Article data
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 著者 | Khalil DN, Smith EL, Brentjens RJ, Wolchok JD |
| Corresponding author | Jedd D. Wolchok (wolchokj@mskcc.org) |
| 雑誌 | Nature Reviews Clinical Oncology |
| 発行年 | 2016 |
| Epub日 | 2016-03-15 |
| Article種別 | Review article |
| DOI | 10.1038/nrclinonc.2016.25 |
背景
がん免疫療法は100年以上研究されてきたが、第III相試験で進行がん患者の全生存を一貫して改善することが示されたのはここ10年のことである。CTLA-4阻害薬 ipilimumab の第III相試験により転移性メラノーマで初めて生存改善が実証され (Hodi et al. NEnglJMed 2010)、以降 PD-1/PD-L1阻害薬の急速な展開がメラノーマ・NSCLC (非小細胞肺がん) を中心に起こった (Brahmer et al. NEnglJMed 2015)。一方、CD19標的 CAR (chimeric antigen receptor) T細胞療法は再発・難治性 B-ALL (B-cell blast-lineage acute lymphoblastic leukemia) において劇的な完全奏効を示し、血液悪性腫瘍治療の標準を変えつつある (Maude et al. NEnglJMed 2014)。しかし、これら2大免疫療法モダリティ—免疫チェックポイント阻害薬と CAR T細胞療法—の「どの腫瘍にどちらを使うべきか」という選択原理は、2016年時点では系統的に整理されていなかった。腫瘍の内因的性質 (体細胞変異負荷・腫瘍微小環境の免疫抑制性) と各免疫療法の反応性の関係は一部示唆されていたが、それを統一的概念枠組みとして臨床選択に直結させる理論的基盤が手薄であり、各種組み合わせ戦略の合理的設計についても gap in knowledge の状態にあった。
目的
mAb (モノクローナル抗体) を用いた免疫調節療法 (免疫チェックポイント阻害および共刺激活性化) と CAR T細胞療法の最新臨床進歩を横断的に整理し、各腫瘍型に対する適切な免疫療法の選択原理を腫瘍の neoantigen 提示能という視点から統一的に概念化するとともに、armoured CAR T細胞と組み合わせ戦略の将来方向性を示すこと。
結果
免疫チェックポイント阻害薬の主要臨床データ: CTLA-4阻害薬 ipilimumab は転移性メラノーマの第III相試験で全生存改善を初めて示し、約20%の患者が2年以降も持続的な生存プラトーを維持した (Table 1に irAE 管理基準を整理)。PD-1/PD-L1阻害薬では pembrolizumab・nivolumab がメラノーマで約40%の奏効率を達成し、ipilimumab 単剤の約12%を大幅に上回った。nivolumab は進行扁平上皮 NSCLC に対してドセタキセル対比で OS を 3.2ヶ月改善し2年生存率を17%改善した。ipilimumab + nivolumab 併用は未治療メラノーマの第III相試験で奏効率58%・完全奏効率11.5%を達成し、単剤を大幅に上回ったが grade 3-4 irAE も増加した (Larkin et al. NEnglJMed 2015)。irAE は腸炎・肺臓炎・肝炎・皮膚炎・神経障害・内分泌障害等の多臓器炎症として出現するが、コルチコステロイド等で管理可能であり、Grade 3/4 の pneumonitis については早期介入 (コルチコステロイド + 投与中断) により 2015年の2つの第III相試験では死亡例がゼロとなった (Table 1)。次世代チェックポイントとして、LAG-3 (MHC-II と結合しT細胞を抑制、PD-1との共発現が T細胞疲弊マーカー、NCT01968109で阻害 mAb 試験中)、TIM-3 (galectin-9・HMGB1 (high mobility group box 1)・phosphatidylserine・CEACAM-1 (carcinoembryonic epithelial antigen cell adhesion molecule)の4種をリガンドとし、マウスモデルで PD-L1 阻害との併用で抗腫瘍効果)、TIGIT (Tigit 欠損マウスで自己免疫表現型なし → 毒性的に安全な次世代標的) が有望候補として示された (Fig. 1 に免疫抑制シグナルの図解)。T細胞共刺激薬では 4-1BB 刺激薬 urelumab がメラノーマで効果を示したが重篤肝毒性のため一時中断後に低用量で再開、GITR 刺激はエフェクターT細胞増殖促進と Treg 抑制を同時達成、CD40 agonist + 化学療法は膵がん患者でマクロファージ介在の抗腫瘍活性を実証した。
CD19-CAR T細胞療法 B-ALL成績の5機関比較: Conditioning chemotherapy を実施した4機関 (MSKCC・UPenn/CHOP・NCI・Fred Hutchinson) では CR率67-94%・MRD (minimal residual disease) 陰性率81-87%・重症CRS (sCRS) 23-29%という類似した高い成績を示した (Table 3)。MSKCC (n=38 成人、SJ25-28ζ (single-chain variable fragment, CD28 domain) CD28共刺激): CR率87%・MRD陰性率81% (deep sequencing)・6ヶ月DFS 50%・6ヶ月OS 59%・sCRS 23%・治療関連死亡率8% (3/38例)。UPenn/CHOP (n=48 小児、FMC63-BBζ (from the murine anti-CD19 clone, 4-1BB domain) 4-1BB共刺激): CR率94%・MRD陰性率82%・6ヶ月DFS 76%・6ヶ月OS 78%・sCRS 29%・CD19陰性再発率67% (10/15再発例)。Fred Hutchinson (n=24 成人、FMC63-BBζ): CR率91%・MRD陰性率87% (PCR)・sCRS 29%・治療関連死亡率4% (1/24例)。NCI (n=21 小児・若年成人、FMC63-28ζ (from murine anti-CD19 clone, CD28 costimulatory) CD28共刺激): CR率67%・10ヶ月OS 52%・sCRS 29%。対照的に MD Anderson (n=10、conditioning なし・Sleeping Beauty electroporation): 5ヶ月DFS 30%・sCRS 0%と著明に劣り、conditioning の省略と electroporation による ex vivo T細胞疲弊が成績不良の主因と考えられた。各機関の CAR 設計の詳細は Table 2 に整理されており、scFv は SJ25C1 (MSKCC) または FMC63 (他5機関)、共刺激ドメインは CD28 または 4-1BB、導入法は retroviral/lentiviral transduction または Sleeping Beauty transposon と多様である。
Fludarabine conditioning が CAR T細胞の増殖・持続性・臨床成績に与える影響: Fred Hutchinson 試験では同一 CAR T細胞量を投与しながら conditioning レジメンを変更した同一コホート内比較が実施された。B-ALL 患者13例に同一 CAR T細胞用量を投与し、8例が Cy 60mg/kg + Flu 25mg/m² ×3-5日の fludarabine 含有 conditioning を受け、5例が fludarabine 非含有 conditioning を受けた。Fludarabine 含有群では CAR T細胞数が non-flu 群と比較して 100-fold 超のピーク増殖を示し、Day 28 時点では非含有群でCAR T細胞がほぼ検出不能となった。この増殖差は臨床成績に直結し、NHL (非ホジキンリンパ腫) 患者19例の解析でも fludarabine 含有 conditioning 群の全体奏効率が83% (non-flu 群は50%) と明確な差を示した。Fludarabine の作用機序は制御性免疫細胞の除去と homeostatic サイトカイン産生増加を介した CAR T細胞の増殖促進と考えられており、UPenn/CHOP 試験でも > 50%の患者が fludarabine 含有 conditioning (Flu 30mg/m² ×4日 + Cy 500mg/m² ×2日) を受け、最長 26ヶ月の B細胞無形成 (B-cell aplasia) 持続と6ヶ月時点での73%の無形成維持が報告された。
CD19抗原逃避と毒性プロファイル: CD19陰性再発は UPenn/CHOP 試験で再発15例中10例 (67%) に観察され、CAR T細胞療法の最大の課題として明確化された (Fig. 2 にneoantigen負荷と免疫逃避機構の概念図)。再発機序は CD19陰性腫瘍サブクローンの増殖、または CD19の downregulation であり、対策として CD22-CAR (cluster differentiation 22-targeted chimeric antigen receptor)・ROR1-CAR (receptor orphan receptor 1, chimeric antigen receptor)・BCMA-CAR (多発性骨髄腫対象) や二重標的 CAR (CD19+CD22 (cluster differentiation 22)) が開発されている。毒性では CRS (cytokine-release syndrome) が全機関で sCRS 率23-29%と共通して観察され、重篤な CRS および macrophage activation syndrome (MAS) は IL-6経路阻害薬 tocilizumab ± コルチコステロイドで管理される。成人 B-ALL における治療関連死亡率は機関間でMSKCC 8%・Fred Hutchinson 4%・UPenn 25%と差があり、UPenn の死亡率が高いのは小さいコホート (n=12評価可能) での計算による影響が大きい。神経毒性は CRS とは独立して発症可能であり、CRS・神経毒性の発生頻度は腫瘍量・CAR T細胞用量・conditioning の強度と相関する。CRP の上昇が sCRS の前兆指標として有用であり、早期介入が可能。CLL では UPenn 更新解析 (n=23 patients) で完全奏効率22% (5/23例) と B-ALL に比して低く、effector T細胞機能不全・リンパ節への homing 不全・Treg/MDSC による TME 免疫抑制が主要原因として挙げられる。攻撃性 NHL では NCI (n=9、CR 4/7例・9-22ヶ月持続)、UPenn (n=13 DLBCL (diffuse large B-cell lymphoma)、CR 5/13例・6ヶ月-1年超持続)、MSKCC (n=10、BEAM (bcnu etoposide ara-C melphalan) + ASCR (autologous stem cell rescue) 設定で CR 6/10例・13-21ヶ月無増悪) の各試験で40-60%のCR率が報告された。
Armoured CAR T細胞とneoantigen選択フレームワーク: 免疫抑制性 TME において CAR T細胞は内因性T細胞と同様に PD-1・LAG-3・TIM-3 の発現上昇と機能低下を示すことがマウス大型確立腫瘍モデルで確認されている。これを克服するための armoured CAR T細胞は3類型: (1) PD-1細胞外ドメインを CD28細胞内ドメインに融合した chimeric receptor を CAR と共発現させ、PD-L1 による抑制シグナルを共刺激シグナルへ変換する; (2) CD40L または 4-1BBL を構成的発現させ、難治性リンパ腫異種移植モデルで直接的腫瘍免疫原性強化および trans-共刺激により生存を延長する; (3) IL-12 分泌型 CAR が preconditioning 化学療法なしでの腫瘍根絶・Treg耐性・MDSC耐性・持続性増強を前臨床で達成し、mucin-16 標的 IL-12分泌型 CAR T細胞の卵巣がん第I相試験 (NCT02498912) として初めて臨床実施。neoantigen 提示能に基づく免疫療法選択の統一フレームワーク (Fig. 2) は本レビューの概念的中核であり、高 neoantigen 腫瘍 (メラノーマ・NSCLC等) では免疫抑制性 TME が形成されるため mAb によるチェックポイント阻害が最適、低 neoantigen 腫瘍 (B-ALL等) では TME 免疫抑制が弱い代わり内因性T細胞が認識できないため CAR T細胞が最適、中間群 (CLL・多くの固形腫瘍) では mAb + CAR T細胞の組み合わせまたは armoured CAR T細胞が最大の効果をもたらすと予測される。MSKCC 最大規模成人 B-ALL シリーズ (n=38) では CAR T後に alloHSCT (同種造血幹細胞移植) を実施した患者の OS 70% vs 未実施 62% (P=0.5) と有意差なく、将来的に alloHSCT を省略できる可能性が示唆された。
考察/結論
本レビューの最も重要な新規の貢献は、腫瘍の neoantigen 提示能を軸に各免疫療法の適応を理論化した選択フレームワークである。これまでの研究はチェックポイント阻害または CAR T細胞のいずれかを個別の腫瘍型で評価するものが主であり、両モダリティを統一原理で位置付ける枠組みが不足していた。本フレームワークにより「なぜメラノーマ・NSCLC はチェックポイント阻害に劇的に反応し、B-ALL は CAR T細胞に際立って感受性が高いのか」という問いに対し、各腫瘍が体細胞変異負荷と免疫抑制性 TME 形成の方向性において対極に位置するためという一貫した説明が与えられる。
既報との違いとして、既報の単施設報告では見逃されていた CD19陰性再発の高頻度 (UPenn 67%) が本レビューで機関横断的に明示化された点、および MD Anderson の conditioning なし群 (5ヶ月DFS 30%) というコントロール比較によって conditioning が CAR T療法の成績に不可欠であることが対照的に裏付けられた点が挙げられる。Fludarabine の追加が CAR T細胞の増殖を 100-fold 超に増強し奏効率を 83% vs 50% と改善するという知見は、これまでの前臨床予測を臨床データで明確に実証した点で相違する。
新規な点として、armoured CAR T細胞 (特に IL-12分泌型、PD-1/CD28融合型) が固形腫瘍の免疫抑制 TME を克服する本研究で初めて第I相試験として実施された段階であり、preconditioning 不要・Treg/MDSC 耐性・持続性増強という前臨床の多面的利益が臨床でも再現されるかどうかは今後の検証が必要である。
臨床応用の観点では、neoantigenフレームワークは精密医療との統合を示唆し、腫瘍の変異プロファイルに基づく免疫療法選択の個別化 (チェックポイント阻害 vs CAR T細胞 vs 併用) が将来の臨床現場での意思決定を合理化する可能性がある。MSKCC の alloHSCT vs 非実施比較は、一部の患者では transplant を省略できることへの橋渡しとなる知見であるが、非ランダム化・検出力不足により確定的結論を導くには更なる検討が必要である。
残された課題として、(1) CD19陰性再発の克服 (多標的 CAR・BiTE・CD22 CAR)、(2) 固形腫瘍への CAR T細胞拡張 (免疫抑制性 TME・抗原不均一性・on-target/off-tumor毒性の克服)、(3) CRS 早期介入アルゴリズムと最適 CAR T用量の確立、(4) mAb + CAR T細胞 組み合わせの最適レジメン・投与順序 (NCT00586391 で CTLA-4阻害 + CAR T細胞の初の第I相が開始)、(5) armoured CAR T細胞の安全性プロファイル (IL-12の局所 vs 全身毒性)、(6) neoantigen仮説の前向き臨床試験による検証が明示されている。limitation として、本レビュー自体が選択的文献の narrative synthesis であり、機関間比較は非ランダム化・患者背景の不均一性・評価基準の相違を含むため、直接比較からの確定的結論には限界がある。今後 future research において、neoantigen 負荷の実際の測定法標準化と各免疫療法との相関を前向きに検証することが極めて重要な課題である。
方法
本稿は Memorial Sloan Kettering Cancer Center (MSKCC) の著者4名による narrative review である。PubMed で 2016年3月までに公表された主要な第I-III相試験・前臨床研究・ゲノム解析研究を選択的に引用・統合し、独自の統計解析は行わず既報試験の効果量 (奏効率・CR率・OS・DFS) と毒性指標 (CRS grade 3/4発現率・治療関連死亡率) を比較整理した。評価対象は (1) 免疫チェックポイント阻害薬 (抗CTLA-4、抗PD-1/PD-L1) および T細胞共刺激薬 (抗4-1BB・抗GITR・抗CD40・抗OX40)、(2) MSKCC・UPenn/CHOP・NCI・Fred Hutchinson・MD Anderson 5機関での CD19標的 CAR T細胞療法の臨床試験比較 (Table 2, 3)、(3) armoured CAR T細胞の前臨床データ、(4) neoantigen 提示能と免疫療法感受性の関連を示すゲノム解析研究。文献引用数は200件超で、非ランダム化記述的統合が主要手法である。各引用試験では Kaplan-Meier 法および log-rank 検定による生存解析と Cox 比例ハザードモデルが採用されており、本稿はその結果を比較整理した。