• 著者: Gregory L. Beatty, Andrew R. Haas, Marcela V. Maus, Drew A. Torigian, Michael C. Soulen, Gabriela Plesa, Anne Chew, Yangbing Zhao, Bruce L. Levine, Steven M. Albelda, Michael Kalos, Carl H. June
  • Corresponding author: Carl H. June; Gregory L. Beatty (University of Pennsylvania, Philadelphia, PA)
  • 雑誌: Cancer Immunology Research
  • 発行年: 2014
  • Epub日: 2013-12-19
  • Article種別: Case Report
  • PMID: 24579088

背景

CAR-T細胞療法はCD19陽性血液悪性腫瘍において著明な抗腫瘍効果を示しているが、固形腫瘍への応用は、標的抗原が正常組織にも発現することによるon-target/off-tumor毒性のリスクから制限されてきた。例えば、CAIX (carbonic anhydrase IX) CAR-T細胞を用いた腎細胞癌の臨床試験では、CAIXが正常胆管上皮にも発現するため、重篤な肝臓毒性が問題となったことがLamers et al. JClinOncol 2006やLamers et al. (2013)で報告されている。この安全性課題を克服するため、iCasp9などの自殺遺伝子が開発されてきたが、移植されたCAR-T細胞の完全な除去を保証するものではないことがDiStasi et al. NEnglJMed 2011で示されている。

mRNAエレクトロポレーション法は、CAR発現を一過性(数日間)に限定することで、毒性発現時にはCAR-T細胞が自然消失するという根本的な安全設計を提供する。メソセリンは悪性胸膜中皮腫 (MPM)、膵癌、卵巣癌などで高発現する腫瘍関連抗原であり、正常中皮での発現は低レベルであるため、固形腫瘍の標的として注目されている。しかし、メソセリンを標的とした抗体薬物複合体では、漿膜炎が用量制限毒性となることが報告されており、CAR-T細胞療法におけるon-target/off-tumor毒性の可能性は未解明であった。本研究グループは、mRNA技術を用いてメソセリン特異的CAR (SS1 scFv-4-1BB-TCRζ) を発現するCARTmeso (mesothelin-specific chimeric antigen receptor mRNA-engineered T) 細胞を構築し、固形腫瘍に対する最初のヒト臨床試験 (NCT01355965) を実施した。

目的

本研究の目的は、メソセリン特異的mRNA CAR-T細胞 (CARTmeso) の製造可能性、安全性(特にon-tumor/off-target毒性の評価)、および抗腫瘍効果を固形腫瘍患者で検証することである。また、一過性のCAR発現が、腫瘍破壊とそれに続く抗原放出を介して、広範な抗腫瘍免疫応答であるエピトープスプレッディングを誘導できるかを解析することも目的とした。

結果

CARTmeso製品製造の成功と製品品質: 両患者において、CARTmeso (SS1 scFv-4-1BB-TCRζ mRNA電気穿孔) 製品の製造は成功した。MPM患者の製品は99.6%がCD3陽性、98.0%がscFvを発現し、PDA患者の製品は99.5%がCD3陽性、99.5%がscFvを発現した。平均細胞生存率は91%以上であり、高品質な製品が得られた。

安全性:on-target/off-tumor毒性の非発現とアナフィラキシー: 治験関連有害事象は関節痛や倦怠感などの軽微なもののみであった。正常組織に対する胸膜炎、心膜炎、腹膜炎などのon-target/off-tumor毒性は認められなかった。これは、抗MSLN抗体薬物複合体 (SS1P) で線維炎や胸膜炎が用量制限毒性となっていたことと対照的であった。MPM患者 (17510-105) は、スケジュール2の初回投与(通算3回目、初回投与から49日後)後にアナフィラキシーと心停止を発症したが、蘇生処置で回復した。この事象は、Maus et al. (2013)でマウスSS1 scFvに対するIgE抗体による即時型過敏反応と同定されている。

MPM症例の抗腫瘍効果:遅延型部分奏効 (PR) の達成: スケジュール1 (Day 0: 10⁸細胞、Day 7: 10⁹細胞の2回投与) 後Day 35評価ではCT安定 (RECIST stable disease) であった。スケジュール2の1回投与後 (Day 84〜) には修正RECISTで部分奏効 (PR) が確認された (dominant massの縮小)。血清SMRP (可溶性メソセリン) はスケジュール1後に一過性上昇後、スケジュール2の投与後に17から12 nmol/Lに低下し、腫瘍縮小と一致した (Figure 1A)。疾患進行は6か月後に確認された。

PDA症例の抗腫瘍効果:腹水腫瘍細胞40%減少とFDG代謝改善: 転移性膵腺癌患者では、静脈内CARTmeso完了後 (Day 34) のCTでRECIST安定、FDG PET/CTで全病変のSUVmax低下が確認された (Figure 1B, C)。腹水フローサイトメトリーではDay 3・Day 15でMSLN+c-met+腫瘍細胞/mLが40%減少し、CAR-T細胞の局所的抗腫瘍効果が実証された (Figure 1D)。血清CA19-9はIV投与中449→1,429 units/mLと上昇し、腫瘍内注射後も1,865→2,271 units/mLで疾患進行が確認された。

固形腫瘍内へのmRNA CAR T細胞浸潤・持続の初実証: 末梢血でのCARTmeso mRNA転写産物は各投与後2時間以内に最大検出され、以後逐次低下した (mRNAの生分解性と一致) (Figure 2A, B)。PDA患者では最後のIV投与から7日後の腹水でCARTmeso転写産物が検出され、IV投与から17日後の腫瘍生検でも高レベルで検出された (Figure 2C)。これはmRNA CAR T細胞が固形腫瘍に浸潤・持続することを初めて実証した知見であった。腫瘍内注射 (IT) 後も高レベルのCAR転写産物が腫瘍に確認された。

エピトープスプレッディングの誘導:約100タンパクへの新規抗体応答: PDA患者 (Day +44) のProtoarray解析で、約10,000タンパクのうち100以上のタンパクへの新規抗体応答 (ベースライン比10倍以上の18タンパクを含む) が確認された。標的タンパクにはSeptin 6 (GTPase、腫瘍形成関連) やdensity-regulated protein (上皮性癌過剰発現) などが含まれた。MPM患者でも同様の新規抗体応答を確認した。ウエスタンブロット解析ではPDA患者Day +57に抗メソセリン抗体の著明増強と複数の自己タンパク (64〜80 kDa領域) への新規抗体が確認され (Figure 4B)、腫瘍破壊→抗原放出→交差提示→エピトープスプレッディングという古典的プロセスが誘導されたことが示された。

考察/結論

先行研究との違い: 従来のCAR-T細胞療法が主に血液悪性腫瘍で成功を収めてきたのに対し、本研究は固形腫瘍におけるCAR-T細胞療法の可能性を示した点でこれまでと異なる。また、遺伝子導入による持続的CAR発現ではなく、mRNAによる一過性発現を用いることで、オンターゲットオフ腫瘍毒性のリスクを低減しつつ、抗腫瘍効果とエピトープスプレッディングを誘導できることを示した点は、これまでの報告とは対照的である。

新規性: 本研究で初めて、短命なCAR T細胞でも腫瘍破壊→自己抗原放出→樹状細胞交差提示→宿主免疫応答の広汎な活性化という間接的機序を介した持続的抗腫瘍効果(エピトープスプレッディング)を生み出せることを実証した。この発見は免疫療法の応答機序を理解する上で新規であり、後のJohn et al. ClinCancerRes 2013のようなチェックポイント阻害剤との組み合わせ戦略の理論的根拠にもなっている。

臨床応用: 本知見は、固形腫瘍に対するCAR-T細胞療法の臨床応用における安全性と有効性の両面で重要な意義を持つ。特に、一過性CAR発現プラットフォームは、新規標的抗原の安全性評価に有用であり、将来的な固形腫瘍CAR-T療法の開発を加速させる可能性がある。

残された課題: 本試験で発生したアナフィラキシー事象(Maus et al. 2013で詳報)は、マウスSS1 scFvに対するIgE抗体誘導という予期せぬ毒性を示し、完全ヒト型MSLNターゲティングscFvの開発と投与間隔プロトコル改定を促す結果となった。今後の検討課題として、より多くの患者での有効性と安全性の検証、最適な投与スケジュールと細胞用量の確立、およびヒト化または完全ヒト型CARの導入が挙げられる。また、エピトープスプレッディングによって誘導される免疫応答の長期的な持続性とその臨床的意義についてもさらなる研究が必要である。

方法

本研究は、ペンシルバニア大学アブラムソン癌センターで実施された第I相臨床試験 (NCT01355965) およびコンパッショネートユース試験 (UPCC 21211) の症例報告である。患者は2例で、症例1 (17510-105) は進行悪性胸膜中皮腫 (MPM) 患者であり、白金製剤とペメトレキセドによる一次治療後に増悪した。症例2 (21211-101) は転移性膵腺癌 (PDA) 患者であり、一卵性双生児の兄弟からT細胞を採取し、コンパッショネートユースとして治療された。

CAR製造は、CD3/CD28ビーズで活性化後10日間培養したT細胞を、抗メソセリンSS1 scFv-4-1BB-TCRζ CAR mRNAでエレクトロポレーション(MaxCyte閉鎖系装置を使用)し、凍結保存した。投与スケジュールは、MPM患者ではスケジュール1でDay 0に10⁸細胞 (IV)、Day 7に10⁹細胞 (IV) を投与し、その後スケジュール2でDay 84 (初回投与から) に10⁸細胞 (IV) を追加投与した。PDA患者では、スケジュール3でDay 1〜18に10⁸細胞を3回/日×8回 (計24回) IV投与し、さらにDay 35およびDay 57に2回腫瘍内注射 (IT) を行った。

評価項目は、CTスキャン(修正RECIST)、FDG PET/CT(PDA患者)、腹水フローサイトメトリー(MSLN+c-met+腫瘍細胞数)、血清サイトカイン(Luminex 30因子)、qPCR(末梢血・腹水・腫瘍生検でのCARTmeso transgeneおよびCD3ε転写産物定量)、高スループット血清学的解析(Protoarray、約10,000ヒトタンパクへの抗体応答)、ウエスタンブロット(腫瘍細胞ライゼートおよびメソセリンタンパク)、血清SMRP・CA19-9測定などであった。統計手法については、各測定値の記述統計量および経時的変化が主に報告された。