- 著者: Y Ohe, S Negoro, K Matsui, K Nakagawa, T Sugiura, Y Takada, Y Nishiwaki, S Yokota, M Kawahara, N Saijo, M Fukuoka, Y Ariyoshi
- Corresponding author: Y Ohe (Department of Internal Medicine, National Cancer Center Hospital, Tokyo, Japan)
- 雑誌: Annals of Oncology
- 発行年: 2005
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 15653702
背景
小細胞肺がん (SCLC) は化学療法感受性が極めて高い固形がんの一つであり、初期治療に対しては良好な反応を示す。限局型 (LD) SCLCにおいては、シスプラチンとエトポシドの併用化学療法と同時二回照射胸部放射線療法を組み合わせることにより、5年生存率が26%に達することが報告されている Turrisi et al. NEnglJMed 1999。しかし、診断時にすでに遠隔転移を伴う進展型 (ED) SCLCにおいては、初期化学療法による高い奏効率にもかかわらず、局所および遠隔再発が非常に多く、初期治療失敗後には多剤耐性が容易に発生するため、長期生存例は依然として極めて稀な状況にある。SCLC患者の予後改善のため、高用量化学療法、用量強化化学療法、交代療法、新規薬剤の導入など、様々な治療戦略が検討されてきたが、新規薬剤の導入のみがSCLC患者の予後改善に寄与してきた経緯がある。
北米では、エトポシドとシスプラチンの併用療法、またはシクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン (CAV) とエトポシド、シスプラチン (EP) の交代療法がSCLCの標準化学療法として長年用いられてきた。一方、日本国内においては、JCOG 9511試験において、トポイソメラーゼI阻害剤であるイリノテカンとシスプラチンの併用療法 (CPT-11+CDDP) が、ED-SCLC患者においてエトポシドとシスプラチンの併用療法 (EP) に対して有意な生存期間の優越性を示し、日本における新たな標準治療として確立されていた Noda et al. NEnglJMed 2002。しかし、さらなる予後改善のためには、より活性の高い化学療法、特に効果的な新規薬剤の導入が不可欠であると考えられていた。
Amrubicin (AMR) は日本で開発された全合成9-アミノアントラサイクリン誘導体であり、強力なトポイソメラーゼII阻害剤である。その活性代謝物であるamrubicinolはamrubicinの10〜100倍の細胞毒性を有し、腫瘍内への選択的な分布がその高い抗腫瘍活性の主因であるとされている。動物実験では、ドキソルビシン誘発心毒性への悪影響がなく、慢性心毒性の可能性も低いことが示されている。先行するamrubicin単剤の第II相試験(未治療ED-SCLC患者33例を対象)では、奏効率76%、完全奏効率9%、全生存期間中央値11.7ヶ月という印象的な成績が報告されており、標準的な併用化学療法であるエトポシドとシスプラチンの成績に匹敵するものであった。この高い単剤活性と、SCLC治療において最も重要な薬剤の一つであるシスプラチン (CDDP) との相加的または相乗効果が期待された。しかし、amrubicinとシスプラチンの併用療法における最適な用量や安全性、有効性については未解明な点が残されており、臨床における最適な投与設計に関する検討が不足していた。また、先行研究である Yana et al. (1998) や Fukuoka et al. (1991) などの報告においても、新規アントラサイクリン系薬剤と白金製剤との最適な組み合わせや毒性管理については十分に確立されていなかった。本試験は、この有望な新規薬剤とシスプラチンの併用療法における最大耐用量 (MTD) および推奨用量 (RD) を決定し、その有効性および安全性を包括的に評価することを目的として計画された。
目的
本第I/II相試験の目的は、未治療の進展型小細胞肺がん (ED-SCLC) 患者を対象として、amrubicinとシスプラチン (AMR+CDDP) 併用療法の最大耐用量 (MTD) および推奨用量 (RD) を決定することであった (第I相)。さらに、決定されたRDにおけるAMR+CDDP併用療法の有効性、特に客観的奏効率 (ORR) を評価し、安全性プロファイルを詳細に検討することを目指した (第II相)。また、AMRとCDDP併用時のamrubicinおよびその活性代謝物であるamrubicinolの薬物動態 (PK) を解析し、薬物相互作用の有無を確認することも目的とした。これにより、AMR+CDDPがED-SCLCの一次治療として確立された標準治療と比較して、より優れた治療選択肢となる可能性を評価するための基礎データを提供することを意図した。
結果
患者背景と登録概況: 2001年4月から2002年12月までに、ED-SCLC患者45例が登録され、そのうち44例がプロトコール治療を受けた。1例は第1コースDay 1の投与直前に心房細動が観察されたため、プロトコール治療を中断した。治療を受けた全患者は奏効、生存期間、毒性について評価された。患者の年齢中央値は64.5歳 (範囲50-74歳) であった。男性36例、女性8例であり、ECOG PS 0が5例、PS 1が39例であった。脳転移に対する手術を先行治療として受けた患者は1例のみであった。44例中42例 (95.5%) がStage IVであった (Table 1)。
MTDおよびRDの決定: 第I相試験において、Level 1 (amrubicin 40 mg/m² Day 1-3 + cisplatin 60 mg/m² Day 1) にはn=4の患者が登録され、第1コース中にDLTは観察されなかった。Level 2 (amrubicin 45 mg/m² Day 1-3 + cisplatin 60 mg/m² Day 1) にはn=3の患者が登録され、DLTが観察された。具体的には、1例でGrade 4の好中球減少が4日以上持続し、発熱性好中球減少も発生した。別の1例では発熱性好中球減少とGrade 3の便秘が発生した。これらの結果に基づき、MTDはLevel 2と決定され、推奨用量 (RD) はLevel 1 (amrubicin 40 mg/m² Day 1-3 + cisplatin 60 mg/m² Day 1) と決定された (Table 2)。
薬物動態パラメータ: Amrubicinの血漿中薬物動態パラメータは、両用量レベルにおいてDay 1とDay 3でほぼ同様であった (Table 3)。血漿中amrubicinのAUC0-24hは、Level 1でDay 1に2995 ± 434 ng·h/ml、Day 3に3511 ± 514 ng·h/mlであり、Level 2でDay 1に3052 ± 402 ng·h/ml、Day 3に3217 ± 479 ng·h/mlであった。血漿中amrubicinのAUCには明確な用量依存性は認められなかった。活性代謝物であるamrubicinolの赤血球中AUCは、両用量レベルでDay 3にDay 1よりも増加する傾向が示された (Table 4)。シスプラチンとの併用は、amrubicinおよびamrubicinolの薬物動態に影響を与えないことが確認された。
治療遵守状況: RDで治療を受けたn=41の患者において、32例 (78.0%) が4コース以上の化学療法を施行した。これらの32例中10例 (31.3%) は、第4コースでamrubicinの用量減量を必要とした。41例中22例 (53.7%) は、用量変更なしで4コースの化学療法を完了した。用量減量の主な原因は骨髄抑制、特に白血球減少と好中球減少であった (Table 5)。
客観的奏効率の向上: RDで治療を受けたn=41の患者における有効性評価において、完全奏効 (CR) が4例 (9.8%)、部分奏効 (PR) が32例 (78.0%) であり、主要評価項目である客観的奏効率 (ORR) は87.8% (95% CI 73.8-95.9%) に達した。安定病変 (SD) は3例 (7.3%)、病勢進行 (PD) は0例、評価不能 (NE) は2例であった。全44例におけるORRは88.6% (95% CI 75.4-96.2%) であった (Table 6)。ほとんどの患者において、腫瘍マーカーであるProGRP (pro-gastrin-releasing peptide) の値は腫瘍奏効と並行して変化した。
良好な生存期間: RDで治療を受けたn=41の患者における生存期間の解析において、生存期間中央値 (MST) は13.6 vs 12.8 months (CPT-11+CDDPの歴史的対照) と良好な傾向を示し、全生存期間 (OS) は極めて良好な成績であった。具体的には、RD群におけるOS中央値は 13.6 months (95% CI 11.1-16.6) であり、1年生存率は56.1% (95% CI 40.9-71.3) であった。また、2年生存率は17.6%であった (Figure 1)。全44例におけるOS中央値は 13.8 months (95% CI 11.1-16.6) であり、1年生存率は56.8%、2年生存率は21.4%であった。
血液毒性および非血液毒性: 血液毒性、特に白血球減少と好中球減少は一般的であり、比較的重度であった。Grade 3または4の白血球減少は65.9% (27/41) の患者に、好中球減少は95.1% (39/41) の患者に発生した。発熱性好中球減少はLevel 2の2例で観察されたが、RD群では発生しなかった (0/41, 0%)。Grade 3または4の貧血は53.7% (22/41) の患者に、血小板減少は24.4% (10/41) の患者に発生した。4例が血小板輸血を受けた。治療関連死亡は観察されなかった (Table 7)。一般的な非血液毒性として、食欲不振 (Grade 3: 31.7%)、悪心 (Grade 3: 22.0%)、嘔吐 (Grade 3/4: 4.9%)、便秘 (Grade 3: 7.3%)、下痢 (Grade 3/4: 4.9%) などの消化器毒性が挙げられた。胃潰瘍は3例 (4.9%) で発生した。肝毒性および腎毒性は本研究では稀であった。Grade 3または4の低ナトリウム血症は9例 (22.0%) に発生したが、ほとんどの患者は無症候性であった。Grade 3または4の低カリウム血症は4例 (9.8%) に発生した。
考察/結論
本第I/II相試験は、未治療の進展型小細胞肺がん (ED-SCLC) 患者に対する一次治療として、amrubicin 40 mg/m² (Day 1-3) とシスプラチン 60 mg/m² (Day 1) を3週間隔で投与する併用療法が、優れた有効性を示すことを証明した。客観的奏効率 (ORR) は87.8% (95% CI 73.8-95.9%)、生存期間中央値 (MST) は13.6 months (95% CI 11.1-16.6)、1年生存率は56.1% (95% CI 40.9-71.3) であった。
先行研究との違い: 本研究の成績は、従来の標準治療であるエトポシドとシスプラチンの併用療法や、日本で標準治療となっていたイリノテカンとシスプラチンの併用療法と比較して、高い奏効率と良好な生存期間中央値を示した点で対照的である。特に、イリノテカンとシスプラチンの併用療法がED-SCLC患者の生存期間を有意に改善した Noda et al. NEnglJMed 2002 ことを踏まえると、AMR+CDDPがさらに優れた成績を示したことは特筆すべき点である。
新規性: Amrubicinは、ドキソルビシンやエピルビシンといった他のアントラサイクリン系薬剤と比較して、単剤での優れた活性 (76%の奏効率) を示した唯一の薬剤である。本研究で初めて、AMR+CDDP併用療法がED-SCLC患者において87.8%という極めて高いORRを達成し、かつシスプラチン併用がamrubicinおよびその活性代謝物であるamrubicinolの血漿動態に影響を与えないという新規の薬物動態学的知見が示された。これは、これまでのアントラサイクリン系薬剤では報告されていない新規の知見である。
臨床応用: 本試験で示されたAMR+CDDP併用療法の極めて高い奏効率と良好な生存期間は、ED-SCLCの一次治療における新たな強力な治療選択肢としての臨床的有用性を強く示唆している。特に、腫瘍縮小を迅速に得る必要がある症例や、既存のイリノテカン併用療法が困難な症例において、本レジメンは有力な選択肢となり得る。
残された課題: 主要な残された課題およびlimitationは、Grade 3/4の好中球減少が95.1%という高率で発現する骨髄毒性の管理である。また、本試験では非ステロイド性抗炎症薬や副腎皮質ステロイドの長期使用患者、胃潰瘍合併患者などを除外する特殊な基準が設けられており、患者選択バイアスの影響が否定できない。本試験の好成績を受け、AMR+CDDPとCPT-11+CDDPを比較する第III相臨床試験 (JCOG0509) が実施されたが、生存期間の有意な優越性を示すことはできなかった。今後の課題としては、AMRの最適な併用レジメンの探索や、バイオマーカーを用いた感受性患者の同定が挙げられる。
方法
本試験は、日本国内の多施設共同で実施された非ランダム化第I/II相臨床試験 (phase I-II study) であり、アムルビシンSCLC研究グループによって行われた。患者登録期間は2001年4月から2002年12月までであった。本試験は特定の試験登録番号 (NCT番号) 導入前の期間に実施されたが、プロトコールは各施設の治験審査委員会によって厳格に承認された。
適格基準: 組織学的または細胞学的に確認されたSCLC、進展型病期、全身療法未治療、測定可能病変の存在、ECOGパフォーマンスステータス (PS) 0-2、年齢20-74歳、期待生存期間2ヶ月以上、および十分な臓器機能(白血球数4,000-12,000/mm³、好中球数 2,000/mm³以上、血小板数 100,000/mm³以上、ヘモグロビン 10 g/dl以上、総ビリルビンが施設基準値上限の1.5倍以内、AST/ALTが施設基準値上限の2.5倍以内、クレアチニンが施設基準値上限以内、PaO2 60 torr以上、左室駆出率 60%超)を満たす患者が対象とされた。書面による同意が必須であった。
除外基準: 症候性脳転移、ドレナージを要する胸水貯留、50日以上の非ステロイド性抗炎症薬または副腎皮質ステロイドの使用、癌性心膜炎、活動性感染症、水痘、上大静脈症候群、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群である SIADH (syndrome of inappropriate secretion of antidiuretic hormone)、胃潰瘍および/または十二指腸潰瘍、重度の心疾患、重度の腎疾患、活動性悪性腫瘍の合併、症候性肺炎および/または肺線維症、妊娠中または授乳中の女性が除外された。
治療スケジュール: 3週を1サイクルとして、4〜6コースの化学療法を繰り返した。コース内での用量増量は許可されなかった。
- Level 1: Amrubicin 40 mg/m² (静脈内5分間投与) をDay 1-3に、Cisplatin 60 mg/m² (60-120分間点滴注、十分な輸液を伴う) をDay 1に投与した。
- Level 2: Amrubicin 45 mg/m² をDay 1-3に、Cisplatin 60 mg/m² をDay 1に投与した。
- Level 3: Cisplatin 80 mg/m² をDay 1に、Amrubicin 45 mg/m² をDay 1-3に投与する計画であったが、実施には至らなかった。 G-CSF (顆粒球コロニー刺激因子) の予防投与は、第1コースでGrade 3の好中球減少が予想される患者に対しては許可されず、第2コース以降の患者にのみ許可された。
用量制限毒性 (DLT): DLTは、Grade 4の白血球減少または好中球減少が4日以上持続する場合、Grade 3の発熱性好中球減少、血小板数20,000/mm³未満、および悪心、嘔吐、食欲不振、倦怠感、低ナトリウム血症、感染を除くGrade 3以上の非血液毒性と定義された。MTDは、初期の3例中2例以上、または追加の3例を含む計6例中3例以上でDLTが観察された用量レベルとされた。RDはMTDの1つ下の用量レベルとされた。
奏効および毒性評価: 奏効はRECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) ガイドラインに従って評価され、腫瘍マーカーは評価基準から除外された。客観的奏効 (CR+PR) は外部評価委員会によって評価された。毒性はNCI Common Toxicity Criteria (バージョン2.0) を用いて評価された。
統計解析: 本研究の主要評価項目 (primary endpoint) は客観的奏効率 (ORR) であり、推奨用量における奏効率が85% (P1) である場合に、片側有意水準0.05、検出力80%で70% (P0) の奏効率を棄却できるように設計された (sample size calculation)。評価可能患者37例中29例以上の奏効が目標とされた。全生存期間 (OS) は、本研究における初回薬剤投与日から死亡または最終追跡調査日までの期間と定義された。生存期間の解析には Kaplan-Meier 法が用いられた。
薬物動態解析: 第I相試験に登録された全患者を対象に、血中濃度時間曲線下面積である AUC0-24h (area under the concentration-time curve from 0 to 24 hours) などの薬物動態パラメータを評価するため薬物動態解析が実施された。Amrubicin投与前、投与0分、15分、1、2、3、4、8、24時間後に採血を行い、血漿および赤血球中のamrubicinおよびamrubicinol濃度を測定した。