- 著者: Matthew H. Spitzer, Yaron Carmi, Nathan E. Reticker-Flynn, Serena S. Kwek, Deepthi Madhireddy, Maria M. Martins, Pier Federico Gherardini, Tyler R. Prestwood, Jonathan Chabon, Sean C. Bendall, Lawrence Fong, Garry P. Nolan, Edgar G. Engleman
- Corresponding author: Matthew H. Spitzer (University of California, San Francisco, CA, USA); Garry P. Nolan (Stanford University, Stanford, CA, USA); Edgar G. Engleman (Stanford University, Stanford, CA, USA)
- 雑誌: Cell
- 発行年: 2017
- Epub日: 2017-01-19
- Article種別: Original Article
- PMID: 28111070
背景
がん免疫療法、特に抗PD-1抗体や抗CTLA-4抗体などの免疫チェックポイント阻害薬 (ICB: immune checkpoint blockade) や、CAR (chimeric antigen receptor) T細胞療法、ACT (adoptive cell therapy) は、一部の患者で劇的な治療効果を示す。しかし、これまでの研究の大半は、腫瘍微小環境 (TME: tumor microenvironment) 局所における免疫細胞応答に焦点を当ててきた。免疫応答は本来、複数の臓器を横断した細胞間およびシグナル伝達の協調のもとに成立する複雑なシステムである。免疫療法の作用部位が腫瘍内局所であるか、あるいは末梢リンパ組織であるかという根本的な問題は依然として未解明な部分が多く、例えば、Kvistborg et al. SciTranslMed 2014 はICB治療後に末梢で新規TCRクローンが拡大することを示唆している。また、Topalian et al. CancerCell 2015 が免疫チェックポイント阻害の臨床的成功を報告している一方で、その全身性作用機序の全容は不明なままである。これらの知見は、免疫療法の作用機序が局所と全身のどちらに主眼を置くべきかという課題を残している。さらに、全身性の免疫動態を組織横断的に詳細に解析するための技術的アプローチが不足していた。近年、マスサイトメトリー (CyTOF: mass cytometry) の登場により、40種類以上のパラメータを同時に単細胞レベルで解析することが可能となり、全身性の免疫応答を詳細に解析できる技術的背景が整った。本研究で用いたMMTV-PyMT (murine mammary tumor virus-polyoma middle T) 自発性乳癌モデルは、抗PD-1抗体治療に不応性であり、carcinomaに対する免疫治療の根本機序を解明するための適切なモデルであると考えられた。
目的
本研究の目的は、腫瘍破壊 (tumor rejection) 時の免疫応答を腫瘍内に限定せず、全身臓器横断的に解析することで、免疫療法奏効に必要な解剖学的部位、主要な細胞種、およびそれらの時間動態を明らかにすることである。具体的には、有効な免疫療法と、同モデルで不応性である抗PD-1抗体治療のような無効な免疫療法との全身性免疫応答を対比し、有効な抗腫瘍免疫応答に共通する細胞および組織シグネチャーを同定することを目指した。
結果
有効療法による全身性免疫活性化と腫瘍内増殖の動態: alloIgG+anti-CD40+IFN-γによる有効な治療を受けたMMTV-PyMTマウス (n=12 mice) では、治療開始後day 3 (プライミング期) に、腫瘍内だけでなく、所属リンパ節 (dLN)、非所属リンパ節 (ndLN)、脾臓、骨髄、血液といった全身の末梢組織において、広範囲の免疫細胞の活性化が観察された (Figure 2A, F, Figure 3A, F, Figure 4A, I)。特に、腫瘍内では多くの免疫細胞タイプでKi67発現による増殖率の増加が認められた (Figure 2F)。しかし、腫瘍退縮が進行するday 8 (拒絶期) の時点では、腫瘍内のKi67+免疫細胞の増殖は減少していた (Figure 2O)。対照的に、末梢リンパ組織 (dLN、脾臓、骨髄) および血液中では、依然として活性化細胞の持続的な増殖が観察された (Figure 3M, Figure 4L)。この結果は、腫瘍根絶には腫瘍微小環境の局所応答だけでなく、腫瘍外での持続的な免疫活性が不可欠であることを示唆している。無治療群や抗PD-1抗体単独治療群では、末梢組織における広範な免疫活性化は限定的であった (Figure S2B-E)。
末梢CD4 T細胞集団の出現と抗腫瘍免疫における必須性: Scaffold map解析により、有効療法群の末梢リンパ節および脾臓に特異的に出現する新規CD4+ T細胞クラスターが同定された (Figure 6D, E)。このクラスターは、CD44hi (CD44 high)、CD62Llo (CD62L low)、ICOShi (ICOS high)、CXCR3+、Ki67+といった活性化エフェクターメモリーT細胞の表現型を示し、未治療群や抗PD-1抗体無効群では見られなかった (Figure 6E)。ネットワーク解析では、T細胞サブセットの中でCD4 T細胞が最も高いコネクティビティを示し、免疫応答の調整において中心的な役割を果たす可能性が示唆された (Figure 6B)。実験的に、抗CD4抗体によるin vivoでのCD4 T細胞枯渇は、alloIgG+anti-CD40+IFN-γ治療による腫瘍退縮効果を完全に消失させた (Figure 5A)。CD8 T細胞枯渇も効果を減弱させたが、CD4 T細胞への依存性がより支配的であった。このCD4 T細胞の必須性は、MC38結腸癌モデルにおける抗PD-1抗体治療においても同様に観察された (Figure 5G)。
末梢CD4 T細胞による新規腫瘍への防御とヒトにおける関連性: 有効療法を受けたマウスのdLNおよび脾臓由来のCD4+ T細胞をナイーブマウスへ養子移入すると、新規MMTV-PyMT腫瘍接種時の腫瘍生着が有意に抑制され、腫瘍体積において 2.5-fold decrease が確認された (p<0.05) (Figure 5F)。これは、末梢CD4 T細胞が全身性の免疫記憶を付与する能力を持つことを示している。さらに、ヒトのメラノーマおよび腎細胞癌患者における抗CTLA-4抗体または抗PD-1抗体治療の末梢血CyTOF解析では、治療に奏効した患者群 (responder) が非奏効群 (non-responder) と比較して、emergent CD4+ T細胞クラスター (CD38+HLA-DR+Ki67+) の有意な拡大が認められた (p<0.05) (Figure 6H, I)。特に、末梢血中のKi67+CD4+ T細胞の頻度は客観的奏効率 (ORR: objective response rate) と相関し、非侵襲的なバイオマーカーとしての可能性を示唆した。
PD-L1の早期誘導による遠隔腫瘍への保護と併用療法の効果: 興味深い所見として、有効療法直後 (day 3) に、治療されていない遠隔の転移性腫瘍や対側腫瘍においてPD-L1の発現が急速に上昇し、それに伴いT細胞浸潤が抑制されることが観察された (Figure 7E, F)。これは、全身性免疫応答に対する腫瘍側の「保護機構」としてPD-L1が誘導される動態をin vivoで初めて示したものである。この知見に基づき、多発性腫瘍を有するMMTV-PyMTマウスにおいて、腫瘍結合性抗体療法と全身性抗PD-L1抗体との併用治療を行ったところ、全体的な腫瘍負荷が単独療法と比較してさらに有意に減少し、腫瘍体積において 3.2-fold decrease (p<0.01) を示した (Figure 7G)。これにより複数の未注入腫瘍の拒絶が誘導された (Figure 7H)。この結果は、PD-L1/PD-1経路が全身性免疫応答による遠隔腫瘍への抗腫瘍効果を抑制しており、PD-L1阻害が多発性腫瘍の治療効果を高める可能性を示唆している。
全身性免疫応答の阻害による治療効果の消失: 全身性免疫応答の重要性を検証するため、リンパ球のリンパ組織からの遊出を阻害するFTY720を投与した。FTY720を投与したマウス (n=12 mice) では、alloIgG+anti-CD40+IFN-γ治療による腫瘍退縮効果が完全に消失し、腫瘍が進行した (Figure 5A)。同様に、4T1乳癌モデルにおいてもFTY720の投与により治療効果が消失し (Figure 5B)、肺転移の抑制効果も失われた (Figure 5D, E)。また、MC38結腸癌モデルにおける抗PD-1抗体治療においても、FTY720の併用により抗腫瘍効果が完全に阻害された (Figure 5G)。これらの結果は、有効な免疫療法の効果発現には、腫瘍局所の免疫細胞活性化だけでは不十分であり、末梢リンパ組織からの免疫細胞の動員を伴う全身性免疫応答が必須であることを示している。
考察/結論
本研究は、がん免疫療法による効果的な腫瘍拒絶には全身性免疫応答が不可欠であるという新たなパラダイムを確立し、従来の腫瘍微小環境 (TME) 中心主義を根本的に見直すものである。腫瘍退縮には腫瘍内の局所応答だけでは不十分であり、末梢リンパ臓器で持続するCD4+ T細胞主導の全身性活性化が必須であることが示された。
先行研究との違い: これまでの多くの研究が腫瘍微小環境におけるCD8 T細胞の役割に焦点を当ててきたChen et al. Immunity 2013 のに対し、本研究は、腫瘍拒絶において末梢のCD4 T細胞が中心的な役割を果たすことを明確に示した点で対照的である。また、腫瘍内のTreg増加が必ずしも予後不良と関連しないという所見は、Treg頻度を単純な予後指標とする従来の考え方と異なり、複雑な免疫動態を示唆している。さらに、T細胞の枯渇や機能不全に関する先行研究Jiang et al. CellDeathDis 2015 や Wherry et al. Immunity 2007 と比較して、本研究は末梢での持続的な増殖能の維持が治療奏効に直結することを示している。
新規性: 本研究で初めて、マスサイトメトリーを用いた全身臓器横断的解析により、有効な免疫療法が腫瘍内だけでなく末梢組織で持続的な免疫細胞増殖を誘導し、特に末梢で出現する特定のCD4 T細胞集団が抗腫瘍免疫を駆動することを発見した。さらに、治療直後に遠隔腫瘍でPD-L1が早期に誘導され、全身性免疫応答を抑制するというこれまで報告されていないメカニズムをin vivoで明らかにした点も新規である。
臨床応用: 本研究の知見は、がん免疫療法の臨床応用に多岐にわたる臨床的意義を持つ。第一に、末梢血中のCD4+Ki67+ HLA-DR+細胞の頻度が免疫チェックポイント阻害薬 (ICB) 治療への応答予測バイオマーカーとして有望であり、非侵襲的な血液検査によるモニタリングの可能性を示唆する。第二に、局所療法を実施する際にも、全身性免疫誘導を治療効果の評価指標に含めるべきである。第三に、治療直後のPD-L1早期誘導が遠隔腫瘍への「保護機構」として機能するため、ICBとの併用戦略の合理性を高める。例えば、Herbst et al. Nature 2014 がPD-L1発現と奏効の関連を報告しているが、本研究はPD-L1誘導の動態が治療戦略に影響を与える可能性を示した。
残された課題: 今後の検討課題およびlimitationとして、(1) 本研究で同定されたemergent CD4+ T細胞集団の抗原特異性の詳細な解明、(2) 末梢での免疫活性化を最大化するための併用戦略の最適化、(3) 所属リンパ節と非所属リンパ節の役割分担、(4) 全身性PD-L1誘導の分子機構とその阻害が転移予防に寄与するかの検証が挙げられる。
方法
本研究では、MMTV-PyMT自発性triple-negative乳癌マウスモデルを用いた。腫瘍が25 mm²に到達した時点で治療を開始し (day 0)、有効な治療群としてallogeneic tumor-binding IgG (alloIgG: 同種腫瘍結合性IgG、CD-1 (cesarean derived-1) マウスまたはC57BL/6Jマウス由来) と抗CD40抗体およびIFN-γを腫瘍内投与した。無効対照群には抗PD-1抗体を、無治療対照群にはPBSを投与した。免疫応答の解析にはマスサイトメトリー (CyTOF) を用い、治療開始後day 3 (プライミング期) とday 8 (拒絶期) に、腫瘍、所属リンパ節 (dLN: draining lymph node)、非所属リンパ節 (ndLN: non-draining lymph node)、脾臓、骨髄、血液、肝臓から細胞を採取し、40種類以上のマーカーを用いて単細胞レベルで解析した。Scaffold map解析により、全細胞タイプの位置関係と活性化状態を可視化し、Statistical Scaffold法を用いて群間比較を行った。細胞集団間の相関ネットワーク解析により、連携動作を推定した。増殖性細胞の定量にはKi67染色を全組織で実施した。CD4 T細胞の役割を評価するため、抗CD4抗体によるin vivoでのCD4 T細胞枯渇実験を行い、治療効果への影響を評価した。また、FTY720 (fingolimod) を用いてリンパ球のリンパ組織からの遊出を阻害する実験を行った。さらに、有効治療マウスの脾臓およびリンパ節由来細胞をナイーブレシピエントマウスに養子移入し、新規腫瘍接種時の保護効果を評価した。臨床的関連性を検証するため、メラノーマおよび腎細胞癌の抗PD-1治療患者の末梢血をCyTOFで解析した。統計解析には、群間比較のための Student t-test や、患者データの解析のための Wilcoxon rank-sum test を用いた。