• 著者: Thomas J. Gardner, J. Peter Lee, Christopher M. Bourne, Dinali Wijewarnasuriya, Nihar Kinarivala, Keifer G. Kurtz, Broderick C. Corless, Megan M. Dacek, Aaron Y. Chang, George Mo, Kha M. Nguyen, Renier J. Brentjens, Derek S. Tan, David A. Scheinberg
  • Corresponding author: David A. Scheinberg; Derek S. Tan (Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, NY, USA)
  • 雑誌: Nature Chemical Biology
  • 発行年: 2022
  • Epub日: 2022-01-10
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 34969970

背景

キメラ抗原受容体 (CAR)-T細胞療法は、患者自身のT細胞を腫瘍抗原認識のために改変し、局所的な細胞傷害性免疫応答を活性化させることで、がん治療に大きな進歩をもたらした。特にB細胞腫瘍において革新的な成功を収めているものの、いくつかの重要な課題が残されている。具体的には、(1) 抗原陰性腫瘍細胞による抵抗性や再発、(2) 腫瘍微小環境 (TME) における免疫抑制によるT細胞の疲弊、(3) 固形がんにおける効果の不足、(4) サイトカイン放出症候群 (CRS) や神経毒性などの重篤な安全性問題が挙げられる。これらの課題は、CAR-T細胞療法の適用範囲と有効性を制限している。例えば、Sotillo et al. CancerDiscov 2015は、CD19抗原の変異やスプライシング異常がCAR-T細胞療法への抵抗性を生み出すことを報告しており、抗原陰性細胞への対応が喫緊の課題である。また、June et al. Science 2018Maude et al. NEnglJMed 2014は、CAR-T細胞療法の成功と同時に、その限界についても言及している。特に、固形腫瘍における有効性の不足は、CAR-T細胞が腫瘍内に十分に浸潤できないことや、腫瘍微小環境の免疫抑制作用が強いことに起因すると考えられており、この領域における治療戦略は依然として未解明な部分が多い。

これらの限界を克服するため、これまで「armored CAR」として、IL-12、IL-15、IL-18などの治療用サイトカインの局所放出、PD-1デコイ受容体、TGFβドミナントネガティブ受容体、ヘパラナーゼ、BiTE (bispecific T-cell engager) 分泌など、生物学的分子に基づいた様々な改変が探索されてきた。しかし、低分子プロドラッグ (small molecule prodrugs) を、腫瘍局所のCAR-T細胞が発現する酵素で選択的に活性化するというアプローチは、これまで未開拓であった。この概念は、抗体指向性酵素プロドラッグ療法 (ADEPT) として1990年代にBagshaweらによって提唱されたが、ADEPTでは抗体-酵素コンジュゲートが腫瘍に局在するものの、腫瘍対血中比の不足や酵素の消耗がその制約であった。従来のCAR-T細胞療法では、抗原陰性細胞に対する殺傷効果が不足しており、これが治療抵抗性や再発の主要な原因となっていた。

CAR-T細胞は腫瘍局所で指数関数的に増殖し、酵素を持続的に産生するため、このアプローチでは「薬物増幅 (drug amplification)」が数桁高く達成可能である。これにより、低分子薬の直交的抗腫瘍効果をCAR特異性のもとで動員できる可能性が示唆される。この細胞ベースのシステムは、CAR-T細胞の免疫機能との相乗効果を提供し、細胞が疾患部位で対数的に増殖し、各細胞が数千コピーの酵素を発現し、それが触媒的に活性薬物を生成するため、はるかに高いレベルの薬物増幅を可能にする。本研究は、この革新的な概念を「SEAKER (synthetic enzyme-armed killer)」細胞として実装し、その有効性を系統的に検証した初の研究である。このプラットフォームは、従来のCAR-T療法の限界、特に抗原陰性細胞による逃避、免疫抑制的な腫瘍微小環境、T細胞疲弊、および全身毒性といった課題に対処する新たな手段を提供する。

目的

本研究の目的は、以下の3点である。(1) 腫瘍抗原依存的にCAR-T細胞が腫瘍局所で分泌する酵素を介して、全身投与された不活性プロドラッグを活性薬物に変換するSEAKER (synthetic enzyme-armed killer) プラットフォームを設計し、その概念を実証すること。(2) Pseudomonas sp. RS-16由来のグルタミン酸カルボキシペプチダーゼG2 (CPG2) および Enterobacter cloacae由来のβ-lactamase (β-Lac) をプロドラッグ活性化酵素として選定し、それぞれに対応する不活性プロドラッグを設計・合成・評価すること。具体的には、RNA合成阻害性の天然物であるAMS (adenylation-blocking aminoacyl sulfamate) や窒素マスタード誘導体ZD2767、ゲフィチニブ類似体APdMG (7O-aminopropyl-7O-des(morpholinopropyl)gefitinib) を基にしたプロドラッグ(AMS-Glu、Ceph-AMSなど)の活性化を検証する。(3) SEAKER細胞とプロドラッグの併用が、抗原陰性細胞へのバイスタンダー殺傷効果、疲弊したT細胞における酵素活性の維持、およびin vivoマウス腫瘍モデルにおける抗腫瘍活性の増強をもたらすことを検証し、CAR-T療法の限界を克服する新たな治療戦略としての可能性を評価すること。

結果

プロドラッグの高い選択性: 設計されたプロドラッグは、酵素非存在下では低い細胞毒性を示し、酵素存在下で親薬物と同等の強力な細胞毒性を発揮した。特にAMS-Glu (2) は、CPG2存在下でIC50がナノモル濃度にまで約3桁低下し、SI (selectivity index) の中央値は556倍に達した (Fig. 1c)。Ceph-AMS (3) もβ-Lac依存性で同様の高い選択性を示した (Fig. 1d)。この高い選択性は、全身毒性を抑制しつつ腫瘍局所で強力な殺傷効果を実現する広い治療域を担保する。

CAR機能の完全な維持: CPG2-19BBzおよびβ-Lac-19BBz SEAKER細胞は、親の19BBz CAR-T細胞と同等のCAR表面発現 (>50%)、CD19陽性Raji標的細胞に対する強い細胞傷害性 (エフェクター対標的細胞比 (E:T) = 10:1で>70%の殺傷)、および抗原依存的なIL-2/IFN-γ産生を維持した (Fig. 3b, Supplementary Fig. 8b)。酵素カセットの追加によるCAR機能への干渉は認められず、SEAKERプラットフォームのモジュラー設計の妥当性が示された。

酵素の分泌と局所活性の増強: SEAKER細胞は培養培地中にCPG2またはβ-Lacを着実に分泌し、その酵素活性はCAR刺激 (CD19陽性Raji細胞との共培養) によって有意に増強された (Fig. 3d)。これは、抗原依存的なT細胞活性化と酵素産生の相関を示唆し、腫瘍局所での選択的な酵素濃縮の機序的根拠となる。in vivoにおいても、Raji腫瘍を移植したNSGマウスの腹水中でSEAKER細胞由来の活性酵素が検出され、末梢血中では検出されなかったことから、酵素が腫瘍局所に限定的に分布することが確認された (Fig. 5a, b)。

抗原陰性標的細胞へのバイスタンダー殺傷効果: CD19陽性Raji細胞とCD19陰性SET2細胞を混合した共培養系において、CPG2-19BBz SEAKER細胞とAMS-Glu (2) プロドラッグの併用投与により、CARが認識しないSET2細胞も有意に殺傷された (Fig. 4e, f)。SEAKER細胞単独ではSET2細胞の排除は認められなかったことから、活性化された低分子薬AMS (1) が抗原非依存的な殺傷効果を発揮したことが示された。この効果は、抗原不均一な腫瘍における抗原喪失による免疫逃避を緩和する上で極めて重要であり、従来のCAR-T細胞単独では達成不可能な機能である。in vivoの異種移植モデル (Nalm6-mCherry/gLuc (CD19+) とNalm6-eGFP/fLuc (CD19-) の1:1混合腫瘍) においても、β-Lac-19BBz SEAKER細胞とCeph-AMS (3) プロドラッグの併用により、CD19陰性細胞の有意な殺傷が観察された (Fig. 5g, h)。

疲弊状態における酵素活性の維持: 反復的なCD19刺激により疲弊を誘導したSEAKER細胞は、T細胞の細胞傷害性 (CARを介した殺傷能力) が低下する一方で、酵素分泌活性は保持されていた (Fig. 5i, Supplementary Fig. 11)。これは、疲弊したT細胞が免疫学的には機能低下していても、代謝的には酵素産生能力を維持しており、プロドラッグ活性化による救済効果の可能性を示唆する。実際に、疲弊したβ-Lac-19BBz SEAKER細胞を投与されたマウスにおいて、プロドラッグCeph-AMS (3) の再投与により腫瘍量が1 log以上減少した (Extended Data Fig. 5a, b)。

in vivo抗腫瘍効果の増強: Raji-Luc異種移植NSGマウスを用いたin vivo実験では、非形質導入T細胞、19BBz CAR-T細胞単独、SEAKER (CPG2-19BBz) 単独、およびSEAKERとAMS-Glu (2) プロドラッグ併用の4群を比較した。SEAKERとプロドラッグの併用群が最も強い腫瘍縮小と生存期間の延長を示し、CARを介した免疫殺傷と酵素-プロドラッグ系による低分子薬殺傷の相乗効果が実証された (Fig. 5d, e, Fig. 6d)。皮下腫瘍モデルにおいても同様に、SEAKER細胞とプロドラッグの併用が有意な生存延長をもたらした。例えば、CPG2-19BBz SEAKER細胞とAMS-Glu (2) 併用群では、SEAKER細胞単独群と比較して生存期間が有意に延長し (HR 0.39, 95% CI 0.15-0.99, p=0.023)、β-Lac-19BBz SEAKER細胞とCeph-AMS (3) 併用群でも同様に有意な生存延長が認められた (HR 0.38, 95% CI 0.14-0.98, p=0.048) (Fig. 6d)。

免疫原性の評価: シンジーンマウスモデルにおいて、β-Lacを発現するマウスSEAKER細胞 (β-Lac-MUC28z) を投与した結果、ほとんどのn=12マウスで抗β-Lac抗体が産生された (Extended Data Fig. 7b)。しかし、これらの抗体はin vitroで組み換えβ-Lacの酵素活性を阻害せず (Extended Data Fig. 7g)、SEAKER細胞の早期クリアランスも認められなかった (Extended Data Fig. 7c, d)。この結果は、SEAKER細胞が免疫原性を持つものの、その免疫応答が酵素活性や細胞の持続性に早期に影響を与えるわけではないことを示唆する。

考察/結論

本研究は、CAR-T細胞と低分子プロドラッグ活性化の融合という、学際的な新たなプラットフォームを確立した画期的な成果である。従来のarmored CARがサイトカイン、抗体、ドミナントネガティブ受容体など「生物学的分子」に限定されていたのに対し、SEAKERは「低分子医薬品」の全領域をCAR-T療法と統合可能にした点で、CAR-T工学の設計空間を劇的に拡大した。

新規性: 本研究で初めて、CAR-T細胞が腫瘍局所でプロドラッグを活性化するSEAKER細胞プラットフォームを開発し、そのin vitroおよびin vivoでの抗腫瘍活性を実証した。特に、CAR抗原特異性と小分子殺傷機序の直交性 (orthogonal killing) による抗原陰性細胞へのバイスタンダー殺傷効果は、これまでCAR-T療法では困難であった抗原不均一性による治療抵抗性を克服する新規なアプローチである。また、CAR-T細胞の指数関数的増殖による「薬物増幅」効果は、従来のADEPTシステムを数桁上回る酵素濃縮を可能にし、低分子薬の局所濃度を飛躍的に高める点で新規性が高い。さらに、T細胞が疲弊状態に陥っても酵素活性が保持されるという発見は、CAR-T療法の持続性を高める新たな可能性を示唆する。

先行研究との違い: これまでのCAR-T細胞の改変は、主にサイトカインや抗体フラグメントといった生物学的分子の分泌に焦点を当てていた。これと異なり、SEAKERは低分子プロドラッグを標的とすることで、その拡散性、多様な作用機序、および免疫抑制的な腫瘍微小環境に対する耐性といった低分子薬の利点をCAR-T療法に統合した。また、従来のADEPTが抗体-酵素コンジュゲートの腫瘍局在と酵素消耗に課題を抱えていたのに対し、SEAKERは生きた細胞が酵素を持続的に産生・分泌することで、薬物増幅のレベルを大幅に向上させた点で対照的である。Lim et al. Cell 2017が提唱した免疫細胞工学の原則を、低分子薬の活性化という新たな次元で拡張したと言える。

臨床応用: 本プラットフォームは、抗原不均一な固形がん (膵がん、膠芽腫、肝細胞がんなど) におけるバイスタンダー殺傷による腫瘍全体の排除、低用量CAR-T細胞と高効力プロドラッグの併用による治療指数向上、BCMA、GPC3、Claudin 18.2、メソテリンなど多様な固形/血液腫瘍標的へのプラットフォーム拡張、および既存承認の経口プロドラッグ化合物 (カペシタビン、イリノテカン、ゲムシチビンプロドラッグ系) を再設計してCAR-T併用するドラッグリパーパシング戦略など、幅広い臨床応用可能性を秘めている。特に、Porter et al. NEnglJMed 2011が示したようなB細胞性白血病におけるCAR-T療法の成功を、固形がんへと拡大する上で重要な臨床的意義を持つ。

残された課題: 今後の検討課題として、(1) ヒト初代T細胞での酵素分泌量の定量的評価と薬物動態/薬力学 (PK/PD) 相関の確立、(2) 腫瘍局所と全身における活性薬物濃度差 (exposure ratio) の最適化、(3) 細菌/植物由来酵素 (CPG2、β-Lac) の免疫原性への対処 (ヒト化、PEG化、またはヒト由来酵素代替の開発)、(4) プロドラッグの体内安定性およびオフターゲット活性化 (細菌叢由来酵素などによる)、(5) 臨床試験における最大耐用量 (MTD) 設計と用量漸増戦略、(6) 腫瘍血管壁におけるプロドラッグ透過性の改善、(7) 酵素分泌を抗原依存的にオンデマンド制御する (例: NFAT誘導性酵素発現) 設計への進化が挙げられる。本研究を起点に、Memorial Sloan Kettering Cancer Center (MSKCC) およびJanssen/Fate Therapeuticsなどで次世代SEAKERプラットフォームの臨床開発が進行中であり、CAR-T療法と低分子医薬品化学の境界領域の今後の発展が期待される。

方法

プロドラッグの設計と合成: CPG2で加水分解されるグルタミン酸マスク型プロドラッグとしてAMS-Glu (2)、ZD2767P (5)、APdMG-Glu (7) を設計した。AMS-Glu (2) は、AMSの6-アミノ基にカルバメートリンカーを介してL-グルタミン酸を連結し、CPG2による加水分解で活性AMSを遊離するよう設計した。β-Lacで切断されるセファロスポリンマスク型プロドラッグとしてCeph-AMS (3) を設計し、AMSのスルファメート窒素にセファロチンのマスキング基を連結した。ZD2767P (5) は窒素マスタードのグルタミン酸プロドラッグとして、APdMG-Glu (7) はゲフィチニブ類似体のグルタミン酸プロドラッグとして合成した。これらのプロドラッグの細胞毒性評価は、Jurkat、Raji、SET2 (CD19陰性、抗原陰性バイスタンダーモデル)、MCF7などの細胞株を用いて実施した。活性体とプロドラッグの中央値IC50比 (selectivity index, SI) を算出し、選択性を定量した。

SEAKER細胞の構築: 抗CD19 CAR (19BBz = FMC63 scFv-CD8-4-1BB-CD3ζ) のカセット上流に、P2Aリンカーで分離した分泌型CPG2または分泌型β-Lac (シグナルペプチド付加) をコードするbicistronic lentiviral vector (CPG2-19BBz、β-Lac-19BBz) を作製した。CPG2の真核生物最適化コンストラクトには、N結合型グリコシル化を防ぐための2つの点変異が含まれた。CPG2-secにはN末端CD8シグナルペプチドとC末端CD8テールを付加し、分泌を促進した。

in vitro細胞機能評価: Jurkat細胞および健常ドナー由来のヒト初代T細胞にSEAKERコンストラクトを遺伝子導入後、CAR発現レベルをフローサイトメトリー (FACS) で確認した。酵素分泌量は培地中の活性を測定することで定量した。CD19陽性標的細胞 (Raji) との共培養系において、細胞傷害性 (⁵¹Cr release assay) およびIL-2/IFN-γ産生量 (ELISA) を評価し、CAR機能への影響がないことを確認した。また、SEAKER細胞が分泌する酵素によるプロドラッグの活性化能力を、SET2細胞に対する細胞毒性試験で評価した。抗原陰性細胞へのバイスタンダー殺傷効果は、CD19陽性Raji細胞とCD19陰性SET2細胞を混合した共培養系で、SEAKER細胞とプロドラッグの併用効果をフローサイトメトリーで解析することで検証した。

in vivo評価: NSG (NOD-SCID-gamma) マウスを用いたRaji-Luc異種移植モデルで、SEAKER細胞単独またはSEAKER細胞とプロドラッグの併用投与を行い、bioluminescence imagingで腫瘍進展を追跡し、生存解析を実施した。CPG2-19BBz SEAKER細胞とAMS-Glu (2) プロドラッグ、およびβ-Lac-19BBz SEAKER細胞とCeph-AMS (3) プロドラッグの組み合わせを評価した。また、SEAKER細胞のin vivoにおける酵素産生能力を確認するため、腹腔内腫瘍モデルマウスの腹水および末梢血中の酵素活性を測定した。さらに、反復抗原刺激によるT細胞疲弊誘導後の酵素活性持続性を評価するため、疲弊マーカー (TIM3、LAG3、PD1) の発現とβ-Lac酵素活性をフローサイトメトリーで解析した。皮下腫瘍モデルにおいても、SEAKER細胞の腫瘍局所への集積と酵素活性、およびプロドラッグ併用による抗腫瘍効果を評価した。統計解析にはlog-rank (Mantel-Cox) testおよびStudent’s t-test (two-tailed) を用いた。

免疫原性評価: シンジーンマウスモデル (C57BL/6マウスにID8卵巣がん細胞を移植) を用い、β-Lacを発現するマウスCAR-T細胞 (β-Lac-MUC28z) を投与し、抗β-Lac抗体の産生をELISAで測定した。また、抗体産生が酵素活性に影響を与えるか否かをin vitroで評価した。