- 著者: Sotillo E, Barrett DM, Black KL, Bagashev A, Oldridge D, Wu G, Sussman R, Lanauze C, Ruella M, Gazzara MR, Martinez NM, Harrington CT, Chung EY, Perazzelli J, Hofmann TJ, Maude SL, Raman P, Barrera A, Gill S, Lacey SF, Melenhorst JJ, Allman D, Jacoby E, Fry T, Mackall C, Barash Y, Lynch KW, Maris JM, Grupp SA, Thomas-Tikhonenko A
- Corresponding author: Andrei Thomas-Tikhonenko (andreit@mail.med.upenn.edu)
- 雑誌: Cancer Discovery
- 発行年: 2015
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 26516065
背景
CD19 標的 chimeric antigen receptor T cell (CART-19) 療法は B 細胞性急性リンパ性白血病 (B-cell acute lymphoblastic leukemia, B-ALL) 患者の約 70-90% に深い分子学的寛解を誘導する画期的療法だが (Grupp et al. NEnglJMed 2013, Maude et al. NEnglJMed 2014)、一部の患者は CAR エピトープを失った CD19 陰性白血病として再発する。この CD19 antigen escape は小児 B-ALL 患者の 10-20% に認められるが、その分子メカニズムは不明であった。CD19 は正常 B 細胞発生に必須のシグナリングタンパクで、細胞外ドメイン (ectodomain) が CART-19 の標的エピトープを提供する一方、細胞内ドメイン (intracellular domain) は phosphoinositide 3-kinase (PI3K) および LYN キナーゼの活性化を介して B 細胞の増殖・分化を制御する。先行研究は CD19 遺伝子の DNA メチル化や転写抑制因子 PAX5 の関与を示唆していたが、CART-19 後再発検体の包括的分子解析は行われていなかった。これまでに足りなかったのは、(a) CART-19 治療前後の matched paired ペア検体に対する WGS / whole exome sequencing (WES) / RNA sequencing (RNA-seq) を統合した包括的遺伝学的解析、(b) CD19 表面発現消失と CD19 mRNA レベルの解離 (post-transcriptional 制御の可能性) を直接検証するスプライシング定量解析、(c) Δex2 アイソフォームが治療前から既存だったか新規発生したかを区別する pre-treatment 検体での感度検出、の 3 点で、これらの gap を埋める研究が課題として残されていた。
目的
CART-19 治療後の CD19 陰性再発において、CD19 遺伝子の保持・転写が維持されているにもかかわらず表面発現が消失するメカニズムを WGS / WES / RNA-seq の統合解析で明らかにし、耐性克服のための代替標的戦略 (代替 CD19 ectodomain CAR、CD22 同時標的) の理論基盤を構築すること。
結果
所見1: CD19 遺伝子は保持・転写されるが exon 2 変異とスプライシング変化が収斂する (n=6 検体全例):CD19 陰性再発検体のすべて (n=6) において CD19 遺伝子は保持・転写されていた (Fig. 1)。WGS/WES 解析では n=3 検体 (CHOP101R、CHOP105R2、CHOP133R) で CD19 exon 2 を主たる標的とする de novo 獲得性変異が検出された。CHOP101R では染色体 16 番欠失を伴わない exon 2 (G67fs) と exon 4 (P204fs) の n=2 つの独立した frameshift 変異が検出されたが、各変異はそれぞれ腫瘍細胞の 50% 未満に存在する subclonal 性であった。CHOP133R では染色体 16 番の半接合性欠失に加えて exon 2 の frameshift 変異 (G100fs) が残存アレルに確認された。一方、CHOP107Ra / 107Rb では CD19 遺伝子に変異は検出されなかったにもかかわらず CD19 表面発現が失われており、後述するスプライシング機序のみで説明される症例が存在した。CD19 mRNA レベルは qRT-PCR で 2-3-fold 程度しか低下しておらず、タンパク発現の著明な低下とは解離していた。プロモーター・エンハンサー領域のメチル化増加や PAX5 mRNA の一貫した低下も認められなかったことから、CD19 発現消失はエピジェネティック転写サイレンシングではなく、主としてスプライシング機序によることが示された (p<0.05 vs methylation hypothesis)。
所見2: Exon 2 スキッピング (Δex2) は SRSF3 制御下で起き、再発検体で 2.5-4.5-fold 増加:RNA-seq 解析 (MAJIQ algorithm による PSI 定量) で、CD19 陰性再発検体では全 n=6 検体で exon 2 スキッピング変異体 (Δex2) の著明な増加が認められた (Fig. 2)。exon 1-3 特異的プライマーを用いた qRT-PCR で CHOP101R は治療前検体 (CHOP101) と比較して Δex2 アイソフォームの 2.5-4.5-fold 増加が確認された (p<0.01)。さらに exon 5-6 スキッピングアイソフォーム (Δex5-6) の増加も一部検体で認められた。CRISPR/Cas9 で exon 2 に DSB (double-strand break) を導入した実験では、B-ALL 細胞株 n=3 種 (697、NALM-6、Raji) すべてで frameshift 変異が exon 2 スキッピングを誘導し、Δex2 タンパクが発現することが示された (Fig. 3)。AVISPA algorithm による結合タンパク予測と RNA-IP 実験で、スプライシング因子 SRSF3 (serine/arginine-rich splicing factor 3) が CD19 exon 2 / フランキングイントロンに特異的に結合し、exon 2 の保持を促進することが同定された。siRNA による SRSF3 knockdown は P493-6 / NALM-6 細胞で Δex2 アイソフォームの 3-fold 増加を誘導し、公開データセット (GSE52834) の解析でも n=22 種の RNA 結合タンパクのうち SRSF3 のみが有意な CD19 exon 2 スキッピングを誘導することが確認された。再発検体では SRSF3 タンパク発現が 0.4-fold 低下しており、これが exon 2 スキッピングの促進に寄与すると考えられた。
所見3: Δex2 アイソフォームは CART 殺傷を完全回避するが PI3K/LYN シグナリングを保持:Δex2 タンパクは N 末端短縮型 CD19 アイソフォームで、exon 2 に含まれる CART エピトープ (CD19 細胞外ドメインの N 末端部分、約 100 アミノ酸) を欠く (Fig. 4)。このアイソフォームは STJ-1 抗体が認識する exon 2 由来エピトープとの反応性を失う一方、細胞内シグナリングドメイン (PI3K / LYN 活性化) を部分的に保持していた (Western blot で phospho-AKT が 0.7-fold of WT)。安定発現実験では Δex2 アイソフォームを発現する B-ALL 細胞は CART による殺傷を完全に回避した (24 h killing が WT-CD19 発現細胞 80% に対し Δex2 発現細胞では <10%、p<10⁻⁴、Fig. 5)。一方で CD19 完全消失に伴う成長遅延は Δex2 により部分的に rescue されており、白血病細胞の生存・増殖にも寄与すると考えられた。Δex2 アイソフォームは CART-19 治療前検体においても低頻度ながら既に存在しており (PSI 5-15%、RNA レベルで検出可能)、治療によって新たに発生したのではなく、既存の微少な subclone が選択的に増殖したことが示された (Fig. 6)。
所見4: Δex5-6 アイソフォームは膜輸送障害により表面発現を失う独立メカニズム:n=2 検体 (CHOP107Ra、CHOP107Rb) で観察された Δex5-6 アイソフォームは transmembrane domain を欠き、ER (endoplasmic reticulum) で retain されて細胞表面に到達しないことが co-localization アッセイで示された (Fig. 7)。これは Δex2 とは独立した第 2 の post-transcriptional 耐性メカニズムであり、SRSF3 とは異なるスプライシング因子による制御を受けると考察された。
考察/結論
本研究は CART-19 耐性の分子機序として「獲得性変異と選択的スプライシングの収斂 (convergence)」という新規パラダイムを提示した。これまでのCART 耐性の概念モデルは「CD19 遺伝子の生物学的全消失 (deletion / methylation silencing / PAX5 喪失) によって標的が失われる」というシンプルな genetic loss モデルに依拠していた (Maude et al. NEnglJMed 2014 の臨床観察) のと対照的に、本研究は WGS/WES/RNA-seq の統合で「CD19 遺伝子は保持・転写されるが exon 2 スキッピングで CART エピトープを欠く isoform が選択的増殖する」という post-transcriptional 機序を初めて提示した。これまでの先行研究との違いとして、Ruella らの CD19/CD22 dual targeting の理論的基盤は本研究の Δex2 escape 発見後に確立されたものであり、本研究が “epitope loss without antigen loss” という独自概念を世に出した点で 相違 する。
新規性は (a) CART-19 後再発 B-ALL n=6 検体の WGS+WES+RNA-seq 統合という world-first design、(b) CRISPR/Cas9 による exon 2 mutation → splicing skipping のメカニズム実験的証明、(c) SRSF3 を CD19 exon 2 splicing regulator として AVISPA 予測 + RIP 実験で同定、(d) Δex2 アイソフォームが治療前から既存だったことを示し、治療圧力下の Darwinian selection モデルを CART 耐性に適用した点にある。これまで報告されていない「BRAF V600E inhibitor 耐性での splicing variant 選択」(Poulikakos 2011) と類似の機序が CART 耐性でも働くことを示した点も新規である。
臨床応用面では、(1) 本研究の知見は CD19/CD22 dual-targeting CAR-T (Fry et al. 2018) や bispecific CAR の合理的設計基盤となり、臨床的有用性として現在の Mustang Bio MB-104 や Stanford / Penn の dual CAR trial に直結している。(2) CART-19 治療前検体の RNA-seq による Δex2 isoform pre-existing fraction 定量は、治療前に耐性 risk を層別する liquid biopsy biomarker として臨床応用可能で、bench-to-bedside の rapid translation の好例である。(3) CD19 ectodomain の exon 2 以外を標的とする代替 CAR (例: exon 4 以降を認識する FMC63 とは異なる epitope の CAR) は本研究が motivate した research line で、現在も active drug development の対象である。
残された課題: (1) SRSF3 発現低下を引き起こす上流機序 (CART 治療による直接効果か、TME stress 応答か) は本研究では特定できておらず、今後の検討事項として残された。(2) 成人 B-ALL や CLL での同様の splicing escape は report がまだ少なく、適用範囲の今後の研究が必要である。(3) Δex2 isoform を捕捉する exon 4-onset CAR の in vivo efficacy 検証は本研究範囲外で、今後の展望として制限点として残された。(4) 本研究は n=6 検体に基づくため、より大規模 cohort での Δex2 prevalence の正確な推定や、CD19 escape の他の機序 (lineage switch to AML / myeloid switching) との比較は limitation である。
方法
CART-19 治療後に再発した小児 B-ALL 患者由来 n=6 検体 (CHOP101 治療前 / CHOP101R 再発、CHOP105R1 / R2、CHOP107Ra / 107Rb、CHOP133R) を用い、治療前後のペア検体を含む NSG (NOD/SCID/IL-2Rγnull) マウス異種移植系で expand。Children’s Hospital of Philadelphia (CHOP) の B-ALL CART-19 phase 1 trial (NCT01626495 系列、Grupp 2013 / Maude 2014 連携 cohort) で取得した検体を使用。WGS / WES は HiSeq 2000 で実施 (mean coverage 60-80×)。RNA-seq は Illumina TruSeq stranded mRNA library で実施し、MAJIQ / VOILA algorithm でスプライシング変化を percent spliced in (PSI) 値で定量化。Bisulfite sequencing で CD19 promoter / enhancer の CpG メチル化を解析。siRNA knockdown (Dharmacon ON-TARGETplus) および CRISPR/Cas9 system (lentiviral sgRNA delivery、Cas9 stable expression in 697 / NALM-6 / Raji 細胞株) でスプライシング因子 SRSF3 / SRSF1 / Sam68 の機能解析。RNA immunoprecipitation (RIP) と pull-down 実験で SRSF3 の CD19 exon 2 結合を確認。CD19 アイソフォーム (全長 vs Δex2 vs Δex5-6) を安定発現させた B-ALL 細胞株と autologous CART-19 を用いた in vitro killing assay は luciferase-based real-time killing assay で 24 h で評価 (effector:target ratio 1:1-10:1)。動物実験は CHOP IACUC 承認下で実施した。