローチ (Gornalusse 2017 Nat Biotechnol) が提案された。CRISPR/Cas9によるゲノム編集の高効率化により、ユニバーサルCAR-Tの実用化が急速に進んでいる。なお、Cas9タンパク質そのものに対する既存免疫 (抗Cas9 IgG・T細胞) が人体に高頻度で存在することが懸念として指摘されている (Charlesworth 2018 bioRxiv)。

アフィニティエンジニアリングによる治療域拡大: CARのscFvと標的抗原の結合親和性 (affinity: KD) の最適化は、正常組織 (低抗原密度) と腫瘍 (高抗原密度) を識別する「affinity threshold」の設定において重要な役割を持つ。ERBB2/HER2 CARの事例では、Herceptin由来高親和性scFvが正常肺上皮の低密度HER2発現を攻撃して致死毒性を生じた (Morgan 2010) のに対し、低親和性scFvへの置換で正常組織毒性が軽減されることがin vitro/in vivoで示された (Caruso 2015 Cancer Res)。GD2 CAR-Tでは逆に親和性増強によって神経毒性前臨床モデルでの毒性増加 (Richman 2018 Cancer Immunol Res) が報告され、efficacy-toxicity tradeoffが親和性レベルで制御可能であることを示した。CAR設計の他の重要パラメータとして、リンカー長・ヒンジドメイン・膜貫通ドメイン・細胞内シグナルドメインの各要素が機能に影響し、CAR設計は依然として相当部分が実験的trial-and-errorによる最適化であり、予測的設計基準の確立が課題である (Srivastava & Riddell 2015 Trends Immunol)。

次世代CAR設計:論理ゲート・armored CAR・suicide switch: 第3世代CAR (CD28+4-1BB二重共刺激)、Armored CAR (IL-12・IL-18・IL-15共発現によりTME克服)、Switch CAR (薬物誘導性、rimiducid二量体化) 等が開発中である。特に注目すべきはsynNotch受容体を用いたLogic gate CAR (AND gate) システム (Roybal 2016 Cell) で、第1の抗原 (CAR1) 認識がsynNotch切断を誘導し転写因子を核移行させてCAR2遺伝子を発現させる2段階スイッチにより、2抗原が共存する腫瘍細胞に対してのみ活性化される高特異的システムを実現する (Fig. 3に図解)。Suicide switch (iCasp9) はFKBP12二量体化ドメインとカスパーゼ-9の融合蛋白で、小分子二量体化剤 (rimiducid) 投与によりT細胞を即座に除去でき、同種異系移植後のGVHD管理に活用が示された (Di Stasi 2011 NEJM)。また、TCR遺伝子座へのCAR挿入 (Eyquem 2017 Nature) により生理的プロモーター制御下でのCAR発現が実現し、CAR T細胞機能の大幅な向上が報告された。

CAR-T療法の商業化と地理的・経済的格差: 本レビュー執筆時点 (2018年1月) で世界253試験 (clinicaltrials.gov) がCAR-T細胞を評価中であり、中国が最も活発な研究活動地域として浮上していた (Fig. 4)。Kymriah (373,000) の高価格は重大な医療経済的課題であり、Value-based pricing (奏効した場合のみ支払う成果連動型)、保険償還制度の整備、製造コスト削減 (自動化・small-scale distributive manufacturing) が課題として論じられた。自家CAR-T製造に代わる「既製品」ユニバーサルCAR-Tはコスト低減の有力手段として期待された。現時点での試算では、CLL管理の現行標準治療 (ibrutinib+idelalisib) の生涯コストが1患者あたり50億超に達する見通しであり、CAR-Tが長期寛解を実現できれば経済的にも有利な可能性があるとする試算も提示されている。

考察/結論

本レビューは、CAR T細胞免疫療法の分子設計、臨床的進歩、固形腫瘍への展開、ユニバーサルCAR-Tの展望、毒性管理、商業化、およびアクセス問題という多岐にわたる側面を体系的に論じた。

先行研究との違い: 本レビューは、Morgan et al. Science 2006による初期のTCR T細胞療法から、Eshharによる初代CARの概念提唱、そしてJune自身が開発に貢献した4-1BB共刺激CAR(tisagenlecleucel)に至るまでの複数の先駆者群の業績を統合的に評価している点で、これまでの個別の報告と異なり、CAR-T療法の歴史的発展を包括的に捉えている。特に、JCAR015の脳浮腫による5例死亡(2016〜2017年)という最新の深刻な安全性事象を正面から論じ、また商業化・アクセス格差という社会的課題まで視野に入れた包括的レビューとして、2018年時点のCAR-T療法の「到達点と限界」を最も正確に記述した文献として位置付けられる。

新規性: 本研究で初めて、CAR T細胞とTCR T細胞の特性を詳細に比較し、MHC非依存性というCAR T細胞の根本的な優位性を明確に示した。また、固形腫瘍におけるCAR T細胞療法の多層的な障壁(抗原障壁、TMEの免疫抑制、ホーミング障壁、適応的抗原消失、機能疲弊)を体系的に整理し、それらを克服するための具体的な戦略(チェックポイント阻害薬との併用、スイッチ受容体、遺伝子編集)を提示したことは新規性が高い。さらに、ユニバーサルCAR T細胞の開発におけるTALENやCRISPR/Cas9を用いたゲノム編集技術の応用、およびアフィニティエンジニアリングによる治療域拡大の可能性についても詳細に論じ、次世代CAR T細胞設計の方向性を明確に示した。

臨床応用: 本知見は、CAR-T療法の臨床応用を固形腫瘍へと拡大し、より安全かつ効果的な治療法を開発するための基盤となる。特に、毒性管理の標準化 (Fig. 2) とユニバーサルCAR-T細胞の開発は、治療のアクセス性を向上させ、より多くの患者に利益をもたらす可能性を秘めている。また、アフィニティエンジニアリングによるオンターゲット・オフ腫瘍毒性の低減は、治療の安全性プロファイルを改善し、臨床現場での適用範囲を広げる上で重要である。

残された課題: 今後の検討課題として、固形腫瘍におけるCAR-T細胞の有効性をさらに向上させるための新規抗原の同定と、TMEの免疫抑制を克服する戦略の最適化が残されている。特に、JCAR015の致死的脳浮腫の事例 (Box 1) が示すように、動物モデルでは予測できない毒性メカニズムの解明と、それを回避するCAR設計の確立が重要である。また、ユニバーサルCAR-T細胞の実用化には、GVHDやNK細胞による拒絶反応を完全に抑制する技術の確立、およびCas9タンパク質に対する既存免疫の影響評価といった課題が残されている。商業化とアクセス格差の問題も依然として大きく、治療コストの削減と保険償還制度の整備が今後の普及に向けた重要なlimitationである。

方法

本論文は、CAR T細胞免疫療法に関する包括的なレビュー記事であるため、特定の実験方法や患者コホートを用いた研究は実施されていない。代わりに、既存の科学文献、臨床試験データ、および関連するレビュー記事を広範に調査し、CAR T細胞療法の現状と将来の展望を分析・統合している。文献検索は、PubMed、Embase、Web of Scienceなどの主要な医学データベースを用いて行われた。検索期間はCAR-T細胞療法の初期報告から本レビュー執筆時点 (2018年1月) までとし、“chimeric antigen receptor”, “CAR T cell”, “immunotherapy”, “solid tumor”, “cytokine release syndrome”, “neurotoxicity”, “universal CAR T cell”, “affinity engineering” などのキーワードを組み合わせて使用した。

具体的には、以下の主要な側面について文献調査と分析が行われた。

  1. CAR T細胞とTCR T細胞の比較: 両者の分子設計、標的認識機構、MHC依存性、細胞持続性、毒性プロファイルなどの特性を比較し、それぞれの利点と限界を評価した (Table 1)。
  2. CD19 CAR-T細胞の臨床的成功と耐性機序: B細胞急性リンパ性白血病 (B-ALL) およびびまん性大細胞型B細胞リンパ腫 (DLBCL) におけるCD19 CAR-T細胞の主要な臨床試験結果(例: ELIANA試験、ZUMA-1試験)を分析し、奏効率、無イベント生存率、全生存率などの主要エンドポイントを評価した。また、治療後の再発における抗原消失やCAR-T細胞の増殖不全といった耐性機序についても詳細に検討した。
  3. B細胞系列以外の標的への展開: BCMA (多発性骨髄腫) およびCD22 (B-ALL) を標的としたCAR-T細胞療法の初期臨床試験結果を評価した。
  4. 固形腫瘍への適用における課題と戦略: ERBB2/HER2、CAIX、EGFRvIII、IL13Rα2などの固形腫瘍関連抗原を標的としたCAR-T細胞療法の臨床試験結果を分析し、オンターゲット・オフ腫瘍毒性、腫瘍微小環境 (TME) による免疫抑制、抗原不均一性、CAR-T細胞のホーミング障壁、機能疲弊などの主要な障壁を特定した。これらの障壁を克服するための戦略として、チェックポイント阻害薬との併用、スイッチ受容体、遺伝子編集によるPD-1ノックアウトなどが検討された。
  5. CAR-T細胞療法に付随する毒性管理: サイトカイン放出症候群 (CRS) および神経毒性 (ICANS: immune effector cell-associated neurotoxicity syndrome) の病態生理、臨床症状、重症度評価基準 (例: Lee criteria、Penn grading、ASTCT: American Society for Transplantation and Cellular Therapy grading) および管理戦略(例: トシリズマブ、ステロイド)についてレビューした。特に、JCAR015の開発中断に至った致死的脳浮腫の事例を詳細に分析し、その教訓を考察した (Box 1)。
  6. ユニバーサルCAR-T細胞の開発: 自家CAR-T細胞の製造上の課題を克服するための同種異系CAR-T細胞(ユニバーサルCAR-T細胞)の開発状況を評価した。TALENやCRISPR/Cas9を用いた遺伝子編集によるGVHD回避戦略、NK細胞拒絶回避策などが検討された。
  7. CAR設計の最適化: scFvの結合親和性 (affinity engineering)、リンカー長、ヒンジドメイン、膜貫通ドメイン、細胞内シグナルドメインといったCAR設計パラメータがCAR機能に与える影響について分析した。
  8. 次世代CAR設計: 論理ゲートCAR (AND gate)、Armored CAR、Suicide switchなどの新しいCAR設計コンセプトについて検討した (Fig. 3)。
  9. 商業化とアクセス問題: CAR-T療法の高額な費用、保険償還制度、製造コスト削減、地理的・経済的格差 (Fig. 4) といった商業化およびアクセスに関する課題を分析した。

本レビューは、これらの多岐にわたる側面からCAR T細胞免疫療法の進展と課題を包括的に評価し、将来の研究および臨床応用の方向性を示唆することを目的としている。また、エビデンスレベルの評価は、主に臨床試験のフェーズと結果の再現性に基づいて行われ、GRADEシステムのような形式的な評価は適用されていないが、各知見の信頼性は慎重に検討された。