- 著者: Zhuting Hu, Donna E. Leet, Rosa L. Allesøe, Giacomo Oliveira, Shuqiang Li, Adrienne M. Luoma, Jinyan Liu, Juliet Forman, Teddy Huang, J. Bryan Iorgulescu, Rebecca Holden, Siranush Sarkizova, Satyen H. Gohil, Robert A. Redd, Jing Sun, Liudmila Elagina, Anita Giobbie-Hurder, Wandi Zhang, Lauren Peter, Zoe Ciantra, Scott Rodig, Oriol Olive, Keerthi Shetty, Jason Pyrdol, Mohamed Uduman, Patrick C. Lee, Pavan Bachireddy, Elizabeth I. Buchbinder, Charles H. Yoon, Donna Neuberg, Bradley L. Pentelute, Nir Hacohen, Kenneth J. Livak, Sachet A. Shukla, Lars R. Olsen, Dan H. Barouch, Kai W. Wucherpfennig, Edward F. Fritsch, Derin B. Keskin, Catherine J. Wu, Patrick A. Ott
- Corresponding author: Catherine J. Wu; Patrick A. Ott (Dana-Farber Cancer Institute, Boston, MA, USA)
- 雑誌: Nature Medicine
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-01-21
- Article種別: Original Article
- PMID: 33479501
背景
がん免疫療法の長年の課題は、腫瘍を長期制御するために必要な細胞傷害性・ヘルパーT細胞応答を十分に誘導・拡張する治療基盤の欠如にあった。特に、腫瘍抗原の大多数は自己タンパク由来であり中枢性免疫寛容の対象となるため、有効なワクチン標的が乏しいという問題が存在した。しかし次世代シーケンシング技術の普及により患者固有の腫瘍特異的変異由来ペプチド (neoantigen; 新生抗原) をリアルタイム設計することが可能となり、新生抗原は「非自己」であって中枢性寛容を免れるため免疫原性の高いワクチン標的として注目されるようになった。
Ott et al. Nature 2017 は6名の高リスクメラノーマ患者へのNeoVax (個別化新生抗原長鎖ペプチドワクチン + poly-ICLC アジュバント) 投与により、新生抗原特異的CD4+/CD8+T細胞応答が誘導され5名が無再発を維持することを初めて示した。同時期に Sahin et al. Nature 2017 がmRNAベースの個別化新生抗原ワクチンで13名全員に多特異的T細胞免疫が得られることを独立に示し、個別化がんワクチンの概念実証が確立された。また Spitzer et al. Cell 2017 はPD-1阻害剤の抗腫瘍活性には全身性免疫応答が必要であることを示し、ワクチンによる事前priming と免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) 併用の理論的根拠を提供した。
しかしこれらの初期試験はいずれも免疫追跡が1年以内に留まっており、ワクチン誘導T細胞応答がmemory段階へ安定移行して長期持続するかという点はgap in knowledgeとして手薄な領域であった。特に、記憶T細胞が単一クローンから多クローン的に多様化しながら数年単位で持続すること、epitope spreading (ワクチンに含まれない新生抗原・腫瘍関連抗原への免疫波及) が生じること、さらにワクチン後ICI投与で既誘導クローンが再活性化されるかという点は、個別化ワクチンの臨床的有用性を確立する上で不足した鍵知見であった。
目的
2013-2017年にNeoVaxを投与した高リスクメラノーマ患者 (NCT01970358) n=8名を中央値55ヶ月追跡し、(1) 新生抗原特異的T細胞応答の長期持続性とmemory phenotype、(2) single-cell RNA-seq (scRNA-seq) および単一細胞TCR-seqによる転写・クローン動態、(3) epitope spreading (非ワクチン新生抗原・TAA (tumor-associated antigen) への新規応答)、ならびに (4) ワクチン後pembrolizumab投与例での免疫相関を明らかにする。
結果
長期臨床成績と再発後pembrolizumab応答:n=8名全員が中央値55ヶ月 (範囲38-64ヶ月) の追跡時点で生存した (全生存率 8/8, 100%)。5名が再発を経験したが、うち2名はstage IV病変に対してpembrolizumabを投与され完全奏効 (CR) を達成。1名は局所再発に対して外科切除後 NED (no evidence of disease) を維持、2名は切除不能転移性疾患へ進展した (Fig. 1a)。ワクチン後免疫編集評価では、5名の利用可能な腫瘍ペアサンプルにおいてワクチン標的変異の74/77 (96%) が持続しており、免疫選択圧による標的逃避は最小限であった。腫瘍免疫組織化学では個別患者でCD8+ TILs (tumor-infiltrating lymphocytes) およびFOXP3+調節性TILs密度の経時変動が見られたが、少数例のため一定の傾向は識別できなかった。有害事象は全8名で重篤なものはなく、注射部位反応 (grade 1-2)・軽度発熱・倦怠感のみで自然消退した (Supplementary Table 2)。
新生抗原特異的T細胞応答の長期持続性と多機能性:全8名を通算すると、week 16時点で陽性であったASP (assay peptide) 特異的CD4+T細胞応答の68%、およびEPT (epitope peptide) 特異的CD8+T細胞応答の59%が、2-4.5年後も検出可能であった (Fig. 5b)。患者3では、week 16の凍結PBMCと47ヶ月後の新鮮PBMCの両方でASP/EPTペプチドへの強いT細胞応答が再現された (Fig. 5a)。患者6では、pembrolizumab後に初めて出現したCD4+/CD8+応答が44ヶ月後まで持続した。全8名のCD4+応答は56% (69/124 IMPs)、CD8+応答は13% (15/117 IMPs) であり、CD4+応答優位のパターンは新規報告患者11・12 (CD4+: 11/27, 41%; CD8+: 0/27) でも一貫していた (Fig. 1b; p=0.0004 Pt.11, p=0.0003 Pt.12 for responsive pools)。
11色フローサイトメトリーによる多機能性解析では、患者1 (55ヶ月時点) と患者3 (week 16・47ヶ月時点の両方) でIFNγ・TNFα・IL-2産生能が長期維持されることが確認された (Fig. 5d)。患者3のweek 16時点ではASP刺激後のサイトカイン産生細胞の大半はPD-1発現型セントラルメモリー (CD27+CD45RA-) であったが、47ヶ月後ではセントラルメモリー優位のまま PD-1発現が平均39%低下しており、ワクチン完了後の抗原曝露軽減に伴うT細胞活性化の低下を示した。バルクTCR-seqによる長期追跡では、4/5名でプライム・ブースト相に単一細胞レベルで同定されたtetramer特異的TCRα/β対が、100-212週後のバルクデータでも7クローン型が検出された (Fig. 5c; TCRα/β鎖頻度 0.002%/0.001%)。
scRNA-seqによる転写状態の時間的推移と4クラスター構造:患者3・4・5から中央値310細胞/患者 (範囲297-378) のtetramer特異的CD4+T細胞を単離し、Seurat v3統合クラスタリング (adjusted p<0.05 Bonferroni補正、top/bottom 20差次発現遺伝子) で4つの転写クラスターを同定した (Fig. 2d, e)。Cluster 0 (naive-like; LEF1, CCR7, SATB1高発現)、Cluster 1 (cytotoxic-like; GZMA, GNLY, CST7高発現 + IL-2産生・IL-12応答遺伝子セット上昇)、Cluster 2 (AICD [activation-induced cell death]-like; 活性化・細胞傷害マーカーの汎低下、IL-12/IL-4応答遺伝子低下)、Cluster 3 (memory-like; SELL高発現、HOPX低下) の構造を持つ。
時系列解析では、ワクチン前のtetramer陰性細胞はほぼCluster 0を占め、プライミング・ブースト初期 (week 8-20) にCluster 1・2へ移行し、最終ブースト4週後にCluster 3 (memory-like) が優勢となった (Fig. 2g)。naive→cytotoxic/AICD→memoryの分化軌跡は急性感染後のmemory形成パターンと類似する。抗原反応性の検証として患者3から選択した代表TCRクローン型20ペアをアロジェニックT細胞に導入・ペプチド刺激したところ、複数細胞に観察されたクローン型13/16 (81%) とシングルトン1/4 (25%) でCD137 (4-1BB) 上昇が確認された (Fig. 2c)。
TCRレパートリーの多様化と腫瘍内浸潤:患者3・4・5のtetramer特異的CD4+T細胞について、priming・boost各時点のpaired TCRα/β解析を実施した (Fig. 3)。3患者でそれぞれ266, 329, 210単一細胞から183, 89, 107個の独自クローン型を同定し、priming (week 3, 8, 12) からboosting (week 16, 20, 24) を通じて新規クローン型が継続出現した。複数時点を跨いで検出された計80種の独自クローン型が確認され、repertoireの多様化とコアクローン型の持続が並行することが明らかとなった。
患者2ではweek 16のmutADM2特異的TCRクローン型99種のうち25/99 (25%) がpembrolizumab開始約1年後 (week 89) にも存在し、week 16上位10クローン型のうち5つが1年後も上位10位以内を維持した (Fig. 4b, c)。患者6ではweek 16の22種のうち12/22 (55%) が55週後も存在し、9/10 (90%) の持続クローン型が抗原反応性を確認した。患者6の再発腫瘍 (week 24、最終ワクチン完了4週後) のバルクTCR-seqでは、末梢血single-cell解析で同定したTCRクローン型のうち4ペア (α鎖・β鎖両方一致) が腫瘍内に検出され、ワクチン誘導T細胞の腫瘍内浸潤を直接実証した (Fig. 4d)。
Epitope spreadingによる内因性抗腫瘍免疫の拡張:3名 (患者2・3・6) で非ワクチン新生抗原およびTAAへの免疫反応性を検討した (Fig. 6a)。患者3では、ワクチン前には検出されなかったが、week 16時点で58 EPT・38 ASPペプチドのうちmutEYA3とmutP2RY4に対応する3/38 (8%) のASPペプチドへのCD4+T細胞応答が新規出現した (Fig. 6b)。これらのT細胞は変異ペプチドと野生型ペプチドを識別する高いエピトープ特異性を示した。患者2では、week 16以降にmutAGAP3 c (CD4+、非ワクチン新生抗原) とMAGEF (CD8+、TAA) への新規応答が生じ、pembrolizumab後 (week 89) にはさらにmutAGAP3 b (CD4+) とMAGED (CD8+) への応答が追加出現した (Fig. 6c)。患者6では非ワクチン抗原への応答は検出されなかった。非ワクチン新生抗原特異的CD4+応答は患者2では4.5年後、患者3では4年後まで持続した (Fig. 6d)。2/3患者でのepitope spreading検出は、ワクチンによる腫瘍殺傷後の新生抗原放出が追加免疫連鎖を起こすという機序と一致する。
考察/結論
本研究はn=8という小規模ながら中央値4.5年の前向き長期追跡を達成した唯一の個別化新生抗原ワクチン試験として、これまでの研究との根本的な相違は追跡期間と免疫評価の深度にある。既報のOtt et al. 2017やSahin et al. 2017は1年以内のフォローアップに留まっており、本研究はこれまで報告されていないヒトがんワクチン誘導T細胞の数年規模での記憶持続・多クローン多様化・腫瘍内浸潤・epitope spreadingを包括的に示した点でnovelなデータを提供する。単一細胞レベルのTCRクローン追跡により患者6の再発腫瘍に末梢血と同一クローン型が浸潤していたことは、ワクチン効果が末梢免疫にとどまらず腫瘍微小環境 (TME) に及ぶことの直接的証拠である。また68%のCD4+・59%のCD8+応答が2-4.5年後も持続し、polyfunctionalityが47-55ヶ月後まで維持されることは、感染ウイルスへの長期免疫と類似する持続性を示す。
臨床的意義は多面的である。NeoVaxとpembrolizumabの逐次投与でCRが2名に得られ、ワクチン誘導TCRクローンがpembrolizumab後にさらに拡大したことは、「ワクチンによる免疫priming」→「ICI投与でクローン再活性化・増幅」という順次併用戦略の臨床的有用性を具体的に示す。Ott et al. Cell 2020 の25患者コホートではepitope spreadingが無増悪生存延長と関連することが独立に確認されており、本研究の知見と整合する。これらはKEYNOTE-942試験 (mRNA新生抗原ワクチン + pembrolizumab、切除後ステージII/IIIメラノーマ) やBNT111 (NY-ESO-1等TAA mRNAワクチン) の試験設計の根拠となった。肺癌領域では高い腫瘍変異量を持つNSCLCがneoantigen数に富み、本研究で示された「長期memory保持 + epitope spreading」原理はBioNTech BNT122やModerna mRNA-4157などNSCLC向け個別化ワクチンのbench-to-bedside理論基盤として機能する。
残された課題と限界も明確である。n=8の小規模非無作為化単腕設計という本試験の制約は、ワクチン単独の寄与を対照なしに評価できないことを意味し、この点は今後の検討において無作為化比較試験で検証が必要である。epitope spreadingが患者6で生じなかった理由 (免疫抑制TME、HLA制約、腫瘍抗原発現量差など) の解明も今後の研究課題である。CD8+応答誘導率が13%と低い (CD4+の56%と対照的) ことは、MHCクラスII優勢の長鎖ペプチドフォーマットの構造的限界を示し、mRNA製剤やCD8+誘導に最適化されたアジュバント系への転換が更なる検討を要する。さらに個別化ペプチドのGMP合成に数ヶ月を要するという製造サイドの課題と、mRNAプラットフォームによる2週間製造への移行・コスト削減・大規模展開も重要なfuture researchテーマである。メラノーマ以外のがん種 (NSCLC、膠芽腫、消化器がん) での再現性検証、さらに「いつICI併用を開始すべきか」という逐次投与の最適スケジュールの決定も未解決である。
方法
試験デザインと対象: Dana-Farber Cancer Institute主導の単施設第I相試験 (NCT01970358)、Dana-Farber/Harvard Cancer Center IRB承認。2013-2017年登録のstage IIIB/C またはIVM1a/b (AJCC stage IV melanoma with distant metastases) 完全切除後メラノーマ患者n=8名 (患者1-6は既報; 患者11・12は今回新規報告)。ECOG (Eastern Cooperative Oncology Group) PS 0-1を適格とし、一次エンドポイントは安全性・実行可能性、二次エンドポイントはT細胞応答誘導と2年生存率。
ワクチン設計と製造: WES (whole exome sequencing) およびHLAタイピングから、患者固有の最大20個の変異特異的長鎖ペプチド (15-30アミノ酸) をNetMHCpan v2.4/v4.0 とHLAthena (mass spectrometry-based HLA ligandome predictor) で選定。各ペプチド0.3 mg を4プールに配分し、各プールにpoly-ICLC 0.5 mg を添加して皮下投与。プライム相 (day 1, 4, 8, 15, 22) + ブースト相 (week 12, 20) の計7回投与。患者11・12は16-11本のIMPs (immunizing peptides) を16-11個の変異エピトープ標的として設計した。
免疫モニタリング: PBMCs (peripheral blood mononuclear cells) を複数時点 (week 16, 89, 104等、計28-55ヶ月後まで) で採取し、IFNγ ELISpot (ex vivo / in vitro刺激後)、11色多重フローサイトメトリーによるICS (intracellular cytokine staining; IFNγ・TNFα・IL-2・PD-1・T細胞分化マーカー) を実施。患者3・4・5ではHLA-DRクラスIIテトラマー染色で新生抗原特異的CD4+T細胞をex vivo単離し、Smart-seq2プロトコールによるscRNA-seq (NCBI hg38アライン、STARアライナー、RSEM (RNA-seq by expectation maximization) 定量) と single-cell TCR-seq (paired α/β鎖; 10X Genomics Chromium VDJ / 96-wellプレートフォーマット) を施行。バルクTCR-seq (T cell receptor sequencing; RNase H-dependent PCR法) により長期時点でのクローン持続を追跡。
統計解析: ELISpot時系列解析は repeated-measures model (unstructured covariance) で実施、p値はBenjamini-Hochberg法で補正 (two-sided Student’s t-test)。scRNA-seqのクラスター差次発現遺伝子は Seurat v3 標準Wilcoxon rank-sum検定、クラスター代表遺伝子はBonferroni補正 (adjusted p<0.05)。Gene set enrichment analysisはWebGestalt 2019 (Gene Ontology生物学的プロセス)。クローン進化はPhylogicNDT (サポート変異数 <5のクラスター除外)。